2021年12月27日

電気科学技術奨励賞は、公益財団法人 電気科学技術奨励会が主催する顕彰です。昭和27年からの歴史があり、日本の電気科学技術に貢献した功労者を表彰し続けてきました。第69回 電気科学技術奨励賞では、NECから応募した3件がすべて受賞し、うち1件が特選となる文部科学大臣賞を受賞。本記事では、奨励賞を受賞した研究者の喜びの声をお伝えします。

受賞技術

インバリアント分析技術による大型インフラシステムの異常予兆検知技術

多数のセンサから収集された時系列データを分析・学習し、通常時の不変的な関係性を「いつもの状態」として自動的にモデル化。実測値と比較して、異常(いつもと違う状態)を予兆段階で早期に検出する。

受賞者の声

相馬 知也

現場向けのものづくりを得意とし、ネットワーク監視やスマート保安技術の研究から開発、コンサルティングやビジネス化までを30年以上にわたって手掛けてきた。専門領域も多岐にわたり、電力・宇宙・医療などの幅広い分野で活躍している。東北大学 特任准教授、経済産業省のスマート保安技術適用に関する委員、日タイ スマート保安コンソーシアム 幹事なども務める。

Q1：受賞された感想はいかがですか？
非常に嬉しく思っています。これまでインバリアント分析は、ITや通信をメインで取り扱うNECのなかでは異色の存在でした。プラントや工場などの現場向けのソリューションは、ほぼ前例がなかったのです。研究所が開発したインバリアント分析という技術を大型プラントへ適用しようと取り組み始めたのは2010年のことですから、10年以上経つことになります。地道にお客様といっしょに研究開発を続けてきて、ついにこのような賞をいただいて認められたと思うと感無量です。


Q2：どのような価値を実現するために、今回の技術をつくったのでしょうか？
少子高齢化が進む中で、どうやってプラントを安定稼働させるかということを考え続けてきました。日本のプラントの多くは、ベテランの方々に支えられています。しかし、そのベテランの方々もいまや高齢化が進んでいます。にもかかわらず、後輩の育成はなかなか進んでいません。理由は明確で、忙しいからなのです。その忙しさをAIによって少しでも緩和できれば、そのぶん育成や他の業務に時間を使うことができるでしょう。そのようなかたちで、社会に貢献することをめざしてきました。


Q3：これからの目標は？
インバリアント分析は、時系列データであればどんなものにでも適用できます。これまではプラントの異常などを見つけ出すことに取り組んできましたが、人体の異常を発見すると考えれば医療にも適用できるはずです。実際、東北大学 医学部様とは複数の共同研究プロジェクトを進めているところです。インバリアント分析は、メイドインJAPANの数少ないスマート保安技術です。国内のナショナルプロジェクトはもちろん、海外も視野に入れて、これから幅広く展開していきたいと考えています。

棗田 昌尚

2008年に入社し、光学デバイスの研究に携わったのち2012年からインバリアント分析の応用研究に従事。2017年から2021年3月まではNEC 北米研究所に出向し、ロッキード マーティン社とのプロジェクトを推進し、技術検証を成功に導いた。

Q1：受賞された感想はいかがですか？
これまでもお客様から認めていただいたということはありましたが、今回のような賞によって公に認められたということにはまた違った感慨があります。非常に喜ばしく思っています。一方で今回は私たちの名前が受賞者として挙げられていますが、今回の技術を開発するまでにたくさんの方々からご協力をいただいてプロジェクトを進めてきました。お客様、事業部門、グループ会社、他の研究所メンバーなど、関係者の皆さんへの感謝の気持ちを噛み締めているところです。


Q2：どのような価値を実現するために、今回の技術をつくったのでしょうか？
いつもと違う異常や故障の予兆を早期に見つけることによって、安全・安心な社会を実現することをめざしてきました。熟練したベテランスタッフの属人的なノウハウだけに頼っていては、持続的な安定稼働は難しく、現場の負荷も大きくなります。データから安全・安心を支えるような特徴を見つけるインバリアント分析によって、システムの安定稼働をサポートしたいと考えています。


Q3：現在、新たに取り組んでいることはありますか？
これまでは事故を起こさないという価値を追求してきましたが、これからは収益性や生産性の向上などのポジティブな面で活用できるような技術を開発したいと考えています。具体的には、機器の余寿命を予測するという技術に取り組んでいるところです。機器の余寿命がわかると、メンテナンスの時期を最適化したり、余寿命に関わる因子を特定して次の設計に活かしたりすることができるようになります。企業の経営に資する技術として、新しい挑戦を進めています。

Haifeng Chen

アメリカ合衆国ニュージャージー州プリンストンにある北米研究所において、データサイエンスおよびシステムセキュリティ部門の部長を務める。ビッグデータ分析、AI、ソフトウェアおよびシステムのセキュリティ、スマートサービス、ならびにプラットフォームに焦点を置いた研究を行っている。

Q1：受賞された感想はいかがですか？
この賞をいただいて、とても興奮しています。しかし、この栄誉は私だけのものではありません。プロジェクトをずっと支援し、貢献してくれたアメリカと日本両方の同僚に対する賞でもあります。受賞者一覧に彼らの名前は載っていませんが、心からの感謝をおくります。この賞は彼らの後押しや支援なしには受賞できませんでした。また、仕事に追われる私をいつも許してくれた妻にもお礼を言いたいです。


Q2：どんなことが今回の受賞につながったと考えていますか？
今回の受賞は、同僚達との長年にわたる多大な努力によるものです。プロジェクトを開始した当時、市場には既に高度なシステム監視技術が複数出回っていました。競合他社のアプローチと張り合える、斬新で高度な技術を生み出すのは非常に困難なチャレンジでした。ブレーンストーミングや協議を重ね、ついに2007年に基礎となる技術を開発しましたが、本技術は現在も新技術とともに毎年進化しています。顧客側への提案も行っており、さまざまなビジネスに対するゼロトゥワンソリューションを創出し、発電所、石油・ガス業界、鉄道、および衛星など多数の事業領域においてソリューションの構築に成功してきました。こうした実績も大きかったと思います。


Q3：現在、新たに取り組んでいることはありますか？
多様なビジネス環境における異なる種類のデータを処理するために、新しい技術を開発しています。時系列、イベント、テキスト、グラフなどを含め、実際のアプリケーションにおけるさまざまな種類のデータをモデル化することをめざしています。また、データサイエンス業界において、このチームの信頼性や地位を高めていくことも目標としています。私たちは常にトップ学会やジャーナルでの発表を介して、研究において大きな影響を与え得る破壊的なイノベーションを生み出すことをめざしています。