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アジャイル開発って偽装請負になるの?
水野 浩三
以前から、アジャイル開発を適用すると偽装請負に抵触するのではないか、ということがいろいろな場で提起されていました。気にされている方もたくさんいらっしゃるのではと思います。
最近になって、このアジャイル開発の偽装請負問題に改めてフォーカスがあたり、議論が進みつつあります。まずは現状を整理して、共有したいと思います。
アジャイル開発って偽装請負になるの?
アジャイル開発における偽装請負問題がホットな話題に
内閣府が進めている令和3年度の規制改革の中で、デジタル時代に向けた規制の見直しが計画され、その一つの検討テーマとして、アジャイル型システム開発のルール整備が設定されています。
日本国内において、アジャイル開発の適用が進んでいない一つの原因として、偽装請負の懸念があるのではないかという仮説が、規制見直しの発端になっています。詳しくは、2021年2月25日に開催された、内閣府規制改革推進会議第6回成長戦略WGの議事録をご確認ください。
規制改革、ルール整備の進展については、別の機会で詳しく触れることとし、今回の記事では、アジャイル開発における偽装請負の懸念についての現状について、整理してみます。
そもそも偽装請負とは
労働者派遣以外の名目で契約を締結しているにもかかわらず、発注者が雇用関係のない労働者に指揮命令を行うことで、実態として労働者派遣の提供を受けることを言います。
SIでアジャイル開発を行う場合は、発注者と受注者は準委任契約を締結することが多いと思いますが、受注者が提供する労働者と発注者との間には雇用関係はなく、発注者から労働者への指揮命令はできません。これは従来のウォーターフォール開発や、請負契約でも同様ですね。ただアジャイル開発は、プロダクトオーナーと開発チームも、さまざまな場面でコミュニケーションを図りながら作業を進めることが大前提となっているため、よりいっそう偽装請負の懸念を強く持たれる可能性があります。
ではアジャイル開発を適用しただけで、偽装請負と断定されることになるのでしょうか?
偽装請負は実態を把握して判断
アジャイル開発に詳しい人なら、チームは自律的に行動するし、判断も全員で合意をとりながら進めるので、コミュニケーションが密に行われていたとしても、その内容は指揮命令にあたらないと思うでしょう。関係者全員がアジャイル開発に対して正しい理解も持っていれば、問題は起こらないはずです。
ただし偽装請負の問題は、ハラスメント系の問題と似ているところがあるかなと思います。要は、受け取る側がどう思うか、第三者が見た時にどのように見えるか、で判断が変わってくるということです。現に適法か違法かの判断は、労働基準監督署が、現場でどのような運用がなされているかを確認して判断することになっています。
厚生労働省が発行している「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」に具体的な判断基準が提示されていますので、いくつかポイントを紹介したいと思います。
1 労働者の業務遂行に関する指示、管理
- 業務を処理するのに必要な労働者数等を受注者側が自ら決定していること
- 作業遂行の速度を自らの判断で決定することができること
- 作業の割り付け、順序を自らの判断で決定することができること
この辺りは、プロダクトバックログやカンバンの管理方法が影響してきそうです。タスクは空いているものを自らがとっていれば、自ら作業の割り付けをしていると言えるかもしれないですね。アイテムの優先順位もプロダクトオーナーの指示ではなく、最終的にチームで協議して合意としていることが必要そうです。
2 労働時間等に関する指示、管理
- 始業終業、休憩時間、休日等について発注者から直接指示を受けていないこと
- 業務時間については、受注者側で把握できる状態になっていること
休憩時間や休日をプロダクトオーナーから指示されることはないと思いますが、チームで作業実績などを共有できる状態なっていると、プロダクトオーナーの関与もあるとみなされてしまうかもしれません。
3 企業の秩序維持、確保等のための指示、管理
- 労働者の服務上の規律に関する指示、管理を自ら行うこと
- 労働者の配置等の決定および変更を受注者側が自ら行うこと
従来の対策では、作業スペースを物理的に区分けすることで、直接指示がされないように考慮されていたりしましたが、アジャイル開発では同様の対応は難しいところがありそうです。ただし物理的に区分けできていないからといって、それだけで偽装請負と見なされることはありませんので、やはりあくまでもコミュニケーションの内容次第ということになりそうです。
このように現時点では、状況を確認する人の主観や解釈によるところもあり、偽装請負か否かの判断が統一されない可能性があると思います。
今後の進展
本記事の冒頭にも記載したとおり、本テーマは、内閣府規制改革推進会議で取り上げられていますので、関係省庁、団体にて検討、議論が進んでいくものと思われます。これまではこれといった対策の決め手がありませんでしたが、少しでも規制が緩和され、改革につながる施策が出てくることを関係者の一人として期待しています。