Japan
サイト内の現在位置
学生のみなさんへ2025インタビュー:山崎 智史
2025年4月9日
海外での実証から生成AI活用研究まで幅広く活躍

ビジュアルインテリジェンス研究所
主任研究員
山崎 智史
物性物理学の理論研究で博士課程を修了後、2014年にNECへ入社。2017年にはNEC APAC Pte. Ltd.へ出向し、シンガポールやハワイでの顔認証システム導入に貢献する。2021年に帰任後は映像認識AIと大規模言語モデルを組み合わせた映像データの利活用技術の研究開発に従事。基礎研究から応用研究、現場の実証に至るまで幅広く活躍し、実績を残している。

シンガポールで顔認証システムの導入に貢献
私はNECに入社後、はじめはネットワーク仮想化技術の研究開発に取り組んでいました。当時注目されていたSDN(Software-Defined Networking)などのシステム構築に関わっていたのですが、2年後に大きな転機がありました。顔認証システムの実証実験に取り組むメンバーを求める研究所内の公募に応募したのです。もともとシステム内に映像分析などのAI技術を採り入れることに興味があって取り組んでいたので、これは良い機会だと思って手を挙げ、異動することにしました。
異動後の仕事は、ガラッと変わりました。新しい研究テーマに関わる知識についてはチームの方々のフォローもあってキャッチアップできたのですが、最も変わったのは仕事をする場所です。実証はシンガポール政府と連携して行うものだったため、同国に拠点を構えるNEC APAC Pte. Ltd.に出向することになりました。現場を仕切るソリューションアーキテクトをサポートする研究者兼開発者として参加したのですが、ここでは現場の実証ならではの難しさに初めて直面しました。大部分の問題はシステム同士のかみ合わせが良くなかったり、使用しているシステムならではのトラブルによるもので、調整にはコツが必要です。また、研究室と違って現場では処理時間やリソースに制限がありますし、カメラを100台規模で動かすなどのリクエストに対応する必要が生じます。また、日本ではどちらかというと「できるだろう」とあらかじめ予測がつくまでなかなか実行に移さないと思うのですが、シンガポールではある程度筋が通ったら「とりあえずやってみよう」というスタンスで進んでいきます。初めのうちは戸惑いもあったのですが、この環境の中でかなり鍛えられました。このとき身についた「こういうところが、これから問題になるだろう」と先読みする嗅覚は、現在の研究にも活きています。
シンガポールでの経験をもとに、2020年からはハワイ州の主要5空港への導入にも携わりました。コロナ禍での感染症対策としてサーマルカメラとも連携させた体表温度スクリーニングシステムなのですが、この実績を評価いただいて2024年に第72回 電気科学技術奨励賞を受賞することができました。

映像認識AIとLLMを組み合わせる
2021年に研究所に帰任してからは、基礎研究に近い領域にフォーカスしていました。研究テーマとしては、映像認識AIと大規模言語モデル(LLM)や視覚言語モデル(VLM)を有機的に組み合わせるためのデータ整理手法やデータ利活用手法の技術開発です。例えば、リクエストを入力すれば映像中から任意のシーンを検索できるようなAIを開発しています。1つの成果として、2023年にドライブレコーダー映像から事故のシーンだけを抽出し、その様子を文章化できる技術をリリースさせていただきました。保険業界などでの活用を視野に開発したものです。一口に「事故」と言っても、映像上ではどう映るものかというのは難しいものですから、自動車が揺れたのか、破片が飛び散るのか等々、そういった暗黙知のようななことをAIに理解させるということに取り組んでいます。
私はこれまで現場での実証を含めた応用研究から基礎研究まで広く従事してきましたが、NECには私と同じように、両方の領域を横断して取り組む研究者がたくさん在籍しています。しかも、双方をトップレベルでできる方が何人もいて、上には上がいるということを実感できる刺激的な環境です。
一方で、学術的な領域に特化して、世界的に評価されるような論文を何本も書く人もいます。特に、最近は若手でもこういう方が多いですね。つい先ほども、わからないことについて質問して話を聞いていました。
さらに言えば、事業部にも面白い方が多いです。官公庁や金融、小売等、NECには幅広い事業領域がありますが、それぞれに非常に詳しい専門知識を持ったスペシャリストの方がいて勉強になります。

現場で、机上では見えない本質をつかむ
私が研究で大切にしているのは、本質をつかむということです。例えば実装の現場では精度が上がらない等の課題が多々生じてきますが、その要因を突き詰めることが重要です。「なぜだろう」と何度も何度も繰り返していくと、やがて本質が見えてくるものです。そこを解決すると、もともとの課題だけでなく他の課題も広く解決できることはよくあります。さらに、表面的な課題に暫定的に対処するのではなく、本質を解決することができれば、技術の進化と未来にもつながります。
実際、学術領域ではまだ考えられていなかった課題が実用化の折に初めて見つかるということはよくあります。こうした課題をいち早く学術コミュニティに提示することはアカデミアへの大きな貢献の一つになりますし、それを解決できればさらに大きな貢献につながります。
また、もう一つ重要視しているのは、めげずにやるということです。変化の激しい現代においていち早く製品化を進めて市場をリードするためには、研究プロトタイプを作ってお客様に提示し、修正を繰り返していくというアジャイルな開発が不可欠です。そもそも、お客様が真に何を求めているのかということは、お客様に試していただくことで初めてわかるようになるものです。まずは作ってみて、フィードバックをいただいて改善するという流れを繰り返すことは、アプリケーションを開発するうえで絶対に不可欠なスタンスだと考えています。
やはり、まずはやってみるということが重要です。目の前の課題にも意味がないと思わずに、とにかく解いてみることが将来につながっていくと信じています。
- ※本ページに掲載されている情報は、掲載時の情報です。
私の一日ご紹介


学生時代の自分へ

休日何してる?
最近は塗り絵にはまっています。もともとは子どもに付き合っていただけなのですが、今では水彩色鉛筆を買って本格的な塗り絵を楽しんでいます。絵は得意ではないのですが、塗り絵は絵を描く必要はなく、色だけを思いのままにいろいろな手法で塗ることができるのが良いですね。制約があるなかで自由にやるということが、きっと生来好きなのだと思います。この性質は、仕事にも通じているかもしれません(笑)

お問い合わせ