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(番外コラム)システムズエンジニアリングとPLM
今回、新たに番外編コラムとして、設計開発・品質保証業務の経験があるコンサルタントが、システムズエンジニアリングと現場で実践できる改革のヒントを解説いたします。
<執筆者>
NEC マネジメントコンサルティング統括部
ECMグループ シニアコンサルタント 那須裕
人工衛星の設計開発、品質保証業務経験を経て、製造業を中心とするお客様に対して、設計開発プロセスの業務革新支援を行っている。防衛事業に対する業務革新(PLM導入)支援に従事。

2025/10/14
0.まえがき(複雑化するシステム)
“SoS:System of Systems 複数のシステムから構成されるシステム”の増加に伴い、システムは複雑化を見せています。例として、スマートシティやコンステレーション衛星システム、軍事防衛システムを取り上げると、これまで独立したシステムとして扱ってきた自動車や衛星がその一部となり、他システムと相互連携を行うことで個々のシステムでは達成できない成果を生み出します。一方、システム単体には、これまでは必要とされていなかった通信、監視、制御等の様々な機能が増加することとなります。
また、現在におけるシステムは、単に“作動すること”を求められていることではありません。“品質”、“信頼性”、“安全性”、“保守性”、“柔軟性”、“ユーザビリティ”、“相互運用性”等、システムの時間と利害関係者の関連で組み込まれたイリティ(-ility)と総称される特性の増加により、適用される規制や標準は、以前に比べてはるかに多く存在します。(1)
上記の機能増加、または、規制や標準による制約に伴い、現在におけるシステムに対する市場ニーズは拡大・多様化し、その結果としてシステムは複雑化の一途をたどっています。(以下図参照)
これまでシステムに対するエンジニアリング活動では、システムズエンジニアリングの考え方を取り込み、開発を行ってきましたが、現在においては更なる効率化、最適化が求められています。
引用
(1)Olivier L. de Weck. (2011) Engineering Systems : Meeting Human Needs a Complex Technological World.


1.システムズエンジニアリングとは
システムズエンジニアリングの定義は複数ありますが、ここでは、
“Iterative process of top-down synthesis, development, and operation of a real world system that satisfies, in a near-optimal manner, the full range of requirements for the system.”
“システムをトップダウンで統合、開発、運用を行う反復的なプロセスであり、そのシステム対するあらゆる要求を最適な方法で満たすこと”(2)と定義します。
システムズエンジニアリングでは、V字モデルと呼ばれるライフサイクルアプローチを行います。V字モデルにおいて、時間及びシステムの成熟度は左から右に進み、開発のベースラインが進展します。システムズエンジニアリングにおいては、システム要求の最上位から最下位のレベルまでを反復的に往復することで、フィードバックに行います。V字モデルに反復法を重ねた図を示しますが、垂直方向のシステム要求の最上位から最下位の詳細なレベルまで観点を変え、システムとして、最適な方法を選択することができます。このシステムズエンジニアリングプロセスにより、システムのコンセプトまたは設計が実現可能であることを保証します(3)。
引用
(2)Howard Eisner. (2008) ESSENTIALS OF PROJECT ANDSYSTEMS ENGINEERING MANAGEMENT.
(3)INCOSE Systems Engineering Handbook 4th Ed.


2.日本の製造業とシステムズエンジニアリング
欧米で生まれたシステムズエンジニアリングが、部分最適思考(戦術志向)である日本の製造業に受け入れられた理由を考察すると、単にトップダウンで統合、開発、運用を行う活動ではなく、“反復的なプロセス”であったことが考えられます。日本の製造業においては、欧米とは異なり、戦略をトップダウン的に行ってきたというよりも、ボトムアップ的に暗黙知を戦略の代用として活用してきた特徴があります。
そのため、システムズエンジニアリングにおいても、単にトップダウン、つまりは、全体最適思考(戦略思考)のみではなく、反復的に行う部分最適思考(戦術思考)の考えをうまく活用される仕組みとの複合的な考え方であったことから、日本の製造業に対しても適合性があったと考えます。
特に国内の航空宇宙・防衛産業においては、このシステムズエンジニアリングの考え方の下、様々なシステムが開発されてきました。宇宙システムでは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の発行文書や要求文書にシステムズエンジニアリングの考え方が取り入れられています。開発初期においては、要求には「TBD」(To Be Determined)を意味する要求事項が複数ありますが、トップダウンとボトムアップの反復的なプロセスを行うことで、コンポーネントの詳細設計時点では、TBDであったほぼ全ての要求が明確な要求値に落とし込まれ、システムが成熟します。
補足)欧米と日本の製造業の差異として、欧米=全体最適思考(戦略思考)、日本=部分最適思考(戦術思考)ということがあげられます。日本人は、暗黙知を戦略の代用として使い、それを形式知に変換する課程で、徹底的に戦術思考を展開し、バラバラになりがちな戦術思考のベクトルを、暗黙知の方向に合わせてきました。(4)
【引用】(4)吉村竜彦. (2002) トヨタ式未然防止手法GD3 いかに問題を未然に防ぐか
3.クロスファンクショナルなシステムズエンジニアリング活動
宇宙航空研究開発機構(JAXA)による“システムズエンジニアリングの基本的な考え方”(5)では、システムズエンジニアリングの活動の重点の一つとして、以下の通り、示されています。(SE=システムズエンジニアリング)
“SEはシステムエンジニアが実践すれば良いと考えられがちであるが、システムエンジニアにだけ理解されていてもうまくはいかない。サブシステムのエンジニアにとっては、サブシステムがシステムにあたりSEの考え方が必要とされる。また、契約や法律等の他の関係者もSEの理念や基本的考え方を理解することが、円滑で調和の取れた作業につながる。オーケストラで例えれば、指揮者はプロジェクトマネージャ、コンサートマスタはシステムエンジニア、楽団員はSEを学びSEの素養を持っている技術者と言える。指揮者やコンサートマスタが全体を見渡しリードする振る舞いを行っても、楽団員にそれに調和していく意識がなければオーケストラとして纏まらない。”

つまり、システムズエンジニアリングは、システムエンジニアだけが単独で行うような活動ではなく、部門横断的なクロスファンクショナルなエンジニアリング活動です。
この考え方は、システムズエンジニアリング活動において重要であることはもちろんのこと、システムズエンジニアリングに関わる改革を進めるにあたっても重要な部分であると考えます。
【引用】(5)宇宙航空研究開発機構(JAXA),BDB-06007Bシステムズエンジニアリングの基本的な考え方
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