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学生のみなさんへ2021インタビュー:井上 明子
2021年3月26日
暗号の最難関国際会議でBest Paper Awardを受賞

セキュアシステム研究所
井上 明子(いのうえ あきこ)
数学科で修士号を取得後、2017年4月にNECへ入社。共通鍵暗号のモード開発と既存暗号の安全性解析に取り組んでいる。2019年には暗号のトップ学会であるCRYPTO でBest Paper Awardを受賞した。
絶対に安全だと思われていた暗号方式の脆弱性を指摘
私はいまNECのセキュアシステム研究所に所属して、暗号研究に取り組んでいます。共通鍵暗号におけるモード開発がメインのテーマです。最近ではメモリの暗号化技術にも取り組んでいます。学生時代も暗号を研究していましたが、専門は公開鍵暗号でした。暗号研究のなかでも、もうすこし理論的でアカデミックな分野ですね。修士を修了したあとは、より社会への応用に近い実用的な分野での研究に従事したいと思ってNECに入社したので、現在の研究には大きなやり甲斐を感じています。
また、既存暗号の安全性解析も私たちのチームの重要なミッションです。2019年にはOCB2という当時絶対に安全だと思われていた暗号方式の脆弱性を指摘して、最も権威ある国際暗号学会の一つCRYPTOでBest Paper Awardを受賞しました。本論文は、2020年のSCAT(一般財団法人テレコム先端技術研究支援センター)表彰 会長賞のほか、SCISという国内学会のイノベーション論文賞も受賞しています。
脆弱性を発見したのは、私がOCB2の改良に取り組んでいたときでした。研究を進めていくうちに、そもそもOCB2の安全性証明は間違っているのではないかと気がついたのです。それを上司の峯松さんに相談して、二人で証明の修正に取り組むことになりました。その作業を進めていくなかで、峯松さんがこれは攻撃ができるということを発見しました。もうOCB2は安全ではないということになりますから、その後急いで論文にまとめて発表しました。この結果、OCB2はISOの国際規格から除外されることになったのです。世界のデータセキュリティに大きく貢献することができた研究でした。
実社会での応用視点で考える暗号研究

NECに興味を持ったきっかけは、学会での発表でしょうか。いまは同じセキュアシステム研究所内にいる女性メンバーがNECの研究者としてプレゼンテーションをしていて、女性が活躍している企業なのだなという印象をもったことを覚えています。当時は、修士を修了したあと博士へ進むか、IT企業や教育関係の会社でSEとして働くかなどと考えていたのですが、このプレゼンテーションを見て、企業で暗号研究するという道も意識するようになりました。
企業のなかでも、NECを選ぶ決め手となったのは、「人」です。選考が進んでいくなかで、セキュアシステム研究所の方々と会ってお話をしたのですが、みなさん研究者として尊敬できる魅力的な方ばかりでした。なかでも印象に残っているのは「ヒューマンエラーは絶対に起こるものなので、ヒューマンエラーが起こったうえでも安全な暗号方式を作りたい」というお話です。実際に暗号を使う人の視点に立って研究しているのだなということを実感する話で、当時アカデミアの世界にいた私としては非常に新鮮でした。こうした考え方が、もうすこし実用的な暗号を研究したいと考えていた私のモチベーションに合致しました。
自分が楽しいと思える領域を深めて、増やす

入社してからも、「人」には本当に恵まれていると感じています。NECは大きな企業ですから、さまざまな分野の研究者がたくさんいます。例えばこういうことに困ったらあの人に聞けばいいであるとか、頼り先がたくさんあるという環境はなかなか得難いのではないでしょうか。たくさんの方から、さまざまなエッセンスを吸収できるという点も良いですね。
先ほど話に挙げた上司の峯松さんも、暗号研究で世界トップレベルの研究者です。いっしょに研究をしていると、研究の潮流を把握して、予測していくのが非常に上手だなと感じています。私がもう一歩成長していくためには必要不可欠な力だと思っているので、そこは積極的に見習っていきたいですね。さらに、峯松さんはその潮流に自分が好きな領域を結び付けていくのも上手いんです。やはり研究者ですから、自分の好きな領域で研究に取り組んだほうがモチベーションも高まります。ただ、そのためには自分の好きな領域や得意分野を深め、増やしていかなければなりません。私も最近、自分が楽しめる研究領域を増やそうと意識をし始めました。もともと数学科にいたので、数学の勉強やプログラミングなども業務外で少しだけ楽しんでいます。学生の皆さんにも、いまは楽しいと思える研究をぜひ深めたり、増やしたりしてほしいですね。きっとそれこそが、将来的に自分の研究の個性につながっていくと思います。

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最近は世界史の勉強にはまっています。イタリアに旅行したときにヨーロッパの空気を感じて、建築方式も日本と全く異なる世界の歴史を学びたいと思ったことがきっかけです。中学生、高校生のときはまったく興味が持てなかったので、学び直しの意味合いもありますね。また、最近はテレワークで声を出す機会が少なくなってしまったので、家で音楽を聴いたり歌ったりしてストレスを発散しています。
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