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佐賀県医療センター 好生館様
地域医療連携システムで紹介患者のカルテ記事を開示
ピカピカリンク(ID-Link)の利用促進に向けてさらに前進
- 業種:
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- 医療・ヘルスケア
- 業務:
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- その他業務
- 製品:
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- その他
事例の概要
課題背景
- 地域医療連携のさらなる利用促進のために、医師の間で知名度を高めていくことが大きな課題。
- 医師が自分の書いたカルテを他の施設の医師に開示することに対して否定的な意見が多い。
成果
院内のカルテ記載内容の質的向上により、連携医療機関へのカルテ開示を実現した。
地域医療連携利用促進に向けてさらに前進した。
導入ソリューション
佐賀県全域をカバーする診療録地域連携システムとして2010年11月に運用をスタートした「Pica Pica Link (ピカピカリンク)」。NECの地域医療連携ネットワークサービス「ID-Link」が採用されています。5年を経過して登録施設・患者数も増えてきました。ピカピカリンクの情報提供医療施設の一つである佐賀県医療センター好生館では、患者の診療情報提供に加えて、カルテ記事の開示も開始。さらに、地域連携パスの電子化や院外からの診療・検査予約のオンライン化も着々と準備するなど、医療機関同士の効率のよい情報共有を進めていくことで、地域完結型医療に向けてさらに前進しつつあります。
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事例の詳細
導入前の背景や課題
地域医療連携支援病院として重要な役割を担う好生館
好生館は、そのルーツを1834(天保5)年、佐賀藩主鍋島直正公により創設された医学館・医学寮にさかのぼります。名前の由来は中国の「書経」の一節『好生の徳は民心にあまねし=人の生命を大切にする徳を万人に行き渡らせる』から来ており、当時、時代の最先端を行く医学校でした。維新後、1872年(明治5)年に県立病院となり、以来、佐賀県の医療拠点として高度な医療を提供し続けてきました。
2004年、佐賀県初となる地域医療支援病院に認定。2007年、電子カルテシステムを導入。2013年、現在の地へ新築移転したのを機に、佐賀県医療センター好生館と名称を変え、35の診療科と9つの診療センターを有する地域中核病院になっています。また、早くから「病院完結型医療」から「地域完結型医療」への転換を提唱し、医療機関同士でそれぞれの役割を分担しながら患者を診ていく地域医療連携の強化、地域包括ケアシステムの構築にも力を注いでいます。
ピカピカリンク(ID-Link)運用開始から5年、広がる利用効果を実感
佐賀県では、地域完結型医療を推進するために、2009年、ID-Linkによる地域医療連携システムの構築を決定。地域中核病院と県医師会を中心に、行政がバックアップする体制で、2010年11月より、「ピカピカリンク」の愛称で運用が開始されました。
ピカピカリンクでは、診療情報を提供する地域中核病院同士の連携(病病連携)と、地域中核病院とかかりつけ診療所/クリニックとの連携(病診連携)ができ、診療録、処方・注射、検体検査結果、検査画像といった患者の診療情報を共有。当初8施設であった情報提供病院も13に増え、100を超える診療所が活用するまでに広がっています。この点について、好生館副館長で、ピカピカリンク協議会の会長も務める林田潔氏は、
「ピカピカリンクで、紹介先の病院から患者の診療情報を得られる事を理解した先生方は非常によく活用してくださいます。一度使い始めたら、もう使わないことは考えられない、大変役立てていると言われます。中には、紹介先の病院で登録するピカピカリンクの患者同意書を紹介状に添付してくれる先生もいます」と語ります。
こうした積極的な医師たちの中には、紹介先の病院から返書が届く前に、患者の検査・診察結果をピカピカリンクで確認している先生方も多く、スピーディーな情報共有が地域医療連携システムの大切な役割の一つだと林田氏は付け加えます。
医師の間で知名度を高めていくことが大きな課題
このようにピカピカリンクを使いこなしている医師が増えてきた一方で、まだ利用していない医師たちが多くいるのも事実です。とくに、利用促進の鍵を握る情報提供病院の医師たちの間ですら、ピカピカリンクの知名度が上がっていないことが大きな課題であると林田氏も感じています。
「利用件数が増えない要因には、共有される診療情報がどれくらい有用で魅力的かという問題もありますが、医師や診療機関へのPR不足も大きいと考えます。忙しい臨床の現場で、寸暇を惜しんで患者と向き合う医師にとって、診療時間に加えて、患者にピカピカリンクの説明をして同意書をもらうことは確かに面倒なことかもしれません。実際、地域の診療所から好生館に紹介されて来た患者の中で、ピカピカリンクを利用している件数を調べてみたら、その割合は予想以上に低く、患者から同意書をとってピカピカリンクに登録してくれるのは特定の医師だけという結果に驚きを隠せませんでした」と語る林田氏は、こうした事態を解消していくためのさまざまなアイデアを実行に移してしていくことにしました。
選択のポイント
院内院外の医師をはじめとする医療スタッフへのPR作戦を展開
まずはピカピカリンクの意義と利便性を理解してもらうPRが重要です。とくに、地域中核病院では、医師や看護師も含めてたくさんの人員がつねに入れ替わるため、何もしないでいたら知名度が下がり、ますます使われなくなってしまいます。そこで、ピカピカリンクの運用業務をサポートするNPO法人「佐賀県CSO推進機構」と一緒に、年に数回、院内院外の医師をはじめとする医療スタッフを対象とした説明会を実施してきました。ここでは、ピカピカリンクの目的と使い方を説明し、実機の操作も体験してもらいます。何となく面倒だと思っていた人も、こうした説明会に参加してもらうことで意識が変わり、前向きに使ってもらえるようになります。
また、医師に患者登録の負担をできるだけかけないようにする仕組みも大切です。例えば好生館では、紹介元の診療所がすでにピカピカリンクの登録施設であれば、地域医療連携室で初診受付をする時点で患者の同意をもらってすべて患者登録する運用の検討をしています。
これにより、医師が患者にピカピカリンクの説明をする手間が省けるだけでなく、患者の検査や診察が終わって、紹介元の診療所に返書を書く際も、重要なポイントだけ診療情報提供書に書いておき、「より詳細な内容をご覧になりたければピカピカリンクをご参照ください」とするだけで済むので、医師の業務も軽減され、紹介元の先生もその日のうちに検査や診察結果を見ることができるようになります。
さらに、地域医療連携室から紹介元へ送る御礼状や、医師が書く返書にも、ピカピカリンクのPRメッセージを付けるなど、さまざまな機会を使って未登録の診療機関へ参加を呼びかけるよう努めています。
いっそうの利用促進を図るためカルテ記事も開示
このような積極的なPR戦術に加えて、林田氏は次の一手に打って出ました。それが県内初のカルテ記事の開示です。つまり、それまで連携する診療機関に提供していた患者の処方・注射、検体検査結果、検査画像などの情報に加えて、好生館ではカルテ記事を院外からも参照できるようにしたのです。なぜ、そこまで踏み切ったのか。林田氏はその理由を、
「ピカピカリンクがスタートして間もない頃、ある先生から、『何だ、カルテが見られるわけではないのですか』と聞かれたことがあって、その言葉がずっと心に引っかかっていました。そこで、開示する情報の範囲をカルテ記事まで広げたら、利用件数を増やす突破口になるのではないかと考えて踏み切ったのです」と語ります。
こうして、2015年4月より、好生館に紹介された患者カルテの医師の記事記載、看護記録、バイタル、さらに療法士や栄養士の記録などプログレスノートをすべて連携する医療機関に開示することにしました。
その効果は早速出始め、カルテ記事の開示を始めてからわずか3ヵ月間で、例年なら1年かかっていた新規登録診療所数を達成できたのです。紹介元の医師たちからも、「自分が紹介した患者がどんな検査を受け、その結果を担当医がどう診断したか、その日のうちにカルテでわかるようになったのはとても大きなメリットだ」といった声が届いています。
また、入院患者が他の病院へ転院するような場合、医師の記載記事や看護師による入院記録など当該患者に関する留意点を、転院先の病院側も事前に把握できるので、継続的にきめ細かな患者ケアが可能になると高く評価されています。
カルテ記事開示に対する院内医師の意見
カルテ記事開示の効果がいち早く表れてきた好生館ですが、医師が自分の書いたカルテを他の施設の医師に開示することに対して、否定的な意見はなかったのか気になるところです。
「『どうやって反対する医師を説得したのですか?』とよく聞かれるのですが、実は反対意見は一つもありませんでした。というのも、好生館では10年ほど前から診療録の質的監査を行っていて、点数をつけたり、監査結果を院内で公表したりして、記載内容の質的向上に努めてきました。だから、カルテは他の医師に見られることを前提に書かれているため、開示について何のアレルギーもなかったのです」と、林田氏はその背景を語ります。
ただ、他の病院でもこのようにカルテ記事開示がスムーズにいくかは難しい問題です。自分のカルテを他の医師に見られたくないという医師も少なからずいるはず。しかし、厚生労働省の指針でも、患者の求めがあれば診療録を開示することが義務づけられており、カルテは書いた医師だけが見るものという考えは通用しなくなりつつあります。
しかも、連携する医療機関側からの情報開示ニーズが高く、そのことがピカピカリンクの利用増に弾みをつけていく切り札になるのであれば、今後は積極的に開示していく方向に舵を切っていくことが自然な流れと言えるでしょう。そのために、林田氏も、情報提供医療施設に対してカルテ記事の共有をお願いしていきたいということです。
地域連携パスの電子化で、ピカピカリンクをいっそう便利に
地域完結型医療を推進するには、急性期から回復期、維持期へと、地域における医療施設の連携計画が不可欠。そのために地域連携パスが作られますが、現状ではまだ紙ベースで運用されているのが実状で、これでは紙のパス紛失や情報更新等の情報共有が適正に行われない可能性があり、地域でのパス分析も困難です。
そこで、ピカピカリンクをその入り口として活用し、連携パスを電子化してデータベースによる管理を行い、関係する医師やコメディカルスタッフが、連携パスの作成〜書き換え〜参照などを地域で行えるようにして、効果的な情報共有を図れる準備を進めています。まず手始めに脳卒中地域連携パスを2015年度中にスタートさせる予定。これにより、患者が紙のパスを紛失する心配がなくなるだけでなく、ピカピカリンクにアクセスすれば、患者に関係する医療従事者がいつでもどこからでも連携パスを参照・更新することができるようになります。
さらに、地域連携パスの電子化は、患者情報の一元管理を可能にするので、将来的にはデータの二次利用にも役立ち、地域特性や各医療機関の特徴を活かした全体医療計画や、自治体の医療行政への有効活用も考えられるようになります。
院外診療・検査のオンライン予約も可能に
診療所から地域中核病院での診療や検査を予約する場合、好生館の現状ではネットで空き時間を確認してから、地域連携室へ電話をかけて予約を確保するという方法をとっています。こうした手間のかかる院外予約についても、画面に表示されるカレンダーで紹介先病院のスケジュールを見ながら、患者の都合を確認してリアルタイムに予約日時を決められるように準備を進めています。診療所にとってはあたかも自施設のように効率よく予約依頼ができるので、患者サービスの向上につながります。また、基幹病院にとっても保有する医療機器の有効活用が図れ、専門性の高い医療サービスの提供につながるものと期待されます。複数の中核病院が協力できれば、この仕組みの入り口としてピカピカリンクが利用できるのではないかと考えています。
導入後の成果
実行力のあるフラットな協議会運営を通して目標達成を目指す
ピカピカリンクの普及推進は、13の地域中核病院と医師会、県、薬剤師会、歯科医師会の代表で構成される協議会を通じて行われています。発足当初は、県と各団体のトップが中心となって強い権限を持って方向性を決め、運用が軌道に乗ってきました。その後、2015年7月に従来の協議会が発展的解消し、実務者レベルの代表者を中心とする現在の新しい協議会として生まれ変わりました。林田氏が会長となったことを機に、各情報提供医療施設で取り組んでいる良いところを共有し、課題を補完し合える組織として実のある活動を目指しています。今後は、各病院で実現可能な目標を立て、利用件数を増やすアイデアを推し進めていくことが重要。そのために、林田氏は一つひとつの拠点病院に協力を求め、後押ししていきたいと意気込みを語ります。
ピカピカリンクは現在、長崎県の「あじさいネット」や久留米市の「アザレアネット」など近隣の地域医療連携システムともつながり始めています。『1患者・1カルテ』でみんなが情報共有できることが地域医療連携の将来像と考える林田氏は、「全国どこへ行っても、患者の診療履歴や医療情報がわかり、必要な人がどこからでも共有できる仕組みになることが理想です。ピカピカリンクがもっと活用されていくことで、そんな時代に半歩ずつ近づいていくのではないかと思います」と結んでくださいました。
お客様プロフィール
地方独立行政法人 佐賀県医療センター好生館
所在地 | 佐賀市嘉瀬町中原400番地 |
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標榜科 | 総合内科、呼吸器内科、消化器内科、血液内科、肝臓・胆のう・膵臓内科、腫瘍内科、糖尿病代謝内科、腎臓内科、脳神経内科、脳血管内科、循環器内科、緩和ケア科、呼吸器外科、消化器外科、肝臓・胆のう・膵臓外科、乳腺外科、小児外科、心臓血管外科、脳神経外科、形成外科、整形外科、脊椎外科、小児科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻いんこう科、リハビリテーション科、放射線科、救急科、麻酔科、病理診断科、歯科口腔外科、精神科、皮膚科 |
病床数 | 450床 |
この事例の製品・ソリューション
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(2015年10月7日)