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特集 リサーチエンジニアリング
file09 二瓶 浩一
2024年2月7日
横断的なプラットフォーム技術を実現するために

技術は日々進化をつづけ、世界はめまぐるしく変化する先行き不透明な現代。
いま研究開発には、スピーディに事業化を実現する新しい研究スタイルが求められています。
カギとなるのは、研究とエンジニアリングを自在に横断して実装を加速させるスキルです。
NECではいま、このスキル領域を「リサーチエンジニアリング」と名付けて強化を進めています。
新しい研究スタイルをいかに構築し、世界をリードしつづけられるか――。
日々模索と挑戦をつづける新時代の研究者たちの姿をご紹介します。
セキュアシステムプラットフォーム研究所
二瓶 浩一
2005年にNECに入社し、2年間、アクセスルータのソフトウェア開発に従事。その後、研究所へ異動し、映像・音声通信技術、ネットワーク状態推定・予測技術の研究開発に取り組む。特に、無線ネットワークやインターネットといった通信品質変動の激しいネットワークにおいて、安定して映像を配信する技術の研究開発に取り組んできた。近年は、映像配信技術と映像分析AIを使った自動運転車両等の遠隔監視ソリューションの開発や、デジタルツインの実現に向けてエッジデバイスとクラウドの間で映像分析処理を動的に分散させるアプリケーションアウェアICT制御技術 の研究開発を担当。2018年度には、電子情報通信学会・モバイルネットワークとアプリケーション (MoNA) 研究会・年間最優秀発表賞を受賞している。
事業部での経験が、事業化に生きている
― これまでどのような研究をされてきたのでしょうか?
入社当初は事業部に在籍していました。学生の頃はグラフ理論でネットワークをモデル化してルーティングを最適化する研究をしていたのですが、卒業当時は企業に入ってモノづくりに携わりたいという思いが強く、特に研究職へのこだわりはなかったのです。ルーターのソフトウェアの開発に楽しく取り組んでいたのですが、2年ほど経った頃、標準化で決まった仕様に従ってルーターに実装するだけでなく、何をやるか自分で考えたいという欲が湧いてきました。そのときに、ちょうど人材公募があったので、研究所に応募して異動したというのが、今の職に就いた経緯です。
研究所に入ってからは、映像や音声をネットワークで通信するための研究開発をしてきました。映像配信や音声通信などの研究はもちろん、スムーズな通信のためにネットワーク状態を推定・予測する研究なども続けてきました。
もともとはエンジニアリングに興味があって、自分自身でもそちらのほうが向いているかなと思っていたのですが、研究所に入ってからは、研究成果を論文として発表することにもモチベーションを持って取り組んでいます。リサーチャーとエンジニアの両方の領域に携わってきました。
― 事業部にいた経験が、技術の事業移管に生きていると感じる点はありますか?
事業部で製品開発をひと通り経験できたので、研究所から事業部へ技術を渡す際に、研究所でどこまでやって、どういう状態で渡すと受け取った側が事業化しやすいかという点は意識できていると思っています。
例えば、研究所では研究過程で思考錯誤するので、最終的には使わなくなった処理がソースコードの中に残ってしまったり、ソースコードが読みづらくなっていたりする場合があります。そのため、不要な部分を削除して、理解しやすくなるようにリファクタリングして渡すという点は意識しています。
また、これとあわせて、質問への丁寧な回答といったサポートをきちんとできるかが、事業化をスムーズに進めるためには地味ですが重要な点だと思っています。研究所の研究者が「これくらい知っているだろう」と思うことであっても、実は事業部の人は知らなかったりします。もしくは、学生時代は覚えていたものの、今となっては忘れてしまっているということも多いものです。ベースとなる知識が違うという点も体感できているので、そのギャップを埋めるということも円滑な事業化のために必要なことだと意識しています。
オープンソースやクラウドサービスの活用がカギに
― リサーチエンジニアリングに求められるスキルとはどんなことでしょうか?
いまお話ししたような事業化をスムーズに行うための意識も一つですが、それは比較的昔から指摘されてきたことでもあると思います。最近では、これに加えてオープンソースの技術をうまく使ったり、AWS (Amazon Web Services) などのクラウドサービスをいかに活用したりできるかという点も重要になるのではないでしょうか。最新の動向を把握して、どれとどれをどのように組み合わせるかというようなシステムアーキテクトに近いスキルも必要だと感じています。
研究者の主な役割は、新しい価値を提供する技術を生み出すことや、圧倒的に高い性能を実現することなので、自ずとサーベイする対象は最新の論文が中心になります。オープンソースや実装のための技術動向までは、なかなか追いきれません。しかし、近年ではオープンソースなどを活用して、いかに短期間で効率的に実装するかが重要になってきました。そのため、リサーチエンジニアリングの必要性が増しているのだと思います。
一方で、ただエンジニアとしての知識を極めればいいわけではありません。NECとしての強みを維持したまま、オープンソースなどとどう組み合わせていくかという点が重要なので、自分自身でも研究ができたり、研究者が作った技術をきちんと理解して見極めたりすることが必要になると考えています。
例えば、いま私たちのグループで研究開発している映像配信技術は、映像内の領域ごとの重要度やネットワーク状態の変化に合わせて、映像の領域単位で画質をリアルタイムに変更します。最近では映像配信に利用できるオープンソースのライブラリが少なからず出てきていますが、例えば映像内の領域単位で画質を変更するNECの独自技術を組み合わせようとしたとき、Aというライブラリだと難しいけれども、Bというライブラリでは比較的簡単にできるというような見極めが重要になってきます。このあたりまで含めてシステム全体を考えることが、いま求められているスキルの一つだと思います。
社内のコア技術を自分なりに咀嚼して内容や強みをきちんと整理できるスキル、オープンになっている技術やフレームワークなどの動向をきちんと追って使いこなすスキル、さらに、それらの技術を組み合わせた全体アーキテクチャを設計できるスキルやセンスのようなものが必要なものになってくるのだと思います。
さまざまな部門の技術を効率的に組み合わせるプラットフォームをめざす

― これからどのような技術の実現をめざしていきたいですか?
これまでは自分たちのグループで開発した技術に対するリサーチエンジニアリングを行ってきましたが、現在は社内の違う研究所や違うグループの作った強い技術ともうまく組み合わせることで、新たな他社優位性を創出できないかと積極的な連携を進めているところです。具体的には、私たちのチームで取り組んでいる映像配信などの通信技術と、他の研究所で取り組んでいる高度な映像分析AI、さらにAIの処理速度を向上する技術を組み合わせた映像分析プラットフォームの研究開発に取り組んでいます。通信技術だけで解決できるような社会課題はほとんど無いと思いますので、各研究所が開発した技術を活かせる強いプラットフォームをいかに構築するかが非常に重要だと考えています。一つひとつの技術をプラットフォームにどう取り込めば効率的になるかということまで考えて実装していくことをめざしています。
そのためには、当然のことながらネットワークのことはわかっている必要がありますし、映像分析AI(エンジン)に対する知識も必要です。また、そのエンジンの処理がどのくらい重いのか、どこまで軽量化できる可能性があるかというようなコンピューティング側の知識も必要不可欠となります。プラットフォーム技術のリサーチエンジニアリングを行うために、幅広い分野を横断してシステムを構築していきたいと思っています。

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