空港:税関検査場電子申告ゲート

「テクノロジー×デザイン」で社会課題を解決していく

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日本の玄関であり顔ともいえる、空港の入国窓口である税関検査場。NECはこの税関検査場電子申告ゲートのシステムを財務省税関より受注しました。現在、7つの空港(成田国際空港、羽田空港、関西国際空港、中部国際空港、福岡空港、新千歳空港、那覇空港)で運用が開始され、海外からのお客さまをお迎えする大切な役割の一助を担っています。

電子申告は入国手続きの流れをスムーズにするだけでなく、人と人の接触を減らすことにより、新型コロナウイルス感染症対策にも役立つとして、ICAO(国際民間航空機関)及びIATA(国際航空運送協会)より推奨されています。

この税関検査場電子申告ゲートには、NECの世界一※1の顔認証技術が使われています。その優れたテクノロジーを空港に関わる人々に伝え、それによって旅行者が快適に空港を利用できるようにし、引いては日本の空港を魅力的にデザインするために、NECのデザイナーは提案から受注、開発、展開に全面的に関わり、大きな役割を果たしました。

そして、NECの「税関検査場電子申告ゲートを中心としたSmart Airportの取り組み」が、国際的に権威のある iF DESIGN AWARD 2020※2 と、2019 年度グッドデザイン・ベスト100をダブル受賞しました。

今回、プロジェクトに携わる、4名のデザイナーにお話を伺いました。

  • ※1NEC、米国国立機関による顔認証の精度評価で第1位を獲得
    ~AI時代の生体認証技術、決済・交通機関など高信頼性を求める分野に向けて躍進へ~
    https://jpn.nec.com/press/201910/20191003_01.html
  • ※2 iF DESIGN AWARD(iF デザインアワード)について
    ドイツ・ハノーバーを本拠地とするiF International Forum Design は、世界で最も長い歴史を持つ独立したデザイン団体で、毎年優れたデザインを選出し「iF デザインアワード」を授与しています。参考:https://jpn.nec.com/safercities/transportation/fasttravel/narita.html

左:
コーポレートデザイン本部
エキスパート 山岡和彦

中央左:
コーポレートデザイン本部
主任 神野真理子

中央右:
コーポレートデザイン本部
主任 菅原暁

右:
コーポレートデザイン本部
マネージャー 太田知見

左から、コーポレートデザイン本部 エキスパート 山岡和彦、主任 神野真理子、主任 菅原暁、マネージャー 太田知見

NECのデザイナーが入ったからには要望された以上の提案を

税関検査場電子申告ゲートのプロジェクトは、まずNECが提案・受注するところからのスタートでした。提案まで時間のない中、強力なライバル他社との競争にどうやってNECのデザイナーたちは臨んだのでしょうか? プロジェクトの中心メンバーである山岡は「絶対に負けられない戦いでした」と振り返ります。

山岡:
まず提案は、2018年5月から6月にかけてでした。営業から電子申告ゲートの提案にチャレンジすると話があった時、「これは絶対に負けられない戦いだ」と関わるメンバー全員が腹をくくりました。NECの顔認証技術は世界一であり、それを活かすシステムである電子申告ゲートで負けることは許されません。しかし技術が世界一でも、この勝負に勝てるかどうかはまた別の話です。今回「デザインメンバーを参加させよう」という指名をいただきました。我々が入るからには、絶対に負けられないと燃えましたね。

現在、世界の空港ではストレスフリーで快適な旅行環境を実現するスマート・エアポート化が進んでいます。日本の空港においても旅客手続きの動線に最先端の技術・システムを導入し旅客サービスを向上することが求められています。そのため提案で求められたのは、まずそれを可能にする技術・システムであり、それによって手続きが便利になるという部分です。もちろんそれも大事なことですが、我々デザイナーは、要望された以上のものを提案したいという思いがありました。

単に技術・システムの提案で済ませるのではなく、最先端の技術を活用しながらも、日本ならではの、おもてなし、やすらぎのある空港を実現するため、近未来の空間デザインを通してすべての旅客に不安やストレスを感じさせない「安全で快適な空港サービス」をデザインする、言わば「空港ソリューション」を提案しようと大きな方針を決めました。

例えば、海外からのお客さまが操作する端末。これはふつうなら、銀行のATMのようなキオスク端末になります。そうではなくて、「樹木の周りに人が集まってくるようなイメージ」が欲しいと考えました。そのために、本当に木を植えられないか検討したくらいです(笑)。現実的には“空の樹々(Forest)” をイメージしたツリータイプで、お客さまをあたたかく迎えようとデザインしました。むろん、車いすの方も使えるようユニバーサルデザインにも配慮しながらです。

電子申告ゲート

デザインは会議室ではなく現場へ

営業、SE、デザイナーなど提案プロジェクトメンバーの努力の結果、無事NECの提案が通りました。税関検査場電子申告ゲート受注の喜びもつかの間、実際の開発フェーズに入ると、NECのデザイナーの仕事はさらに苛烈を極め、泥くさく地道な作業が続きました。

太田:
開発フェーズに入ってからがまた大変でした(笑)。税関申告アプリ、キオスク端末、電子申告ゲートの画面デザイン、さらにサイネージなどたくさんのデザイン業務をこなしつつ、お客さまに説明するための資料も作成しなくてはなりません。

一例を挙げると、電子申告ゲートを利用される方が、最初に使うのは、税関申告アプリになります。スマホの操作感のまま空港で使ってもらいたくて、キオスク端末を縦長画面にしたのですが、そうすると調整しなくてはいけないことが山ほど出てきました。スマホでは画面を上下にスクロールすることで情報を見てもらえば良いのですが、空港に着いて利用する税関のキオスク端末はスクロール操作をさせるのは不自然になります。そのため、スマホと似た画面イメージとしつつ、ページ切り替えで自然に操作してもらえるように苦心しました。他にも、言語による文字数の違いを考慮した画面レイアウトなど、細かい調整の必要性が出てきました。もうほんとうに終わるのかというほどの業務量でしたね。

神野:
顔認証をする時、カメラがこちらを睨んでいてフラッシュがたかれ、いかにも撮られるようなのは嫌だなと思いました。できるだけ気づかないうちに顔認証されて出ていくような流れを実現したくて、顔認証のチームは何十人という被験者に協力してもらい、何ヶ月と微調整を続けました。人が顔をカメラに合わせにいくシステムではなく、人が自然にしているうちに認証されるようなシステムにする、といったこともデザイナーの「人間中心」的な視点だと思います。

菅原:
私は開発や運用も進み、いよいよ全国7つの空港に展開していくというフェーズからジョインしました。ところが、空港ごとに税関の検査台の大きさやレイアウトも違います。お客さまの通行量も違います。動線の作り方や見えるサインの位置、スケール感も違い、行ってみないとわからないことがたくさんありました。税関職員の方々とNECの営業、SE、デザイナーが緊密に話し合いながら進めましたが、現場にペーパーモックアップを置いたり、サインの高さを確認するために伸び縮みするポールを持っていって、現場で何度も調整したり。1年間で色々な空港に16回ほど行きましたかね。

山岡:
デザイナーは「現場」を重視しなくてはなりません。どこかの言葉にありましたが、会議室ではなく、現場にいって体感し確認しないといけないことがたくさんあるからです。

公共のものをデザインし、人に使ってもらえる喜び

地道な作業を続け、現場に足を運んで調整するなど、泥くさい現場仕事の後には、NECのデザイナーでなければ味わえないような達成感があったとのことです。

太田:
大変な業務の苦労が吹っ飛ぶようなことがあったのです。空港でたまたま実際に使っている人を見ることができました。感動的でしたね。いまだに忘れられない。自分がデザインしたものを使ってくれる人がいる。それが凄くうれしかった。

山岡:
自分が作ったものを実際に使っている人を見るってうれしいものですよね。

菅原:
公共のものをデザインすること。自分も使うし、多くの人が使うもののデザインに関われるというのは喜びもあるし、プレッシャーもありますね。

神野:
私はずっとプロダクトデザインをやってきたのですが、ここまでゼロから作ったこと、現場の施工でケーブルの取り回しまで考えるところまで携わったのは初めてでした。こういう仕事はデザイナー冥利につきるなと思いました。

太田:
私も、一般の人が使うものを対象としたプロジェクトに参加できることは本当にうれしい。近ごろ、政府機関に行くことも増えてきました。自分たちのデザインが影響を及ぼす範囲が広がってきたと感じます。

山岡:
NECの技術・システムの優秀さはもちろんですが、その利用シーンをストーリー化して相手に伝えるのは、我々の仕事です。我々NECのデザイナーは、テクノロジーとデザインを組み合わせて世の中の課題を解決していくお手伝いをしているのですね。