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特集 研究とエンジニアリングの双方で活躍
file04 石坂 一久
2023年4月17日
研究技術を社会に届けるところまで、一貫して携われる

技術は日々進化をつづけ、世界はめまぐるしく変化する先行き不透明な現代。
いま研究開発には、スピーディに事業化を実現する新しい研究スタイルが求められています。
カギとなるのは、研究とエンジニアリングを自在に横断して実装を加速させるスキルです。
NECではいま、このスキル領域を「リサーチエンジニアリング」と名付けて強化を進めています。
新しい研究スタイルをいかに構築し、世界をリードしつづけられるか――。
日々模索と挑戦をつづける新時代の研究者たちの姿をご紹介します。
デジタルテクノロジー開発研究所
石坂 一久
2005年に日本電気(株)入社。以来、並列コンピューティングの研究に従事している。博士(工学)。現在、同社デジタルテクノロジー開発研究所所属。
委託型の研究だけでなく独自ソフトウェア開発まで、幅広く高速化に従事
― これまでどのような研究をされてきたのでしょうか?
基本的にはソフトウェアの並列処理です。2005年に入社して以来、マルチコアプロセッサなどを上手く使ってソフトウェアを高速化する研究に携わってきました。研究の形式は、大きく分けると二つに分かれます。一つは他の研究部門や事業部が開発を進めているソフトウェアを高速化する委託型の研究です。例えば虹彩認証の高速化では、事業部と共同してNIST(米国国立標準技術研究所)のベンチマークテストにおける世界No.1獲得に取り組みました。このほかにも、スマートフォンやカーナビなどのハードウェア、サーバ向けプロセッサ、さらにはNECが開発したベクトル型スーパーコンピュータ「SX-Aurora」でのソフトウェアの並列処理などに取り組んできました。
もう一つの研究形式は、自らソフトウェアを開発するものです。最近ではAIの前処理を高速化するソフトウェアの開発を行っています。SX-Aurora TSUBASAでAI処理の高速化に取り組んでいた際、前処理に膨大な工数がかかることに注目して、私たちのグループが自ら立ち上げたプロジェクトです。ここで開発した複数のソフトウェアをライブラリ化して、データサイエンティスト向けに公開することをめざしています。今年の10月には、ついに試作を完成させることができました。現在はまだNECグループ内限定で公開をしていますが、本ライブラリは将来的に製品化も視野に入れていますので、現在も継続して研究をつづけています。
研究者とエンジニアの中間で活動できる独自の立場

― ご自身としては研究者とエンジニア、どちらかの意識を強く持っていますか?
研究とエンジニアリングの区別は難しい問題だと思いますし、自分のなかではその境界をあまり意識したことはないのですが、客観的にはエンジニアリングと受け取られやすい領域で取り組んできたのではないでしょうか。私たちの研究テーマは既存のソフトウェアを高速化することなので、何か新しいものを創り上げることこそが研究だとする立場からはエンジニアリングに見えてしまいがちです。ただ、私たちとしては、速くするために生み出す工夫は一つの研究だと考えていますし、実際に高速化をテーマとする学会やコミュニティも存在しています。私も随時そうした学会へ高速化によって得られた成果を発表しつづけてきました。
一方で、私自身は製品の最終化まで携わるエンジニアに対して憧れのような気持ちも併せ持っています。しかし、エンジニアの方からすれば、研究所に所属して活動する私たちは、今度は逆に研究者として見えてしまうかもしれませんね。
― 一般的な研究者やエンジニアとも異なる立場ということでしょうか?
はい。一般的な研究者とは違って製品の最終的な部分まで携わることができますし、一般的なエンジニアとは違って自分の興味を起点に活動することができます。
前者についていえば、論文を書いて終わりではなく、製品化まで自分の手で関われるという企業研究ならではの醍醐味を味わうことができます。一般的な研究者ではなかなか経験できないことです。
他方で、一般的なエンジニアの方は委託を中心として仕事を請け負うことが多いと思いますが、私たちは自分が興味を持ったテーマにも取り組むことが可能です。また、研究者という立場を活かして、さまざまな研究部門や事業部と対話してニーズを探ることができるのもメリットなのではないでしょうか。研究者でもエンジニアでもない中間的な立場こそが、私たちの仕事の面白い独自性だと思います。
研究成果を社会に届けるところまで体験できる

― 研究者がエンジニアリングまで行うメリットはどこにあるでしょうか?
エンジニアリングで使用するツールや技術は、研究においても非常に役立ちます。テストを効率化するためのツールやGitHubのように問題を共有して皆でコメントし合うような環境などは、研究者が自分の技術を製品化・事業化していく際にも非常に有効です。
一般的に考えても、自分の研究対象の周辺にアンテナを広げていくことは新しい研究テーマを見つけるために必要なことだと思います。最近ではライブラリ構築のためにテストを頻繁にやるようになったおかげで、テストには時間がかかるという課題があるとわかるようになりました。アンテナを張る方向性の一つとして、エンジニアリング方面を考えることは、研究者にとってプラスになるのではないでしょうか。
また、私が何のために企業研究者になったのかと言えば、それは「お金儲け」のためです。論文を書くだけに終始するのではなく、製品化・事業化まで携わってお金を儲ける。それは、自身の研究が社会にどれだけ役立つことができたかを示すわかりやすい指標だと思います。論文だけにとどまらず、自身の研究を世の中に出していくところまで携わりたいという方には私たちのような仕事は向いていると思いますし、「リサーチエンジニア」としてその動きを再評価しようとするNECの方針は追い風なのではないかと考えています。
まずは現在構築を進めているAIの前処理を高速化するソフトウェアライブラリの構築を進めることによって、NECの事業に貢献していきたいと考えています。
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