Japan
サイト内の現在位置
黄綬褒章受章 二人の名工
2019年9月4日

令和元年 春の褒章において、NECの社員2名が黄綬褒章を受章しました。黄綬褒章は、農業、商業、工業等の業務に精励し、他の模範となるような技術や事績を有した人を顕彰するものです。栄えある受章を果たされた二人の技術者と、二人が所属するシステムプラットフォーム研究所の所長に話を聞きました。
大塚 隆
服部(黒島)貞則
システムプラットフォーム研究所 所長
津村 聡一
数々の技術創出・研究開発で科学技術進歩に貢献
― この度は黄綬褒章のご受章、おめでとうございます。まずは感想をお聞かせいただけますか。
大塚:私は18歳でNECに入社したのですが、その頃、周りに黄綬褒章を受章した人が何人かいたのを覚えています。まだ若くて何もわからなかった私から見ても、すごい人だなと思っていましたね。まさか35年後に私が受章できるとは思っていなかったので、感慨深いです。受章のお話をいただいたときはとても驚きましたし、信じられないという気持ちが一番でした。
服部:私の場合は、7年ほど前に黄綬褒章を受章された方が近くにいらっしゃったんです。でもそのときは、私にはまったく関係のないものだと思っていたので、受章のお話をいただいたときには本当に驚きました。これまでたくさんの方々から支えていただいたり、ご協力をいただいたりしてきましたので皆さんへの感謝の気持ちも大きいですね。

主任
服部(黒島) 貞則
― お二人は、これまでどんなお仕事をされてきたのでしょうか?
大塚:私は入社以来20年以上、LTCC(低温同時焼成ガラスセラミック多層配線基板)の開発に取り組んできました。セラミック基板をつくる際には、焼成時に起こる焼き縮み量のコントロールが重要になります。基板上にベアチップを実装する際、端子の接続位置にズレが起きてしまうためです。1995年には観測衛星に搭載する基板の実用化に取り組みましたが、この完成までには何度も調整を繰り返し、5年ほどかかりましたね。
このほかにも、リチウムイオンバッテリーや超小型光モジュールの開発などに取り組んできました。超小型光モジュールでは、基板の壁面に実装するという新しいアイデアを採り入れてモジュールの小型化に成功しました。これを記した論文「光インターフェース用の超高密度実装LTCC基板の開発」は、エレクトロニクス実装学会 MES2006でベストペーパーを受賞することができました。
服部:私は入社後、基礎研究所内にある探索研究所という部署に配属されました。ここは所長が「ノーベル賞もねらえる」というほど先端的な研究に取り組んでいた場所です。そのおかげで、私も入社以来ずっと、時代時代の最先端材料を取り扱ってきました。フラーレンやカーボンナノチューブはもちろん、当時世界最高レベルの出力を誇っていた燃料電池などの開発にも取り組みましたね。こうした材料を扱うために必要な装置をつくり、研究環境をつくりあげるということをしてきました。
津村:お二人とも同じ技能職ではありますが、これまで対極的な道を歩んでこられました。大塚さんは現場のすぐ近くで、製品化に向けた修羅場をずっと経験されてきています。対して、服部さんは基礎研究に近い領域で長く取り組まれてきました。基礎研究では、これをやれば終わりという区切りがなく、そもそも何をすべきかというところから始まりますから、これはこれで別の難しさがあります。いずれも、自分に厳しくないとできない世界ですよね。

主任
大塚 隆
研究を加速させるエンジニアリング
― お二人がお仕事をするうえで、どんなことを心がけてこられたのか教えてください。
服部:「速くやる」ということです。研究には、常に競争相手がいます。私たちが取り組んでいる間にも、きっと社外では同じような研究に取り組んでいる人たちがいるはずです。そうした世界中のライバルに勝つためには、誰よりも速く成果をあげなければなりません。アイデアがあるんだったら、できる限り速くやる。そのことは、いつも心がけていますね。
また、視点を変えるということも重要視しています。実はこれには、きっかけとなった出来事があるんです。私が若い頃、研究室でフラーレンの材料合成をしていたとき、現NEC特別主席研究員でいらっしゃる飯島先生がふらっと入ってこられたんですね。そして、フラーレンの合成後に取り出して放っておいた使用済みのカーボンロッドを見て「これちょうだい」って言って持っていかれたんです。フラーレンというのは、カーボンロッドを特定の条件下で加熱して出てくる煤のなかに含まれる物質です。したがって、使い終わったカーボンロッドは意味がないと考えられていたものなんです。ですが、飯島先生はそのカーボンロッドに注目されて、のちにカーボンナノチューブを発見されました。いつも同じ方向から見るのではなく、違う方向から見ることが大事なのだということに気づかされた一件でした。
大塚:私は長く条件を変えてモノをつくり、その結果から次の条件を決めるという仕事を続けてきましたから、条件を変えた前後での微細な違いを見逃さないということを常に心がけてきました。微妙な変化に気がつかないと同じ様な実験を繰り返さなければいけなくなります。
また、ただ研究者が要望するものをつくるだけでなく、そこに到達するまでのアプローチに対して、どんなアイデアを出せるかということこそが、私の役割だということも常々考えてきました。研究者の要望をそのままをなぞるのではなく、プラスアルファを提示することはめざしつづけてきました。
津村:そうですね。研究とエンジニアリングというのは同じ車軸の両輪で、同期しながらいっしょに動いていかないと研究開発が進んでいきません。例えば、研究者が「こういうことをやりたい」と言ったときに、その背景や意図にまで思いを巡らせ「だったらこっちの方がいいんじゃないですか」だとか「こういう方法もできますよね」といったようなコミュニケーションを展開できることが、研究を前へ進める大きな力になります。
そもそも、研究者の頭の中にある考えをぜんぶ仕様書に落とし込んで、これをつくってくださいというのは、どだい無理な話です。その背景や意図にまで踏み込み、効率的・効果的な方法を主体的に考え、提示し、実現できるプロのエンジニアがいるのといないのとでは、最終的に出てくる研究成果が大きく異なってきます。そうした勘所がある大塚さんや服部さんのような存在はとても重要です。

所長
津村 聡一
ものづくりのセンスと勘所を活かして、さらに未来へ
― これから、さらにめざしていきたいことはありますか?
大塚:私は4月から新たに、相変化冷却技術を使ったデータセンタ向けの冷却システムの開発に取り組んでいます。これまでとはまた違った分野なので、学ぶことがとても多いなと実感しているところです。本システムは製品化をめざして、ちょうどいま山場を迎えています。まずはチームの皆さんといっしょに取り組んで、このシステムの製品化に貢献していきたいと考えています。
服部:私はこれまでずっと基礎研究に近いところで取り組んできました。現在も熱電素子の熱電材料を使った熱流センサの開発を進めていますが、これからはより直接的なかたちで会社へ貢献するということにもチャレンジしてみたいですね。たとえば製品化して利益を上げるですとか、そういったことまでできるように頑張っていけたらと思っています。
津村:お二人のようなものづくりのセンスや勘所は一朝一夕で身に着くものではありません。研究者のアイデアを実現し、工業製品のレベルまでもっていける安定性を追求していくうえで、お二人は非常に強力なメンバーです。また、こういったスキルは大学ではなかなか学べないものです。特に、経験の浅い若手の研究者たちには、お二人の持つノウハウをどんどん伝えていただきながら、研究所をさらに前に進めていけたらと思っています。
お二人のご活躍を、これからも期待しています。

お問い合わせ