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学生のみなさんへ2020インタビュー:内山 愛子
2020年2月7日
量子アニーリングマシン研究の最前線

システムプラットフォーム研究所
内山 愛子(うちやま あいこ)
博士課程修了後、2019年4月にNECへ入社。産総研(産業技術総合研究所)との連携研究室で量子アニーリングマシンの開発に取り組む。
産総研との連携研究室で量子アニーリングマシンを研究
私はいまNECと産総研が共同で設立した「NEC-産総研 量子活用テクノロジー連携研究室」で量子アニーリングマシンの研究に取り組んでいます。量子アニーリングマシンとは量子コンピュータの一種です。NECを含めた国内の研究所などで広く実証が始まっているシミュレーテッド・アニーリングマシンとは異なり、超電導回路の量子的な性質を利用しています。解を導き出すまでの時間がさらに短いため、よりリアルタイム性が求められるシーンでの活躍が期待されているマシンです。組み合わせ最適化問題に対して爆発的な効果をもたらすと考えられていますが、国内大手企業で量子アニーリングマシンのハードウェア開発に取り組んでいるのはNECだけなのではないでしょうか。
というのも、量子アニーリングマシンを開発するためには素子のつくり方や測定方法など、専門的な知見が必要不可欠です。これらは人に属するもので、一朝一夕で身に着くものではありません。NECはもともと、1999年に世界で初めて超電導固体素子を用いた量子ビットの動作実証に成功した実績があります。その後も2014年には独自開発した超電導パラメトロン素子を世界で初めて動作させるなど、この道で技術を切り拓きつづけてきました。古くからノウハウを蓄積してきたNECには、そのぶん大きなポテンシャルがあると考えています。
NECでは、さまざまな大学研究室やベンチャー企業と連携しながら2023年までの実用化をめざして研究に取り組んでいるところです。
実社会での応用を見据えた基礎研究

私はもともと大学では原子核物理学や量子エレクトロニクスの研究をつづけていました。そのため、研究内容は入社してから多少変わったと思います。観測する対象は原子から超電導回路に変わりましたし、観測する手段は光からマイクロ波に変わり、最終目的も物理法則の発見から量子コンピュータの実現に変わりました。しかし、研究の過程には共通する部分も多く、根本的な部分では変わらないなと感じることも多いです。
企業での研究に興味を持ったきっかけは、もっと技術として世に出せるようなものを研究したいという気持ちがあったからです。現在の研究もかなり基礎的なものであるとは思いますが、最終的に量子コンピュータを世に送り出すというビジョンがあることは大きな違いです。社会とつながっていることを実感できますし、アカデミアとはまた一味違ったモチベーションを得られます。同僚がみんなで、組み合わせ最適化問題が解けるマシンがあったら何ができるようになるだろうという応用を真剣に考えていて「こういうことができる、ああいうこともできる」と話しているのを聞くと、量子アニーリングマシンを実現したいという気持ちがさらに高まります。
また、より専門的な話をすれば、量子ビットを設計するという過程は非常に楽しいですね。これまで私は原子を扱っていましたが、当然のことながら原子は設計することができません。しかし、超電導回路であれば、Aという機能をもたせるためにBという機能をトレードオフさせるなどと試行錯誤しながら設計することができます。これは、今までにはなかった楽しさですね。
アカデミアとの距離も近い企業研究所

いま私が産総研で研究しているということも含め、NECは大学や国の研究所との距離が非常に近い企業です。産総研の研究員の皆さんも、私が企業の研究者だからといって構えることはなく対等に話をしてくださいます。こういった環境は、非常に恵まれているのではないでしょうか。もちろん一方では、企業として製品化や事業化に関わる部分に携わるメンバも近くにいます。市場や実社会とのつながりを近くに感じつつ、アカデミアの方とも高い次元でいっしょに仕事ができるというのは、NECの研究所がもっている魅力だと思います。
これから研究者をめざす皆さんには、ぜひ不安がらずに、自分のやりたいことに挑戦してほしいなと思います。私自身も理学系の研究科で長く基礎的な研究をしていたので、企業の研究所がどんな場所なのか全く検討がつかず、はじめは不安に感じるところもありました。新しいことに挑戦しようとするときは、どうしても不安になってしまうものですよね。それでも、結局は一つひとつ乗り越えていくことしかないものだと思います。たとえその一つひとつが形にならなかったとしても、自分の力になると感じることができるものです。できないことができるようになる面白さもあると思うので、ぜひ一つひとつこなしてみようかなというくらいの気持ちで、挑戦してみてほしいですね。
会社でのある一日


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