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IoTの顧客価値を支えるエッジコンピューティング

IoTの時代では、大量の「モノ」や「ヒト」がつながり、実世界(Physical)で生み出された「コト」のデータは、クラウドなどのICT基盤(Cyber空間)で処理され、その結果を実世界へフィードバックするというサイクルが続きます。このサイクルのなかでデータの可視化やAIを活用した分析を行うことで、これまで気付かなかった新たな知見の獲得により、新たな価値創造が可能となり、よりデータが重要になるデータドリブンな世界が到来します。本稿では、このデータドリブンな世界を見据え、NECがこれまで培ってきたICT技術・アセットを活用したエッジコンピューティングが提供する顧客価値について紹介します。

1. はじめに

IoTの時代では、大量のモノ(センサー/デバイス)だけでなく、ヒト(人の知覚<五感>に相当するデータや生体データ)もつながりICT基盤(Cyber空間)と実世界(Physical)が接続されることで、「コト」のデータ処理ができるようになります。図1は、ICTプラットフォームの変遷を示しており、性能向上や活用先の拡大に伴い、いくつもの変遷を繰り返していることが分かります。IoT時代は第4の変遷期とも見なされ、実世界で生み出されたデータは、ICT基盤で処理され、その結果を実世界へフィードバックするというサイクルが続きます。このサイクルのなかでデータの可視化やAIを活用した分析を行うことで、「コト」をICTで処理することができ、これまで気付かなかった知見の獲得により、新たな価値創造が可能となり、よりデータが重要になるデータドリブン*な世界が到来すると考えています。

本稿では、このデータドリブンな世界を見据えた、IoTの顧客価値を支えるエッジコンピューティングを紹介します。

図1 ICTプラットフォームの変遷
  • *
    データ駆動とも呼ばれ、効果測定などで得られたデータを基に次のアクションを起こしていくことを指します。

2. IoTにおけるエッジコンピューティングの提供価値

IoT時代におけるデータドリブンな世界では、さまざまな業種への適用拡大により、映像系データ、機密性の高いデータなどの多種多様なデータや詳細な情報を得るために、これまでより大容量のデータを取り扱う必要があります。しかし、通信コスト、転送遅延の問題や更に高度なセキュリティ、プライバシー保護の配慮への対応など、これまでのクラウドコンピューティングでは対応が難しくなっています。

NECのエッジコンピューティングは、クラウド層とセンサー・デバイス層の間に配置され、NEC独自の自律分散処理技術、アクセラレータ技術、IoTセキュリティ技術、コネクティビティ技術(抽象化、ゼロタッチコンフィグ)を活用し、システムリソースの効率活用と通信コスト削減、リアルタイム性、高度なセキュリティ、プライバシー保護、アプリケーションの高可用性実現などの、基幹業務で使用できるIoTソリューションの提供を目的としています(図2)。

図2 エッジコンピューティングの提供価値

図3は、エッジコンピューティングの動作と効果を示しています。大量のセンサーからのデータを直接クラウドに転送することは、L4層の通信回線の物理的な帯域上限とそれに対するコストの観点から困難となります。そのため、L5層の処理の一部をL3層にプリナリッジ処理として移行させ、データの抽象化・極小化を行うことが重要となります。また、クラウド上から実世界の現象に対する応答のリアルタイム性を確保することが難しいため、L5層で学習された判定モデルをL3層に反映させ、データ発生場所に近いところで処理を行うことが重要となります。このように、エッジコンピューティングを導入しL5層とL3層で処理やデータを分散・協調させ、システムを最適化することが重要となります。

エッジコンピューティングを導入することにより、従来のオンプレミスシステムと同等以上の性能と機能を提供できるだけでなく、AIを活用したビッグデータ解析をサービスとして活用できるうえ、現場でのメンテナンスコストの低減、大量のデータが発生する業務でもクラウドへ移行しやすくなるなど、さまざまなメリットが得られます。

図3 エッジコンピューティングの動作と効果

3. エッジコンピューティングが提供する顧客価値

次に、エッジコンピューティングが提供する顧客価値について、パブリックセーフティ、リテール、インダストリの3つの事業領域について具体的に示します(図4)。

図4 各領域におけるエッジコンピューティングの提供価値
  • (1)
    パブリックセーフティ領域
    パブリックセーフティの領域では、都市化の進展に伴い、治安悪化・交通渋滞など都市問題が加速し、安全・安心なインフラ作りが求められています。NECでは、本領域に対し、顔認証を筆頭とした画像・映像処理技術を活用し、本人確認や防犯カメラソリューションを展開しています。これらのソリューションでは、災害時の対応や大規模イベントに向け、より広範囲でリアルタイムな事象把握が課題となっています。このような課題に対し、エッジコンピューティングを活用することにより、クラウドとの分散処理・データベース連携や現場近くでの処理により、大量・高精度な認証や不審者の早期検出などが可能となり、ストレスフリーな本人確認や防犯への早期対処などの顧客価値を提供します。
  • (2)
    リテール領域
    リテール領域では、ますます多様化する消費者ニーズへの対応や食の安全性の要求が高まっており、安全・安心・効率的な店舗運営やサービス向上を行うことで、売上拡大の顧客価値が求められています。この顧客価値の提供には、リアルタイムな消費者動向や商品状態の把握、現場のさまざまな機器への接続などが重要となります。エッジコンピューティングを活用することにより、消費者の棚前行動をリアルタイムにとらえ、適切なプロモーションを表示するリアルタイム販促や、ネットワーク機能を持たないレガシー機器を含むさまざまな業務設備・機器の稼働情報を収容しクラウドへ転送し、その情報を基に機器を制御することで、省電力や予防保守などを行い、売上拡大などの顧客価値提供が可能になります。
  • (3)
    インダストリ領域
    インダストリ領域では、ドイツや米国をはじめ日本の製造業においても、IoTを活用した自社の製品、ビジネスモデル、プロセスなどの変革に取り組む動きが活発化しています。また、日本のものづくりの現場では、従来生産プロセスなどの改善活動が行われますが、データ収集や分析に膨大な工数が掛かるため、問題発生後しか対処できない、部分的なデータしか分析できず真の状況を把握できていない、といった課題があります。更に、生産現場の多種多様な設備やIoTデバイスから収集するデータが増大し、現場での管理・運用も困難となってきています。そこで、エッジコンピューティングを活用することにより、さまざまな設備・デバイスとのコネクティビティの提供や大量データのプリナリッジ処理、リアルタイムな管理・制御を実現し、品質向上やコスト削減が達成でき、製造業のお客様に生産性向上の価値提供が可能となります。

4. まとめ

今後、ますますヒト・モノがつながりデータ化、デジタル化が進むデータドリブンな世界に対応するために、NECでは、エッジコンピューティングを支える特徴的な技術として、分散協調技術、アクセラレート技術、IoTセキュリティ技術、コネクティビティ技術を開発しています。これらの技術の詳細は、本特集号の「IoTのミッシングリンクをつなぐエッジコンピューティング技術」に記載しています。これらの技術を活用し、エッジコンピューティングが提供する顧客価値として、パブリックセーフティ領域では更なる安全・安心の確保を、リテール領域では更なる売上拡大を、インダストリ領域では更なる生産性の向上を、実現していきます。

執筆者プロフィール

岡山 義光
IoT基盤開発本部
技術部長
飛鷹 洋一
IoT基盤開発本部
シニアエキスパート
樋口 淳一
IoT基盤開発本部
エキスパート