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学生のみなさんへ2025インタビュー:川上 哲生
2025年3月19日
異業種異分野での経験を量子暗号研究に活かす

アドバンスドネットワーク研究所
主任
川上 哲生
量子通信の研究で修士課程修了後、宇宙事業を志して2018年にNECへ入社。同年、NECスペーステクノロジー株式会社へ出向して衛星搭載用RF通信機器の設計開発に従事する。その後、2021年12月にNECへ復帰し、研究所へ異動。量子暗号研究に従事する。論文は難関国際学会に採択され、国内外の学会での発表も多数行うなど、アカデミアでの活動も積極的に行っている。

宇宙事業の開発職から量子暗号の研究職へ
私は学生時代、量子通信を専門に研究していました。ですので、いま取り組んでいる量子暗号の研究とはかなり近いテーマだと思います。しかし、入社から約3年半はまったく異なる仕事に従事していました。NECの関連会社であるNECスペーステクノロジー株式会社に出向して、人工衛星に搭載するRF(Radio Frequency)通信機器の設計開発を行っていたのです。これはもともと、入社前から私が希望していたことでした。学生のときに研究した量子通信ネットワークを地球規模に拡大するには、人工衛星の活用が近道だと考えていたからです。NECを選んだのも、衛星開発事業と量子暗号研究の両方に取り組んでいる稀有な企業だったことが理由でした。
出向先での3年半は刺激と挑戦の連続でした。自身で書いた電気回路をはんだ付け等で実作して評価をしたり、製造検査工程がスムーズに流れるように現場と協力して指示書を作成したり、時には納期が迫るなか不具合品の原因究明を突貫で行ったり、開発の最前線だからこそ感じられるやりがいや面白さに溢れていました。
しかし、その後社内で「量子暗号研究者募集」という情報を目にしました。NECには社内の異動制度があって、人材募集している部署に応募することができるのです。開発の仕事にも大きなやりがいを感じていましたが、ここでもう少し研究に近い仕事にも挑戦してみたいと思って応募し、今に至っています。
異分野での開発職から研究職へシフトすることになったわけですが、大きなギャップは感じませんでした。学生時代に培った量子通信の知識はもちろんですが、何よりもNECスペーステクノロジーでの経験がとても役に立ったのです。「重要なパラメータはたぶんこれだぞ」という勘どころと、どんなわずかな違いも逃さずに測る測定力が、開発現場で自ら手を動かした3年半の経験によっていつの間にか培われていたのです。このことは「研究所でもやっていける」という自信につながっていきました。

低コストな量子暗号を実現し、広い領域での活用をめざす
私は現在、QKD(量子鍵配送:Quantum Key Distribution)の中の一方式である、CV-QKD(連続量量子鍵配送:Continuous Variable QKD)にフォーカスした研究を行っています。CV-QKDは、2000年頃に提案された比較的新しいQKD方式です。BB84方式に代表される従来のDV-QKD(離散量量子鍵配送:Discrete Variable QKD)に比べると、鍵配送のコストを大幅に削減できると期待されています。
そもそも、量子暗号とは盗聴者の計算力に依らずに鍵の安全性を保障する暗号技術で、盗聴者の持つコンピュータの計算力がどれだけ向上しても、暗号文が絶対に解読されないことが理論的に証明されています。近年盛んに研究されている量子コンピュータが実用化されると、RSA暗号などの従来使われてきた暗号方式はたちまち解読されてしまうおそれがあります。そのため、今後は重要な情報を防衛するためには量子暗号が必要不可欠なのです。
量子暗号の目下の最大の弱点は高すぎるコストです。このため、現在は量子暗号の主な用途は安全保障等に限られてしまっています。私の研究するCV-QKDで圧倒的低コストなQKDを実現できれば、量子暗号の応用領域の裾野が一気に広がって、例えば個人のショッピングの決済等、もっと身近な情報のやり取りをも絶対安全に守る事ができるようになるかもしれません。そういった未来の実現をめざすことが、私の現在の目標の一つです。
また、研究所に来てからは学会への参加も積極的に行ってきました。異動してからおよそ3年が経ちましたが、その間に書いた論文はECOCやOFCなどの難関国際学会でも採択されました。今後も、研究成果を広く世界に発信する学会活動を頑張りたいです。

どんな経験も、必ず勉強になる
事業部から研究所に異動して、その違いにまず驚いたのは、業務に対する姿勢の自由さです。事業部では失敗を最小限にする事が求められており、そのため結果に至るまでの業務のプロセスを詳細に上司に報告して承認を受ける必要がありました。しかし研究所で期待されているのは、”失敗ゼロ”ではなく”大きな成功”であり、成果を最大化するために各研究者へ大きな裁量が与えられています。大きな自由があるぶん、成果に対する鋭いプレッシャーを度々感じることも事実ですが、オーナーシップをもって業務に取り組んで成果を出せた時の達成感もまたひとしおです。NECの研究所の研究者は皆さん、そうした責任と裁量を持って誇り高く働いています。
私から学生の皆さんに言えることがあるとすれば、それは「はじめの1社が全てではない」ということでしょうか。この企業しかダメだとか、この研究を行う企業は2社しかないから2択しかないんだとか考えて、視野や選択肢を狭めることはもったいないかなと思います。いまは入社後、他に移るという選択をとることも十分に可能な社会です。私自身も入社時の選択から大きく変わりましたが、前の仕事の経験を活かしながら現在の成果を出すことができました。どんな経験であっても、必ず勉強になるものです。
私はいま、いつか自分の名前を残せるような功績をつくれたらいいなと思っています。それは技術の方式であったり、特許であったり、あるいは製品であったり、さまざまなアウトプットがあると思います。いつかそうした大きな目標を達成できる事を目指して、これからも研究をつづけていきたいと考えています。
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昨年夏に第一子が誕生したため、業務時間を調整しながら妻と協力して仕事と育児を両立させています。始業を早め、比較的子どもの機嫌がいい午前中にタスクを集中してこなし、グズりがちな夕方にはなるべく家にいるように業務を調整しています。娘を元気に育てて、小学校に入るまでにパパも博士号を取る事がひそかな目標で、週末に妻と娘と公園に散歩をすることが近頃の最も楽しいひと時です。

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