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特集  研究とエンジニアリングの双方で活躍
file07 黒田 貴之

2023年11月20日

研究者と事業部の間の障壁を越えるために

黒田 貴之

技術は日々進化をつづけ、世界はめまぐるしく変化する先行き不透明な現代。
いま研究開発には、スピーディに事業化を実現する新しい研究スタイルが求められています。
カギとなるのは、研究とエンジニアリングを自在に横断して実装を加速させるスキルです。
NECではいま、このスキル領域を「リサーチエンジニアリング」と名付けて強化を進めています。
新しい研究スタイルをいかに構築し、世界をリードしつづけられるか――。
日々模索と挑戦をつづける新時代の研究者たちの姿をご紹介します。

セキュアシステムプラットフォーム研究所
黒田 貴之

2009年にNEC入社以来、システム構築や運用の自動化技術の研究開発に従事。2013年、米国Vanderbilt大学にて客員研究員を経験。現在、同社セキュアシステムプラットフォーム研究所主幹研究員。博士(情報科学)

既知の技術に未知の実装を試みるのがリサーチエンジニア

― これまでどのような研究をされてきたのでしょうか?

2009年に入社して以来、システムの構築や運用を自動化する研究に携わってきました。はじめはシステムの構築作業の自動化から始まったのですが、やがてその自動化したい構築作業の内容を考えること自体が煩雑で大変であることに気づき、構築作業の内容を自動生成する技術の研究へと移っていきました。さらに今度はシステムの設計を自動化する技術、現在では運用までを自動化する技術というように、どんどん自動化を突き詰めるかたちで研究を積み重ねてきました。今年度はこれまでの成果が結実し、事業適用へ向けた詰めの段階へと至っています。

― 研究者とエンジニアで分けるとすると、どちら側で研究をされてきたのでしょうか?

私自身は研究者だと思っています。今回お話をするにあたって、私なりに研究者、エンジニア、リサーチエンジニアという3者の区分けを考えてみたのですが、これは理論・技術が未知であるか既知であるかという軸と、実装が未知であるか既知であるかという二つの軸で捉えるとよいのではないかと思います。未知の理論や技術を新たに作ることにフォーカスするのは研究者。理論も実装も一応例があって既知ではあるけれども、それに対して新しい応用するのがプロフェッショナルなエンジニアです。一方で、理論は既知であるものの実装されたことがないモノが存在します。この領域に取り組むのがリサーチエンジニアです。いずれも研究技術の事業化には欠かせない役割を担う存在だと考えています。

リサーチエンジニアは必要不可欠な存在

― より具体的に言うと、リサーチエンジニアの重要性はどういう点にあるでしょうか?

研究技術の事業化を加速するために、非常に重要な存在です。私自身も直面したのですが、研究所と事業部では立場や考え方が異なり、ときに互いが衝突することもあります。例えば、私たち研究者は新しいコア技術をもとにして、試行錯誤をしながら3年や5年くらいのスパンで事業化することを考えています。当然、その活動単体で見れば赤字になりますが、それをやらなければ新しい可能性が見えてこないという使命を持ってやっているわけです。一方で、事業部の方々は単年度での黒字を目指さなくてはなりません。そのような厳しい時間軸の中で仕事をされる皆さんにとっては、一つひとつの作業がきちんと積み上がって成果になることが重要になります。ですから、事業部のエンジニアの方々には、私たちの試行錯誤に付き合っていただくことは非常に難しいという現実があるのです。そこで、対話を重ねながら、時間をかけてお互いが納得できる責任分界点を設定していきました。

しかし、そうしたときに、誰が研究試作のクオリティを上げる作業を担うのかが新たな問題となりました。私も、もう少し若くて、もっと小さな規模の研究をやっていたときは自分自身が無理をしてでもコードを書いていたのですが、今はそうもいきません。今回はチーム内の若い担当者が奮闘してくれたのですが、3-4カ月かけて取り組んでもらっているうちに、だんだんと彼がピリピリとしてくるんですね。「こんなことをやりたいわけではないのに」という気持ちがひしひしと伝わってくる。

だからこそ、研究者と事業部、エンジニアの間をつなぐリサーチエンジニアの存在は非常に重要で、必要不可欠なのです。リサーチエンジニアがいないと、現場は少なからず無理をすることになると思います。

多様な志向性を等しく評価できる研究所へ

― その後、リサーチエンジニアの方が加わったのですか?

はい。これまで外注でお願いしていたNECのグループ会社の方で非常に信頼のおける方がいらっしゃったので、頼み込んで兼務というかたちでチームに参画していただきました。以降は開発の進捗が安定するようになりました。

― 研究者として、リサーチエンジニアの方に求める能力とはどのようなことでしょうか?

きちんと「ワークする」ことに最終的な責任を持ってくれることが重要です。「ワークする」というのは、実装したときに運用上無理のないかたちで入力から出力が出てくるということです。

例えば、テストデータで入力と出力が思った通りに出たとしても、実環境でその前提となるデータを人が用意することが果たしてできるのか。そういった点も踏まえて、実装の観点から作ったものがきちんとワークするか/しないかという判断ができることが非常に重要な点だと考えています。先ほどお話ししたリサーチエンジニアの方について言えば、「こういう理論に基づくこういう機能を作りたい」と話をするとしっかりと考えてくれて、「入出力の仕様はこのようにしてはどうですか」と言ってくれたり、「運用上やりにくくなるから」と突き返してくれたりするので、その判断に信頼を置くことができます。研究者の言いなりにならず、事業部の言いなりにもならず、互いの間でベストなあり方を探る能力が、非常に重要だと思います。

― これからの研究所として、どのようなかたちが理想だと考えますか?

私のチーム内には7人ほどのメンバーがいるのですが、みんな少しずつ価値観が違います。私自身はコンセプトやビジョンを打ち立てる作業が一番好きなのですが、その先の理論的な考察を詰めるのが好きなメンバーもいれば、実装が好きであったり、何かインフラを作ってそこで動かすのが好きなメンバーもいたりします。研究者からエンジニアまで、志向の異なるメンバーが集まることが重要なのです。うまく職能が揃うと、非常に効率のいいチームになります。それが偶然ではなく、必然的に集まるような仕組みができればと思います。

かつての研究所では、論文や特許を書くようないわゆる研究者らしい仕事が花形であったかもしれませんが、今後はそのような特定の仕事だけが評価されるべきではありません。事業を作り上げるという目的に立てば、どのポジションも必要不可欠であり、それぞれの貢献が適切に評価される組織が理想であると考えます。

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