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40代という若さで黄綬褒章受章 最先端研究を支える名工
2020年8月18日

令和ニ年 春の褒章において、NECの社員が黄綬褒章を受章しました。黄綬褒章は、農業、商業、工業等の業務に精励し、他の模範となるような技術や事績を有した人を顕彰するものです。電気機器組立工として栄えある受章を果たした社員と、その上司である研究部長に感想やこれからの期待について話を聞きました。
西 教徳
システムプラットフォーム研究所 研究部長
白根 昌之
ICカード内に搭載される0.3㎜の超薄型電池を開発
― この度は黄綬褒章受章おめでとうございます。まずは、ご感想をお聞かせください。
西:正直、驚きました。まさか自分が受章できるとは思いませんでしたし、NECでは昨年度も2人の先輩が黄綬褒章を受章しています。さすがに2年連続での受章はないだろうと思っていました。さらに言えば、こうした褒章をいただくには、私はまだ早いと考えていました。受章される方々は一般的に50代後半から60代くらいの方々が中心であるのに対して、私はまだ46歳です。仮にそうした栄誉を賜るとしても、まだまだ先のことだと思っていました。私が携わってきた研究の成果がたまたま世の中に出るものが多かったので、本当に運が良かったのだと考えています。

西 教徳
― 具体的に、これまでどのようなお仕事をされてきたのでしょうか?
西:はじめは機械加工や設計に従事していました。私が入社した当時は、研究所内にエンジニアが所属する試作部という部署があったんです。私もそこに配属されて、各研究者から頼まれる実験用機械や治具の加工や設計を行っていました。その後、研究所内の方針転換を経て、研究チームと一体になって実験に携わるような体制に移行してからは、燃料電池を研究するチーム専属のエンジニアとなって開発に取り組むようになりました。機械加工だけではなく、電池回路をつくったり、測定をしたりと新しいことにもチャレンジしていきましたね。
当時は各メーカ間で燃料電池の開発競争が激化していた時期です。他社に先んじて新しい燃料電池を開発していくために、日々忙しく取り組んでいたことを覚えています。そのなかで開発した世界初の燃料電池一体型ノートパソコンは、一つの成果であったと思います。セルを直列接続することで燃料を均一に供給する構造を開発したことは「現代の名工」の表彰でも評価いただきました。
その後は、ICカード内に入れる電池の開発に取り組みました。じつは、皆さんもよく手にしているICカードは、JIS-Ⅱ規格で厚さ0.76mmと決まっているんですね。しかし、当時の電池薄型化は0.7mmが限界とされていて、ICカードへの搭載は非常に困難でした。そこで注目したのが、防水素材に銅箔やアルミ箔を貼り合わせるという技術でした。さらに、この技術に印刷で電池の構成部材を塗るという技術を組み合わせて、厚さ0.3mmの超薄型有機ラジカル電池を開発することに成功しました。回路基板と電池が一体化した電池は、手で曲がるほどのしなやかなさを合わせもっています。
白根:0.7㎜が薄型化の限界とされていたなかで、その半分以下の0.3㎜に薄型化するというのは、非常に厳しい制約条件です。でも、そうした環境下でも西さんはものづくりのエキスパートとしてきちんと実現可能な技術にまで落とし込み、確かな実績を積み重ねてこられました。
私たち研究者は、どちらかというと原理実証に取り組んでいく仕事です。実証に成功した原理を生かしてどう製品化・サービス化していくかということは、ともすれば私たちの「後」のこととして考えがちです。西さんのような方が並走するようにして研究に取り組んでくれるというのは、研究をスピーディに進めて実用的なゴールを見失わないためにも非常にありがたいですね。

研究部長
白根 昌之
相手の意図を読み取り、スピード感をもって開発
― 西さんが仕事をしているうえで心がけていることは、どのようなことでしょうか?
西:いちばん大事にしているのはスピード感ですね。必要な技術を必要なタイミングに出すことや、必要な結果を良いタイミングで出すことを常に心がけてきました。私たちが取り組んでいる技術は、タイミングが少しずれてしまうだけで「やっぱりもういらない」だとか「遅れている」というものになってしまいます。競合の研究開発や特許取得に後れをとらないように、常にそのことは意識してきました。
仮に技術の価値判断が下される重要なタイミングがある場合には、その地点をゴールとして設定して段取りをしっかりと考えていきます。実験と試行錯誤を繰り返したうえで、ゴールまでに間に合うかたちでモノをつくりこんでいく。ただ急いでやるというのではなく、そうした政治的な部分もしっかりと考えながら、段取りをつくりだすことも重要だと考えています。
白根:それに、西さんはきちんと研究の意図を理解して開発に取り組んでくれる方です。「こういうものをつくってほしい」と言ったときに、研究の全体像を理解していない方であれば、ただ言われたことをするだけになってしまうでしょう。しかし、西さんの場合はしっかりと研究の内容までしっかり理解してくれているのでコミュニケーションがスムーズですし、期待以上のものをつくって提案してくれます。仕様書を書いて一から十まで指定しなくても「こういったものだから、こんな感じで」と言うだけで、良いものをつくってくれる。これは、研究者にとって本当にありがたいことです。本当は細かく説明しなくてはいけないのかもしれないですけどね(笑)
西:いやいや、大丈夫です。せっかく一緒に仕事しているんですから(笑) もちろん、きちんと内容を理解することは意識しています。外注する場合には仕様書や図面を準備する時間が必要になりますし、その後数週間くらいかかったりするものでしょう。そこを私の方で研究者の意図を感じとって取り組めば、2~3日で構成できる。そのぶん研究も効率的になりますし、重要なタイミングに合わせるためのスピードを確保できるでしょう。そういったことは考えていますね。

熟練のノウハウで量子コンピュータ研究を加速させる
― 今後、さらにめざしていることがあれば教えてください。
西:じつは、昨年から量子アニーリングマシンの研究チームに配属されて新しいことに取り組んでいます。ですから、まずは量子コンピュータの内容について習熟していくのが短期的な目標ですね。量子のことはもちろん、高周波を使った測定や半導体プロセスも覚えていかないといけません。初めてのことがたくさんあるので今回はなかなか手ごわいと感じていますが、やっぱり新しいことに取り組むのはすごく楽しいし、面白いんですよ。これまでも機械加工から燃料電池、薄型電池などいろいろなことに取り組んで、日々チャレンジを繰り返してきました。もちろん苦しいときもありますが、やはり新しいことに取り組むのは楽しいです。成果が出たときの「やってて良かったな」という感動は何ものにもかえがたいですしね。
白根:たしかに西さんが量子コンピュータに携わるのはまだ2年目ですから、まだまだ勉強することはたくさんあるかもしれません。ただ、西さんはこれまでに限られた厳しい制約下のなかでの打開策を生み出し続けてきた方です。量子コンピュータの研究でも、そういった点では根本は同じですから、その力を活かしてくれると思っています。
たとえば私たちが扱う超電導の量子コンピュータの研究では現状、量子ビットをつくったら希釈冷凍機という機械を使って1~2日かけて冷やさなければなりません。マイナス273℃にまで至る世界のなかで、最終的には1000本にもおよぶであろう配線やソケットをどうするか。極寒の環境下でも各部材の特性を保ちつつ、より効率的に研究を行うためにはどうすればいいのか。こうしたことに西さんが力を貸してくれるはずだと期待しています。
西:そうですね。量子コンピュータを世に送り出すということはめざしていきたいですね。そして、NECが日本初の国産量子コンピュータを生み出す瞬間にぜひ立ち会いたいと思っています。もちろん、私の思いだけではどうにもならないものです。チームの研究者と協力しながら、全身全霊をかけて取り組んでいきたいと思っています。

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