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今岡 仁(博士(工学)/NECフェロー)
2018年9月28日
(2019年5月1日更新)

世界No.1*の精度とスピードを誇る顔認証を開発
私はバイオメトリクス研究所で、顔認証技術の研究に取り組んでいます。NECの顔認証技術は、NIST(米国国立標準技術研究所)主催の静止画照合における性能評価で、3回連続No.1の評価を獲得しています。さらに、2017年には動画を用いたベンチマークでもNo.1の評価を獲得するほど、高い性能を実証している技術です。
顔認証では、環境変化があっても動じずに認証できる頑強性(ロバストネス)が重要なポイントになります。外光の変化や目つむりといった状況への耐性に加え、正面向きの顔だけではなく横顔でも認証できるかなど、さまざまな変化にも精度を落とさず対応できることが、ソリューションの現場では非常に重要になります。そのためにも、画像をいかに処理し、どのようなパターン認識をしていくか。画像処理とディープラーニングを活かして、頑強なアルゴリズムをつくりあげることで、世界No.1のシステムを創りあげてきました。また、もう一つ高速化というのも重要なテーマです。現在では約1秒間に3000万件の照合が可能になりましたが、こうした顔認証技術の進化に、私はこれまでの半生を捧げてきたといっても過言ではないかもしれませんね。
私自身の話をすれば、大学時代には物理の理論的な勉強をしていました。NECに入社後は人間の脳の視覚情報処理の研究に携わって、その後、画像処理による顔認証技術の研究を始めています。振り返ってみると、この3つの研究分野がすべて活かされて現在につながっているなと感じています。もし顔認証の研究開発をめざす学生や研究者の方々がいらっしゃったら、いろいろな分野の研究をしてみることが自分自身の糧につながるのではないかと思います。
- *MBGC 2009 (Multiple Biometric Grand Challenge)
MBE 2010 (Multiple Biometrics Evaluation)
FRVT 2013 (Face Recognition Vendor Test)
FIVE 2017 (Face In Video Evaluation)
顔認証を「入口」として、次の段階へ
2000年はじめ頃には、顔認証というと社会的にはまだ知名度がない技術でした。しかし、今ではNECの技術を中心に、数多くの空港の出入国ゲート等でご活用いただいているので、顔認証も世の中に浸透してきたという感覚はあります。今後は、スポーツ競技大会での入場管理など、より幅広いシーンで活用されていく技術になると考えています。もっと身近になっていけば、スーパーマーケットでの会計や電車の改札ゲートへの入出場、さらにはオフィスや家のロックまで、自分自身の顔だけで済ませることができるようになります。財布や鍵を持ち歩く必要もなくなることでしょう。顔認証は、将来的に非常に大きな可能性をもった技術であると言えると思います。
さらに注目したい点は、顔認証はコミュニケーションの「入口」だということです。私たち人間が友人の顔を見つけたら、いったいどのようなことをするでしょうか? たとえば会話を始めるとか、さまざまなアクションを続けていくと思います。こうした視点に立って、顔認証を入口としたその先の技術開発というのも、これからつくっていきたいと思っています。
「顔がパスワードになる社会」を近い将来に実現
今後めざしていきたいのは「顔がパスワードになる社会」の実現です。顔をパスワードとして、本人であればいつでもどこでも簡単に入れるという社会ですね。たとえばドアを通るときに、荷物を持っていて鍵を取り出しにくいような状況でも、顔をパッと向けるだけで通れるようになるわけです。世界のあらゆるゲートが、顔という一つの鍵だけで通行できるようになります。パスポートに顔写真が入っていることからもわかるように、顔というのは言語の壁を超えて世界中で活用できることも大きなメリットです。顔という、決して忘れることのない同一のパスワードを世界中で使うことができます。
また、現在は顔認証で培った画像処理技術やディープラーニングを活かした技術もつくりあげています。たとえば医療分野では、内視鏡のリアルタイムな映像からガンの発見や診断をサポートするという技術をつくりあげました。このほかにも、マーケティング活用に有効なユーザーの視線を検知する技術など、顔認証を活かしたさまざまな技術の開発も実現しています。より豊かな社会を実現するために、これからもどんどん新しいチャレンジを続けていきたいと思っています。
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