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未来を創る -次世代が拓く研究:植田 暢大
2026年4月8日
LLMの社会実装を加速させる

ナレッジサイエンス研究所(※)
担当
植田 暢大
大学では自然言語処理やVision & Language領域の研究に取り組み、2024年4月に研究指導認定退学後、NECへ入社。2025年、NECでの勤務と並行して博士論文を執筆し、博士課程を修了。入社後は大規模言語モデル(LLM)を活用するための技術研究に携わり、ウェブページ、マニュアル、学術論文、スライド、ポスター、レポートなどのデータをLLMが処理しやすいかたちに自動変換する図表文脈理解技術(注1)の開発とさらなる性能向上に取り組んでおり、難関国際学会EACL(European Chapter of the Association for Computational Linguistics)2026や国内の言語処理学会第32回年次大会(NLP2026) プログラムでも発表を行う。
- ※本記事は2026年3月に実施したインタビューです。
取材時は「データサイエンスラボラトリー」でしたが、組織改編により現在は「ナレッジサイエンス研究所」となっています。

LLM開発には「つくる」だけでなく「活用」する技術も不可欠
私が就職先としてNECに興味を持ったのは、独自の大規模言語モデル(LLM)「cotomi」を開発したというニュースを見たことがきっかけです。進路を考えるようになった時期は、ちょうどLLMの革新性が話題になり始めた時期でした。大学では自然言語処理やVision & LanguageなどのAI分野を研究していたのでLLMには強い関心を持っていたのですが、LLM開発には莫大なリソースが必要になります。アカデミアの規模感では研究を進めることが難しいかなと思っていた矢先に、このニュースを見かけました。調べるうちに、NECでは日本トップクラスの潤沢な計算資源を整備しているうえに、豊富なノウハウと実績をもった優秀な方々が集まっているのだと知り、入社を決めました。
入社してからは、図表文脈理解(注1)という、視覚的文書を自動で正確に読み取るプロジェクトのコア技術開発に携わっています。ウェブページ、マニュアル、学術論文、スライド、ポスター、レポートなどの任意のデータをLLMが理解しやすいテキストデータに自動変換するという技術です。NECが持っている独自の学習データを活用して作り上げたもので既に製品化もされており、LLM活用を促進するうえで不可欠な基盤技術になり得るものだと思っています。
LLM開発においては、いまは「どうやって使うか」というアプローチこそが重要な時期にあるのではないかと考えています。汎用的で大規模なLLMを「作る」という点については、海外のビッグテックが桁違いのリソースを使って開発を進めています。しかし、それらがバージョンアップして賢くなったからといって、すぐに私たちの生活が良くなるわけではありません。LLMをどう上手く活用するかという技術を並行してつくり出していく必要があるのです。私たちとしては、現在はその技術開発に注目しているところです。
LLMがバージョンアップすれば、それを差し替えるだけでどんどん我々の技術としても賢くなっていくわけですし、日々続いていくLLMのアップデートの競争を繰り返すよりも、こうした研究のほうが長期的に役立つ研究技術になると考えています。
また、NECではさまざまな業界・業種にたくさんのお客様がいて非常に近い距離を保っているので、お客様の生の声が届きやすい環境にあります。こうした環境は、LLMを「どうやって使うか」という問題に取り組むうえで大きなアドバンテージになっています。

長期的なインパクトを残せる研究を目指す
進化の速いAI領域だからこそ、研究をするうえでは「腐りにくい」ものを目指したいと考えています。3年、あわよくば10年は続くほどのインパクトを社会や研究コミュニティに与えられるような研究をしていきたいです。
さまざまな論文を読んでいると、非常に高い精度は出ているけれども、とても難しい手法でつくられているような技術をよく見かけます。さらには、その難しい手法の一部を少しだけチューニングして、さらにそのスコアを超えたという成果を主張するような論文もよく見受けられます。しかし、そういった研究は、概して息の短いものになりがちです。難しい技術では世の中に受け入れられるのに時間がかかりますし、難しいものの上に乗っているために、その既存技術に大きく依存して、早く陳腐化してしまう可能性も高いからです。
一方、LLMのような大きなインパクトをもった革新的な技術は、むしろ非常にシンプルです。LLMは、よく「次の単語を予測するもの」とも説明されることもありますが、本質的には非常に明快です。こうしたシンプルな手法が出てきたとき、難しい手法はすぐに代替されてしまいます。だからこそ、既存技術のコアだけをつかんで、大きく依存しないようなかたちでの改善を目指すことが重要です。この点は、研究のテーマや方向性を決めるうえで常に大事にしている点です。

組織として体系立った研究で、より大きな価値をつくり出す
NECに入って面白いと思ったのは、研究テーマが組織として体系立っているということです。大学では、基本的に「良い研究」をしてアカデミックコミュニティに貢献することが第一目標になりがちですが、NECでは「良い研究」をすることに加えて、企業としてどうシナジーを生み出していくかという視点が入ってきます。グループ単位、さらには全社単位での大きな目標があるなかで、その目標を達成するためには現在こういう技術が足りていないから、私は自分の興味や得意領域と照らし合わせて、この技術を改善する研究を進めようというように、自分の研究が大きな目標のなかの1つとして機能していきます。例えば、私が取り組んでいる図表文脈理解について言えば、LLMがあらゆるデータを自動的に処理してくれるという世界を実現するために研究している技術です。他のグループとのシナジーによって、より大きな価値・ソリューションを自分たちの手で実現していくという面白さがあります。自身の研究が実現しようとするビジョンが見えるので、研究テーマの方向性を決めるうえでの指針にもなりますし、やりがいもより強く感じることができます。
今後の目標としては、社会や研究コミュニティ、お客様にしっかりとインパクトを与えられる研究者になっていきたいですね。近年では世界的に、論文の投稿数そのものはどんどん増え続けていますが、実際にインパクトを与えられている研究はと言えば、それほど多くはありません。そのようななかで本質的な研究に目を向けながら、「植田さんの技術があったから今の技術があるよね」と10年後にでも言われるような研究をしたいと思っています。
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休みの日、何してる?
毎日ハンドドリップでコーヒーを淹れています。豆、挽き目、湯温、抽出時間などのパラメータを変えながら美味しいコーヒーを探索するのを楽しんでいます。コーヒーも、機械学習モデルのようにパラメータを変えるとその効果がはっきりと現れます。アプリにメモすると再現性があるので面白いですし、改善策を試して上手くいったときの喜びは、モデル開発と似ているかもしれません(笑)

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