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飲食店を売却するには?居抜き売却からM&Aまで徹底解説

飲食店経営者の皆様の中には、「後継者が見つからない」「経営状況が厳しく続けるのが困難」「事業の整理を検討している」など、さまざまな理由で店舗の売却を考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
飲食店の売却は、単純に店を閉めるよりも多くのメリットがある一方で、適切な手法選択や手続きの進め方を間違えると、期待する結果を得られない可能性があります。売却方法には「居抜き売却」「事業譲渡」「株式譲渡」があり、それぞれ異なる特徴と相場を持っているため、自社の状況に最適な選択が重要となります。
本記事では、飲食店売却の基本的な考え方から、各手法の詳細な流れ、成功のための注意点まで、実践的な視点で詳しく解説します。さらに、売却価格を向上させるためのコツや、スタッフへの配慮など、経営者が知っておくべき重要なポイントもお伝えします。
最後まで読むことで、飲食店売却の全体像を理解し、自社にとって最適な売却戦略を立てることができるでしょう。売却を成功させるために、ぜひご一読ください。
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飲食店の売却とは

飲食店の売却とは、飲食店の所有権や経営権を第三者に移転する行為のことを指します。この売却には大きく分けて2つの手法が存在しており、それぞれ異なる特徴を持っています。
まず「居抜き売却」では、店舗の内装・設備などの物理的資産のみを譲渡する方法となります。一方で「M&A」による売却では、店舗の事業や会社自体を第三者に有償で譲り渡すアプローチです。
近年、飲食業界では経営環境の変化により、戦略的な事業再編や後継者問題の解決手段として売却を選択する経営者が増加傾向にあります。また、新型コロナウイルスの影響を受けて、業界全体の再編が加速している状況です。
適切な売却方法を選択することで、経営者は事業からの円滑な撤退や新たなビジネスチャンスの創出が可能になります。ただし、売却成功のためには各手法の特徴を理解し、自社の状況に最適な方法を選ぶことが重要となるでしょう。
飲食店の売却と譲渡の違い

飲食店の「売却」と「譲渡」は、しばしば同じ意味で使われることが多いものの、厳密には異なる概念となっています。この違いを正確に理解することで、適切な取引形態を選択することが可能になります。
売却は民法第555条に基づく「売買」を意味しており、有償で飲食店の権利を相手に移転することを指します。つまり、必ず金銭的な対価が発生する取引となるのが特徴です。
参考元:e-Gov 法令検索(民法)
一方で譲渡は、有償・無償を問わず資産の権利を移転させる行為を表現しています。そのため、譲渡は売却を含む広い概念となっており、無償での権利移転も包含する用語です。
契約書などの法的文書では「譲渡」という用語が使用されることが一般的ですが、この場合でも有償なのか無償なのかを明確に記載することが重要となります。特に親族間での事業承継では、無償譲渡が選択されるケースも存在するため、条件を明確化しておく必要があります。
実務において取引を進める際は、この違いを踏まえた上で適切な契約内容を設定することが成功へのカギとなるでしょう。
飲食店の売却を考える背景

飲食店経営者が売却を検討する背景には、次に挙げるようなさまざまな経営課題や環境変化が存在しています。
- 運転資金の枯渇
- 経営者の体調不良
- 後継者問題
- 事業ポートフォリオの見直し
特に近年では、新型コロナウイルスの影響により業界全体が厳しい状況に置かれており、売却を選択する経営者が増加傾向にあるのが現状でしょう。
運転資金の枯渇
運転資金の枯渇は、飲食店が売却を検討する最も深刻な要因の一つとなっています。この問題は単純な赤字経営だけでなく、開業当初の資金計画の甘さや予期せぬ環境変化によって引き起こされることが多いでしょう。
飲食店の開業時に、黒字転換までの資金予測を楽観的に見積もってしまうケースが頻繁に見受けられます。しかし実際には、集客が安定するまでの期間が想定より長くなったり、競合店の出現により売上が伸び悩んだりすることで、予定していた運転資金では足りなくなる状況が発生するのです。
また、長期的な経営不振により資金繰りが悪化し、家賃・人件費・仕入れなどの固定費支払いが困難になるパターンも少なくありません。特に飲食店は現金商売であるため、一時的な売上減少でも資金ショートを起こしやすい業態といえます。
このような状況では、店舗を売却することで借入金の返済や債務整理を行い、経営者個人の財務状況を改善する選択肢として売却が検討されることになるでしょう。
経営者の体調不良
経営者の体調不良は、特に個人経営の飲食店において深刻な経営課題といえるでしょう。飲食店経営では、経営者自身が現場に立って店舗運営を行うケースが多く、その健康状態が事業継続に直結するからです。
個人経営の飲食店では、経営者が調理から接客、発注まで幅広い業務を担当することが一般的となっています。そのため、経営者が病気や怪我により長期間店舗に立てなくなると、たとえ黒字経営を続けていたとしても営業継続が困難な状況に陥ってしまうのです。
代理で経営を任せられる人材が見つからない場合、休業による売上減少や固定費の負担が経営を圧迫することになります。また、飲食店はお客様との信頼関係や常連客の存在が重要であるため、長期休業により失った顧客基盤を回復することは容易ではありません。
このような状況では、事業の価値が残っているうちに売却を行い、新しい経営者に事業を託すことが最善の選択となる場合があります。経営者の健康問題による売却では、比較的良好な財務状況での取引が可能になることも多いでしょう。
後継者問題
後継者問題は、多くの中小飲食店が直面する課題となっており、事業承継の手段として売却が選ばれるケースが増加しています。この問題は単純な人材不足だけでなく、業界特有の働き方や収益性の課題とも密接に関連しているのです。
家族経営の飲食店では、子どもが事業を継ぐ意思を持たないケースが多く見られます。飲食業界は労働時間が長く、休日が少ない傾向にあるため、次世代が他業界でのキャリアを希望することが多くなっています。また、収益性の面でも厳しい業界であることから、家族からの事業継承への理解を得ることが困難な状況も少なくありません。
適切な後継者が見つからないまま経営者の引退時期が近づくと、廃業という選択肢も検討されることになります。しかし、長年地域に愛されてきた店舗を単純に廃業させることは、地域コミュニティにとっても大きな損失となるでしょう。
そこで注目されているのが、M&Aによる事業承継という手法です。第三者への売却により、店舗の歴史や味、雇用を維持しながら事業継続を図ることができ、地域への貢献も継続することが可能になります。
事業ポートフォリオの見直し
事業ポートフォリオの見直しによる売却は、複数の飲食店や異業種を展開する企業において戦略的に実施される手法となっています。この背景には、経営資源の最適配分や収益性向上への取り組みが考えられるでしょう。
複数店舗を展開する企業では、各店舗の収益性や将来性を定期的に評価し、不採算店舗の整理を行うことが重要な経営判断となります。特定の店舗が赤字続きである場合、その店舗を売却することで損失の拡大を防ぎ、収益性の高い店舗への投資を集中させることが可能になるのです。
また、主力事業への経営資源集中を図るために、周辺事業として位置づけられる飲食店を売却するケースも見られます。たとえば、本業が製造業や小売業である企業が、社員食堂として始めた飲食事業を外部に譲渡し、コア事業に特化する戦略を選択するなどが考えられるでしょう。
さらに、新規事業展開や設備投資のための資金確保を目的として、既存の飲食店を売却する場合もあります。これにより、借入に頼らずに必要資金を調達し、財務健全性を維持しながら事業拡大を図ることができます。
売却・譲渡の種類と特徴

飲食店の売却・譲渡には、主に3つの手法が存在しており、それぞれ異なる特徴と売却相場を持っています。
- 居抜き売却(造作譲渡)
- 事業譲渡
- 株式譲渡
重要なのは、自社の状況や目的に応じて最適な手法を選択することです。ここでは、この3つについて詳しく解説していきます。
居抜き売却(造作譲渡)
居抜き売却は、店舗の内装や厨房設備などをそのままの状態で売却する手法となっており、飲食店売却において最も一般的な選択肢の一つとなっています。この手法では物件のみの売却となるため、営業権や経営ノウハウは譲渡対象に含まれません。
居抜き売却の最大の特徴は、原状回復費用がかからず手間も最小限に抑えられることにあります。通常の店舗閉店では原状回復工事が必要となりますが、居抜き売却ではこれらの費用が削減可能です。また、解約予告期間中の空家賃負担も軽減される場合があり、撤退時のコストを大幅に圧縮することが可能になります。
ただし、この手法は廃業・倒産した物件を売却するケースが一般的であるため、事業継続を前提とした他の手法と比較すると売却価格は抑えられる傾向にある点には注意が必要です。
事業譲渡
事業譲渡は、飲食店事業の一部またはすべてを第三者に譲渡する手法であり、事業としての価値を含めた売却が可能となる特徴を持っています。この手法では、店舗資産だけでなくスタッフや顧客基盤、経営ノウハウなどの無形資産も譲渡対象に含めることができるでしょう。
事業譲渡の大きなメリットは、契約や債権・債務が自動的に移転しないため、売り手が譲渡範囲を選択できることにあります。そのため、複数店舗を展開している場合、不採算店舗のみを切り離して売却したり、特定地域の事業だけを譲渡したりすることが可能です。また、個人事業主であっても利用できる唯一のM&A手法でもあります。
事業譲渡における売却価格の算定では「純資産+営業利益×3~5年分」という年買法が用いられることがあり、事業の収益力が直接価格に反映される仕組みとなっています。そのため、黒字経営の店舗であれば居抜き売却よりも高い価格での売却が期待できるでしょう。
ただし、許認可や各種契約は買い手に自動承継されないため、買い手側で飲食店営業許可の再取得やスタッフとの雇用契約の再締結が必要となる点には注意が必要となります。
株式譲渡
株式譲渡は、会社の株式の一部または全部を譲渡することで経営権・支配権を移転する手法であり、法人企業のみが選択可能な売却方法となっています。この手法では、会社のすべての資産・負債・権利義務が一括して買い手に承継されるため、最も包括的な売却形態といえるでしょう。
株式譲渡の最大の利点は、手続きが簡潔で事業への影響を最小限に抑えられることにあります。飲食店営業許可や賃貸借契約などの再取得・再締結が不要であるため、営業を継続したまま経営権の移転が可能となるのです。また、スタッフの雇用や取引先との契約も自動的に維持されるため、事業の継続性が保たれます。
売却価格についても、すべての資産が譲渡対象なので、他の手法と比較して高めの相場となる傾向があります。特に、複数店舗を展開する企業や安定した収益基盤を持つ企業では、企業価値として高い評価を受けることが期待できるでしょう。
一方で、すべての負債も承継されるため、買い手にとってはリスクの高い取引となる可能性があります。そのため、財務状況が良好で将来性のある企業でなければ、買い手を見つけることが困難になる場合もあるのが現実となっています。
飲食店の売却・譲渡方法の選び方

適切な売却・譲渡方法を選択するためには、自社の経営状況、財務状態、そして売却目的を明確に把握することが重要となります。各手法にはそれぞれ異なるメリットとデメリットが存在するため、経営者の置かれた状況に応じて最適な選択を行う必要があるのです。
ここでは、具体的なパターン別に適した手法を詳しく解説していきます。
居抜き売却が適しているパターン
居抜き売却は、事業継続を前提としない状況や迅速な資金回収を重視する場合に最適な選択肢となります。この手法が特に有効となるのは、経営環境が厳しく他の選択肢が限られている状況においてです。
最も典型的なケースは、事業としては継続せず店舗資産のみを譲渡したい場合となります。赤字経営が続いており事業価値が見込めない状況や、既に廃業を決定している場合には、営業権を含まない居抜き売却が現実的な選択となるでしょう。そして、経営者の健康上の理由で急遽事業を停止せざるを得ない場合も、手続きが比較的簡単な居抜き売却が適しています。
また、居抜き売却は、早期に資金回収を図りたい場合や、複雑な手続きを避けたい状況でも有効な手段となります。M&Aのような長期間にわたる交渉や詳細な財務調査を避け、短期間で売却を完了させることが可能なためです。
さらに、負債が大きく事業や会社として売却することが困難な状況では、居抜き売却が唯一の選択肢となる場合もあります。債務超過の状態では買い手がつきにくいため、物件価値のみで勝負できる居抜き売却が現実的な解決策となるでしょう。
事業譲渡が適しているパターン
事業譲渡は、柔軟性と選択性を重視する経営者にとって理想的な売却手法となります。この手法は特に、事業の一部のみを切り離したい場合や、特定の条件下での売却を希望する場合に効果的です。
具体例として複数店舗や事業を展開している企業において、一部のみを切り離して売却したい場合には事業譲渡が最適といえるでしょう。5店舗を運営している企業が収益性の低い2店舗のみを売却し、残り3店舗の経営に集中したい場合などがこれに該当します。また、本業とは異なる分野で展開している飲食事業を整理したい場合にも有効な手法です。
さらに、特定の資産は引き継がせたいが、すべての負債は引き継がせたくない状況でも事業譲渡が威力を発揮します。売り手は譲渡範囲を自由に設定できるため、優良な資産のみを売却対象とし、問題のある負債や契約は除外することが可能となるのです。
そして、法人化していない個人事業主にとって、事業譲渡は事業を売却する唯一の選択肢といえるでしょう。株式が存在しない個人事業では株式譲渡が不可能であるため、事業譲渡によってのみ営業権を含めた包括的な売却が可能になります。
株式譲渡が適しているパターン
株式譲渡は、包括的かつ効率的な売却を求める法人企業において最も適した手法となります。この手法は特に、事業が順調で企業価値が高い状況において、その真価を発揮することになるでしょう。
すべての資産・負債・権利義務を一括して引き継がせたい場合には、株式譲渡が最適な選択となります。会社をまるごと売却することで、複雑な資産の仕分けや契約の個別移転手続きを省略でき、シンプルな取引構造を実現することが可能です。また、売却後も会社としての連続性が保たれるため、取引先やお客様への影響を最小限に抑えることができます。
飲食店営業許可や賃貸借契約などの再取得・再締結手続きを省略したい場合にも株式譲渡が有効となります。これらの許認可や契約は会社に帰属しているため、株主が変更されても自動的に新しい経営者に承継されるのです。特に、立地の良い物件で長期契約を結んでいる場合には、この承継によるメリットは非常に大きな価値を持つことになるでしょう。
事業が好調で会社としての価値が高い状況では、株式譲渡により最も高い売却価格を実現できる可能性があります。安定した収益基盤、優良な顧客基盤、熟練したスタッフなど、企業が持つ総合的な価値が適正に評価され、売却価格に反映されることが期待できるのです。
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飲食店の居抜き売却の流れ

居抜き売却を成功させるためには、計画的なプロセス管理と適切な準備が不可欠となります。売却プロセスは大きく次の5つの段階に分かれており、各段階で重要なポイントを押さえることで、スムーズな取引実現が可能になるでしょう。
- 事前準備と契約確認
- 専門業者への相談と契約
- 貸主の承諾と買い手募集
- 条件交渉と契約締結
- 契約解除と物件引き渡し
ここでは、実際の売却手続きの流れと各段階での注意点について、実践的な観点から詳しく解説していきます。
事前準備と契約確認
居抜き売却の第一段階として、現在の契約状況と売却可能性を詳細に調査することが重要です。まず賃貸借契約書を確認し、「原状回復義務」「解約予告期間」「居抜き売却可否」について正確に把握する必要があります。
特に注意すべきは厨房機器などのリース契約の存在です。これらの設備は所有権がリース会社にあるため勝手に売却することができません。また、造作物や設備の現在の状態を詳細にリストアップし、故障箇所や修繕が必要な部分を明確にしておくことで、後のトラブルを防ぐことが可能になるでしょう。
専門業者への相談と契約
売却実務を効率的に進めるためには、居抜き専門業者や不動産業者への相談が不可欠となるでしょう。業者選定では、過去の取引実績や手数料体系、サポート内容を十分に比較検討することが重要です。
契約締結時には、売却希望価格や条件、売却期限などの希望事項を明確に伝達し、現地調査と査定を実施してもらいます。この段階で専門業者による適切な価格設定を行うことで、買い手募集において競争力のある条件を提示することが可能になるでしょう。
貸主の承諾と買い手募集
居抜き売却において最も重要なステップが、貸主からの「造作譲渡承諾」の取得となります。原状回復義務が契約書に明記されていても、条件次第で居抜き譲渡を認めてもらえる可能性があるため、丁寧な交渉が必要です。
承諾を得た後は、専門業者によるインターネット掲載や会員向け情報提供を通じて買い手募集を開始します。この際、物件の魅力を最大限アピールできるよう、あらかじめ清掃や簡易メンテナンスを実施しておくことが効果的です。
条件交渉と契約締結
買い手候補が現れた段階で、具体的な売却条件について交渉を開始します。立地条件や厨房設備の状態が価格に大きく影響するため、これらの強みを適切にアピールすることが重要となります。
交渉がまとまった後は、造作譲渡契約書の作成と締結を行います。契約書には譲渡対象物件のリスト、金額、引き渡し時期などを明確に記載し、後日のトラブルを防止する必要があります。また、リース品の取り扱いについても明確な取り決めを行うことが不可欠でしょう。
契約解除と物件引き渡し
最終段階では、貸主と買い手の間で新たな賃貸借契約を締結すると同時に、売り手と貸主との既存契約を解約します。この手続きは慎重に進める必要があり、タイミングの調整が重要となります。
物件引き渡し時には、設備の動作確認や鍵の受け渡しを行い、リース品については返却もしくは契約移行手続きを完了させます。すべての手続きが完了した時点で、居抜き売却取引が正式に成立することになるでしょう。
飲食店のM&A(株式譲渡・事業譲渡)の流れ

飲食店のM&Aは、居抜き売却と比較するとより複雑で、次のようなプロセスを経る必要があります。
- M&A目的の明確化と準備
- 買い手探しと秘密保持契約
- トップ面談と基本合意
- デューデリジェンスと最終契約
- クロージングと事業引継ぎ
このプロセスでは、財務・法務・税務などの専門領域での検証が必要となるため、M&A仲介会社などの専門家によるサポートが不可欠となるでしょう。
M&A目的の明確化と準備
M&A成功の第一歩として、売却目的と希望条件を明確に設定することが重要となります。事業承継、資金調達、経営再建など、具体的な目標を設定することで、適切な買い手選定と交渉戦略の構築が可能になるでしょう。
準備段階では、過去3期分の財務諸表、税務申告書、営業許可証などの必要書類を整理します。また、M&A仲介業者の選定も重要な要素であり、飲食業界での実績や手数料体系を十分に比較検討することで、最適なパートナーを見つけることができます。
買い手探しと秘密保持契約
買い手探しでは、企業情報を匿名化したノンネームシートを作成し、社名や具体的な事業内容が特定されない範囲で情報を公開します。これにより、スタッフや取引先にM&Aの検討を知られるリスクを最小限に抑えることが可能となります。
その後、興味を示した買い手候補とは、詳細な情報開示前に秘密保持契約(NDA)を締結します。この契約により、企業の機密情報が適切に保護され、安心して具体的な財務データや事業内容を開示できる環境が整うことになるでしょう。
トップ面談と基本合意
買い手候補との具体的な交渉段階では、売り手と買い手の経営者によるトップ面談が実施されます。この面談では、お互いの経営理念や価値観を確認し、信頼関係の構築を図ることが重要となります。
価格や条件面での大筋合意に達した場合、基本合意書(MOU)を締結します。この書面では、売却価格の概算、譲渡範囲、今後のスケジュールなどを明記し、独占交渉権の期限も設定することで、円滑な交渉進行を確保することができるでしょう。
デューデリジェンスと最終契約
基本合意後、買い手による本格的な企業調査(デューデリジェンス)が開始されます。財務、法務、税務、事業面での詳細な調査が実施され、潜在的なリスクの洗い出しと企業価値の精査が行われるのです。
売り手は調査に必要な資料提供やヒアリング対応を誠実に行い、隠し事のない透明性の高い情報開示を心がけることが重要となります。調査結果を踏まえた最終的な条件調整を経て、最終契約書の締結に至ることになるでしょう。
クロージングと事業引継ぎ
最終契約締結後、対価の支払いや株式の交付などのクロージング手続きが実行されます。この段階で、法的にM&A取引が完了し、正式に経営権の移転が行われることになるのです。
クロージング後は、スタッフや取引先への説明、業務の引継ぎ、関係官庁への届出など、事業運営の円滑な移行に向けた作業が続きます。また、必要に応じて売り手による一定期間の経営サポートを提供することで、買い手の事業理解促進と安定した事業継続を支援することが可能になるでしょう。
飲食店を売却する際の注意点

飲食店の売却を成功させるためには、法的な制約や実務上の課題を事前に把握し、適切な対策を講じることが重要となります。特に注意すべき点には次のようなものがあるでしょう。
- 貸主から必ず居抜き売却の承諾を得る
- 交渉により売却価格が上がる可能性がある
- スタッフへの配慮と引継ぎの準備を行う
ここでは、これらの注意点について解説してきます。
貸主から必ず居抜き売却の承諾を得る
居抜き売却において最も重要かつ必須となるのが、貸主(大家)からの「造作譲渡の承諾」の取得です。この承諾なしには売却手続きを進めることができないため、早期の段階で必ず確認を行う必要があります。
一般的な賃貸借契約では原状回復義務が明記されており、表面的には居抜き譲渡が禁止されているケースが多く見られます。しかし、条件次第で居抜き譲渡を認めてもらえる可能性も十分にあるため、諦めずに丁寧な交渉を行うことが重要です。貸主にとっても、新しいテナントが決まることで空室期間を短縮でき、安定した家賃収入を確保できるメリットがあることを説明することが効果的でしょう。
また、厨房機器などのリース契約については特別な注意が必要となります。前述のとおり、これらの設備は所有権がリース会社にあるため、勝手に売却することは法的に不可能です。対処法としては、残債を一括返済して買い取りを行うか、リース契約の移転手続きを買い手に依頼するかの選択が必要になります。いずれの場合も、リース会社との事前調整が不可欠となるでしょう。
交渉により売却価格が上がる可能性がある
売却価格は固定的なものではなく、適切な準備と戦略的な交渉により大幅な向上が期待できる要素となっています。特に立地条件や設備の状態について正確な情報を整理し、効果的にアピールすることで価格交渉を有利に進めることが可能です。
立地条件は売却価格に最も大きな影響を与える要素であるため、好立地であることを客観的なデータとともに適切にアピールすることが重要となります。駅からの距離、通行量、周辺施設との関係性など、具体的な数値や情報を整理して提示することで、買い手の理解と評価を高めることができるでしょう。
また、設備面では、特にエアコン、ダクト、給排水設備などの厨房環境の状態が価格交渉において重要なポイントとなります。これらの設備が良好な状態であることは、買い手にとって大きなメリットとなるため、メンテナンス履歴や動作状況を詳細に記録し、説得力のある資料として準備することが効果的です。
さらに、売却希望額を提示する際には、適切な根拠資料やデータを用意することが不可欠となります。近隣の類似物件の取引事例、設備投資の履歴、収益実績など、客観的な裏付けを持った価格提案を行うことで、買い手との建設的な交渉が可能になるでしょう。
スタッフへの配慮と引継ぎの準備を行う
飲食店の売却において、スタッフへの適切な配慮と丁寧な対応は、取引の成功と円滑な事業継続のために不可欠な要素となります。特にM&Aによる売却では、スタッフの動揺や離職を防ぐための配慮が重要となるのです。
売却情報の開示タイミングと方法については、慎重な計画が必要となります。早すぎる段階での情報開示はスタッフの不安を煽り、離職につながるリスクがある一方で、直前の告知では信頼関係を損ねる可能性があります。そのため、売却交渉の進展に応じて段階的に情報を共有し、スタッフの心理的負担を軽減する配慮が重要でしょう。
また、M&Aにおいては、技術やノウハウを持つスタッフの継続雇用は買い手にとって大きなメリットとなります。そのため、スタッフの処遇や待遇について買い手と十分な協議を行い、可能な限り良好な条件での雇用継続を実現することが望ましいといえます。さらに、売却後の職場環境や労働条件についても事前に確認し、スタッフに安心感を提供することが重要となるでしょう。
一方で、債務整理に伴う解雇が避けられない場合でも、誠意をもった対応が不可欠となります。法的な手続きを適切に履行するとともに、可能な範囲で転職支援や推薦状の提供など、スタッフの再就職を支援する取り組みを検討することが、経営者としての責任ある対応といえるでしょう。
成功する飲食店売却は準備と適切な方法選択がポイントです

飲食店の売却を成功させるためには、まず自社の状況を正確に把握し、居抜き売却・事業譲渡・株式譲渡の中から最適な手法を選択することが重要です。
居抜き売却では貸主の承諾取得と設備状態の整備、M&Aではスタッフへの配慮と財務資料の準備が不可欠となります。また、売却価格は交渉次第で向上させることが可能であり、立地条件や設備の強みを適切にアピールする戦略が効果的でしょう。
売却準備段階で重要となるのが、経営データの整理と分析です。NECが提供するサブスクリプション型POSシステム「NECモバイルPOS」は、売上データや原価管理、在庫管理機能を連携により統合し、売却時に必要な財務資料の作成をサポートします。
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