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特集 研究とエンジニアリングの双方で活躍
file05 宮本 孝道
2023年7月14日
研究段階から高速化を繰り返し、開発を効率化

技術は日々進化をつづけ、世界はめまぐるしく変化する先行き不透明な現代。
いま研究開発には、スピーディに事業化を実現する新しい研究スタイルが求められています。
カギとなるのは、研究とエンジニアリングを自在に横断して実装を加速させるスキルです。
NECではいま、このスキル領域を「リサーチエンジニアリング」と名付けて強化を進めています。
新しい研究スタイルをいかに構築し、世界をリードしつづけられるか――。
日々模索と挑戦をつづける新時代の研究者たちの姿をご紹介します。
バイオメトリクス研究所
宮本 孝道
2010年にNECへ入社し、主にプログラムの高速化やハイパフォーマンス用途プロセッサ向けプログラムの最適化に従事。2016年には高速化に貢献した虹彩照合がNIST(注1)のベンチマークテストで精度世界一を獲得。2017年に顔認証研究グループに異動後は顔認証プログラムの高速化に取り組み、特徴抽出処理や照合処理の高速化に貢献。2018年のNISTベンチマークテストでは、精度No.1と圧倒的な照合速度を記録した。現在は、顔認証に関わるエンジニアリングに従事している。
- 注1:National Institute of Standards and Technology(米国国立標準技術研究所)
高速化が、コストダウンや精度向上にも貢献
― 具体的にはどのような研究に取り組んでいるのでしょうか?
入社以来、研究所・事業部のさまざまなプログラムの高速化を行ってきました。高速化では、ハードウェアを効率的に使えるようにプログラムを書き換えていきます。例えば、一つの命令で一つのデータしか扱えなかったものが、一度に複数のデータを扱えるようにできれば、処理効率が上がりますよね。現在のハードウェアの多くは多数の演算リソースがあり、並列処理することに長けています。そのため、一回の小さな処理を繰り返すよりも大きな処理を1回で行ったほうが効率よく高速に処理できるのです。しかし、もちろん単純に処理をまとめるだけでは上手くいきません。プログラムをさらに書き換えるなど、細かなチューニングが不可欠です。
また、高速化には単純なスピードアップだけにとどまらない価値があります。例えば顔認証を実際に運用する際には、画像から検出した顔の特徴を100万~1000万規模のデータとスピーディにマッチングしなければなりません。1秒だってかけたくないわけです。サーバーを何万台も用意すれば、容易にその処理も可能になりますが、もちろんそれは現実的とは言えません。だからこそ、処理の高速化が重要なのです。プログラム自体を高速化できればサーバーの台数を削減してコストカットを実現できます。空いた処理時間で、精度を担保することもできるでしょう。高速化は、事業の価値に直接アプローチできる技術なのだと思っています。
研究開発プロセスの効率化にも寄与

― そのような高速化の価値は、認識され始めているのでしょうか?
そうですね。これまでは、どうしても精度のほうが研究テーマとして重視されていて、速度はそのあとで運用時に課題になるものだったのではないでしょうか。しかし、最近では研究段階からお客様と一緒になってプロトタイピングと実証に取り組むというアジャイル型研究に移行してきたこともあり、速度の重要性も認識されるようになってきたという部分はあると思います。やはり、お客様は精度も速度も同時に評価しますから。これにより、研究段階から高速化が密接に関わるようになってきました。
― 研究時は、どのような関わり方をするのでしょうか?
生体認証のアルゴリズムをつくる研究者との連携は欠かせません。特に問題となるのは、アルゴリズム側で速度を改善する必要があるのか、プログラム側で改善する余地があるのかという線引きです。そこが曖昧だと、研究開発の効率が一気に下がってしまいます。ですから、私は顔認証チームに異動して以来、常に最新の認証方式に高速化を反映させるようにしてきました。プログラム側で取り組める高速化は常に最大限の反映をしておくことで、どちらが高速化に取り組む段階にあるのかを明確にできます。このような密な連携によって研究開発の向上に貢献できることも、社内にエンジニアリングチームがいることの大きなメリットの一つだと思います。
また、プロトタイピングは、お客様だけでなく研究者とも明確な意識合わせができる点で非常に有効です。いま抱えている課題は何か、目標は何か。実際の挙動を見て明確にしながら取り組むことができるので、それぞれの役割が分かれていても研究開発を効率的に進めることができるという実感があります。
プログラムの先にある現場を見据えた実装

― リサーチエンジニアリングの領域で、これから求められるスキルとは何でしょうか?
プログラムを書き換えられるということはもちろんですが、今後はそれだけでは足りない気がしています。お客様が実際に技術を使うシーンや、技術によってどのような価値が生まれるかというところまで自分でしっかりと想像できることが重要になるのではないでしょうか。
例えば顔認証を考えてみても、実験室の環境と実際にお客様が運用する環境では大きな違いがあります。外光が強く入ってくる時間帯があって、その時間はうまくシステムが機能しなかったりする場合もある。単純にプログラムを書き換えるだけでは解決できない問題があるものなのです。
良いモノづくりをしてお客様のもとに届けようとすると、そのような現場を見据えた実装力が必要となります。私も顔認証というお客様と近いチームに所属するなかで、最近その点を改めて実感するようになりました。プログラムの先にあるお客様を見据えた実装力を、私自身も身に付けていきたいと思っています。
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