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情報収集を代行するAgentic AI
NECの最先端技術 2025年5月22日

世界を席巻している生成AIに続く技術として、いま新たに注目を集めようとしている「Agentic AI」。細かな指示を出さなくても、ゴールを指定するだけでAIが考えて自律的に作業するというシステムです。今回NECでは、このAgentic AI (注1)の機能の一部をアプリケーションとして構築。この画期的なシステムはどのようなものなのか。また、どのようなメリットがあるのか。研究者に詳しく話を聞きました。
指示達成のために必要なタスクを考え、情報を自動で見つけ出す

AIテクノロジーサービス事業部門
プロフェッショナル
竹岡 邦紘
― 今回発表したNECのAgentic AIとは、どのようなものなのでしょうか?
Agentic AIとは、ユーザがゴールだけインプットすれば、あとはAIが自律的に行動して成果物を出力してくれるというもので、現在世界的に研究が進められている分野です。私たちが開発したAgentic AIも、この広く普遍的に活用できる技術をベースにしています。しかし、今回は多くの方々からのニーズが見込めるアプリケーションとして、情報の検索やレポート作成にフォーカスしたシステムを構築しました。
― 情報の検索やレポート作成が主な機能ということですが、生成AIとはどのように違うのでしょうか?
生成AIを用いたテキスト生成は、基本的にAIの中にある情報で完結します。これに対し、私たちが開発したAgentic AIでは、Webや社内サイトなどに散らばった情報を必要に応じて自ら探しに行くことができます。例えば「海外出張では社内にどんな規定があるか調べてほしい」と指定すれば、各種データベースを自律的に参照して回答してくれます。検索キーワードを入力したり、どこを検索するか指定したりする必要はありません。ゴールを入力するだけでAIが検索ワードや検索先を考えて実行し、どこかに眠っているはずの必要な情報を適切に拾い上げてくることができるのです。回答時には参照元を提示するので、ユーザが情報の信頼性を確認することも可能です。
さらに、より複雑な指示にも対応することが可能です。例えば「NECと競合する会社を調べてください」というような指示では、まずは競合企業を探して一覧をつくり、次にそれぞれの企業についての情報をまとめるという2つのステップが必要になりますが、Agentic AIは、このように複数のタスクが発生するような指示であっても対応することができます。AIが適切にタスクを分割し、正しい手順で実行することができます。
AIやLLM開発で培ったNEC独自のノウハウを活用

― 複雑な処理を実現するために、どのようなノウハウや技術が使われているのでしょうか?
大きく分けて3つあります。1つ目は、NEC開発の生成AI「cotomi」の中核をなす大規模言語モデル(LLM)を開発した際に培ったノウハウです。LLMは独特な挙動をするシステムで、うまく指示を通すためにはコツが必要です。さらに、各社がつくるLLMでも特性が異なりますし、それぞれのバージョンが1つ違うだけでも挙動が大きく変わってきます。各々の特性にあわせて、うまく動作させるための工夫が必要なのです。そのぶん、NECでは自社LLMの扱い方は十分に心得ていますし、自社LLMの開発のために他のLLMについても徹底して研究してきた実績があります。こうしてLLMに扱いについてのノウハウを蓄積できていたことが、今回の技術につながったと考えています。
2つ目は、タスク分解のアルゴリズムです。タスクの分解にあたっては、はじめに全体のフローを構築してトップダウンで進める方法と、一つひとつ逐次的に対応してゴールをめざす方法の2種類を検討しましたが、最終的には両者を組み合わせたハイブリッドな方法を開発しています。はじめは全体のフローをトップダウンで設計する方法で進めていたのですが、この方法では途中で失敗してしまうと復帰ができず、ゴールまでたどり着かなくなってしまうことがわかりました。かといって、逐次一つひとつ網羅的に作業させるフローでは先が見えず、ゴールまでたどり着けるかどうか見通しをつけることさえできません。そこで、全体のフローをはじめに設計しつつ、適宜見直しをかけるアルゴリズムを新たに開発しています。本技術については論文にまとめ、昨年12月に難関国際学会であるIEEE BIG DATA 2024で発表を行いました。
3つ目は、情報ソースの提示を実現する仕組みです。これは先ほどお話したLLMの特性に対するノウハウとも関わるのですが、適切なソースを想定通りに出力できるような設計とするために、何度も調整を重ねました。本機能の大きな目的はLLMのハルシネーションを防止することですが、NECでは他にもハルシネーションを抑止する技術を開発しているので、実装時にはこれらと組み合わせることも可能です。
また、もう1点強調しておきたいのは、本システムのユーザインターフェース(UI)です。ここはリリース直前まで、かなりこだわりました。というのも、今回のシステムの要はあくまでゴールをインプットするだけでよいという点です。手続きを頑張って書いてもらうわけではありません。UIでは、このような新しいシステムを直感的にわかっていただけるようなデザインを目指しました。また、出力時もただ結果を表示するだけでなく、どのようなフローをたどったのか振り返れるようにしています。これによって、上司が部下の仕事をレビューするようなかたちで過程を見直すことができます。「指示のこの部分が悪かったのかもしれないな」等というように、改善点を見出すこともできるのです。
社内システムとの連携で、日々の業務に伴走するAIへ

― ユースケースとしては、どのようなものを想定していますか?
かなり汎用的に使えるものだと考えていますが、例えば営業の方が何か新しい提案をしようと考えたときの提案書のドラフト作成にも使えます。仮にA社へ提案しようとした場合、「A社への営業提案資料をつくりたい」と入力すれば、A社の各種情報や業界動向を調べると同時に、社内で過去にどんな提案をしているかという点までまとめて調べ上げたうえで、提案書の骨子を作成することができます。重視するべき項目まで提示することも可能です。これによって、新入社員など経験値や知見の少ない作業者でも、広いWEB上から有益な情報だけを一気に収集して、精度の高い提案の土台を準備することができるようになります。
また、社内情報の検索は、機密保持という面からもクラウド上で公開されているようなAIエージェントの活用は困難ですが、NECのAgentic AIであればオンプレミスでの導入も可能です。クラウド型の大規模システムと比べて軽量なシステムを構築していますし、パッケージ化してご提供できるような製品化も進めているところです。NEC自身をゼロ番目のクライアントとして最先端のテクノロジーを実践する 「クライアントゼロ」 の考え方のもと、NEC社内では運用を開始しており、社員からも好評です。
― 将来的には、どのようなことが実現できるでしょうか?
そうですね。ゆくゆくは、情報の検索と提示だけでなくアクションまで実行できるようなシステムを構築したいですね。たとえば出張の旅程計画の立案を指示したら、旅券やホテルの手配と予約まで実行してくれるようなシステムです。こうなると、Agentic AIがコンシェルジュのようにユーザと伴走しながら一緒に仕事を進めるような未来が描けるのではないかと考えています。
また、Agentic AI同士の連携や自動交渉ということも考えていく必要があると考えています。例えばA社のエージェントは商品をできるだけ高く売りたい、B社のエージェントはその商品をできるだけ安く買いたいという時には利害調整が必要となります。このようなことに対応するためにも、相互の調整を行うプロトコル開発が必要になるでしょう。
いずれにせよ、今回作ったものは私たちが目指すビジョンのまだ一部しか実現できていないと思っています。ゴールを決めたら、あとはAIが自律的に行動して成果物が得られるというシステムの実現が、私たちが最終的に目指しているところです。いまはまだ検索とレポート作成という機能に特化したアプリケーションなので、この対応エリアを少しずつ押し広げていきたいと思っています。幅広いユーザが当たり前のように使って、仕事をより創造的にしていけるようなシステムしていけたらいいですね。


ユーザが示すゴールに向けて、AIが自律的に考えて作業する「Agentic AI」は現在世界中で広く研究が進められている分野です。NECが今回発表した「Agentic AI」は、これらの技術をベースとしつつ、検索・レポート作成に特化して構成したシステムです。ユーザが示すゴールに向けて、AIが自動でWebや社内情報を検索して高精度な回答を出力することができます。参照元のソースも提示するので、情報の信頼性を確認することも可能です。
世界でもAgentic AIに属するサービスは稀有ですが、NECのAgentic AIは社内システムに組み込むことが可能であるという点に大きな特長があります。オンプレミスでの導入ができるため、社内のシステムや機密情報との連携が可能になり、普段の業務に真に役立つシステムを構築することが可能です。
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