軽減税率と消費税増税に向けたシステムの対応

[2018年9月版]第7回「補足:適格請求書等保存方式」(3)

第7回「補足:適格請求書等保存方式」(3) (2018年9月5日公開)

淺海克人
(ウティルコンサルティング コンサルタント)

【プロフィール】公認会計士・税理士
NECにて主に民需系の情報システムの販売・構築に携わった後、公認会計士試験に合格、監査法人に入所。監査法人にて会計監査、内部統制監査、IT監査などに従事。現在、ウティルコンサルティングを立ち上げ活動中。

(3)適格請求書発行事業者の義務、記載事項等

1.義務等の概要

適格請求書発行事業者が国内において課税資産の譲渡等を行った場合には、相手方(課税事業者に限る)からの求めに応じ、適格請求書を交付する義務が課される(標準税率の取引のみの場合にも適格請求書の交付義務はあり、免税取引、非課税取引、不課税取引のみを行った場合については、適格請求書の交付義務はない)。

適格請求書に代えて、適格簡易請求書を交付できる場合もある(不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等の事業を行う場合、小売業等)。

適格請求書発行事業者が行う事業の性格上、適格請求書を交付することが困難として、適格請求書の交付義務が免除されるものもある(3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送等)。現行方式、区分記載請求書等保存方式の場合、3万円未満の取引については請求書等の保存は求められず、帳簿への記載のみで仕入税額控除を受けることができるのに対し、適格請求書等保存方式の場合には原則適格請求書等の保存が必要であり(例外はある)、帳簿への記載のみで仕入税額控除を受けることができる範囲が狭くなっていることには注意を要す。免税業者からの仕入れ等に関しても特例が設けられており、業務上注意が必要と思われる。

2.適格請求書

適格請求書の様式は法令等で定められていないが、記載事項は定められている(図1参照)。

当該記載事項が記載された書類であれば、請求書、納品書、領収書、レシート等、その名称は問わず適格請求書に該当。手書きの領収書であっても記載事項が記載されていれば、適格請求書に該当する。請求データ等の電子データに適格請求書の記載事項を記録して提供することにより、適格請求書の交付に代えることもできる。

適格請求書は法定の記載事項が記載された請求書等をいうが、1つの書類のみで全ての記載事項を満たす必要はなく、交付された複数の書類の書類相互の関連が明確であり、適格請求書の交付対象となる取引内容を正確に認識できる方法(請求書に納品書番号を記載する等)で交付されていれば、その複数の書類全体により適格請求書の記載事項を満たすという理解が重要である(図3参照)。

現在交付している(入手している)請求書等の形式は種々あることが想定され、適格請求書の記載事項を満たすという観点からそれら請求書等を分析し、適格請求書等保存方式への対応方法を検討することが肝要と考える(区分記載請求書等保存方式においても同様)。

又、適格請求書として必要な事項が記載されている請求書等については、区分記載請求書等としても必要な事項が記載されているものになる。平成35年(2023年)9月30日以前の区分記載請求書等へ登録番号の記載をしても差し支えない。

適格請求書の記載事項である消費税額等については、1の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行う(切上げ、切捨て、四捨五入等の多数処理方法については任意)。

<適格請求書の記載事項>

発行者の氏名又は名称及び登録番号/取引年月日/取引の内容(軽減税率対象である旨含む)/ 税率ごとに合計した対価の額及び適用税率/消費税額等/交付を受ける事業者の氏名又は名称

3.適格簡易請求書

適格請求書発行事業者が、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う次の事業を行う場合には、適格請求書に代えて、適格請求書の記載事項を簡易なものにした適格簡易請求書を交付することができる。交付を受ける事業者の氏名又は名称が不要なこと、税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率のいずれか一方の記載で足りることが適格請求書の記載要件と異なるところである。

a)小売業、 b)飲食業、 c)写真業、 d)旅行業、 e)タクシー業、 f)駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限る)、 g)その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業)

<適格簡易請求書の記載事項>

発行者の氏名又は名称及び登録番号/取引年月日/取引の内容(軽減税率対象である旨含む)/税率ごとに合計した対価の額/税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率

4.適格返還請求書

適格請求書発行事業者には、課税事業者に売上げに係る対価の返還等を行う場合、適格返還請求書を交付する義務が課されている。

尚、適格請求書と適格返還請求書それぞれに必要な記載事項を記載して1枚の書類で交付することも可能である。

継続して課税資産の譲渡等の対価の額から売上げに係る対価の返還等の金額を控除した金額及びその金額に基づき計算した消費税額等を税率ごとに請求書等に記載することで、適格請求書に記載すべき「課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額」及び「税率ごとに区分した消費税額等」と適格返還請求書に記載すべき「売上げに係る対価の返還等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額」及び「売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額等」の記載を満たすことも可能。

この場合、課税資産の譲渡等の金額から売上げに係る対価の返還等の金額を控除した金額に基づく消費税額等の計算については、税率ごと1回の端数処理となる。

<適格返還請求書の記載事項>

発行者の氏名又は名称及び登録番号/売上げに係る対価の返還等を行う年月日及びその売上げに係る対価の返還等の基になった課税資産の譲渡等を行った年月日(適格請求書を交付した売上げに係るものについては、課税期間の範囲で一定の期間の記載で可)/売上げに係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(売上げに係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)/売上げに係る対価の返還等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額/売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額等又は適用税率

5.適格請求書の交付義務の免除

適格請求書発行事業者が行う事業の性格上、適格請求書を交付することが困難として、適格請求書の交付が免除されるものがある。

<適格請求書の交付が免除される例>

  • a)3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
  • b)出荷者が卸売市場において行う生鮮食品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限る)
  • c)生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限る)
  • d)3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等
  • e)郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ホストに差し出されたものに限る)

6.適格請求書発行事業者の登録日から登録の通知を受けるまでの扱い

適格請求書発行事業者の登録日から登録の通知を受ける間に請求書等を交付している場合、一般には当該請求書等には登録番号等の記載がなく、請求書等は適格請求書の記載事項を満たさないことになる。

当該場合には、通知を受けた後、登録番号等を記載した適格請求書の記載事項を満たした請求書等を改めて相手方の交付する必要がある。ただし、適格請求書の記載事項として不足する事項を相手方に書面等で通知することで、既に交付した請求書等と合わせて適格請求書の記載事項を満たすことも可能。

7.適格請求書の写しの保存期間等

交付した日又は提供した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間保存しなければならない(仕入税額控除の要件として保存すべき請求書等についても同様)。


図3.適格請求書の例(複数の書類全体により適格請求書の記載事項を満たすパターン)
-「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」の例を元に作成-

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