NEC X President&CEO
DXAS Agricultural Technology External Director
松本眞太郎 氏
まつもと・しんたろう◎福岡県出身、横浜国立大学卒業。2001年、NECに入社し、ソフトウェア開発、マーケティング、経営戦略などを担当する。15年よりAgriTech事業に携わり、カゴメとNECの合弁会社DXAS Agricultural Technology設立に参与。現在は同社の社外取締役も務める。23年6月よりシリコンバレーのNEC Xにて現職。

2025.03.31

見ているのは技術より人
スタートアップに
ノウハウや技術を提供

アメリカのスタートアップ企業に研修やメンターを提供し、投資をしながらビジネスの育成を行うNEC X。ここでCEOをしながら、アグリテック企業のDXASで社外取締役も務める松本さんに、独自のスタートアップの支援方法とAIを活用した農業について伺いました。

―まず、NEC Xについて教えてください。

現在弊社では、半年から1年くらいの事業開発プログラムを起業家に提供しています。シリコンバレーでスタートアップ支援を行う日系企業は、現地のスタートアップを選んで日本市場に展開するケースが多いのですが、弊社が他と違うのは、NECグループの資金・技術・ノウハウなどを注入することによって、スタートアップ企業の成長を支援し、共にビジネスを創出するアプローチを取っている点です。最近では、プログラムの募集をかけると北米から400件を超える応募がきます。それを30件に絞ってプログラムを提供し、10件に絞り込んで投資し、3件にはまとまった額の投資と共にエンジニアや研究技術を投入して一緒にプロダクトを作ります。お客さまに徹底的に当たって課題を見つける方法や、ニーズをプロダクトにする方法の指導などなので、対象業種は問いませんが、AI関係が一番多く、他に環境系やヘルスケア領域が増えています。これまで150社以上のメンターを行い、一緒にビジネスをゼロから育て、立ち上げたのが20社以上になります。

―松本さんはここでどんな仕事をしていますか?

現職の前は、NECで新規事業に10年以上携わってきました。ヘルスケアやロボットなどの様々な事業をマネジメントする立場を経て、そうした事業開発のプロセスを設計し、NECグループ全体に広めることを行っていました。その延長線上でアメリカにと送り出され、昨年から現在の会社のCEOを務めさせていただいています。

アメリカのスタートアップは日本と全然違うのではないかと最初は思ったのですが、意外とみんな同じような悩みを抱えていますね。伸びる人や成功しそうな人などは日米で共通点もあったりします。400を超える応募から30件まで絞る時には、市場成長性やアイディアの新規性、技術などさまざまな評価項目がありますが、特に起業家の資質を重要視しています。スタートアップって、最初のアイデアが面白くても半年後には方向転換をして違うことをしていることが結構あるんです。つまり、最初のアイデアや技術より、その人が新しい領域でどれだけ吸収して粘り強くできるか、ガッツがあってネットワークを広げられるかを見ています。「こうじゃない?」と言われた時に「違います!」とディフェンシブな反応をするより、「確かにそれもありますね」と言いながらその意見を取捨選択して吸収できる人は、周囲の人も教えたり、誰かを紹介したくなったりしますし、そこからさらに吸収して好循環が生まれやすいんです。なので、技術もさることながら、人の意見を聞きつつ、自分の意見を持って正しく取り入れることができる人かどうかを重視しています。

―松本さんが、仕事を続けている原動力はなんですか?

お客様やパートナーと話をしているうちに、彼らが本当に困っていることが見えてきて、さらにチームメイトが本気で取り組む姿を見ると、全部背負った気になって「自分も貢献したい」「俺が変えないと世界が変わらない!」みたいに思えてくるんですよ。頑張るスタートアップと、それを本気で支援するうちのチーム、彼らを助けたい気持ちは常にありますね。その結果、手がけた仕事が社会に与えたインパクトを実感できるとうれしいです。プロダクトを作り込むときにお客さまの喜ぶことを考え抜き「こんなことできませんか?」という質問に「もちろんできます」と言いながらプロダクトを見せ、場が盛り上がるときは快感です。性格的に「ドヤ顔」したいのかもしれません(笑)。皆が驚く顔が見たいんでしょうね。

NEC Xのプログラムに参加するスタートアップ企業はベイエリアに限らず、アメリカ・カナダ全土から集まってきています。

―松本さんはアグリテック企業のDXASでも役員を務めています。こちらの会社についても教えてください。

NECの新規事業開発部門に異動した2015年、最初に手がけたのがアグリテック分野で、当時はドローンで畑の情報を集め農業に生かしていました。その流れでカゴメとNECが設立したのがDXASという会社です。ここでは、過去のデータや農家の持つ匠の技を学習させることと、人工衛星とセンサーを使って畑の様子を予測することを組み合わせたNECのCropScopeという技術が使われています。AIで水や農薬の量をコントロールし、現地の他の農場よりも高いトマトの収穫量を得る実績を出しています。まだ発展途上の研究なので、理論上は人が畑に行かなくてもいいのですが、実際は病害虫のチェックなど人間がこまめに現地に行って確認しています。アグリテックの1番の課題は、年に1回しか収穫できず、同じ畑で20年やっても20回分しかデータが集まらないことです。少ないデータを基に予測をすることはかなり難しく、そのための技術開発に力を入れています。

―NEC Xやスタートアップを取り巻く環境、そしてアグリテックは10年後にどうなると考えますか?

スタートアップを取り巻くというよりも、市場環境として昨今は環境の変化のスピードが異常に速くなってきていると思います。次から次へとイノベーションが低コストで生まれてくる流れの中で、スタートアップの必要性はもっと高まるはずです。大企業ではどうしても対応できない領域に対して素早くビジネスを作り出していくスタートアップの活躍は必然だと思います。その中でも、最近の日本のスタートアップは明らかに質が上がっていると実感しています。昔のように、皆が大企業を目指すのではなく、スタートアップという選択肢が根付き始め、もう少しするとスタートアップがどんどん出てきて大企業を脅かすはずです。そしてM&Aなどがより一般的になり、世界と戦えるスタートアップも出てくるでしょう。

アグリテックは、データが取りにくいので10年では大きくは進まないですが、ある特定のトマト畑だけは圧倒的な自動化が進むというような先進事例はできるはずです。OpenAIやDeepSeekがどんなに頑張っても、1カ月でトマトが実るわけではありません。現在の露地栽培で改革が起きるのはもっと先。とはいえ農業は完全リモートとはいかなくても、よりデスクワークのようにモニターを見ながら作業を指示する方向に向かっています。10年もすればきっと農業のイメージは全く変わるのではないでしょうか。

トマトの成長を確認する松本さん。カゴメは世界中のトマト加工工場と畑にネットワークを持っています。

出典:『ライトハウス』2025年3月号
「アメリカで活躍する日本人イノベーターたち」

仕掛けよう、未来。

スタートアップやパートナー企業との多彩な共創を通じ、
社会価値を生み出すオープンイノベーション。

The future is ours to shape.

私たちと新しい未来を仕掛けませんか?

まずはお気軽にお問い合わせください。