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ケーブルテレビIP放送のためのローカル5G・ハイブリッドMIMOによる適応型MBS
Vol.77 No.1 BluStellar特集 BluStellarが牽引するDXの未来 ~AI・セキュリティ・データマネジメント・モダナイゼーションで拓く価値創造モデル~ケーブルテレビにおける集合住宅や辺地共聴世帯の有線設備の代替手段として、ローカル5Gの活用が期待されています。しかし、ケーブルテレビが提供する多チャンネル放送やインターネットサービスに対し、サブ6GHz周波数帯の100MHz幅では回線容量が十分とはいえず、周波数利用の効率性が課題となっています。本稿では、放送の信頼性と通信の効率性を同時に実現するハイブリッド型のMIMO技術を兼ね備えた適応型MBSを紹介します。
1. はじめに
ケーブルテレビは地域情報の伝達や災害時に不可欠な役割を担い、デジタルデバイドの解消にも寄与しています。老朽化した集合住宅や辺地共聴世帯では同軸ケーブルの張り替えがコスト面において厳しく、4Kや8Kサービスの提供が課題となっています。こうした状況下で、収容局から各家庭までを光回線だけでつなぐ配線方式であるFTTH(Fiber To The Home)の代替案として、低コストで導入可能なローカル5GのFWA(固定無線アクセス、Fixed Wireless Access)活用が注目されています。多チャンネル放送やインターネットサービスを実現するには回線容量が不十分であり、周波数帯域のひっ迫が懸念されます。
そこで、従来の物理レイヤを中心に検討が進められていたMIMO技術に着目し、回線容量の拡大とIP放送の信頼性向上を両立させる新たな方式としてハイブリッドMIMOを検討しました1)。
集合住宅や辺地共聴施設に対してローカル5Gを用いたIP放送の実現に向けて、筆者などが提案した適応型MBSにハイブリッドMIMOを統合したシステムを紹介します2)3)。
2. 適応型MBS
移動通信の標準化団体である3GPP(The 3rd Generation Partnership Project)では、リリース17より5Gマルチキャスト及びブロードキャストとしてMBSが規定されました。MBSは従来のユニキャスト通信に比べて、飛躍的に回線利用効率を向上させる技術として着目されており、多くのユーザーに対して4K・8K映像コンテンツを提供するのに適しています。筆者などはこのMBSに準拠しつつ、アプリケーションレイヤの視点から更なる帯域効率化、誤り耐性強化を図るため、図1の適応型MBSを提案しています。

拡大するローカル5Gによる映像配信では集合住宅や辺地共聴世帯ごとに受信環境が異なることに起因し、変調方式と符号化率の組み合わせであるMCS(変調符号化方式)の差異が発生します。このとき、マルチキャスト映像配信では受信世帯全体をカバーするうえで、受信環境が最も悪い世帯のMCSに合わせる必要があり、受信環境が良い世帯にも低いMCSを割り当てて放送することにより、スループットが低下し、回線利用効率は悪化します。
この問題に対処するため、適応型MBSではMCSにしきい値を設定し、しきい値未満の対象世帯に対しては、TCPによる再送信が可能なユニキャスト配信を適用し、しきい値以上の世帯のみにマルチキャスト配信を行います。これにより受信環境が良い世帯では高いMCSのままマルチキャスト配信が適用され、受信環境が悪い世帯では環境に合わせたMCSによるユニキャスト配信が適用されるため、回線利用効率が向上します。また、各世帯の受信端末から電波受信状況やチャンネル選択情報を上位レイヤにフィードバックするため、フェージングなどの影響で受信エラーが発生した場合においても、マルチキャストからユニキャストに切り替えることで、安定した映像配信が可能となります。
3. ハイブリッドMIMO
適応型MBSでは、受信環境・視聴状況に応じて最適な配信方式を選択します。受信環境が良い世帯にはマルチキャストのUDP通信、受信環境が悪い世帯や特定のチャンネルの単一視聴世帯にはユニキャストのTCP通信を用いることで、回線利用効率化を図っています。ここでは適応型MBSの回線利用効率を更に向上させる手段として、ハイブリッドMIMOについて説明します。図2にハイブリッドMIMOの概念図を示します。縦軸が周波数、横軸が時間、奥行がMIMOレイヤ、図中の1ブロックは無線通信における基地局と端末がデータのやりとりを行う最小単位であるリソースブロックを示しています。

拡大するマルチキャスト配信はUDP通信のため受信環境の劣化によりテータが損失した場合に再送ができません。一方、ユニキャスト配信は受信環境が悪い世帯と通信を行う必要があり、MCSが著しく低い世帯では伝送ビットレートが低いため、映像配信自体が困難となります。そこで、ハイブリッドMIMOにおいては、マルチキャスト配信には、各アンテナから同じデータを送信することで、耐障害性を向上させるダイバーシチMIMOを適用し、ユニキャスト配信には各アンテナから異なるデータを送信することで、最大でMIMOレイヤ数分伝送ビットレートを向上させるマルチストリームMIMOを適用します。インターネットサービスなどを提供する際には伝送ビットレートを向上させるため、マルチストリームMIMOを適用します。
4. シミュレーション評価
4.1 集合住宅向けシミュレータ
ハイブリッドMIMOにおけるマルチキャスト配信とユニキャスト配信を多重化して集合住宅向けに送信する動作をシミュレーションする電波伝搬シミュレータを開発しました。概念図を図3に示します。入力パラメータとして、基地局側の送信パラメータ、温度などの環境情報、端末側の受信パラメータ、世帯数や階数などの集合住宅構造パラメータ、放送番組数や放送画質などの放送パラメータ、放送視聴世帯などの視聴パラメータを入力します。シミュレーションの出力パラメータとしては、各世帯における受信電力や信号対干渉雑音比、MCSの分布などの無線特性を出力します。また、全体のリソースブロック数より各配信方式(適応型MBS、マルチキャスト配信、ユニキャスト配信)において消費したリソースブロック数を差し引いたものを残リソースブロック数と定義し、回線利用効率の指標として出力します。これらのシミュレーションを通して、適応型MBSにおけるマルチキャスト配信とユニキャスト配信を切り替えるMCSしきい値やマルチキャスト世帯カバー率を最適化、マルチキャスト配信とユニキャスト配信の番組数・視聴世帯数をパラメータとして回線利用効率を検証することもできます。

拡大する4.2 シミュレーション結果
シミュレーションに用いる入力パラメータとして、送信電力は0.5W、基地局端末間距離は100m、集合住宅情報としては10階建て、10戸で総世帯は100世帯、4K放送のため符号化ビットレートは10Mbpsとし、放送番組数は10番組と設定しました。詳細なパラメータの設定については表に示します。表の設定に基づいて、MIMO設定をSISOと4×4MIMO、視聴世帯数を10世帯から90世帯まで10世帯ずつ変化させ、各配信方式(適応型MBS、マルチキャスト配信、ユニキャスト配信)における回線利用効率を残リソースブロック数にて比較しました。
表 シミュレーションに用いる入力パラメータ
図4に表の条件下におけるSISO、4×4 MIMOの残リソースブロック特性を示します。縦軸には残リソースブロック数、横軸には視聴世帯数を示します。青線は適応型MBSとマルチキャストの残リソースブロックの差分RR-RRm、赤線は適応型MBSとユニキャストの残リソースブロックの差分RR-RRuを示しており、数値が大きいほど適応型MBSがマルチキャスト、ユニキャストに比べて優位であることを示しています。このSISOの結果より世帯数10から40世帯までは適応型MBS、40世帯以降はマルチキャストが最も適した配信方式であるのに対し、4x4 MIMOの結果では世帯数10から30世帯までがユニキャスト、30世帯以降ではマルチキャストが最も適した配信方式であることが確認できます。これは、マルチストリームMIMOによってスループットが向上し、視聴世帯が少ない場合ユニキャストの回線利用効率が向上したことが原因です。次に、図4でのシミュレーション条件を基に、集合住宅の1階に3dBの電波減衰量を加えることで、受信環境が劣化した場合のシミュレーションを実施しました。そのときの残リソースブロック特性を図5に示します。受信環境が劣化すると、SISO、4×4 MIMOともに適応型MBSがマルチキャストとユニキャストに対して顕著に優位であることが確認できます。これは、受信環境の劣化に伴い1階世帯のMCSが下がることで、世帯間のMCSの差が大きくなり、マルチキャストの回線利用効率が落ちたことで、適応型MBSの効果が顕著に表れたといえます。

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拡大する5. まとめ
本稿では、ケーブルテレビIP放送のためのローカル5Gによる適応型MBSの技術及び集合住宅モデルを用いた電波伝搬シミュレーションの結果を紹介しました。
受信環境や視聴状況に応じてマルチキャスト配信とユニキャスト配信を使い分ける適応型MBSに、マルチキャストの耐障害性を向上させ、ユニキャストの伝送ビットレートを向上させるハイブリッドMIMOを組み合わせることで、回線利用効率の更なる向上を図りました。
シミュレーションにおいて、集合住宅の視聴世帯間における受信環境のばらつきが大きい場合に、適応型MBS+ハイブリッドMIMOの効果が大きいことを確認しました。
6. 謝辞
本稿には、総務省の「電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)」によって実施した成果を含みます。
参考文献
執筆者プロフィール
NECネッツエスアイ株式会社
システムズエンジニアリングサービスビジネス開発本部
NECネッツエスアイ株式会社
システムズエンジニアリングサービスビジネス開発本部
主任
一般社団法人日本ケーブルラボ
理事長

ベンジャブール アナス:移動通信システムにおけるMIMO伝送技術の進化, 映像情報メディア学会誌,70巻1号,pp.28-34,2016
