協調搬送ロボット|Cooperative Porter Robot
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物流現場では配送ドライバーや倉庫内作業者の人手不足が問題となっていましたが、近年のネットショッピングの普及によって荷量の増加と複雑化が加わり問題がより深刻化しています。
この問題の解決のためにNECが開発を進めているのが協調搬送ロボットです。
「空間全体を理解して制御する」という新しい概念に基づいた、従来の搬送ロボットとは全く異なる価値提供により、社会の変化や現場の状況変化に伴う運用変更に適応し、人を助け、物流現場の働き方を変革します。
技術を体験価値に
「適応遠隔制御技術」は無線通信における通信遅延を高精度に予測し、ネットワークに接続された複数の機器をリアルタイムに制御するNEC独自の技術です。協調搬送ロボットは、この技術を応用して新しいビジネスを開発するプロジェクトとして2017年に始まりました。
これまでの自動搬送ロボットは、人が行っていた作業の一部を定型化しロボットに置き換えるものでした。しかしこの方法では急なレイアウト変更や状況の変化に柔軟に対応できないため、人が作業する空間とロボットが稼働する空間を分離する必要がありました。NECは人とロボットを分離するのではなく、人とロボットが共に働く空間全体をデザインする。という考え方で、この問題の解決を図りました。
天井のセンサーカメラから倉庫内の状況を把握することで、人とロボットが同じ空間で安全かつ効率的に稼動することを可能にし、指定した位置に人が台車を置くだけで搬送が開始されます。空間を理解し制御するので倉庫のレイアウトや人の動線変化にも柔軟に対応できます。
検証・改善から実装へ
プロジェクトの初期段階には、以下のステップで仮説構築と検証を繰り返しました。
1 ユースケース仮説:技術により実現できることの具体化
2 シーンスケッチ:課題が解決された姿の可視化
3 現場観察と社内外のインタビューによる受容性の検証
現場観察などの調査により、既存の搬送ロボットは、その環境や運用、人とのインタラクションなど、総合的なユーザー体験(UX)に大きな課題を持っていることがわかりました。 例えば、既存のロボットは変化の激しい現場では止まってしまい、現場の作業者はなぜ止まっているのか分からず業務全体が止まってしまう場合もあります。技術的な解決も重要ですが、今どんな状態なのか、人の助けが必要なのか、そうではないのかが分かる事が、現場で受け入れられるUXとして重要であることが分かりました。
天井のセンサーカメラからロボットを個体識別するためのマーカーを際立たせるシンプルな造形。
音や光の変化もコミュニケーションの重要な要素としてデザインしています。
製品開発へ
数々の検証と試行錯誤を行った後、2021年に製品化に向けた試作機の開発を開始し、あらためてデザインコンセプトを研ぎ澄ましました。
市場で先行する多くの搬送ロボットに対し、NECの強み、独自性は何なのか、議論を繰り返しました。「走行するロボット」をデザインするのではなく「倉庫という空間全体をロボットと捉え、人と協調し、人を助ける」存在、ホテルのロビーで丁寧に荷物を運ぶ、ポーターの姿をほうふつさせる、搬送ロボットの概念を覆す斬新なスタイリングはそのようにして生まれました。
協調搬送ロボットは、2台のロボットで挟むことでカゴ車やドーリーなどタイヤ付きの台車など様々な形状の台車を運ぶことが可能です。これは人からロボットへ荷物を受け渡す際の載せ替え作業や台車とロボットの連結作業が不要となり、作業者は重い荷物を運ぶ重労働から解放され、人にしかできない作業に集中することができます。
社会へ発信する
技術を社会に適用し実装していくためには、ハードウェアやサービスをデザインするだけでなく、そのユニークさをどう市場やお客様に伝え、理解を深めていただくかというコミュニケーションのデザインもまた重要な要素です。
私たちは、メディアでの発信計画や展示会における引き込み施策、観客動線の設計など、総合的なユーザー体験の視点からコミュニケーションデザインを行っています。
ロジスティクスソリューション2022でのデモ展示では、ブース設計、プレゼンテーション全体のシナリオ、コンセプトムービー、Webサイトなど、多くのタッチポイントを統合的にデザインしました。
デザイナーの役割
このプロジェクトは2017年開始した当初から、デザイナーや研究者、ビジネス開発者、エンジニアらがチームを作り上げ、現場やユーザーからのフィードバックを取り入れつつ開発を進めてきました。
多くのロボットを協調して動作させることができるこのシステムは、柔軟なサービス設計を可能にしました。導入事業者の将来のビジネスの成長に合わせ柔軟にシステムを変更・調整し長期的に使うことができるため、結果的にコスト低減に繋がるなど、人手不足の解消にとどまらない、大きな価値を持っています。
体験価値をデザインし事業価値を伝えていくことがデザイナーにとって極めて重要な役割のひとつです。
社会価値創造企業であるNECが技術を社会実装していくうえで、デザイナーの役割はこれからますます広がっていくと考えています。