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三井住友海上火災保険株式会社様

ビジネス変革に向かう社員の意識を醸成
社内向け生成AI基盤「MS-Assistant」の挑戦

業種:
  • 金融機関
業務:
  • 共通業務
製品:
  • その他
ソリューション・サービス:
  • AI・ビッグデータ

事例のポイント

課題背景

  • 社内向け生成AI基盤「MS-Assistant」の回答精度を高めたい
  • ビジネス変革に取り組むために社員の意識を高めたい
  • 生成AIの分野は急速に技術が発展している

成果

継続的なチャレンジで回答精度を高める

複雑なマニュアルや図表への対応の強化、社員の意見を取り入れるためのファインチューニングに取り組むことで、回答の精度を高める

新しい技術を積極的に取り入れ、全社的なイノベーション風土を醸成

商品や事務に関する照会応答業務のさらなる効率化を目指す一手として「MS-Assistant」に社内マニュアルを搭載。さらに社員の意見で「MS-Assistant」が成長する仕組みを実現することでサービスの利用を促し、社員の働き方改革も目指す

NECと共に考え、共に挑戦する

現時点で正解とされている技術を選ぶのではなく、将来を見据え、柔軟に対応できるような計画を立て、共に挑戦してくれる。NECは信頼できるパートナー

導入ソリューション

図 MS-Assistantの画面例

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事例の詳細

導入前の背景や課題

三井住友海上火災保険株式会社
ビジネスデザイン部
AIインフィニティラボ
チーム長(データサイエンティスト)
博士(工学)
桑田 修平 氏

大きな変革に向けて生成AIを積極的に活用

自動車保険、火災保険、傷害保険などを提供する損害保険会社の三井住友海上火災保険(以下、三井住友海上)様。将来の予測が困難で不確実性が高いといわれる現在、保険会社にできることは何か──。同社は存在意義を改めて見直し、大きな変革に取り組んでいます。

「例えば、保険による補償だけでなく、事故を予防するためのソリューションや事故発生後の早期のリカバリーを実現するためのソリューションなど、“補償前後のソリューション”をお客さまに提案しています。また当社を含めた損保業界が置かれている状況を受け止め、ビジネスプロセスや働き方などを変革する取り組みを進めています」と同社の桑田 修平氏は話します。

生成AIの活用も変革のための重要な手段と位置付けています。プロンプトを入力すると回答を返す三井住友海上様独自の社内向け生成AI基盤「MS-Assistant」を開発し、既に全社で利用しています。「まず期待したのが社員の意識変化です。MS-Assistantを通じて働き方を変えることで、ビジネスプロセス変革に向けた風土醸成の一助になるのではと考えました」と桑田氏は言います。

三井住友海上火災保険株式会社
ビジネスデザイン部
AIインフィニティラボ
主任(データサイエンティスト)
筒井 正二郎 氏

もちろん変革意識の醸成を促すだけでなく、同社は業務の効率化や高度化のためにMS-Assistantの強化に継続的に取り組んでいます。「業務ごとの工数調査結果や、業務と生成AIの相性に関する検討結果に基づき、最初に取り組むテーマとして、問い合わせ対応(照会対応)の効率化に焦点を当てました。リリース当初、MS-Assistantは文章作成やアイデアの壁打ちなど一般的な業務の支援に活用していましたが、『RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)』によって商品・事務手続マニュアルを参照し、照会内容に対する回答案を自動生成する機能を追加。『この特約の詳細を教えてください』といった代理店からの専門的な照会に対して、営業や事務担当者が回答を行う際に活用できるようにしました」と同社の筒井 正二郎氏は話します。

選択のポイント

単に技術を提供するのではなく共に挑戦してくれる

RAGを活用した回答案の自動生成機能の開発など、同社と共にMS-Assistantの強化に取り組んでいるのがNECです。

「NECと取り組む大きな理由が『姿勢』です。生成AIはめまぐるしく発展しており、次々に新しい技術や方法が登場します。そうした中で、MS-Assistantの進化を確実に前進させるのは難易度がとても高い取り組みです。最新技術の導入には試行錯誤が必要不可欠で、明確な答えがないなかでも、いかに効率良く最善の解に辿りつけるかが重要です。AIに関する深い知識と豊富な実装経験に基づき、私たちが目指すことを理解した上で、今やるべきことについて共に悩み、共に考え、将来も見据えて共に挑戦してくれます。それがNECを信頼している理由です」と桑田氏は強調します。

導入後の成果

継続的なチャレンジで回答精度を高める

目下、MS-Assistantの目標は回答精度のさらなる改善です。同社とNECは、毎週ミーティングを開催し、その方法について議論しています。直近では3つのチャレンジを行いました。

まず取り組んだのが、構造が複雑なマニュアルへの対応です。人は、情報が複数ページにまたがって記載されていても、関連付けて理解することができますが、AIには、その把握が難しい場合がありました。マニュアルの構造や情報をどのように加工すれば関連付けがうまく行われるか、RAGの本質とも言える“泥臭い”作業に丁寧に取り組みました。

次に取り組んだのが、マニュアルに掲載されている図や表の扱いです。照会内容によっては、図表なしではMS-Assistantが正しい回答を返せないものがあったからです。図表とその図表に関連する文字情報との対応関係を事前に整理しておくことによって、図表と文字のチャンクを組み合わせた推論をできるようにしました。

続けて取り組んだのが、自動生成した回答案に対する社員の評価をMS-Assistantに反映するというテーマです。社員によるフィードバックをどう取り組むのが有効か、複数の選択肢が考えられた中で、今回は運用中の大規模言語モデルと、NECが開発した生成AI「cotomi」を組み合わせる方式を採用しました。「cotomi」に対してのみ事後学習(ファインチューニング)を行い、それぞれのモデルの強みを活かす形で精度向上を図りました。

「保険商品のマニュアルは非常に複雑。人であっても、ベテランと若手には探す能力に大きな差があります。そこで『このような問いに対しては、マニュアルのここを見る』というベテランの知見をMS-Assistantに学習させることで『暗黙知』を『形式知』にできれば、これまでは身に付けるのに多くの時間がかかった知見が速やかに業務に反映されることになります。また、社員の声を反映するということは、全員でMS-Assistantを育てるということ。それがさらなる意識変革につながると考えました」と筒井氏は言います。

商品部門を含む社内各部を巻き込んだ検証活動を通じて、これらの取り組みによる回答の精度向上が確認できたことから、同社は本番環境でも運用を開始。実際の業務での利用状況を見ながら、社員の意見をどのように継続的に反映していくか検討していく考えです。

「回答の精度向上に向けては、ほかにもさまざまな選択肢があります。例えば、一問一答形式ではなく、MS-Assistant側から利用者に追加の質問を投げかけることで、照会内容に関する解像度を高め、その結果、回答精度を向上させる方法も考えられます。選択肢を1つずつ検討しながらMS-Assistantを進化させ、将来的には代理店にも公開していきたいと考えています」と桑田氏は話します。

今後も同社の生成AI活用の挑戦は続きます。業務の大幅な効率化を実現した先には、本丸ともいえるビジネスモデル、ビジネスプロセスの変革があります。同社がこれまでの経験をどのように変革に活かしていくのか。大いに注目です。

NEC担当者の声

変化が激しいからこそ「フリー」に考えることが重要

AIおよび生成AIの分野は技術の発展がすさまじく、半年先、一年先のことすら予想することが難しい。現在、通用している方法論であってもすぐに過去のものとなり、導入した技術の役立つ範囲も、ほかの技術との関係も刻々と変わっていきます。ですから、この施策を考える際はツールフリー、テクノロジーフリーで考えることが重要。NECは、たとえ自社製のものがあっても特定のツールや技術には固執しません。一方、必要な技術がその時点でなければ、自作してでも引き出しを用意する覚悟です。

三井住友海上様との取り組みにも、その姿勢でのぞんでいます。利用者が使いたくなるシステムは、自分の意見が反映されて改善されていくべきと考え、それを実現する手法としてファインチューニングを選択しましたが、数カ月後には別の方法について議論していても特別なことではありません。

MS-Assistantを一般的な業務だけでなく、三井住友海上様の業務に特化したサービスに仕上げる取り組みは、企業の持つ知見をどのようにAIに取り込んでいくかという挑戦です。一部にはAIに知見を集約できれば、人には特別な知見を求めなくなるといった極端な論調もありますが、企業と人、そして知見の関係やバランスが変化するなら、NECは、それを見極め、変化に伴走し、お客さまや社会が求める価値を提供できる存在になりたい。そう考えています。

NEC
コンサルティングサービス事業部門
アナリティクスコンサルティング統括部
上席データサイエンティスト
本橋 洋介
  • 本記事に記載の部署名・役職名は取材当時のものです。

お客様プロフィール

三井住友海上火災保険株式会社

所在地 東京都千代田区神田駿河台3-9
設立 大正7年(1918年)10月21日
従業員数 12,093名(単体) 20,521名(連結)
概要 MS&ADインシュアランス グループの中核事業会社として、グローバルな保険・金融サービス事業を通じて、安心と安全を提供し、活力ある社会の発展と地球の健やかな未来を支える。
URL new windowhttps://www.ms-ins.com/


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(2025年9月18日)

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