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特集 研究とエンジニアリングの双方で活躍
file02 城島 貴弘
2022年11月16日
サイエンスとエンジニアリングの連携で革新的なモノづくりを

技術は日々進化をつづけ、世界はめまぐるしく変化する先行き不透明な現代。
いま研究開発には、スピーディに事業化を実現する新しい研究スタイルが求められています。
カギとなるのは、研究とエンジニアリングを自在に横断して実装を加速させるスキルです。
NECではいま、このスキル領域を「リサーチエンジニアリング」と名付けて強化を進めています。
新しい研究スタイルをいかに構築し、世界をリードしつづけられるか――。
日々模索と挑戦をつづける新時代の研究者たちの姿をご紹介します。
データサイエンス研究所
城島 貴弘
1996年にNEC入社後、エージェント間コミュニケーションの研究開発に従事。2000年にはシステムエンジニアやインキュベーションに関する業務に異動。その後は、2007年にキャリアネットワークにおける双方向コミュニケーションの研究開発としてサービス基盤の開発やネットワーク推定による通信効率化に取り組む。2016年に研究企画本部において研究所の技術ビジョン検討に参画した後は、2018年からロボット制御の研究開発に従事。大学との共同研究によるVisual SLAMの現場への適用開発を推進し、現在はフォークリフトの自律制御プロジェクトの研究開発を担当している。
研究者からシステムエンジニアまで幅広く経験
― これまでどのような研究をされてきたのでしょうか?
基本的には通信領域で研究やエンジニアリングをつづけてきました。リアルタイム性をどう実現するかという点が軸となるテーマです。近年では少しずつロボティクスにも手を広げています。
1996年に入社したときは、関西にあった研究所でエージェント間コミュニケーションの研究を行っていました。その後、2000年に東京でシステムエンジニアをやらないかというお話をいただいて、異動しています。私は研究者としては異端だと思っていて、研究するよりもモノづくりをしている方が好きなんです(笑) だから、このお話をいただいたときも二つ返事で引き受けました。実際には、エンジニアリングというよりも設計したものを発注してパートナーさんにつくっていただくというようなデザインに近い仕事だったのですが、そこで通信に関わる仕事をつづけていました。ところが、あるとき上司から「緊急で仕上げなければならない案件があるんだけど」と3カ月でシステムをつくりあげなければならない仕事の話を打診されたんです。普通なら嫌がるのかもしれませんが、ここでもやはり異端性を発揮してしまって(笑) パートナーさんとタッグを組んで必死になって作りあげました。まだシングルサインオンという言葉も浸透していない時代に、同じような認証システムを構築するという仕事だったのですが、これがお客様に非常に喜んでいただけたんです。感謝のメールまでいただきました。このとき、私の方向性が決まったかなと思っています。良いモノをつくって、お客様に提供して喜んでいただく。それが今でも最大のモチベーションになってますね。
その後、部署が中央研究所に統合されると、キャリアネットワークだけでなく、工場や倉庫などの現場向けのネットワークに取り組むようになりました。具体的には、ロボット制御などに活用する通信技術の研究開発です。そこで私ができる領域を検討した結果、Visual SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)による自己位置推定やネットワークを利用したロボットの技術に取り組むようになりました。最近ではそこから発展して、フォークリフトの自律運転開発を統括するリーダーを務めています。
「小さい」アイデアと「大きい」アイデアを組み合わせる

― 研究の領域とソフトウェアエンジニアリングの領域、双方を経験したことはリーダーの職務にも活きていますか?
はい。そこは活きていますね。極端なことを言えば、エンジニアリングだけをやっていたら、おそらく新しい技術を導入しようという発想は生まれにくくなっていたかもしれません。今ある製品をまとめて、どう提供するかということだけに集中してしまっていたのではないでしょうか。しかし、せっかく研究所で取り組むからには、新しい技術を取り入れなければ意味がありません。私自身も最近ではディープラーニングなどの技術に親しみながら、チーム内の若い研究者たちとともに、ロボット制御への活用を進めています。
重要なことは、サイエンスとエンジニアリングのアプローチをうまく組み合わせていくことです。例えば、現場で技術を実装しようとすると、どうしても上手く動作しないときがあるものです。その時の対処方法を考えるならば、おそらくリサーチエンジニアリングに通じた人の方が、より多くのアイデアを出すことができるでしょう。カメラの照明条件や向きなどの原因を的確に指摘し、画期的な対策まで示すことができるはずです。これらは新しい技術のネタにもなりますし、非常に重要なフィードバックになるでしょう。
しかし、これらは「小さい」アイデアです。根本的に問題を解決するような「大きい」アイデアは、やはりサイエンスの側から生み出さなくてはなりません。もちろん、長期的なスパンでの話にはなりますが、サイエンス側からのブレークスルーも必要なのです。エンジニアリングとサイエンス双方がうまく機能しあうことで、初めて「現場で使える」革新的なソリューションが生まれます。
2000年代初頭くらいまでは、研究とエンジニアリングは分けて考えるというのが当たり前でした。むしろ研究所から事業部へしっかりと技術移管して、そこからエンジニアリングや事業化を任せるべきだとさえされてきました。しかし、現在ではこのように研究とエンジニアリングの領域が一体となってこそ、効率的な研究開発が進められるようになったのだと実感しています。
エンジニアリングに踏み出せば、研究の幅も広がる

― 研究者とソフトウェアエンジニアを双方経験された城島さんですが、研究者がリサーチエンジニアリングの領域に取り組むメリットはあるでしょうか?
一つは、お客さんから直接フィードバックが得られるという点ではないでしょうか。実際に動作するものをつくってお客様と対話することで、最終的なゴールを見据えた改善の方策を探れるということは、何ものにも代えがたいと思います。
もう一つ挙げるとするならば、自分で効率化のループをつくり出せるようになるということでしょうか。新しい技術を利用する際には、その技術の内部状態を解析するなどの詳細な評価が必要になりますが、既存のツールでは対応できないため、リサーチエンジニアが自分でつくることも多いのです。このときに、手を動かしてツールを作り始めてみると、だんだんと改善しようという欲が出てきます。Pythonで作り始めたものをC++から使ってみる。そうするともっと速くするためにC++ネイティブで動かす、さらに効率化するためにアルゴリズムを見直す。動かすシステムにも注意を払って、どのようなCPU、GPU、ネットワーク、OSを組み合わせればさらに速く動かすことができるのかを考える。このようにして得た経験は一時的なものではなく、次に何かを作る際の大きな手がかりとなります。さらに発想の転換になったり、技術の適用場面の拡大につなげたりということにもつながるかもしれません。
― これから、どんなことを目指していきたいですか?
AI技術など、新しいことはどんどん取り入れていくつもりです。今はロボットをやっていますので、私たち人間から見ても、これはすごいと思えるような動きをさせられるものをつくりたいですね。そして、危険な作業や環境的に厳しい場所での作業はロボットに任せられるような社会を実現していきたいと思っています。
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