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PLMコラム ~BOM連載シリーズ~

<執筆者>
NEC マネジメントコンサルティング統括部
ECMグループ ディレクター 杢田竜太
2002年より、20年以上に渡って、製造業:特に設計を主体としたエンジニアリングチェーン領域におけるデジタル技術を活用した業務革新(PLM/BOM/コンカレントエンジニアリング/原価企画等)支援に従事。製造業を中心とするお客様に対して、設計開発プロセスにおける業務コンサルティングを手がけている。

執筆者

2025/7/23

4.E-BOMで管理すべき情報とは?

前回お話しした目的を下記に列挙しますが、これだけではありませんね。
 1.部品データベースとしての目的
 2.各種規制対応の目的
  ・含有化学物質チェックの目的
  ・輸出該非判定チェックの目的
  ・CO2排出量チェックの目的
  ・持続可能性を考慮した材料使用量のチェック
典型的な目的としては、
 3.試作手配の目的
 4.出図管理/設計変更管理の目的
 5.コスト管理の目的
などが挙げられると思います。

1.部品データベースとしての目的

製品種の増大と管理すべき部品種別の拡大により、部品やユニットの共通化・標準化は製造業の競争力を支えるための基本戦略になりつつあります。

部品種類が増えると、在庫の種類が増えると共に、
 1. その部品がないと作れない
 2. その部品は必要ないので長く滞留してしまう
 3. その部品を管理するために、管理場所やデータ登録・更新等の様々なコストが発生する
といった、財務諸表では識別できない影のコストが発生しているからです。
※指標としては、1.は受注~出荷リードタイムや、納期順守率など、2.は在庫回転率などで間接的に計測可能ですが、3.は計測が難しいのが実態です。

そのためには、設計者がどのように部品共通化に取り組むかを真剣に考える必要があります。
長年日本の設計者と会話を続けてきた訳ですが、設計者の本音は「自分が設計した(あるいは自分の製品で不良を起こしていない)部品はまた使おうと思う。しかし、他人が設計した(他人が使った)部品は使おうとは思わない。」と言うことです。
まず、「部品標準化」をうたった際には、ほとんどのメーカーの設計現場では、このような面従腹背構造が出ているのではないでしょうか?

写真1

ポイントは3つ。
一つ目はその目的の伝え方です。
開発部長が「部品標準化だ!」と言っても実はピンときません。
では、何のために「部品標準化」を行うのか、を誰からどう伝えるのか、真剣に考えましょう。
二つ目は、詳細戦略の立案と実行です。
部品標準化といっても、メカ部品とエレキ部品では対応が異なります。それぞれでも、図面品(外注調達品、内作品)と購入品では異なるでしょう。それぞれに対してどう標準化に取り組むのか?そのためのデータベースは、どのシステムにどう構築していくべきか?このような詳細検討が必須です。
三つ目は、実態計測と評価の仕組みづくりです。
この仕組みを作っておかないと、最初のうちはいいですが、そのうちにまた元に戻ってしまいます。評価指標に埋め込むのは、各メンバが担当する機種や設計によって標準化しやすい・しにくいがあるのはその通りで、公平性の観点からも難易度は高いのですが、永続的な取り組みになるよう戦略的に評価制度を構築しましょう。

さて、やっとここまで検討した後に、部品データベースの構築です。
上記「詳細戦略の立案と実行」で話した通り、メカ、エレキ、図面品(外注調達品、内作品)、購入品といった部品分類から、設計者が部品検討時に検索しやすい情報をその部品の属性情報として管理していきましょう。
サンプルとして、エレキ部品の部品分類や管理属性情報例を挙げておきます。

BOM

コラムのコラム
メカ部品についても、従来は属性による検索で過去部品を検索していましたが、昨今では3D類似形状検索機能を用いることが当たり前になってきました。
しかし、機能は導入したはいいが、現場活用に留まり、組織的な標準化に貢献できていない企業をよく見かけます。(例えば、それがどれだけの効果を生んでいるか説明できる状態ですか?)
貴社でも、今一度改革活動を建て付け直してみる必要があるかもしれませんね。
ぜひ、その際は、上記3つのポイントを参考にしていただけると幸いです。

2.各種規制対応の目的

サステナブルな社会を実現するために、製品に求められる各種規制対応は増加の一途を辿っています。
また、規制に対して故意でなくても違反しようものなら、そのブランド棄損は計り知れない影響を与えてしまいます。
では、誰が規制対応を行なっているのかというと、品質保証部門の指導の下、開発の現場が対応しているのが現実です。 NECでも、電気用品安全法や、国際物流時の留意事項等の研修は全社レベルで行なっていますが、開発する製品が変われば、対応すべき規制も変わってきます。
例えば、空飛ぶ自動車やドローンについては航空法が、AIによる医薬品開発やヘルスケア用品には、薬機法の対応が必要となってきます。
日本国内だけでなく、グローバルの規制対応にはそれなりの注意が必要となります。
が、これを如何に効率的、かつ間違いの無いように対応していくかは、仕組み作りのポイントとなります。
規制対応の一丁目一番地と言っても良い含有化学物質の対応については、他のコラム等を参考にしてもらうとして、ここでは厳しさを増すプラスチック規制について少し記載したいと思います。
プラスチック規制については、EUでは、2030年までに包装廃棄物の5%削減、全包装のリサイクル可能化を義務付けています。そのためには、梱包資材に使われるプラスチックの種類や重量を把握する必要がありますが、商品やそのオプションによって、梱包資材が変わるケースであっても正しくプラスチック利用量を積算する必要があります。
皆さんの企業の「梱包設計」は、どの部門で実施されていますか?その結果は、どこでどう管理されていますか?実は企業によって様々であり、量産品メーカーでは、梱包設計を請け負う部門が独立してあったりしますし、製品のBOMとはデータを別に管理してる企業もあったりします。
その場合は、製品E-BOMに加え、梱包E-BOMも管理すべきですし、プラスチックの種類や重量を積算できるような仕組みが必要となります。

写真2

3.試作手配の目的

試作のために部品を手配する際には、どこから調達するのか、と言う手配先の情報が必要になります。
設計が指示する場合もありますし、生産・工場側が自動的に手配先を特定してくれる場合もあるでしょう。
これも製品種や企業様によってルールが区々なのですが、量産部品については、量産部品の在庫から試作用に回してくれるケースや、設計部門が試作用の棚卸(在庫)を持って、そのプールから優先的に使うといったケースもあります。
試作自体も、試作課のような試作を請け負ってくれる部署があるケースがあったり、設計者がデスクサイドで組み立てるケースもあります。
いずれにせよ、E-BOMとしては、今回の試作品(試作ユニット)が必要とする部品を必要な量だけ手配できるように情報管理しておく必要があります。
先ほどの例ですと、他部門に依頼する場合は、例えばグリスや留め具の様な所謂副資材も、試作に必要であれば手配が必要ですので、試作をする部門や業務ルールによって各社管理すべきE-BOM品目は異なっていたりします。

4.出図管理/設計変更管理の目的 

20年前であれば、「私達は図面を出すので、BOMは生産側で作ってください」と言う線引きが当たり前でしたが、今の時代では、E-BOMを出図対象としない企業はないのでは無いでしょうか?
もちろん、PLMソリューションでデータベース化されている企業様だけではなく、EXCEL等の電子帳票や、CADツールでBOMを出図されているケースもまだあるのは現実です。
一度出図(リリース)したものは、図面であってもBOMであっても、設計変更管理は必須となります。設計変更理由と適用のやり方についての情報と共に、どの図面やBOMの品目がどう変更となるのかを示す情報管理が必須となります。
一般的なPLMソリューションを導入されている企業様にとっては、当たり前となっていますので、本コラムでの解説は、この程度にしておきます。

5.コスト管理の目的

なかなか難しいのがE-BOMでコスト管理を行う際の情報管理です。
「E-BOMでコスト管理を行う」と簡単に言っていますが、そもそも設計者が行うべき「コスト管理」の範囲とはどこまでなのでしょうか?
大抵は、事業部門の中の設計部門ということが多いので、そうなると、デザインレビューの中で、ビジネスレビューも行われます。つまり、工場原価だけでなく、その販売にあたっての各種コスト情報(例えば海外仕向の場合は輸送費など)も管理対象、ということになります。
工場原価にしてみても、月産台数によっては、部品の調達価格も変わってきますし、共用金型・治具の配賦も変わってきます。これらの全ての計算をシステムで行うのはナンセンスです。なぜなら、将来のコストについてはシミュレーションが必要であり、そのシミュレーションのために、データベースのマスター情報を全てきちっと整備するには余りに手間のコストインパクトが大きいからです。
従い、システムでは、例えば、E-BOMの各種部品がすでに工場で流れている部品なのかどうか、流れているなら、ロット別価格や、昨今の移動平均での調達実績価格など、決められたルール上でのコストを確認できるようにすべきです。
ビジネスレビューのためのコストシミュレーションは、それらのデータをEXCELやBIツール等に出力した上で行うべきと考えます。

まとめ

目的に応じて、E-BOMで管理すべき情報が異なることを理解いただけたと思います。
「貴社のPLMソリューションでは、どんなことができますか?」と聞かれることもしばしばです。情報収集としてはそれは正しい質問と思いますが、これから自社システムを検討している中でそのような話をされるお客様には「何を目的に、(今はできていない、あるいは非効率な)どのようなことを実現したいとお考えなのですか?」と伺うようにしています。
これらの管理すべき情報は、E-BOMの属性として管理すべき情報であったり、関連情報として定義すべき情報であったり、様々なデータモデルが検討されます。
データモデルの検討は、PLMソリューションを実装するシステムエンジニアあるいは、ソリューションコンサルタントが行います。こういう目的や要件があるから、こういうデータモデルが必要になります、と返してくれるエンジニアやコンサルタントは、キチンと貴社要件を理解してシステム設計してくれています。
逆に、ユーザー企業様では、その要件を曖昧にせず、こうやりたい、とキチンと業務設計した結果を伝えるようにしてください。


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