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宮古市医療情報連携ネットワーク みやこサーモンケアネット様

地域包括ケア実現に向けたICTによる多職種連携を支援
レセプト情報の活用と包括同意により、医療・介護情報の連携を強化

業種:
  • 医療・ヘルスケア
業務:
  • その他業務

導入前の課題

宮古医師会 副会長
豊島医院 院長
豊島 秀浩 氏

医療・介護資源不足が課題
追い打ちをかけた東日本大震災


「本州最東端のまち」を掲げる岩手県宮古市。三陸沖の豊かな資源と陸中国立公園(現在は三陸復興国立公園に改称)・浄土ヶ浜を代表とする海・山・川の豊かな自然環境に恵まれた観光と漁業の街です。特に鮭の水揚げは本州一を誇っています。また、市の面積約1,260平方キロメートルは全国で8番目、東北では2番目の大きさで、約5万7,000人が暮らしています。
一方、医療環境に目を移せば、中核病院である県立宮古病院がほぼ急性期一般医療を担い、長期療養は民間1病院、精神医療は民間2病院が担ってきました。ただ、県立宮古病院には循環器と整形外科の常勤医師の不在時期が続くなど、急性期医療の医師不足が深刻な状況でした。さらに、26ある医科診療所では医師の高齢化が進み、医療過疎化が進んでいました。
この地の医療体制、医療過疎問題に追い打ちをかけたのが、東日本大震災です。津波による災害は、死亡・行方不明者約530人、倒壊家屋約4,700戸に上り、医療機関や薬局も多くの被害を受けました。
その数は、宮古市の30医療機関のうち、11医療機関。再開を断念した1診療所を除いて、被災したほとんどの医療機関も診療を再開しています。また、幸いにも県立宮古病院は高台に位置していたため被災を免れ、診療を継続できたことは不幸中の幸いだったといいます。
以前から宮古市では県立宮古病院の医師不足により、休日急患対応の負担が大きいため、同病院の休日診療応援に医師会員が交代で勤務。そのため病院勤務医と開業医のコミュニケーションは日頃から取れていました。「県立宮古病院の医師とは顔が見える関係ができていましたので、病診連携に関しては比較的円滑に行われていた地域だろうと思います」(宮古医師会副会長・豊島医院院長 豊島秀浩氏)。
その一方で、在宅医療はなかなか伸展しない現状がありました。在宅療養支援診療所の届出をしているところは2施設で、往診・訪問診療を行っている施設は数的にはあるものの、ほとんどの施設が月間数件。在宅での看取りも難しい状況でした。
また、在宅医療を支える訪問看護ステーションも市内には4カ所(病院運営1カ所、介護施設運営2カ所、民間事業者1カ所)。「各施設とも2.5~3人体制のため、市全体で120人程度の患者さんを担当するのが精一杯です。介護を担う若い世代が地域で働きながら介護できる環境ではなく、老老介護も多い。入院患者さんも、介護施設や居宅に戻るよりは病院にいた方が安心と考える傾向があり、社会的入院が多いというのも実状です」。訪問看護ステーション メディケアを運営するメディケア・システム代表 ガルシア小織氏は実態をこう説明します。

導入の経緯

訪問看護ステーション メディケア
メディケア・システム 代表
ガルシア小織 氏

利用者の負担とコストがかからない
医療連携ネットワークを要望


医療・介護資源不足という課題を抱える宮古市ですが、震災から復興に向かう中で医療や介護をどうしていくべきか、関係者が協力していかないと立ち行かなくなるという強い意識が芽生え始めていました。さらに、施設・事業所や職種を超えて関係者が連携していこうという流れを加速したのが、宮古市医療情報連携ネットワーク構築でした。
その端緒は、総務省の東北地域医療情報連携基盤構築事業の一環として、2012年1月に国側から提案があったことです。「この話が持ち上がったとき、正直なところ時期尚早という感があり、辞退しようと考えていました。震災10カ月後という状況で、医療体制はまだ落ち着きを取り戻すに至っていませんでしたし、市役所も復興のための事務作業に忙殺されていました」(豊島氏)と振り返ります。
しかし、医療・介護資源に限界がある宮古市がサービス提供を維持していくために、国の方針でもある地域包括ケアシステムの構築を推進する重要性は認識していたという豊島氏。「医療連携ネットワークの利用者が、極力入力作業等の負担が少なく、費用もあまりかからない持続可能なネットワークにすることを条件にしました」(豊島氏)と事業を行うことになった経緯を説明します。
その後、宮古市が総務省に対して東北地域医療情報連携基盤構築事業の補助金を申請し、10月末に宮古市医療情報連携ネットワーク協議会を設立。システム部会で仕様を検討し、次のような基本的要件がまとめられました。
(1)災害復興途上であることから、医療や介護の現場の関係者に運用負担、コスト負担がかからない仕組みであること、(2)病診・病病連携支援だけでなく、医療と介護の連携強化を可能にするシステムであること、(3)県立宮古病院と診療所・薬局等が双方向で診療情報を共有できる仕組みであること、(4)災害時に備えた診療データのバックアップシステムであること。

電子化されたレセプト情報をベースに共有
包括同意で手続き負担も軽減


こうした要件に対して、株式会社SBS情報システムが提案したID-Linkサービスを中心とした地域医療連携システムが採用されました。
その大きな特徴の1つは、参加するすべての医療機関が基本的な診療情報を公開し、相互に閲覧できる点。その実現のために、利用者の負担やコストを抑制する方法として提案されたのが、医療機関の医事会計システム、レセプトコンピュータのレセプト情報を共有する仕組みです。いまや医療機関のほとんどが導入・運用している既存のレセコンの情報を活かすことで、診療情報のアップロードのための手間をかけず、コストを抑えて相互に連携・共有することを可能にしています。
「コストをかけずにレセコンから相互に連携するデータを抽出する方式であれば、現場の負担を軽減でき、多くの医療機関が参加できると考え、採用・構築に踏み切りました」(豊島氏)
また、連携に参加するすべての施設での情報連携に包括同意する方法にしたことも参加施設の負担を軽減しています。連携する医療機関・介護事業所が増えても、そのたびに同意を得る必要がなく、一度の同意取得により、同意書に明記された参加施設すべてで情報を連携・共有することを可能にしています。
一方、医療・介護連携にかかわる患者情報だけでなく、参加施設のすべてのレセプト情報を遠隔地のデータセンターに保管するため、災害時の患者情報の保全も実現しました。
患者様の同意が得られた時点でID-Linkサービスセンターで各医療機関などの患者IDをひも付けて閲覧可能にする仕組みを取っています。
具体的な連携・共有情報は、レセプト情報をベースとした病名、処方(薬局は調剤)、注射の各情報、検査データについては県立宮古病院が自院での検査結果を、各診療所は検査会社から収集・蓄積しています。また、宮古病院の画像データもID-Linkサービスを介して各施設が閲覧できるようになっています。
new windowみやこサーモンケアネット」と名付けられた宮古市医療情報連携ネットワークは、こうした基本診療情報をID-Linkサービスを利用して共有するとともに、訪問看護・介護サービス事業者が患者・介護サービス利用者の状態をiPadに入力し、主治医等に連絡する機能を持っています。また、参加する関係者がネットワーク上でカンファレンスや情報交換するためのグループウェア機能、Web会議機能も有し、医師や歯科医師、訪問看護師、ケアマネージャーなどの多職種がコミュニケーションを図る仕組みを実装しています。

宮古薬剤師会 会長
健康堂薬局 専務取締役
吉田 圭一 氏

協議会や委員会で醸成された
多職種ヒューマンネットワーク


宮古市医療情報連携ネットワーク協議会設立前の会合やシステム部会、また後の医療と介護連携委員会などで議論を重ねる中で、医療従事者や介護従事者、福祉関係者のヒューマンネットワークが徐々に醸成されたことも大きな収穫だったといいます。
例えば、宮古市の医師会と薬剤師会は、それまでも医師会の研修会に薬剤師が参加するなど交流の実態はありました。「ただ、診療所の院内処方が3分の1を占めていることもあり、薬局と連携しながら患者さんの服薬歴を管理していこうといった認識は薄かったのも事実。それが徐々に周囲とのつながり、連携を意識するように変わってきました」(宮古薬剤師会会長 吉田圭一氏)といいます。
同様に、在宅医療を手掛ける医師は訪問看護師の役割を理解していたものの、あくまでも点と点のつながり。「訪問看護の認知度が低いことは認識していましたが、特に病院勤務の先生方にも役割や業務範囲を理解していただけるようになったと感じています。私たちも、先生に何をどこまで相談すべきかを躊躇することが多々ありましたが、相互理解、関係づくりが進む中で壁が低くなったことが大きな収穫でした」(ガルシア氏)。また、各訪問看護ステーションのスタッフ同士の交流の機会が少なかったものが、ケアケースについてお互い情報交換できるようになったことも、医療と介護連携委員会設置の成果だと強調します。

宮古市医療情報連携ネットワークの全体図

導入後の成果

地域包括ケアの実現に向け
多職種連携のあり方に変化


2013年7月に本格運用を開始した「みやこサーモンケアネット」は、宮古市内の多くの医療や介護施設が参加しています。現時点の参加施設は、病院は県立宮古病院様をはじめ3施設(全数の75%)、医科診療所16施設(同62%)、歯科診療所15施設(同56%)、保険薬局15施設(同75%)、訪問看護ステーション4施設(同100%)、居宅介護事業所・包括支援センター・特別養護老人ホーム・介護老人保健施設等の介護事業所24施設(同77%)に上っています。
こうした医療や介護に関わる多数の施設が参加する「みやこサーモンケアネット」は、地域包括ケアの実現に向けた新たな“多職種連携のかたち”を作りつつあります。
その一例に、「みやこサーモンケアネット」を活用した退院前コンファレンスの充実があると豊島氏は述べています。「県立宮古病院に入院していたがんの末期患者さんを在宅で看取ることになったとき、私や病院主治医、連携室の看護師、医療ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、訪問看護師が、事前にID-Linkサービスに登録した患者情報を共有していたので円滑な検討ができました」と豊島氏。運用開始後に尾道市の地域医療介護連携事業「new window天かける」様を視察したことも大きな要因となり、「退院前コンファレンスの重要性をあらためて理解できました」(豊島氏)といいます。
また、訪問看護師をはじめとする在宅ケアチーム同士や主治医との間で利用されるのが、Participant機能。ケアチームの参加者(Participant)に情報を伝達・共有したいときにコメントを入力すると、対象者にメール通知され、ID-Linkサービスにアクセスして閲覧できる機能です。
「私たち訪問看護師は主治医から発行される訪問看護指示書に基づいて看護・ケアをしますが、患者さんの容体・様子を先生にコメント送信するなど、相互に情報伝達する際に利用しています。以前は電話やFAXでの連絡でしたが、先生のプレゼンスを気遣うことなく、情報交換ができます」(ガルシア氏)
前述の豊島氏が挙げた終末期のケア例では、訪問看護師、ケアマネージャー、ヘルパー間でParticipant機能による連絡が頻繁に行われていたといいます。
また、ガルシア氏は、情報を見るということに加えて情報を発信する立場としてiPadで撮影した褥瘡写真をID-Linkサービスの「ノート」に添付ファイルで主治医へ送り、両者で褥瘡管理を行うといったケースでも活用しています。
一方、薬局薬剤師における「みやこサーモンケアネット」の価値は、レセプト病名であっても病名を知ることができること、検査データを閲覧できることだと吉田氏はいいます。
「レセプト病名を共有することは、かえって混乱や誤解を招くという議論がありましたが、それを承知の上で、検査情報と検査結果を閲覧できれば価値があります。処方せんだけに頼る服薬指導より、はるかに内容のある指導が可能です」(吉田氏)
特に複数科を受診して多剤併用している患者様、肝機能や腎機能の副作用のある薬を併用する患者様に対しては、検査データを把握して服薬指導したいというニーズは高いと強調します。また、院内処方している開業医の処方情報が得られるようになり、お薬手帳では十分でなかった服薬管理の精度が高くなったと指摘します。「在宅医療の浸透に伴い、訪問服薬指導にも取り組んでいくことになります。今後は情報閲覧だけでなく、われわれ薬局も情報提供する機会も増えてくると考えています」(吉田氏)と、ネットワーク活用を展望しています。

課題は介護事業所の利用促進
連携強化で目指す医療・介護の復興


「みやこサーモンケアネット」の運用が始まって、13カ月。2014年7月末で累計登録患者数は、1,000人を超えた状況だといいます。市の広報誌への掲載や各医療機関などにポスターを貼っていますが、「みやこサーモンケアネット」の住民の認知度は今ひとつ。「市民全体に周知することよりも、必要だと判断した患者さんに参加してもらうことが重要です。各施設で何ができてどのようなメリットがあるかを、わかりやすく説明すれば参加同意は得られると感じています」と豊島氏。県立宮古病院の検査結果、検査画像を閲覧でき、詳しく説明できることを患者さんに伝えると、「同意を得られなかったケースはありません」と豊島氏はいいます。
訪問看護サービスの利用者全員の参加同意取得を目指しているというガルシア氏は、認知症患者様や高齢患者様は家族に相談しないと参加同意の書類を書けないといった課題はあると指摘。「そうした問題はあるものの、『あなたの様子を先生にすぐに連絡できて、先生はあなたの状態をいつも見てくれていますよ』が決め台詞になっています。ケアチームが全員で見守っているという印象が、患者さんの安心感につながっています」(ガルシア氏)
「みやこサーモンケアネット」への参加に同意を得て登録した患者・介護サービス利用者には、参加を証明するカードが発行されています。同ネットワークでは包括同意の方式をとっており、カードを携帯し参加する医療機関などに提示することで、関係者が診療情報等を閲覧することができます。
病院、診療所、薬局、訪問看護ステーションでの「みやこサーモンケアネット」の活用は伸展していますが、課題は介護事業所での利用促進だといいます。月1回程度で開催している医療と介護連携委員会で事例報告を行いながら問題点を抽出して連携強化を図っていますが、介護事業所の参加メリットをどう打ち出すかが悩みだと豊島氏は指摘します。
「介護事業所が情報を共有・閲覧するメリットは、少ないのが実情です。そのため介護者側のメリットを説明するより、医療者側にとって、介護事業所の持つサービス利用者の情報を知ることが非常に重要で、在宅医療を実践する上で大きな価値があることを理解してもらう努力をしています。その結果、介護施設の参加が増えてくれば嬉しいです」(豊島氏)とし、介護事業所の実態調査票を標準化し、アップロードしてもらう仕組みを検討しています。
もう1つの課題は、「みやこサーモンケアネット」は宮古市単独の補助事業として始まっており、医師会管内の山田町、岩泉町、田野畑村の下閉伊地区に拡大できなかった点です。「その中でも県立山田病院は、被災した現在は仮設診療所として運営されており、県立宮古病院のサテライト的な存在です。在宅医療も積極的に展開しており、ネットワークに参加できるよう働きかけをしていきたい」(豊島氏)と今後の展開を述べています。
東日本大震災からの復興とともに、医療・介護の復興を目指して関係者が1つになって突き進みつつある宮古市。それを駆動するヒューマンネットワークと「みやこサーモンケアネット」は、車の両輪として加速し始めました。

みやこカード表
みやこカード裏

システム概要

株式会社SBS情報システム
取締役 技術統括 ITコーディネータ
清水 俊郎 氏

双方向で診療情報を連携・共有可能なみやこサーモンケアネット
関係者間のコミュニケーション機能も実装


「みやこサーモンケアネット」の医療情報連携・コミュニケーション基盤は、地域医療連携ネットワークサービス「ID-Link」、参加施設のレセプト情報を基本とした診療データをデータセンターに集約したデータベース(SS-MIX2標準化/拡張ストレージ)、グループウェアおよびWeb会議システムなどで構成されています。なお、データセンターは遠隔地の某所に置かれ、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠しています。
特徴は、多くの医療機関等が参加できるようレセプトコンピュータ(レセコン)等、可能な限り既存システムを利用し、トータルシステムコストと運用コストを極力抑えたシステムにしたことです。加えて、診療データをデータセンターに集約したことによって、災害に備えたデータバックアップを容易にしました。
キーポイントとなるのが、参加施設のレセコンから診療データをアップロードする仕組みです。みやこサーモンケアネットでは、既に各医療機関が実施しているレセプトオンライン請求のデータ仕様に基づいた方式を利用しています。
「当社にはレセプト請求データを収録して変換するツールがあり、これを利用することでコストを抑えました。今後この方式は、レセコンからの診療情報提供機能の主流になっていくと考えられます」(株式会社SBS情報システム取締役 清水俊郎氏)と述べています。
なお、セキュリティを考慮し、診療所・薬局のレセコンとみやこサーモンケアネット用端末とを直接接続することは避け、USBメモリーを介してデータをアップロードしています。また、アップロードのタイミングは各施設に一任されていますが、月に1回程度は行われています。
一方、みやこサーモンケアネットでは、参加する医療機関の診療データを遠隔地にバックアップしている点も特徴。「東日本大震災で多くの医療機関が診療データを消失し、診療継続が困難だったことを教訓とし、当初の要件に盛り込まれたものです。ID-Linkでは同意を得た患者様のデータ以外は閲覧できない仕様ですので、災害時に各医療機関が自院のすべての患者様の病歴・処方歴・検査結果等のデータを閲覧できるよう、標準化ストレージビューア(Webブラウザ)というツールを提供し、発災時のみデータ参照できるようにしています」(清水氏)
グループウェアシステムについては、協議会をはじめとする関係者がメンバー間で一般的な情報交換に用いるシステムと、患者情報もやり取りできるセキュアな環境のシステムの2つを実装。また、当初、病院診療所間「対面」連絡ネットワークとして導入されたWeb会議システムは、広くメンバー間で会議等に利用することを目的として構築しており、県立宮古病院での退院前カンファレンスに開業医が出席できないときに自院からネットワークを介して参加するためのツールとして活用したいという意見もあり、今後の運営についても継続しています。

お客様プロフィール

宮古市医療情報連携ネットワーク協議会
(みやこサーモンケアネット)

事務局所在地 岩手県宮古市西町一丁目6番2号
(一般社団法人宮古医師会事務局内)
設立 2012年10月30日
運用開始 2013年7月1日
参加施設数科 77施設(2014年3月現在)
(病院3、医科診療所16、歯科診療所15、薬局15、訪問看護4、介護事業所24)
URL new windowhttp://www.miyako-salmon.jp/

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(2014年09月30日)

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