軽減税率と消費税増税に向けたシステムの対応

[2018年8月版]第1回「軽減税率制度を含めた消費税制度改正の概要とシステムへの影響」(2)

第1回「軽減税率制度を含めた消費税制度改正の概要とシステムへの影響」(2)(2018年8月1日公開)

淺海克人
(ウティルコンサルティング コンサルタント)

【プロフィール】公認会計士・税理士
NECにて主に民需系の情報システムの販売・構築に携わった後、公認会計士試験に合格、監査法人に入所。監査法人にて会計監査、内部統制監査、IT監査などに従事。現在、ウティルコンサルティングを立ち上げ活動中。

消費税率等の引き上げを踏まえた全体的な対応イメージ

前述の通り、平成31年(2019年)10月1日以降に消費税の軽減税率制度が導入され、課税取引の税率は、原則として8%(軽減税率)と10%(標準税率)となる。ただし、経過措置等の関係で、軽減税率でなくとも標準税率10%の所、税率が8%や5%等の取引も残り得る。

又、平成31年(2019年)10月1日以降と平成35年(2023年)10月1日以降とでは、軽減税率といっても、経理方式等が異なる予定であり、業務運用・システム内容が異なると考えられ、注意が必要である。

少なくとも、①標準税率(10%)および経過措置等、②軽減税率(平成31年(2019年)10月1日~平成35年(2023年)9月30日:区分記載請求書等保存方式)、③軽減税率(平成35年(2023年)10月1日~:適格請求書等保存方式)に分けて業務対応・システム対応の検討を進める必要があると考える。

*区分記載請求書等保存方式が適用される段階から、適格請求書等保存方式対応のシステムで対処する方法も考えられる。

(1)標準税率(10%)及び経過措置等への対応

平成31年(2019年)10月1日以降の標準税率10%への変更および経過措置等への対応に関しては、平成26年(2014年)4月1日の税率8%への変更および経過措置等への対応が参考になる。

経過措置等を再確認し、併せて、税率8%への変更時の対応状況・課題等を整理・分析し、標準税率(10%)および経過措置等へ備えることが肝要と考える。

尚、指定日(平成31年(2019年)4月1日)までには、そう時間が残されているわけではない事から早めの対応をお勧めする。

参考までに、主な経過措置等を図2に示す。

図2:10%へ税率引上げ後においても改正前の税率(8%)が適用される主な取引(経過措置等)

主な経過措置の内容
旅客運賃等 平成31年(2019年)10月1日以後に行う旅客運送の対価や映画・演劇を催す場所、競馬場、競輪場、美術館、遊園地等への入場料金等のうち、平成26年(2014年)4月1日から平成31年(2019年)9月30日までの間に領収しているもの
電気料金等 継続供給契約に基づき、平成31年(2019年)10月1日前から継続して供給している電気、ガス、水道、電話、灯油に係る料金等で、平成31年(2019年)10月1日から平成31年(2019年)10月31日までの間に料金の支払いを受ける権利が確定するもの
請負工事等 平成25年(2013年)10月1日から平成31年(2019年)3月31日までの間に締結した工事(製造を含みます。)に係る請負契約(一定の要件に該当する測量、設計及びソフトウエアの開発等に係る請負契約を含みます。)に基づき、平成31年(2019年)10月1日以後に課税資産の譲渡等を行う場合における、当該課税資産の譲渡等
資産の貸付け 平成25年(2013年)10月1日から平成31年(2019年)3月31日までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、平成31年(2019年)10月1日前から同日以後引き続き貸付けを行っている場合(一定の要件に該当するものに限ります。)における、平成31年(2019年)10月1日以後に行う当該資産の貸付け
予約販売に係る書籍等 平成31年(2019年)4月1日前に締結した不特定多数の者に対する定期継続供給契約に基づき譲渡する書籍その他の物品に係る対価を平成31年(2019年)10月1日前に領収している場合で、その譲渡が平成31年(2019年)10月1日以後に行われるもの
*軽減税率が適用される取引については、本経過措置の適用はない
通信販売 通信販売の方法により商品を販売する事業者が、平成31年(2019年)4月1日前にその販売価格等の条件を提示し、又は提示する準備を完了した場合において、平成31年(2019年)10月1日前に申込みを受け、提示した条件に従って平成31年(2019年)10月1日以後に行われる商品の販売
*軽減税率が適用される取引については、本経過措置の適用はない

その他、仕入れに係る対価の返還等、売上に係る対価の返還等、貸倒れに係る消費税額の控除等も注意を要する取引である。

経過措置等への対応は、8%へ税率引き上げ時にシステム含めて適宜対応されているとは考えるが、今一度、ご確認いただければ幸いである。

軽減税率制度の概要

対象品目

◇飲食料品の譲渡(食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除く)、外食サービスを除く)。

◇定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞の譲渡。

◇飲食料品と外食サービス・一体商品の線引き。

例1) テイクアウト・持ち帰り・宅配は、外食にあたらない。
<軽減税率8%>

例2) 店内飲食・ケータリング・出張料理・一部のコンビニでのイートインは外食に該当。
<標準税率10%>

税率

軽減税率 8%(国税6.24%、地方消費税1.76%)、標準税率 10%(国税7.8%、地方消費税2.2%)

経理方式等

平成35年(2023年)9月30日までと平成35年(2023年)10月1日以降とでは仕組みが異なるので注意を要す。

◇区分記載請求書等保存方式(平成31年(2019年)10月1日~平成35年(2023年)9月30日)

  • 帳簿の記載事項にa)軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨が加わる。
  • 請求書等の記載事項にb)軽減対象課税資産の譲渡等である旨、c)税率の異なるごとに合計した対価の額が加わる。b)、c)については請求書の交付を受けた事業者が、事実に基づき追記する事も可能。
  • 売上、仕入を税率ごとに区分することが困難な中小事業者(基準期間の課税売上が5,000万円以下の事業者)に限り、売上税額、仕入税額の計算の特例あり(簡易課税の事後選択含む)。
    *制度改定により中小事業者以外の事業者は当該措置の適用はなくなった。
  • 税額計算の方法は現行方式と同じ(税込価格からの割戻計算)。

◇適格請求書等保存方式(平成35年(2023年)10月1日~):いわゆる、インボイス方式

  • 登録を受けた課税業者が交付する適格請求書及び帳簿の保存が仕入税額控除の要件。
    *適格請求書発行事業者の登録申請が必須。登録申請なくして適格請求書等の発行は不可。
  1. 適格請求書の記載事項
    発行者の氏名又は名称及び登録番号/取引年月日/取引の内容(軽減税率対象である旨含む)/ 税率ごとに合計した対価の額及び適用税率/消費税額等/交付を受ける事業者の氏名又は名称
  2. 免税業者の適格請求書の発行は不可(免税業者からの仕入税額控除は不可)
    適格請求書等保存方式を導入後6年間、免税業者からの仕入について一定割合の仕入税額控除ができる特例あり(前半3年は80%控除、後半3年は50%控除)。
  • 税額計算:現行方法(税込価格からの割戻計算)と適格請求書の税額の積上げ計算の選択制