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【Oracle×生成AI 第1回】あなたの会社のデータ、活かせていますか?
生成AIの登場により、私たちはまさにビジネス変革の時代を迎えています。皆さんの現場では、この変化をどのように感じていますか?大きな期待が寄せられる一方で、実業務での活用にまだ踏み切れていないケースも少なくありません。本記事では生成AIの実用化に向けたデータ基盤としてのOracle CloudおよびOracle Databaseの価値を中心に、NECにおける最新の適用事例を紹介します。
目次
1 生成AIで企業データを活用するには?
少し前までは「未来の話」のように感じていた生成AIですが、翻訳や文章作成など、日常的に使われる身近なものになってきましたよね。皆さんは普段、どんな用途で生成AIアプリケーションを活用されていますか。私は、メール文章の作成や会議資料の要約、アイデア出し、ソースコードやテストコードの生成といった開発業務まで、さまざまな場面で重宝しています。
このような個人レベルでの活用が広がる中、市場には数多くの生成AIサービスが登場しています。ChatGPTで有名なOpenAIのGPTシリーズ(GPT-4oなど)をはじめ、Anthropicの「Claude」、Googleの「Gemini」、Metaの「Llama」など、多くの企業が独自の生成AIモデルを開発し、アプリケーションとして提供しています。
これら一般公開されている汎用的なAIモデルは、幅広い知識を持ち多様なタスクに対応可能ですが、これらのモデルは、世の中の公開情報をベースに学習しているため、企業固有の最新データや専門的な知識は持ち合わせていません。

では、生成AIに企業固有のデータを活用してもらうにはどうすれば良いでしょうか。
主なアプローチとして、生成AIモデルを「再学習」する手法と、「外部情報として企業データを連携(RAG:Retrieval Augmented Generation)」する手法の2つがあります。

1つ目の再学習は、企業データを使って生成AIモデル自体を再度トレーニングする手法です。これにより、特定の業界や業務に特化した高度な知識をモデルに組み込むことができ、専門的な用語や文脈を深く理解した応答が可能になります。ただし、再学習には大量のデータと高い計算リソースが必要で、そのたびに時間とコストがかかるほか、新しい情報を反映させるには再度トレーニングを行う必要があるため、情報の鮮度を保つのが難しいという課題があります。
2つ目の企業データとの連携は、生成AIモデルを再学習せず外部のデータベースやドキュメントからリアルタイムに情報を検索し、その情報をもとに回答を生成する仕組みです。これにより、常に最新のデータを活用できるうえ、再学習に比べて導入や運用のコストが抑えられることから、ビジネスの現場で注目されています。この手法によるNECでの適用事例については、4章で紹介します。
項目 | 再学習 | 外部情報として企業データを連携(RAG) |
---|---|---|
特徴 | ・特定の業界や業務の専門的な用語や文脈を深く理解した応答が可能 ・再学習のために時間とコストがかかる |
・最新の企業データに基づいた回答が可能 ・再学習に比べて導入や運用のコストが抑えられる |
2 Oracle Cloudで実現する生成AI実行基盤
企業が生成AIをビジネスに活用する際、システムの性能やコストに加え、データの安全性や運用のしやすさも重要な検討課題となります。Oracle Cloudは、こうした課題に対応できるAI実行基盤として活用可能です。
最大13万台を超えるGPUを搭載可能なスーパーコンピュータ環境*1を提供し、業界トップクラスのインフラ性能を誇ります。また、高速かつ低遅延のネットワーク環境*1により、大規模なGPUクラスタを柔軟に構築でき、効率的で安定した処理を実現します。
この強力なインフラ基盤上には、RAGの拡張機能を備えたOracle Database、マネージドサービスとして生成AIを利用可能なOCI Generative AI Serviceなど、生成AI活用基盤として一貫したサービススタックが揃っています。
主なOracle Cloudの生成AI関連サービスと特徴
OCI Generative AI Service:
高度な言語モデル(MetaのLlama、Cohere)をフルマネージドで利用可能。文章作成支援、要約、分析、チャットなど幅広いユースケースに対応し、コンテナやインフラ管理の手間なく活用可能です。
OCI Generative AI Agents:
RAGやSQL生成等、目的に応じて登録した最適なツールを自ら判断して選び出し、それらを連携させながら処理を進める高度な対話型AIエージェントを提供しています。
OCI Data Science:
AIモデルの開発から運用までを支援するMLOpsプラットフォーム。データの前処理やモデルのトレーニング、デプロイを一元管理し、効率的なAI活用を実現します。
Oracle Database:
RAGのデータソースとしてOracle Databaseを活用できます。最新の「Oracle Database 23ai AI Vector Search」により、生成AIが企業内データを高速かつ高精度で検索できる環境を提供します。自律運用機能を備える「Autonomous Database」は、運用負荷を大幅に軽減しつつ、高い可用性とセキュリティを確保し、自然言語からSQLを自動生成する「Select AI」機能により、開発者やビジネスユーザーが直感的にデータを活用できます。
Oracle CloudをAI実行基盤として活用する事により、データ移動の手間やセキュリティリスクを抑えつつ、AIモデルの開発・運用が可能です。Oracle CloudのみでAIエコシステムが完結するため、導入・運用コストの削減にもつながります。
次の章では、生成AIのデータ基盤としてのOracle Databaseの強みに注目し紹介します。
3 なぜOracle Database?
多くの企業が生成AIのPoC(概念実証)を実施していますが、本番環境への適用に踏み切れずにいるケースが少なくありません。これは、PoC段階では見えにくい本番特有の課題が多数存在することが一因です。
例えば、生成AIを本番環境に適用する際には、テスト環境では良好だった性能が本番の大規模なデータ量で劣化する応答性の課題や、実運用でのアクセス制御・セキュリティ管理の複雑さが顕在化します。これらの課題は、PoC段階では主にAIの精度の方に着目し見落とされがちですが、事前の検討が不可欠です。
Oracle Databaseは、金融や製造、流通などの様々なミッションクリティカルなシステムを長年支えてきた実績があり、こういった要件に対応する機能や仕組みが従前から備わっています。加えて、最新のOracle Database 23aiでは、生成AIとネイティブに連携できる機能をサポートしています。これにより、企業は生成AIとの対話のために専用のベクトルデータベース*2 を用意することなく、生成AIとシームレスに連携することができます。

次の章では、実際にNECでOracle Database 23aiを活用し、業務効率化を行った事例を紹介します。
4 NECでの企業データ活用例
NECでは、Oracle製品のサポート窓口であるNEORC(NEC Oracle Response Center)において、昨今の人手不足への対応や生産性向上を目指し、業務効率化に取り組んでいます。
サポート業務を分析した結果、最も時間や手間がかかっていたのは「調査」と「回答案作成」でした。そこで、これらの業務にフォーカスし生成AIを活用する事でアナリストの負荷軽減を目的としたPoCを実施しました。

新規問い合わせの多くは過去の問い合わせと類似しているため、回答を作成する際は蓄積してきた過去の問い合わせ履歴を活用しています。生成AIの外部データソースとしてOracle Databaseと連携(RAG)し、「AI Vector Search」機能を使って履歴から関連性の高い情報を抽出することで、アナリストの回答作成を支援する形を取っています。

評価では、生成AIによる回答の正確性についてサポートアナリストが確認し、文脈理解、事実の正確さ、関連性の観点で行いました。生成AIの課題としてハルシネーション(誤答)リスクがありますが、元々Oracle Databaseに格納されていた問い合わせ履歴に紐づく問い合わせID情報をメタデータとして活用し、生成AIが「どの問い合わせ情報を基に回答を生成したか」を回答根拠として明示する事で、信頼性の高い回答生成を実現しました。
以下にアンケートでのアナリストによる評価点の一部を記載します。
•従来のやり方よりも早く調査できる
•回答文のたたき台として役立つ
•調査の方針を決めるために役立つ
•引用元の過去問い合わせの特定が可能な点が有用
今回のPoCの成果では、従来のキーワード事例検索や回答案作成といった人手によるサポート業務の問い合わせ対応時間と比較し、生成AIによる回答作成(人間による回答チェック含む)において20%以上短縮できる見通しが立ったため、本番稼働へ向けて進めています(2025/7 現在)。
プレスリリース:NEC、サポート業務の効率化に向けてオラクルのAI Vector Searchを採用 | NEC
本番ではPoCに比べてデータ量が膨大になりますが、リレーショナルデータとしてOracle Databaseに格納されているメタデータ情報(例えば問い合わせのカテゴリやコンポーネント等)を活用する事で、生成AIによる応答性の課題に取り組んでいます。
なお、今回のPoC、本番環境はOracle Cloud上で実現しており、生成AIは2章で紹介したマネージドサービス(OCI Generative AI Service)を使っています。潤沢なGPUリソースと生成AIを独自で用意する必要はなく、従量課金で使いたいときに使った分だけ費用を支払う仕組みとなっているので、簡単に試す事が可能です。是非お試しください。
5 おわりに
本記事では、生成AIによる企業データの活用に向けて、Oracle Cloud及びOracle Databaseの紹介、及びNEC社内での適用事例を紹介しました。
本記事の内容については、以下よりお問い合わせください。
※ NECでは、生成AIによる企業データ活用の第一歩をお手伝いするサービスとして、OCI上に生成AIのPoC基盤を構築し、技術支援を行うサービスを提供しております。

皆様のビジネス課題解決に向けて、参考となれば幸いです。
今後もOracle×生成AIに関する情報を発信する予定です。ぜひご覧ください。
注釈:
*1: GPUを搭載可能な高性能ベアメタルおよび仮想マシン環境を提供
(GPU、仮想マシンとベアメタル | オラクル | Oracle 日本)
*2:文章や画像の特徴を数値化した「ベクトル」を保存・検索するデータベース。生成AIが類似情報を高速に検索するために使われます。
参考:
・OCI Generative AI Service
Oracle Cloud Infrastructureドキュメント – 生成AI
・OCI Generative AI Agents
Oracle Cloud Infrastructureドキュメント – 生成AIエージェント
・OCI Data Science
OCI Data Scienceの機能|オラクル | Oracle 日本
・Oracle Database
データベースの機能 | オラクル | Oracle 日本
・Oracle Autonomous Database
Oracle Autonomous Databaseとは