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災害の予兆検知や新人作業者のスキル向上に貢献
生成AIを使いこなし、学習レスで画像・映像の差異を検知する技術

NECの最先端技術

2026年10月23日

社会的に活用が広がる生成AIですが、ハルシネーションの発生や画像・動画間の微細な差異の認識が苦手という問題があるため、行政やビジネスの実務での活用がなかなか進まない現状があります。これに対し、NECでは今回これらの課題を克服し、防災や製造業の現場での活用を促進する技術を開発しました。その価値と技術の詳細について、研究者に詳しく話を聞きました。

生成AIの知識を活かし、さまざまな現場へすぐに導入可能

サイバーフィジカルインテリジェンス研究所
主任研究員
井下 哲夫

― 学習レスで画像・映像の差異を検知する技術とは、どのような技術なのでしょうか?

井下:映像中の任意の差異を高精度に検知することができる技術です。例えば屋外のカメラ映像に適用すれば、平常状態との差異を見つけ出して河川氾濫や雪害等の予兆を検知することが可能です。生成AIモデル(VLM:視覚言語モデル)をベースにしているので、その幅広い知識を活かして多様な目的や用途へ柔軟に対応できます。

特に最近では、日本国内だけを見てもゲリラ豪雨や大雪等、自然災害の激甚化が大きな問題となっています。国や自治体もネットワークカメラ等のインフラを配備して防災強化に取り組んでいますが、人材不足の問題もあり、せっかくのネットワークカメラも、ただ映像を撮りためるだけというもったいない状況になっていることもしばしばです。そもそも、膨大な数のネットワークカメラで撮影した映像を何時間分も見続けることは現実的ではありません。こうした課題があるなかで、AIによって映像中から異常を正確かつ迅速に検知してアラートを出す等の効率化を実現できないかと考え、研究を進めてきました。

― AIで映像から災害の予兆を検知するという技術は、これまでに存在しなかったのでしょうか?

井下:確かに、災害の予兆を検知する技術自体は、これまでも存在していました。しかし、それは1台1台のカメラと、その現場の用途ごとに特化したAIモデルを構築するというものです。河川氾濫の検知であれば、氾濫する河川の映像を集めて学習し、専用のAIモデルをつくり上げなければならないので、非常に大きな手間がかかります。これに対し、既存の生成AIを上手く活用した本技術では既に幅広い知識を習得しているので、一般的な災害に学習レスで現場適用することができます。人が一つひとつ教え込んで作っていた特化型モデルでは対応しづらい多種の災害にも対応できるというメリットもあります。

― 用途としては、防災をメインで考えているのでしょうか?

井下:目下の想定としては、防災を考えています。しかし、この技術はもともと製造業の技能伝承のために研究していたものがベースになっています。熟練者と初心者の動作の違いを見分けて、初心者の作業習熟に活かすことを目指していたのですが、映像の差異を見分けるというこの技術の本質に立ち返ったとき、防災用途でも現在と数分前の差異を見ることで社会に役立てられるのではないかと考えて研究を進めてきた経緯があります。ですから、もともとの研究テーマであった人の動作に着目し、製造業やインフラ点検における新人作業者のスキル向上といった用途も考えているところです。

尤度(ゆうど)のスコア化によってハルシネーションを抑制

サイバーフィジカルインテリジェンス研究所
リサーチャー
松平 茅隼

― 本技術のブレークスルーは、生成AIによってもたらされたのでしょうか?

松平:確かに生成AIは大きな役割を果たしていますが、ただ生成AIを活用するだけで上手くいったわけではありません。最大の課題となったのは、ハルシネーションでした。生成AIが出力する際につくり出してしまう誤情報のことですが、例えば見るからに災害が起きている画像を入力して「災害は起きていますか」と問いかけても、「起きていません」と答えてしまうことがあるなど、回答が非常に不安定なのです。災害検知を扱う以上、これは致命的な欠陥になり得ます。

また、生成AIは見た目が全然違う画像間の比較なら高精度にできるのですが、「どちらの道路の冠水がより深刻ですか?」等の画像間の微細な差異を認識して回答することは苦手としており、今回のテーマで取り組もうとしている差異の検知を行ううえでの大きな障壁となっていました。さらに、現場に導入する場合にはセキュリティや個人情報を鑑みてオンプレミスで動かすため、より能力の低い小規模な生成AIを使うのですが、この環境下ではこれらの課題がさらに深刻化するという問題も抱えていたのです。

そこで今回考え出したのが、生成AIの認識結果をスコア化するという手法です。例えば画像A、画像Bという2つの画像それぞれに対して「道路の冠水状況を説明してください。」という指示を与えると、生成AIは画像Aと画像Bそれぞれについて「道路が冠水している」という文と、対義文である「道路が冠水していない」という文を出力する尤度(ゆうど)を計算します。尤度とは、そうであると言える確率のようなものです。こうして算出された肯定文と対義文の尤度を比較して、画像AとBそれぞれがどのくらい冠水の程度が大きいと言えるのかをスコアとして算出し、双方を比較して回答するのです。

― 肯定文だけでなく、対義文までつくって尤度を比較するのはなぜでしょうか?

松平:精度を高めるためです。生成AIが事前学習されるとき、例えば冠水という情報は冠水している画像にしか付与されないので、どうしても学習データに偏りが生じてしまいます。これを補うために対義文を活用することで精度を向上させることができます。

― なぜスコア化することがハルシネーションの抑止につながるのでしょうか?

松平:スコア化する手法のメリットの1つは、文章を生成する際のランダム性を削減できることです。今回のケースでは、生成AIが文章を生成する際のランダム性からでたらめなことを言ってしまう傾向が確認できました。逆に言えば、たとえハルシネーションが起きたとしても、AI自身は、本当はきちんと理解できていることが多いのです。そのため、一気に文章を出力するのではなく、スコアで定量化するというステップを踏むことでハルシネーションを防ぐことができると考え、この手法をつくり出しました。

また、もう1つのメリットは、生成AIが苦手としていた比較の精度を高められるという点です。数値の比較というフローを整備することで、ハルシネーションによって生じるでたらめな推測ではなく、定量的な比較が可能になります。

誰でも安定的に生成AIを活用できるプロンプト自動生成

― ハルシネーションの他にも課題はありましたか?

井下:もう1つの大きな課題が、プロンプトの設計でした。AIの出力はプロンプトによって大きく左右されます。そのため、最適なプロンプト入力をしようとすると手間がかかりますし、知識やスキルも必要なため、どうしても属人化が進んでしまうのです。そこで、生成AIを使ってプロンプトを自動的に生成できないかというテーマにも取り組んできたのですが、この課題に対しても松平さんがスコア化の技術をもとに解決してくれました。


松平:はい、スコアをもとにプロンプトの改善ル―プをつくることで自動化を実現しました。まずは目的に応じたプロンプトを入力して、スコアを出します。「河川の水量が多いですか?」というようなものであれば、増水している河川を撮影した画像には高いスコアが出ている状態が望ましいはずです。しかし、単純なプロンプトでは水量をうまくスコア化できない画像がどうしても発生してしまいます。そこで、そのようなスコア化がうまくいっていない画像を自動的に抽出し、それらに対するスコアがより的確に水量を表現できるような新しいプロンプトをつくるように生成AIに指示を出します。このループを生成AIに繰り返させることで、最終的に現場のデータや状況に合った最適なスコアが得られるようになります。

また、時間的に近い時刻に撮影された画像・映像同士はスコアが大きくは変化しないはずですし、似たような画像であればスコアに大きな開きはないはずです。こうした基準にも従ってループを回していくことで、専門家でなくても生成AIがデータに特化した最適なプロンプトを導き出してくれます。


松平:これらの技術は、NEC独自のアプローチで世界的にも高い評価を得ています。スコア化によってハルシネーションを防ぐ技術は、8月に行われた画像認識系の国内最大学会「MIRU(Meeting on Image Recognition and Understanding)2026」で発表を行い、オーディエンス賞を受賞しました。また、国際学会「MMAsia(ACM Multimedia Asia)2026」への採択も決まっています。

既存の認識技術との連携で、精度と信頼性向上

― 本技術の今後の展望を教えてください。

松平:技術面では、スコア化の精度をさらに上げていきたいと考えています。そのためには、既存の映像認識技術と組み合わせていくやり方もあるかもしれません。AIは出力までの処理がブラックボックスですから、仕組みが明らかな既存技術を上手く組み合わせることで技術の信頼性を高める効果もありそうです。加えて、このブラックボックスのなかの仕組みに迫っていけるような研究もできたらいいですね。尤度は文章出力に関わるフローの最終段階なので、それよりも前の工程にも踏み込んで出力に関与する部分を引き出せるようなことができればと思っています。

事業としては、昨年は道路の冠水検知を中心に取り組んできましたが、生成AIの能力自体は他にも汎用的に使うことが可能です。土砂崩れや越流、その他にもさまざまな事象の認識に使っていければと考えています。


井下:そうですね。防災を軸に、先ほど言及したような製造業やインフラ点検への応用も考えています。あとは、航空や鉄道等、もう少し別の大きな業種への展開も今後考えていきたいと考えているところです。私たちは、まだ生成AIの力を100%まで引き出せていないと思っています。そのポテンシャルを引き出して応用できるような技術を引き続き検討しつつ、既存の認識技術と組み合わせることで120%の力を引き出せるようなことは目指していきたいです。

また、こういった目標の実現はNECだけの力では困難です。現在、自治体やインフラ事業者と実証実験を進めるほか、慶應AIセンターと連携して生成AIの弱点をいかに克服するかという研究も進めていますので、これからも最先端を走る幅広いプレイヤーと連携しながら生成AIを上手く使いこなす手法や技術の研究を進めていきたいと思っています。

本技術は、画像や映像の差異を高精度に検知することができる技術です。これにより、防災用のカメラ映像から異常を検知するなど、災害対策業務を大きく効率化することが可能になります。

従来も映像から異常を検知するAI技術は存在していましたが、それらは豊富なデータをもとに学習してつくりあげる特化型AIモデルであり、多大なコストと手間が必要でした。これに対し、今回の技術は既存の生成AIをベースにしているため学習レスで現場へ導入することが可能です。生成AIの豊富な知識を活かして、防災以外にも汎用的に使うことができます。

しかし、生成AIをただ活用するだけではハルシネーションが生じるほか、画像間の微細な差異を上手く検知することができないという技術的な課題があります。そこで、本技術では出力する文章の尤度を肯定文と対義文の両面から算出して比較するというスコアに基づいたフローを構築。加えて、スコアをもとにプロンプトを改善するループをつくり上げることで、最適なスコアを生み出すプロンプトを自動生成する機能も開発。入力者のスキルに依存しない運用が可能になります。

本技術の独自性はアカデミアでも高い評価を得ており、画像認識系の国内最大学会「MIRU(Meeting on Image Recognition and Understanding)2026」では発表を行い、オーディエンス賞を受賞。国際学会「MMAsia(ACM Multimedia Asia)2026」にも採択されています。

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