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知財業務全般を生成AIで効率化
NECが進める知財DX
NECの最先端技術 
生成AIはいま、汎用的な用途だけでなく、専門的な業務への応用も広がり始めています。テキストデータを中心に扱うため生成AIとの相性が良い知財業務は、最適な応用領域の1つです。さまざまな企業で研究開発が進む知財DXのなかでも、NECにはどのような特長があるのか。また、それはどのように実現しているのか。研究者に詳しく話を聞きました。
自社内での実証で、最大93.5%の時間を圧縮

プロフェッショナル
川田 拓也
― NECが進めている知財DXとは、どのようなものなのか教えてください。
川田:生成AIを活用して、知財業務を効率化する取り組みです。さまざまな組織で広く取り組まれている動きではありますが、先行技術調査に加えて明細書や明細書に添付する図面の作成、米国特許出願用の提出書類作成、さらには知財契約業務に至るまで幅広い業務をカバーしている点が、NECならではの大きな特長です。
調査業務では、これまで高度な専門性を備えたプロフェッショナル人材が長時間の稼働をかけていたタスクをAIがサポートします。既に知的財産&ルールメイキング部門(注:社内の部門名称 以降、知財部門と記載)では技術の運用を開始しており、先行文献調査では過去20年分の膨大な特許を調査しつつも、ベストプラクティスで調査時間を93.5%も圧縮できたという結果を残しています。契約業務における1000ページ超に及ぶような資料の検索・調査も、AIが支援して効率化を実現します。
米国特許庁提出書類作成では、生成AIへの指示の仕方に独自の工夫を加えています。これにより、特許明細書の修正案から、米国特許庁が厳密に規定した書式に則った書類をAIが自動で作成することができます。
図面作成は、明細書や発明提案書に掲載するフローチャートや図版を生成することができる技術で、弁理士等の専門家による業務をAIで支援しようとするものです。現在開発を進めています。
定政:私たちのグループは生成AIを業務に活用するための応用技術開発を担う部署なのですが、今回の研究開発は社内の知財部門からの打診を受けて、協働で進めています。面白いのは、生成AIが登場したことで、必ずしも技術者が開発を担う必要がなくなったということです。知財部門ではその専門知識を活かして生成AIやノーコードツールを活用したアプリケーションをつくるなど、互いに役割分担をすることで広範囲にわたる業務のDXをスピーディに推進することができました。
生成AIの進化は、これまでの技術にはないスピードで進んでいきます。だからこそ、事業の成功も開発スピードが鍵となります。私たちもラピッドプロトタイピングのアプローチを取って、試作と改善を繰り返してきました。
最先端のRAGと長年の研究開発で培われてきたノウハウが鍵

― 具体的には、どのような技術が使われているのでしょうか?
川田:生成AIは優秀なツールですが、生成AIを組み込むだけで上手く機能するわけではありません。例えば特許情報を調査するにしても、生成AIはある時点の公開データしか学習していないので、最新の情報は学習できていません。また、学んだデータをピンポイントで正確に検索して引用することがあまり得意ではありません。そのまま使うだけではハルシネーションが生じて、適切でない出力も頻繁に起こり得ます。
定政:そこで、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)という技術を使っていきました。RAGとは、生成AIが外部のデータを検索して出力の精度を向上させる仕組みです。私たちのチームでは、最新のエンベディングモデルを用いたベクトル検索と従来のキーワードベースの検索を組み合わせるとともに、さらにその結果に対して最新のリランキングモデルを用いた順位付けを行うアンサンブル検索と呼ばれる検索手法を取り入れてRAGを構築してきました。
ベクトル検索とは、検索時に意味やコンテキストを考慮できる技術です。例えば「桜」という言葉を検索したとき、20年ほど前であれば「桜」というキーワードを含む文章しか拾ってくることできませんでした。しかし、ベクトル検索を使えば、単語を数学的に数百次元の座標に変換し、その座標との距離から近しい意味の言葉を検索できるようになります。「桜」であれば、「八重桜」や「花」などの言葉も拾えるようになるのです。
もう一つのリランキングというのは、検索結果を目的に合致する順に並べ替える仕組みです。関連性を考慮できるので、よりユーザの意図に沿った検索結果を期待できるようになります。
川田:あとは、ひたすらに地道なチューニングですね。知財に関わる明細書を大量に追加学習させることで、特許へ特化したモデルにしていきました。この他にも、リランキング時のプロンプトの調整など、細かい工夫を幾重にも重ねることでNEC独自のRAG性能を実現しています。

ディレクター
定政 邦彦
定政:特許庁への提出書類は法的な文書なので形式は概ね決まっていますが、間違いは許されません。ハルシネーション対策として、昔ながらのルールベースが効果的な箇所にはプログラムを作成して動かすように設計しました。また、米国出願用の書式作成では、英文法的な知識だけでは不十分なこともあります。例えば、冠詞 (a, the) の使い方一つをとってみても独特ですし、知財に関する知識も重要になります。こうしたノウハウもしっかりと反映できるように作り込みました。
このあたりはNECが世界に先駆けて取り組んできた自然言語処理研究で代々蓄積されてきたノウハウが活かされています。
川田:RAG自体は広く使われている技術ですし、エンベディングモデルとリランキングモデルを組み合わせることも、いま一般的なトレンドになってきています。しかし、それを採用するだけでは性能を十分に活かしきれないのが生成AIです。ユーザの質問をうまく解釈したり、回答をわかりやすくしたり。さらには複数の検索モデルを組み合わせるバランスやプロンプトの書き方など、細かい工夫の積み重ねが性能やユーザビリティに結びつくのです。こうした部分に、私たちNECオリジナルの「秘伝のタレ」のようなノウハウがふんだんに使われています。
効率化の次は、創造的な業務への活用を目指す

― 今後の展開や可能性について教えてください。
定政:知財部門からは、生成AI活用を進めたいタスクがまだたくさんあると聞いていますので、まずはそうした業務のDXを一つひとつ対応していくことはやり続けていきたいですね。知財部門としては、知財業務におけるタスクを点ではなく、面で全般的にサポートできるプラットフォームの構築も視野に入っているかと思います。
また、生成AIはいまのところ既存業務の工数を削減するところにフォーカスが当たりがちですが、今後は次のステップとして、新しい価値を生み出すための活用ということにもチャレンジしていきたいと思っています。
川田:新たな特許をどう作るかというようなことですね。例えばRAGを活用して過去の発明の異なるバージョンを作ってみるというようなことです。今申し上げたのは本当に思いつきの例ですが、このように創造的な業務への活用も大いにあり得ると考えています。

定政:あとは、サービスとして展開した際の品質管理には取り組んでいきたいですね。生成AIはアップデートの速度が異様に速く、バージョンによって仕様が大きく変わる傾向があります。同じプロンプトを入力しても、まったく異なる結果が返ってくることもしばしばです。こうした環境にうまく適応する継続的な品質管理は重要なポイントです。
川田:そうですね。今まさに、生成AIの仕様が変化したら、どのような変化が起こるかという評価を行う基盤を構築しているところです。バージョンアップした際に効率的に適応できるような仕組みをつくることで、安定的なサービスを実現していきたいと考えています。


NECでは、生成AIを活用した知財業務全般の効率化を目指す知財DXを推進し、自社知財部門での実証を進めてきました。さまざまな企業や組織で取り組まれている動きではありますが、先行文献調査や明細書用の図面作成、米国特許出願用の提出書類作成、さらには知財契約業務に至るまで幅広い業務をカバーしている点がNECの特長です。効果の面でも大きな実績を残しており、NEC知財部門において先行文献調査のAIサーチを活用した結果、ベストプラクティスで調査時間を93.5%も圧縮することができました。
これらを実現する大きな推進力となったのは、①自社知財部門との密な連携によるスピーディな開発、②NECに蓄積された生成AI実装に活用できるノウハウです。知財部門との連携では、ラピッドプロトタイピングのアプローチをとり開発を推進。さらには、知財部門自らも生成AIやノーコードツールを使いこなすことで、幅広いタスクのスピーディなDXを実現することができました。また、生成AI実装においては細かいプロンプトの調整や検索精度が問題となりますが、世界最先端のRAGの技術や自然言語処理で長年培ってきたノウハウを組み合わせることで、性能とユーザビリティを高めています。
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