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外食産業のリーディングカンパニーが行うグローバル戦略を見据えたDX

NECがゼロからつくり直したサブスク型POS

※本コラムは [雑誌]飲食店経営 2021年 07月号の転載記事です

(株)トリドールホールディングス執行役員CIO BT本部本部長の磯村康典氏(右)とBT本部DX推進室室長の海老宏知氏

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讃岐うどんチェーン「丸亀製麺」を基幹ブランドに、ハワイアンパンケーキカフェ「コナズ珈琲」、香港発の人気ヌードルチェーン「譚仔雲南米線」「譚仔三哥米線」など複数の外食ブランドを国内外に1768店(2021年4月末時点)を展開する、株式会社トリドールホールディングス。業界に先駆けてデジタルトランスフォーメーション(DX)に着手しており、21年4月には外食企業では初となる「DX認定事業者※1」の認定を取得した。

DX化の進捗度合いが他業界よりも後れを取る外食企業において、うまくDXを推進し企業価値の向上へと導いているトリドールホールディングス。同社が推し進めるDXの狙いとシナリオ、そしてすでに完了しているDXについて、執行役員CIOBT(ビジネストランスフォーメーション)本部本部長の磯村康典氏と、BT本部DX推進室室長の海老宏知氏に聞いた。

企業の急成長に耐え得るシステム構築を図る

トリドールホールディングスは、食体験を通じた感動を世界中で提供することを目的に、店舗における顧客の体験価値の最大化に取り組んできた。その実現を支援すべく、経営戦略の一環として策定しているのが「DXビジョン2022(図表①)」だ。このビジョンに沿ってデジタル技術の活用を進め、店舗を支えるビジネスプロセスの最適化を推進。また、変化の激しいビジネス環境において、多様化する顧客のニーズや社会課題に柔軟かつ機動的に対応するため、新規ビジネスモデルの創出や、既存モデルの深化などを促進し、企業価値向上を目指している。
具体的にはDXビジョン2022を実現するために、三つのフェーズに分けた「DX推進シナリオ」に沿って進めている(図表②)。

トリドールホールディングスが描くDX
経営戦略の一環として「DXビジョン2022」(図表①)の下、DXの推進を強化しビジネスプロセスの最適化に取り組むトリドールホールディングス。同社が目指すべきDXのビジョンを三つ掲げ、それら全てを実現させるための推進段階をフェーズ0~3に分け、順次取り組んでいく計画を立てている。
現在の進捗は「DX推進シナリオ」(図表②)のうちのフェーズ2。20年度はレガシーPOSをサブスクリプション型のPOSに切り替えたり、コールセンター機能や経費精算業務、給与計算業務などをBPOセンターへ移行したりと、順調にDX化を進めている。
22年には、店舗や社内の業務効率化が進み、物理的な重しから開放された状態へと進化。同社の強みである〝ヒューマニズム〞を最大限発揮できるよう、DXを推進していく。

まずフェーズ0は、インターネットデータサーバー※2を使い、自社サーバーと自社開発システムを動かすという、旧来型システムの状態。このデータセンターをクラウドへと移行するのがフェーズ1。これによりハードウエアやデータセンターなど、物理的な重しから開放されようという試みだ。現在移行期であるフェーズ2は、自社開発システムをSaaS※3型システムへ、自社オペレーションを業務プロセスアウトソーシング(BPO)へ、切り替えを推し進めている段階。

そして22年内の完全移行を目標にしているフェーズ3が、同社のDXにおける理想形となる。全てのシステムを、サブスクリプションを活用した基本システムに仕立て、店舗での発注量算出やワークスケジュールの自動化、レガシーシステムの完全廃止などを完遂させていく計画だ。

「DXのポイントは『変化への対応力を強めること』と『事業継続性を高めること』です。この二つを実現するのに、レガシーシステムでは即座に機能を追加、変更ができないなどの課題を抱えていました。そうした課題を持つITツールを一気に変えていくのが、DXの第一歩です。

当社はグローバル戦略を見据えており、急激に事業拡大するには、それに伴うシステム基盤が必要です。その構築をスピーディに対応するには、社内で行うよりは、それぞれ専門家に預けた方が急成長の絵を描きやすいというわけです」(磯村氏)

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中食事業を強化し
POS切り替えに着手

DXの狙いは「変化への対応力の強化」と「事業継続性を高めること」。これらの実現とグローバル戦略を見据えたシステムの最適化が求められる。

「コロナ禍の影響により、『丸亀製麺』における20年4〜5月の売上は前年と比べておよそ50%減となりました。そこで、もともと戦略として構想のあった中食ニーズへの取り組みの実施を早め、20年5月末より全店でうどんのテイクアウトを実施し、売上は改善傾向となりました。数年前より、麺に適した容器の準備を進めていたため、コロナ禍での変化にも素早く対応できたと思います。また、商品の注文や受け渡しの待ち時間によるストレスを解消するため、モバイルオーダーアプリもリリース。さらにデリバリーも試験的にスタートするなど、中食の取り組み強化により売上の積み増しを図ることができたのです」(磯村氏)

この中食ニーズへの取り組みに対して進めたDXが、レガシーPOSからの脱却だ。レガシーPOSは専用機であるため店内注文を受けるシステムとしては長けているが、モバイルオーダーやデリバリーサイトからの注文など、ネットとの接続は不得意という性質を持つ。さらに、ネットとつなぐためにはカスタマイズが必要だが、それでは時間もコストも掛かってしまうデメリットがあった。

そこで多様化するお客のニーズに素早く反応でき、継続的に機能が強化されるサブスクリプション型のPOSの導入を決意。また、POSサービスの提供会社の選定も、企業の将来を左右する重要な要素であった。

同社が最終的に導入を決めたPOSは、NEC社製の「NECモバイルPOS」。

企業の成長スピードに耐え得るサービス提供社を選定しなければ、われわれが描くビジョンの達成は難しい。

「『丸亀製麺』は全国にチェーン網を敷いているため、トラブルがあった際、店舗にすぐ駆け付けてくれる体制が必要でした。他のサブスクリプション型POSサービスの提供会社の保守は、チャットボットやメール対応、受付時間内のコールセンター対応というのが多く、実際に店舗で問題が生じたときの対応に不安がありました。しかしNECモバイルPOSは、24時間365日のコールセンター対応で、必要な場合には店舗に駆け付けてくれるといった保守の強みがあり、マンパワーでスタッフを支えていただける安心感が決め手の一つとなりました」と海老氏は話す。

また2カ月半で約860店舗に導入するという、導入スピードも大手メーカーならでは。サブスクリプション型のPOSは継続的な機能強化や、iPadなどの汎用機を使用するため故障した場合も代替機の用意で済むといった、さまざまな点でメリットを有する。しかし、他のサブスクリプション型POSサービスの提供会社は、個店を対象とするベンチャーか新規参入事業者が多く、多店舗展開している事業者に対するノウハウや保守が弱いという難点があった。一方でNECは、これまで20年以上にわたりPOSシステムを開発し、特に多店舗展開している事業者に向けたノウハウを蓄積してきた。

こうしたサブスクリプション型のPOSサービスでありながら、多店舗事業者が求める保守・操作性・導入スピードといった難点をクリアする点で、唯一の選択肢だったというわけだ。

「数百店舗の導入を一気に進められるスピード感がなければ、グローバル戦略を見据えているわれわれの成長速度に対応できないでしょう。つまりDXを推進する上では、事業継続性を見越し、それに適応するサービスを選定する必要があるのです」(海老氏)

21年2月には丸亀製麺の国内のロードサイド全店で、NECモバイルPOSの運用を開始。現在は他ブランドでも続々と導入が決まっている。またPOSレジの切り替え以外にも、キャッシュレス対応への切り替え、共通ポイントの導入や優待券・クーポンの電子化、高速自動釣り銭機の導入などにも取り組んでいる。

「DXとは、皆が求めていることを実現するために進めるもの。何のためにそのシステムを導入するかというゴールが必要です。企業が描くゴール、ビジョンに必要なものを正しく選び、導入していくことが重要なのです」と磯村氏は話した。

  • ※1:
    社内全体でDXを推進していくことを目的に、経営ビジョンの策定やDX戦略・体制の整備などの取り組みが、経済産業省が定める「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応し、DX推進の準備が整っている企業を国が認定するもの
  • ※2:
    顧客のサーバー機などのIT機器を設置・収容する場所を提供し、安定的に運用できるようサービスを提供する施設のこと
  • ※3:
    必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウエアや、その提供形態

サブスクリプション型のPOSの強み

サブスクリプション型POSは、変化に強い点が最大の特長。例えば、軽減税率制度の施行に伴い、POSレジは税率の改修が必要であるが、サブスクリプション型であれば追加費用なしでバージョンアップが可能だ。また、新型コロナウイルスのような社会情勢の変化にも素早く対応。テイクアウトやデリバリーなどの導入にもサブスクリプション型なら、対応サービス連携のオプションに申し込むことで、翌日からその機能を使うことができる。

未来の変化は予測できないが、サブスクリプション型のPOSを使用すれば、そのときどきの社会環境に応じて、必要な対応を先取りして対応してくれる。そのためPOSに関する煩わしい検討事項から開放され、「お客様に食体験による感動を提供する」という本業に集中できるというわけだ。

トリドールホールディングスが導入を決めた「NECモバイルPOS」は、「サブスクリプション型のPOSの時代が来る」との先読みから、NECが7年も前より提供を開始。これまで市場で磨き上げられてきたサブスクリプション型のPOSサービスであり、多店舗事業者が求める保守・操作性・導入スピードといった難点をクリアする点で、最適な選択肢だったというわけだ。

トリドールホールディングスのグローバル戦略

日本国内だけでなく、世界中で「食」を中心にさまざまなブランドを展開し、世界に通用するグローバルフードカンパニーを目指す同社。国内は計1121店(20年3月末時点)、海外は626店(同)を布陣する。20年における出店数は、コロナ禍にもかかわらず国内計48店、海外93店に及んでいる。
今後、海外事業を成長させるため、現地に精通する事業パートナーの開拓や、グローバルでのノウハウを最大化することを目的に「グローバルプラットフォーム」を構築。このプラットフォームを活用し、シンガポールで日本式カレーチェーン「MONSTER CURREY」のハラル業態「MONSTER PLANET」を、香港の「雲南ヌードル」をシンガポールや中国本土に展開する他、欧州の外食専門の投資ファンドとの協業により今年7月にはイギリスに「丸亀製麺」を初出店する予定だ。

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