Japan
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PLMコラム ~BOM連載シリーズ~
<執筆者>
NEC マネジメントコンサルティング統括部
ECMグループ ディレクター 杢田竜太
2002年より、20年以上に渡って、製造業:特に設計を主体としたエンジニアリングチェーン領域におけるデジタル技術を活用した業務革新(PLM/BOM/コンカレントエンジニアリング/原価企画等)支援に従事。製造業を中心とするお客様に対して、設計開発プロセスにおける業務コンサルティングを手がけている。

2026/1/20
番外編.技術と製品(と市場)のマネジメント
今回は当初予定していなかった番外編として、「技術と製品のマネジメント」について書きたいと思います。
※少し、市場も含めた話となるので、カッコで市場という言葉も入れておきます。
さて、まずは、古典教科書的な振り返りから入りたいと思います。
技術開発は「R&D」と呼ばれる研究開発プロセスとして開発されます。
●基礎研究(basic research)
:自然・社会現象に関する科学的知識の獲得そのものを目的とする活動
●応用研究(applied research)
:獲得された知識の現実への応用のための活動
●開発(development)
:事業化・商品化を前提とした新製品・新工程などの設計、試作、実験など

図1:R&Dイノベーションモデル
担当する組織は、基礎研究~応用研究を「研究所」が、応用研究~開発を「開発部/事業部」が担当することが通常です。
Japan as No.1と呼ばれた時代、日本のこのR&Dリニアモデルは大成功事例として研究されました。
日本の各企業は、自社企業体の中に中央研究所を置き、基礎研究から一貫した組織的な技術開発を推進しました。例えば、当時のNECのスーパーコンピュータもその成功事例として挙げられている書籍もありますし、私がNECに内定をもらった1990年代後半でも、まだアメフラシの神経回路の研究(ニューロ回路研究)などが中央研究所の基礎研究テーマとして挙がっていたことを覚えています。
図2:1980年代、当時三洋電機の研究開発体制概要
出典:日本企業の研究開発システム (1995 明石・植田)
しかし、バブルが崩壊し、失われた時代が続き始めて、特に電機業界を中心に日本の製造業の地位低下が続きます。
藤本隆宏教授は、その著書で、「日本のデスバレー」という課題を提示されました。
「深いところからのブランド構築」のカギは「先行開発」にあるとし、先行開発を充実させることによって、日本企業が得意とする「擦り合わせ型」製品でのブランド勝負を、深いところから仕掛けられるのではないか。
「R(研究)」も「D(開発)」もしっかりやっているのに、収益の高い製品や事業が生まれないのは、RとDがうまく連動していないのが課題であり、トップが関与する形での、全社的な課題再認識の下、部門の強化とミッションの明確化が必要、との指摘でした。

図3:日本のデスバレー 出典:日本のもの造り哲学 (2004 藤本)
当時、東京大学ものづくり経営研究センターでは、「ものづくり寄席」として、毎週夜に、丸の内で公開交流セミナーを開催しており、私も何とか都合をつけて話を聞きに行っていました。
私がNECに入社した1990年代、半導体売上高世界ランキング10位内の過半数以上が日本企業でしたが、この頃には、その主役はもう設備投資額で圧倒した韓国、台湾勢にとって代わり始めていました。(主に、汎用メモリ事業)
先進国では、汎用メモリ事業ではなく、ロジックIC(ASIC、ASSP)、アナログ等の事業での成功企業が台頭しており、NECもデジタルシフトと称し、ロジックICを主体としたビジネスモデルへの転換を目指しました。
当時、私はNEC社内の半導体事業の戦略転換の支援を担当していたのですが、その際に実感したのは、ビジネスにパラダイムシフトが起こっている実感でした。
※ASIC:Application Specific Integrated Circuit:特定の顧客や用途のための専用設計IC
※ASSP:Application Specific Standard Product:特定の用途向けに設計され、一般の顧客に対して市販される標準IC
図4は、私なりの理解で当時図示したイメージです。
20世紀後半では、「市場ニーズは自明」で、「技術への要求も明確」の時代でした。
2001年に日本で発刊されたクリステンセン教授の著作「イノベーションのジレンマ」でいう「持続的イノベーション」で、儲かる時代が続いていた、とみることもできるでしょう。
しかし、先述した藤本教授の指摘通り、「先行開発」を充実化させる必要がある。
では、何を「先行開発」すべきか。それは、マーケットニーズに従う、という考えでした。

図4:マーケットニーズと、R&Dをどう連携させるか?
今となっては当たり前の話ですが、この「マーケットニーズ」は、現在のニーズではなく、将来のニーズです。従い、将来の市場動向をビジネス観点、テクノロジー観点(デファクト/デジュール)で考察し、そこに投資を集中させる戦略が採られました。(NECの半導体事業においては、IDMだったので、実際は集中ではなく最適分配戦略でした。)
※IDM:Integrated Device Manufacturer:垂直統合型デバイスメーカー:設計から製造、組立、検査、販売までの全ての工程を自社で一貫して行える設備を持つ半導体メーカーのこと
しかし、ここに半導体は部品産業であるが故のジレンマが発生します。
(ビジネス成功のために実務上)どこをマーケットと捉えるか、が非常に難しいのです。
例えば、ASICだと分かりやすいです。ターゲットとする特定顧客の製品マーケットをターゲットとすればよい。一方で、ASSPやマイコンなどはどうでしょうか?
マイコンだと、CPUやメモリ等のチップ仕様とパッケージ種類、品質保証度合いによって、だいたいのターゲットマーケットは決まりますが、それでも例えば、「白物家電のマイコン制御用」程度で、その白物家電が何か、までは特定できません。
当時はデジタルAV進展の時代でしたが、例えばASSPとしては、デジタルテレビ用の画質造りのチップを開発していました。しかし、「画質造りを半導体メーカーがセットメーカーに提案する」=「セットメーカーの存在価値を否定する」と言う構図となり、デジタルテレビマーケットは世界で拡大するが、デジタルテレビ市場の画質造り標準半導体マーケットなど存在しえない、という結果となってしまいました。
※わかりやすく解説するためにシンプルに表現しましたが、戦略としては国内セットメーカーと画質を磨き、海外メーカーへ標準半導体を売っていくビジネスプランでした。が、捕らぬ狸の皮算用であることは、今客観的に見ると自明ですね。
さて、では、欧米企業はどのように、このマーケット(市場)と、テクノロジー(技術)と、プロダクト(製品)を結合しているのでしょうか?
当時、我々NECも他社をベンチマークしました。
私が関与したのは、IBMの半導体事業と、STマイクロエレクトロニクスでしたが、ここではIBMの事例研究結果を少しお話したいと思います。
まず私が驚いたのは、その考え方のシンプルさでした。
組織、業務機能、ルール、ITが、「儲けるため」という一つの合目的性のために設計されていました。
エンジニアリングチェーンにおける業務機能/組織としては、大きく3つに分かれていました。
1.戦略を検討し、どの戦略を採択するか意思決定するチーム
※厳密には戦略検討と、意思決定は別組織で実施
2.意思決定された戦略に基づき、製品を開発するチーム
3.そのベースとなる技術を開発(研究)するチーム
日本においては、大抵は1と2は、事業部と呼ばれる組織で実施しており、3は研究所が担っていました。
事業部長は、元技術者/設計者がほとんどで、技術オリエンテッドなプロダクトアウト的発想で意思決定をしていましたが、IBMで1を担っていたのは、元投資ファンドマネージャなどのマーケットの専門家だったのです。彼らのチームが、経営者の決めた事業戦略に基づいたマーケティング戦略を決定し、そのための製品開発への要求仕様を具体化します。(ポートフォリオマネジメントをし、その結果は本当にドキュメンテーションします。)そして、それを2の製品開発チームに提示し、双方間で社内契約をするのです。
ここで図4を再度見てください。
ここまでの説明は、縦軸のエンジニアリングチェーンの部分ですが、日本のそれが技術オリエンテッド志向なのに対し、IBMでは(将来の)マーケットオリエンテッド志向が徹底されていました。
では、テクノロジーマネジメントとの関係性はどうでしょうか?
当時私が解釈した内容を列挙しておきます。
①テクノロジーロードマップを作りなさい。
②製品ロードマップと整合しなさい。
③ロードマップに基づき、テクノロジー開発をマネジメントしなさい。
④テクノロジー開発のマネジメントは、製品戦略の変化をインプットとしなさい。
ということなのですが、またここで図4を参照してください。何か気付かれたことはないでしょうか?
図4でのR&Dの横軸は、リニアモデル(フォワード型)となっており、これは、~1990年代の日本のお得意芸だったと述べました。
が、IBMのビジネスモデルでは、逆リニアモデル(バックワード型)となっており、「製品戦略の変化(縦軸)」が起点になって、テクノロジー開発(横軸)をマネジメントする、という発想なのでした。
今でも、日本の製造業においては、なかなかその発想に転換できていない企業もある認識なのですが、先進企業では徐々にその意識が出始めて、時代が変わってきていると感じています。
また、最後になりますが、個人的な意見としては、企業間を跨いだ「共創」が、その成功のキーワードになるのではないか、と考えています。クリティカルシンキングを続けてしまうと、各社の事業・製品戦略は似通ったものとなり、差異化ができないというジレンマに対し、「ゆらぎ」をもたらすのが、「共創」だと考えています。
*例えば、2025年現在、AgenticAI技術が注目されていますが、テクノロジーロードマップは日々見直しが必要なほど、社内外で指数関数的な発展が続いている印象です。
是非、読者の方々とも意見交換させていただき、ビジネスの成功と社会の発展に少しでも寄与できれば、と考えております。
コラムのコラム
なお、今回ご紹介した事例を米国IBMで実践し、日本IBMが導入した事例は、この本で解説されています。
参考:IPD革命: 製品開発の変革ソリューション 売れる・儲かる・満足を与える製品開発の仕組み,日本アイ ビー エムIPD研究チーム ,2003
また、この方法論は、当時のPRTM社のPACE©というフレームワークの実践事例でした。そのコンサルティングについては、現在はPwC社が事業を引き継いでいるようです。
参考:PwC’s PRTM Management Consulting Japan
参考:PACE製品開発のスピード化戦略 (富士通ブックス) ,マイケル・E. マクグラス, McGrath,Michael E., 孝弘, 今泉,1999
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