麻生 要一 氏/松田 尚久 氏

2025.03.31

もう、新規事業を頓挫させない。
実はNECが本気になっていた

大企業によるオープンイノベーションの取り組みは、もはや成長戦略の定番となっている。一方でそのプロセスにはさまざまな壁があり、成功にたどり着けるケースはそれほど多くはない。

そんななかで、事業創出において新たな体制づくりや取り組みをはじめているのが、言わずと知れた大企業、NECだ。

大企業のオープンイノベーションを成功に導く鍵は何か。新規事業支援の専門家であるアルファドライブ代表取締役社長 兼 CEOの麻生要一氏と、NECのコーポレート事業開発部門事業開発統括部長として新規事業開発を牽引する松田尚久氏が語り合った。

オープンイノベーションの目的は「時短」だ

―多くの大企業がオープンイノベーションに取り組んでいますが、尻すぼみになったり、実証実験で頓挫したりするケースが聞かれます。大企業のオープンイノベーションがうまくいかない背景には、どんな要因が考えられますか。

麻生多くの大企業で、オープンイノベーションを担う部門がバラバラに分断されてしまっている。これは成功を阻む要因の一つだと思いますね。

そもそも事業創出には、ビジネスアイデアを創出し、事業になるまで育て、規模を拡大させるという段階があります。

その各プロセスを担う部門が、大企業では異なるケースがほとんどなんです。

たとえば、ビジネスコンテストは新規事業部門が担い、アクセラレーション(事業成長の伴走)はまた別の部門が担い、投資に関しては別のCVC部門があるわけです。

そんな体制になっていると、仮にビジネスコンテストで採択したスタートアップが投資段階に入ったとしても、CVC部門はすんなり受け入れません。「自分たちの投資ロジックと異なるから検討できない」と言われてしまったり。

こうした分断された体制によって、せっかく大企業ならではの人手も資金もあるのに、オープンイノベーションをうまく進められていない例は、日本中にたくさんあります。

松田非常にわかりますね。加えて、NECのように研究機関を持ち、技術を強みにしている企業に特有の落とし穴があるんです。

協業の話を社内で持ちかけると、「近しい研究開発をうちでもやっている」など、他社に頼らなくても自前でできるのでは、といった声を聞くことがあります。

実際、開発できないことはないですが、一定の時間はかかります。市場がものすごいスピードで変化しているなかで、そんな悠長なことはしていられません。

麻生おっしゃる通りで、オープンイノベーションの目的は、端的に言えば「時短」なんですよね。仮に自社で開発する力があっても、市場は5年も待ってくれない。

スピードに加えて、マンパワーの問題もあります。すべてのプロジェクトに開発チームを立ち上げていては人材をいくら集めても足りません。

だったら自社が強みを持つ事業や技術にリソースを集中し、それ以外は他社の力を借りて、人手も時間も節約しようというのが、オープンイノベーションの根本的な考え方。

この原則は、大企業に限らず意識しておくといいと思います。

麻生 要一 氏
アルファドライプ 代表取締役社長
兼 CEO
麻生 要一 氏
大学卒業後、リクルートヘ入社。社内起業家として株式会社ニジボックスを創業し150人規模まで拡大。上場後のリクルートホールディングスにおいて新規事業開発室長として1500を超える社内起業家を輩出。2018年に起業家に転身し、アルファドライプを創業。2019年にM&Aでユーザベースグループ入りし、2024年にカープアウトによって再び独立。アミューズ社外取締役、アシロ社外取締役等、プロ経営者として複数の上場企業の役員も務める。著書に「新規事業の実践論」。

「横串を刺す」がシンプルだけど難しい

―ここまで見てきたような「大企業オープンイノベーションの罠」にはまらないために、どうしたらいいのでしょうか?

松田NECもいわゆる大規模な組織で、オープンイノベーションに注力している企業の一つだと思います。

2013年に新規事業開発推進の組織が発足してから、複数回の再編を繰り返してきました。ただ、私たちも以前は麻生さんが言及したような状態に陥っていたんです。

事業部ごとにオープンイノベーションの担当領域がバラバラに分かれていたりして、一気通貫で事業を育てる体制とは言えない状況でした。

2024年に大きな組織変革として、事業開発統括部にCVC機能を配置させ、新規事業の機能を集約しました。

さらにプロジェクトに合ったアプローチを選んで、一気通貫で事業を創出できる体制を作ったんです。

松田 尚久 氏
日本電気株式会社
事業開発統括部長
松田 尚久 氏
2000年NECに入社し、SEとして通信事業者向けビジネスを担当。2008年にはNECが買収した米国Netcracker社でPMIやシナジー創出に従事。帰国後10年以上にわたりIoTやID経済圏生成、5Gのグローバル展開など数々の通信系新規事業を推進。2023年グローパルイノベーションユニットで全社の技術戦略策定等に携わり、2024年より現職。

麻生これはすごい。今松田さんはさらりと言いましたが、事業創出部門に横串を刺すというのが、シンプルに見えて実現できている大企業は本当に少ないんです。

より詳細をお伺いしたいのですが、具体的にはどんな取り組みをしているんですか?

松田事業を生んで育てるための一通りの打ち手は持っています。

具体的には、ビジネスコンテスト「NEC Innovation Challenge」開催のほか、「NEC Orchestrating Future Fund」というエコシステム型CVCやVC投資、BS投資などスタートアップ投資もしています。

さらに米・シリコンバレーで立ち上げた「NEC X, Inc.(以下、NEC X)」という子会社を持ち、アクセラレーションも行っています。

説明図:NEC Open Innovationの取り組み

麻生かなり網羅的ですね。ちなみに松田さんには、企業買収の権限はありますか?

松田買収権限はありませんが、買収を提案する権限はあります。

麻生なるほど。事業創出部門は新たなビジネスを作る部門なので、もちろんそこから買収のアイデアが出るケースも多いのですが、事業創出部門の役員に買収提案権限を持たせない企業も多いんですよ。買収を提案できるのは経営企画だけです、みたいな。

これはもったいないと思っていたので、松田さんが買収の提案権限を持っているのも良いなと思いました。

正直に言って、NECが事業創出においてここまで柔軟な組織体制を持っていたとは意外でした。他の大企業にも「NECができるんだからできますよ!」と言いたい(笑)。

松田もちろん、私たちも一筋縄には行かず、色々と苦労もありました。

事業創出に関する機能を集約して一年足らずですが、すでに手応えは感じています。CVCの投資先をビジネスコンテストの担当者が一緒になって探索したり、一度協業を断られた企業に対する別のアプローチ方法を組織横断で考えたり。

事業創出に関わる社員が、同じ部門に集まる価値は、すでに生まれています。

技術提供の代わりに、株をもらう?

麻生先ほどおっしゃっていたように、NECと言えば技術に強みがある企業ですよね。その点は、オープンイノベーションにどう活かしているんですか?

松田一つユニークな取り組みがあるんです。先ほど「NEC Open Innovation」の一つとしてあげた、シリコンバレーでスタートアップの立ち上げを支援している「NEC X」です。

そこでは起業家にNECの技術を提供し、新たなビジネスを立ち上げる対価として、株式を割り当ててもらっているんです。

麻生え、株式を対価にしているんですか?

麻生 要一 氏/松田 尚久 氏 対談の様子

松田ええ。オープンイノベーションと言うと、外部の力を活用して新規事業を生み出す「インバウンド」的な思考に偏りがちです。

一方でNEC Xは、自分たちの技術を他社に活用してもらうことで、スタートアップ企業の成長を支援し、共にビジネスを創出しようという「アウトバウンド」的な発想から生まれたモデルです。

麻生それはかなり先進的なモデルですね。どんな経緯でそうしたやり方に至ったんですか?

松田NECは研究開発に力を注いできた企業であり、優れた技術を数多く持っています。しかし、それがすべてプロダクトとして世に出ているかと言えば、そうではありません。

製品化までにはさまざまな壁があり、設計や品質の担保にも数年はかかるので、まだ市場価値を十分に発揮できていない技術資産も数多く存在します。

そこで発想を転換し、当社が持つ先進技術の新たな活用の可能性を外部の方々と共に探索し、価値あるプロダクトを共創できないか、と。

それを担ってくれるスタートアップに資本参加することで、成長した暁にはリターンが返ってきますし、改めて買収するオプションもあり得ます。

本当にコアなもの以外は多産多死のロジックで、外で育てて成功後買い戻せば、結果的に時間と費用を節約できるという考え方です。

説明図:NEC Xモデル

麻生そんな新しい方法が、NECで採用されていたとは。

加えてNECは技術だけではなく、グローバルに研究所があり、研究者も多く在籍していると思うのですが、そこは事業開発統括部と連携させているんですか?

松田一部ではありますが、連携を進めています。AIによる素材開発、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)という領域を担う研究者チームは、私たち事業開発統括部にチーム丸ごと入ってもらっていて、研究者の立場で素材メーカーと一緒に新規事業に取り組んでいます。

直近では、リサイクルメーカーの丸喜産業様と再生プラスチックの製造を省力化する取り組みを始めました。

研究所でも協業はできますが、あえて新規事業に入ってもらうことで、技術起点での事業開発を強化しています。

麻生面白い、そうした協業の仕方もやっているんですね。NECと組むことで事業を成長させられる企業はたくさんあると思いますが、逆に何でもありすぎて声をかけづらいと感じる企業もあるかもしれません。

NECとして、潜在的な協業パートナーに向けてどんなメッセージを発信しているんですか?

松田まずは、NECがオープンイノベーションに本気で取り組んでいる、というのを知っていただきたいですね。

正直これまでは、NECが新規事業開発に取り組んでいる印象を持っている方は、少なかったのではないかと思います。

ですが今は組織的な体制も整いましたし、ここからオープンイノベーションを加速させていきたい。NECは技術のすそ野が広いので、どんな企業とも何かしらの連携・協業ポイントは見出せると考えています。

説明図:NECとの連携・協業メリット

さまざまな技術があるなかでもNECは、AI、特に画像認識や、生体認証などに強みを持っています。ですが、市場に出すに至っていない技術も多いので、一緒にユースケースを創っていける協業パートナーをぜひ探していきたいですね。

社会に山積する複雑な問題を解決するには、もはや一社の力だけでは難しい時代です。私たちは新規事業開発メッセージとして「仕掛けよう、未来。」を掲げ、日本企業が連携して世界を目指す未来を創りたいと考えています。

そこで私たちNECは、日本のオープンイノベーションを共に盛り上げ、グローバル市場で戦う共創パートナーを大募集しています。少しでも協業の可能性を感じた方は、ぜひ以下のページの問い合わせ窓口からでも、どんな手段でも良いのでお声がけいただければと思います。

執筆:森田悦子
撮影:後藤渉
デザイン:高木菜々子
編集:金井明日香
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2025-03-17 NewsPicks Brand Design

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