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黄綬褒章受章 手づくりの半導体で最先端研究を支える職人技
2021年12月3日

令和2年 秋の褒章において、NECの社員が黄綬褒章を受章しました。黄綬褒章は、農業、商業、工業等の業務に精励し、他の模範となるような技術や事績を有した人を顕彰するものです。春の褒章で受賞した西に続く受章となりました。半導体チップ製造工として栄えある受章を果たした社員と、その上司である研究者に感想やこれからの期待について話を聞きました。
染谷 浩子
システムプラットフォーム研究所
桐原 明宏
1/1000mmを目と手で調整
― この度は黄綬褒章受章おめでとうございます。ご感想をお聞かせください。
染谷:ただただ驚いています。COVID-19の影響もあって皇居での授章式も延期になっていることもありますが、今でもあまり実感はありません。本当に、私がもらってよかったのかというくらいです。
― 半導体チップ製造での技能が認められての受章となりました。
染谷:そうですね。短大で理系のコースを卒業して平成元年(1989年)に入社して以来、ずっと半導体製造に携わってきました。卒業年にちょうど地元の茨城にNEC つくば研究所が開設されたんです。通勤電車に乗らず車で出勤できるからと思って入社したのが、半導体との関わりの始まりでした(笑) 子どもの頃から機械をいじるのは好きで、ドライバーで目覚まし時計を分解してまた組み立て直したりしていましたね。
入社後は、表面トンネルトランジスタという高速計算機に使う半導体チップの製造に携わりました。その後はテーマが変わるたびに、さまざまな半導体を製作してきました。バイオの分野で使うタンパク質やDNA分析用のチップをつくったこともあります。半導体の世界ではOKであったものが、バイオの世界ではNGであったりと、いろいろと大変だったことを記憶しています。さらに現在では、量子コンピュータやAIを使って材料探索を行うマテリアルズインフォマティクスを実行するためのチップをつくっています。
私がつくるチップは製品として量産するものではなく、研究のために使用するものです。100個くらい試作を重ねていって、ようやく1-2個うまく動作するものをみつけていくというプロトタイピングを行っています。そのため、さまざまな条件で試行錯誤していくことが重要です。そうなると、機械でやると条件出しが非常に難しくなってしまいます。機械は装置にごとに、制御しきれないクセがあるからです。人の手でやった方が、細かく高精度に条件を設定することができます。最終的には「目合わせ」という作業を行い、顕微鏡で見ながら手作業で微調整を行っていくのです。
桐原:半導体は非常に微細な構造をしています。パターンといって、この材料がここにあって、この材料はここにという非常に細かく設計されているものなんです。1/1000ミリメートルの誤差さえも許容されない世界なので、極めて繊細な作業が必要になります。研究段階では、確立された工程がまだあまり無い中で、染谷さんは、その工程の多くをご自身で開発されています。

染谷 浩子
オーダー以上の価値を創り出す
― 染谷さんが仕事をするうえで心がけていることは、何でしょうか?
染谷:「再現性」を大切にしています。例えば試作時に条件を変えたときに、何を採用して結果が変わったのか明確にできないといけません。条件を常に把握して、毎回同じものがつくれるように心掛けています。実験ノートへの記録はもちろん、どんな条件で何を変えたのかは必ずわかるようにしています。後は、「分からなかったら人に聞く」です。分からないまま作業を進めたら、必ず失敗するので、分からない時点で分かる人に聞きます。聞くことは恥ではなく、人に聞いて知識を深めるようにしています。
桐原:染谷さんのノートは、本当にきちんとしているんです。それに、しっかりと工程を計画してスケジュール通りに仕事を完成させるところも、素晴らしい点だと思っています。
染谷:ありがとうございます(笑) あとは、オーダーをくれた研究者に対してプラスアルファの対応をするというところも心掛けていますね。私がつくったもので、研究者は一体何をしたいのかという意図を汲んで先回りするんです。たた要求されたチップをつくるだけではなく、例えば私がつくったチップをつかって性能の測定をしたいんだということまで思いを巡らせて、測定まで先にやって報告する。少しでも研究者の負担を軽減できるようにということは、常に考えています。
桐原:本当に、染谷さんにはいつも助けられています。私たち研究者は、いろいろアイデアは出すものの、製造に至る細かい作業が得意なわけではありません。しかし、染谷さんに相談すれば、ものづくりの経験にもとづいてアイデアを具現化する方法を導き出してくれます。それに、研究者の研究内容までご存じなので、非常にスムーズにやり取りができます。社外のスタッフではこうはいきませんからね。いま社内では染谷さんの力に頼るチームがたくさんあって、引っ張りだこになっているほどです。

桐原 明宏
これからも、ものづくりを楽しみつづける
― 今後、さらにめざしていきたいことはありますか?
染谷:今取り組んでいる量子コンピュータでもいいですし、マテリアルズインフォマティクスでもいいですが、何らかのかたちで自分のつくったものが世の中に発表できたらいいなと思っています。自分が携わった量子コンピュータが完成するだとか、材料探索で見つけた素材が何らかのかたちで社会に役立つということです。長年、研究用のチップをつくってきたので、製品化されて世界に広く普及するようなことはありませんでした。だからこそ、わかりやすいかたちで世界にインパクトを与えられるような功績をのこせたらいいなと考えています。これがいまの私の夢ですね。
あとは、後進の育成にも取り組んでいきたいです。特に、クリーンルームの使い方については若い人たちに受け継いでいきたいと思っています。
桐原:研究者でも、学生のときはクリーンルームを使ったことがない人がほとんどです。だから、使い方がわからない。私もその1人だったのですが、染谷さんに教えていただいて使えるようになりました。染谷さんは相手のレベルに合わせて丁寧に説明してくれるので、指導も上手なんです。そのおかげもあってか、若い人たちからも慕われています。
それに、染谷さんにはさまざまな伝説もあるんです(笑) スキー板を背負って出勤したとか。
染谷:まだ若いときの話ですね(笑)週末会社のスキー部でスキーに行くとこになり、ワックスを塗った方が良いよと言われたのでスキー板を会社に持って行って、お昼休みに居室でワックスを塗っていたことはあります。昔は研究所も、私自身もいろいろと自由だったので、半袖半ズボンで下駄を履いて出勤したりもしていましたよ。今でも髪の毛は行きつけの美容師さんに任せてすこしだけ遊ぶことはあります。現在は皇居での授章式に備えて落ち着かせていますが、終わったらもうちょっと変えようと思っているんですよ。
やはり、何でも楽しまなくちゃいけません。仕事も本当に楽しくやらせてもらっています。新しい装置の使い方を覚えるのも楽しいですし、装置が壊れたら直すのも楽しいんです。楽しみながら、これからもものづくりを続けて、その楽しさや大切さを伝えていけたらと思っています。

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