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衛星から確かな価値を社会に届けるために
──準天頂衛星システム「みちびき」を支える地上システム
地球の周りを日々周回しているたくさんの人工衛星。その活動を支えているのは、地上のシステム、衛星を運用しているメンバーたちです。日本が独自に開発した準天頂衛星システム「みちびき」のプロジェクトに携わるNECのメンバーたちが、「みちびき」が提供する測位サービスから生まれる価値や、「みちびき」を24時間365日運用することの難しさ、さらには宇宙事業にかける思いを語りました。
日本独自の衛星測位システム
──はじめに「準天頂衛星」とはどのようなものか、ご説明ください。
二階堂 地球の自転周期と同じ周期で回っているために、地上からは上空の一点に止まってみえる衛星を静止衛星と言います。それに対して、準天頂衛星は、日本上空に長くとどまる軌道で特定の地域の上空近辺に代わる代わる現れます。
松山 日本から見ると、南側に8字型を描く軌道で複数の衛星が交代で上空にいることになります。準天頂衛星は赤道軌道から40度前後傾いた南北非対称の楕円軌道を描いて地球の周りを回っています。北半球では地球から遠ざかって、運行速度が遅くなるので、そのぶん衛星が地上から見える時間が長くなります。
──「衛星測位システム」についてもご説明いただけますか。

スペース&インテリジェンスシステム統括部
第三宇宙システムグループ
寺田 廉
寺田 地上の人やモノの現在位置を計測するためのシステムです。衛星から発信される信号を地上の受信機で受信し計測することで、位置と時刻を把握することが可能になります。アメリカのGPSが有名ですが、ほかにも欧州のGalileo、ロシアのGLONASS、中国の北斗などがあります。その日本版が「みちびき」です。
──「みちびき」の衛星は何機で運用されているのですか。
寺田 これまで4機を運用してきました。測位に必要な変数は4つあります。XYZの3つの軸と時刻です。ですから、衛星は最低4機必要になるわけです。

https://qzss.go.jp/overview/column/gsi_200420.html松山 衛星測位システムをより安定的に運用するために、7機体制への拡張を目指しており、11機体制に向けた活動も既に始まっています。
新屋 現在の「みちびき」のサービスは、GPSと連携しながら提供しています。「みちびき」の機数が増えればさらに安定した運用が可能になります。
衛星測位システムと地上システムを担うNEC
──「みちびき」においてNECが果たしている役割についてお聞かせください。
松山 「みちびき」は、衛星、地上局、ユーザー受信機の3つによって構成されるシステムです。NECは衛星に搭載する測位ミッションペイロードの開発と、ユーザーへ提供する測位データを生成したり地上から衛星を管理・運用する地上システムの開発と運用を担当しています。





監視局はもし障害があってもカバーできるよう、世界中に配置されている
──「みちびき」の地上システムについて教えてください。

スペース&インテリジェンスシステム統括部
第四宇宙システムグループ
マネージャ 新屋 貴嗣
新屋 地上局は「主管制局」「監視局」「追跡管制局」の大きく3つに分けられます。そのすべての運営に当たっているのがNECです。一部はパートナー企業と協力し合いながら、大部分の運営をNECが担っています。
主管制局の役割は「みちびき」のシステム全体を管制することで、東日本と西日本の2カ所に設置されています。監視局は、衛星からの測位信号を受信し、データを主管制局に送ることを主な役割としており、国内外の35カ所に設置しています。私が担当している追跡管制局は、沖縄を中心に現在計10カ所で運用されています。主管制局で生成した測位情報を衛星経由でユーザーに届けるのが、追跡管制局の重要な役割です。
二階堂 NECとグループ企業のさまざまなセクションがワンチームとなって、「みちびき」のシステム全体の運営を進めています。常時100人ほどのメンバーが、チームの一員としてそれぞれの任務に当たっています。
──「みちびき」のシステムを活用したサービスには、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
寺田 さまざまなサービスがあります。一般の方々にとって馴染み深いのは、スマートフォンの地図情報サービスや、カーナビゲーション、ドライブレコーダーなどだと思います。スマホユーザーや車を運転している皆さんの多くが、意識せずに「みちびき」のサービスを日常的に利用しています。
新屋 「みちびき」はセンチメートル級の高精度の測位を実現するシステムです。その性能をいかして、農業、建機、ドローン、自動運転など、精度の高い位置情報を必要とする分野でも活用が進んでいます。
二階堂 飛行機や船舶の運航などにも、「みちびき」の測位情報が活用されていますね。
松山 社会課題に関連する分野では、災害が発生した際に防災気象情報やアラートを発信する「災害・危機管理通報サービス」、同じく災害発生時に避難所情報などを伝達する「衛星安否確認サービス」を提供しています。
寺田 もう1つ、「信号認証サービス」も重要なサービスです。衛星測位信号を真似た信号を地上から発信することで、現在位置を欺瞞するスプーフィング(なりすまし)という犯罪が世界各地で発生しています。これに対抗するために、ユーザーが受信した信号が「みちびき」から発信されたものであることを保証するのが「信号認証サービス」です。
松山 「みちびき」は汎用的なものなので、ほかにもさまざまなサービスが生まれていく可能性があります。また、今後人口が減っていく日本では、産業機器や物流、自動車の運転などを自動化していくことが重要な課題となります。「みちびき」のサービスを活用することで、そういった社会課題解決につながる道筋もつくっていけると考えています。

スペース&インテリジェンスシステム統括部
第三宇宙システムグループ
マネージャ 松山 淳子
システムを安定的に運用するために
──「みちびき」の運用に携わる中で、最もたいへんなのはどのような点ですか。

スペース&インテリジェンスシステム統括部
第四宇宙システムグループ
主任 二階堂 瑞希
二階堂 私は追跡管制局のうち、「みちびき」と通信するための大型パラボラアンテナシステムのとりまとめを担当しています。日々の仕事の中でとくにたいへんなのは、アンテナの設計・製造を担うメーカーや組立てを行う工事業者、あるいはメンテナンス事業者の皆さんとコミュニケーションを取りながら、アンテナの性能を最大限に発揮させるための調整をすることです。
「みちびき」のシステムは、24時間365日稼働状態である必要があります。仮にアンテナに大きなトラブルが発生すれば、サービスが止まってしまう可能性もあります。もちろん、1つのアンテナに不具合があった場合でも、それをカバーする仕組みをつくっていますが、可能な限りトラブルが起きないようにするために、また万が一トラブルが起きた際には迅速に対応できるように、万全の体制を整えています。
新屋 追跡管制局は現在国内10カ所に設置されているという話をしました。局を新たにつくるには、公共用地であり、なおかつ100トンを超える重さのアンテナを設置できる土地を見つけ、地方自治体と協議しなければなりません。自分の専門である通信技術以外の領域でさまざまな調整をしなければならないのが、この仕事の難しさであると感じています。
松山 「みちびき」は、衛星と地上のシステムが一体となることで成立しています。そのシステム全体を安定的に運用しながら、ポテンシャルを最大限に発揮させ続けること。それがこの仕事のたいへんさであり、醍醐味でもあります。
寺田 サービスを主に担当している私の一番の役割は、サービスが途切れないように常に目を光らせ、システムに異常が発生した場合などに速やかに対応することです。また、先にご説明した「信号認証サービス」も私が担当しています。そのサービス利用拡大も重要な任務です。サービスの質を高めながら、いかに多くの皆さんにサービスを利用していただくか。そのことをいつも考えています。
──日々の仕事の中で、NECの力をどのようなところに感じていますか。
寺田 衛星システムを安定的に運用するノウハウがあることが、NECの大きな強みだと思います。「みちびき」プロジェクトがスタートして7年ほどになります。その間の経験をもとに、スムーズに運用を進め、トラブルには迅速に対処する。そんなノウハウが蓄積されています。
松山 NECが衛星開発に携わったのは、1970年に打ち上げられた日本初の人工衛星「おおすみ」からです。それから半世紀以上にわたって、宇宙に関わる技術やスキルを継承してきました。何よりその歴史がNECの力になっていると考えています。また、通信、IT、ハードウェアなど、幅広い領域の技術者が社内にいて、その力を合わせて事業を推進できるのもNECの強みと言えるのではないでしょうか。
新屋 まさに総合力こそがNECの力であると感じます。地上局の新設の際には、私たち技術者だけではなく、営業担当やグループ会社の不動産部門の総力を結集してプロジェクトを進めてきました。ここまで幅広い領域で力を発揮できる企業グループは、決して多くはないと思います。
二階堂 宇宙事業というと、一般の方々からは縁遠い世界に見えるかもしれません。しかし、その事業を通じて、日々の生活や産業に直結する価値を生み出していること。それがNECの大きな力だと感じています。
宇宙事業にかける思いを継承していく
──「みちびき」は今後さらに機数を増やしていくという話がありました。それによって何が変わるのか、あらためてご説明いただけますか。
新屋 今回新たに開発した3機「みちびき5、6、7号機」は、従来の4機よりも性能が上がっています。その衛星がシステムに加わることによって、測位精度がより向上することになります。(H3ロケット8号機の打上げ失敗により、みちびき5号機は喪失。7機体制で1mの精度(=誤差)が出ると期待していたところ、6機運用となると倍程度の誤差となる。それでも従来の4機運用に比べて測位精度は向上。)
松山 測位できるエリアが大きく広がること、色々な角度から測位信号を届けられるようになることも、機数を増やすことによるメリットです。これまでの4機の衛星のうち、準天頂軌道を回っている衛星は3機、静止軌道を回っている衛星は1機でした。追加の3機のうち、1機は準天頂軌道、2機は静止衛星に近い軌道を回ることになる計画でした。複数の軌道が混在することで、衛星システム全体でカバーできるエリアが広がり、街中や山間部でも電波を受信しやすくなります。

出典:みちびきウェブサイト
https://qzss.go.jp/overview/services/seven-satellite.htmlまた、衛星機数を増やすことで、常に4機以上は日本から見える上空にいる状況を目指します。これによって、先ほども説明にあったように、GPSに頼らず、「みちびき」だけでサービスを提供できるようになります。
──長期的には11機体制も視野に入っているそうですね。
松山 国の宇宙基本計画で11機体制への拡大が決定しています。2030年代から段階的に新しい衛星を打ち上げていき、運用をスタートさせる計画になっています。衛星の数がさらに増えることで、測位精度がいっそう高まり、バックアップ体制も万全になります。
一方、衛星の数が増えれば、当然ながら運用もたいへんになります。運用にもAIを活用して、人的負荷を軽減できる仕組みづくりを現在NEC社内で検討しているところです。
──「みちびき」プロジェクトで、これからどのような役割を果たしていきたいか、それぞれの思いを最後にお聞かせください。
寺田 「みちびき」が多くの方々にとってもっと役立つシステムになるよう改善を続けること。信号認証などの仕組みをさらに進化させて、国の安全保障にも役立つシステムにしていくこと。その2つが大きな目標です。
二階堂 宇宙事業というフィールドを通じて、人や社会の役に立ちたいという思いがずっとあります。自分の担当領域であるアンテナシステムの専門性をより磨きながら、「みちびき」が生み出す価値をどんどん大きくしていきたいですね。
松山 システムを拡大させる一番の目的は、「みちびき」を活用した新しいサービスを生み出し、より多くの皆さんに利便性を届けていくことです。システムが複雑になっても安定的に運用していけるよう、チームのメンバーたちと連携しながらプロジェクトを進めていきたいと思います。
新屋 「みちびき」は社会インフラとして今後も永続的に続いていくプロジェクトと認識しています。この先20数年の間でも、新しい技術がどんどん登場して、チームのメンバーも入れ替わっていくでしょう。技術が進化して、メンバーの顔触れが変わっても、プロジェクトを安定的に進めていけるよう、スキル、NECの文化、そして宇宙事業にかける思いを継承していきたい。そう考えています。

2026年7月24日