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厚生労働省が令和7年1月22日に発表した病院の情報システムの刷新に係る方向性について、同省がこれまで進めてきた医療DXとともにご紹介します。
国民が健康で豊かな生活を送れる社会を実現するための医療DX
医療等情報利活用ワーキンググループにて有識者から「病院の情報システムの刷新に係る方向性は、国が示す医療DXそのものである」(*1)という意見が出ていたように、「病院の情報システムの刷新に係る方向性(*2)」を理解するには、「医療DX」についても理解をすることが重要となります。ここからは、これまで厚生労働省が取り組んできた医療DX(*3)についてご紹介します。
- (*1)2024年12月2日 第23回 健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用WG 議事録|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48419.html
- (*2)第6回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料 【資料3】 病院の情報システムの刷新に係る方向性について
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001380626.pdf
- (*3)医療DXについて|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html
医療DXの基本的な考え方
「医療DXの推進に関する工程表(*4)」において医療DXは以下のように定義されています。
- (*4)<令和5年6月2日 医療DX推進本部決定> 医療DXの推進に関する工程表
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/iryou_dx_suishin/pdf/suisin_kouteihyou.pdf
保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、申請手続き、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報に関し、その全体が最適化された基盤を構築し、活用することを通じて、保健・医療・介護の関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えていくこと
加えて、クラウド技術等の活用によりサイバーセキュリティ対策を強化しつつ、閉域のネットワークの見直し等を行うことにより、コスト縮減の観点も踏まえながら、モダンシステムへの刷新を図っていくとされました。
工程表ではさらに、医療DXに関する施策を推進することにより、2030年度を目途に、①国民の更なる健康増進、②質の高い医療の提供、③医療機関の業務効率の向上、④システム人材等の有効活用、⑤医療情報の二次利用の5つの目標を達成する見込みとしています。

(「医療DXの推進に関する工程表」の内容を元にNECにて作成)
目標達成に向けた取り組み
医療DXを通して、国民が安心して、健康で豊かな生活ができる社会を実現するために、すでにいくつかの施策が動き始めています。その中でも病院の情報システムに関連の深い取り組みとして (1)マイナンバーカードと健康保険証の一体化、(2)全国医療情報プラットフォームの構築、(3)電子カルテ情報の標準化等、(4)診療報酬改定DXについて、重点的にご紹介します。


(1)マイナンバーカードと健康保険証の一体化
マイナンバーカードと健康保険証の一体化は、日本の未来における医療DXの基盤を築くうえで、非常に重要なステップとなります。従来、医療現場では紙での患者情報の共有が多く、その準備と処理に手間と時間がかかっていました。しかし、マイナンバーカードに搭載された公的個人認証サービス(JPKI)(*5)を利用することで、個人をネット空間において確実に識別できるようになり、医療機関は患者の同意に基づき、必要な医療情報をスムーズに共有できるようになります。この仕組みはオンライン資格確認と呼ばれ、手続きの効率化、患者の待ち時間短縮だけでなく、医療機関等が患者情報を迅速に共有して最適な医療を提供するための準備を整えられるといった、医療の質の向上につながるメリットもあります。
このように、セキュアな個人識別を前提とした基盤が整えられることで、医療機関等の情報連携が円滑化し、医療DX推進に貢献すると考えられています。
- (*5)公的個人認証サービス(JPKI)|デジタル庁
https://www.digital.go.jp/policies/mynumber/private-business/jpki-introduction
(2)全国医療情報プラットフォームの構築
オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、レセプト・特定健診等情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテ等の医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームの構築を進めています。(*6)
全国医療情報プラットフォームの仕組みの一つである電子カルテ情報共有サービス(*7)では以下の4つのサービスが提供されます。
-
診療情報提供書を電子で共有できるサービス(退院時サマリーは診療情報提供書に添付扱い)
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各種健診結果を医療保険者及び全国の医療機関等や本人等が閲覧できるサービス
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患者の6情報(傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報 (救急及び生活習慣病)、処方情報)を全国の医療機関等や本人等が閲覧できるサービス
-
患者サマリーを本人等が閲覧できるサービス
全国医療情報プラットフォームを活用することで、医療機関・薬局での重複投薬防止や自治体等での事務手続きの効率化等が実現できます。自治体検診情報、介護、予防接種や母子保健に関する情報を連携させることで、医療機関・薬局等と自治体の間で必要な情報が共有できるようになります。さらに、介護事業所が保有する情報を介護事業所・医療機関等で連携すれば患者一人ひとりに合わせた最適なケアも提供できるようになります。将来的にはプラットフォーム上の情報の利活用を進めることで、新薬開発や次の感染症危機の対策検討も大きく前進することが期待されています。
- (*6)第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料 【資料1】医療DXについて
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000992373.pdf

(第4回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料2-2

(3)電子カルテ情報の標準化等
電子カルテ情報の標準化は、医学の進歩に貢献するデジタル症例記録の共有・活用を促進し、医療の質向上や政策立案に資するものとして重要です。しかし、現在はデータが標準化されておらず、複数の医療機関が保有する医療情報の共有や活用が十分ではない状況です。
「医療DXの推進に関する工程表」の中では、電子カルテ情報のうち、3文書6情報(診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報 (救急及び生活習慣病)、処方情報)の共有を進め、順次拡大していく方針が示されています。さらに救急時に有用な情報等の拡充を進めること、医療機関において患者の必要な医療情報が速やかに閲覧できる仕組みを整備すること、マイナンバーカードを活用した救急業務の迅速化・円滑化について全国展開を目指すこと、とあります。また、医療情報を薬局側に共有する取り組み、薬局側から医療機関に提供される服薬情報等のフィードバック情報の共有なども今後検討されます。
あわせて標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)を国が開発して提供することも示されています(*8)。
- (*8)導入対象として、電子カルテの普及が進んでいない200床未満の中小病院または診療所が想定されています。
第3回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料|厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001392965.pdf
(4)診療報酬改定DX
日本では、全国民が加入することが義務付けられている公的医療保険制度によって、どの医療機関でも必要な診療行為を受けることができます。この診療行為には、厚生労働大臣が定めた診療報酬が設定されており、それらを合計した金額が医療費となります。診療報酬の点数は診療行為ごとに細かく決められ、全国共通で計算されます。通常、診療報酬の点数は2年ごとに医療の進歩や経済状況に合わせて見直され、これを「診療報酬改定」と呼びます。
この診療報酬改定において、全国の医療機関や医事会計システム開発ベンダー(医事会計ベンダー)は、限られた時間内でシステム修正や院内調整を完了する必要があります。改定内容は2月上旬から段階的に公表され、具体的な詳細が判明するのは4月1日の施行日近くになるため、手戻りを覚悟で早期から対応を始める必要に迫られています。短期間で集中して個別にシステム改修やマスタメンテナンス等の作業に対応することで、人的・金銭的に非常に大きな間接コストが生じています。
そこで、診療報酬改定DXとして、診療報酬の算定と窓口負担金を計算するための全国共通の電子計算プログラム「共通算定モジュール」を2026年度に全国展開することなどが決まっています。これにより、医療機関や医事会計ベンダーの負担軽減や診療報酬請求の正確性向上、審査支払業務の効率化が期待されます。また、システムエンジニアの有効活用や費用の削減を通じて医療保険制度全体の運営コスト削減にもつながります。
1章でご紹介したように、今後は、電子カルテ情報共有サービス等の各種クラウドサービスとのクラウド間連携を進める方針が打ち出されています。国によって整備される標準化・クラウド化された各種クラウドサービスと、医療機関等の病院情報システムを効果的・効率的につなぎ、長期的な視点でコストの最小化と医療DXの成果の最大化を実現するために、クラウド間連携を前提とした病院情報システムへの刷新が求められています。
(NEC 官公ソリューション事業部門)
「徹底解説!病院の情報システムの刷新に関する政府施策のポイント」 目次
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国民が健康で豊かな生活を送れる社会を実現するための医療DX
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