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学生のみなさんへ2020インタビュー:藤巻 遼平
2020年2月7日
機械学習で世界をリードする若きCEOが影響を受けた言葉とは
2006年にNECへ入社し、機械学習の研究に従事。世界トップレベルの学会へ論文を次々に発表する。2011年にNEC北米研究所へ異動後も、機械学習の準自動化や異種混合学習などの革新的な技術の研究を主導し、2015年には33歳というNEC史上最年少の若さで主席研究員へ就任。その後、機械学習自動化ソフトウェアの開発と提供を行なうdotData, Inc.をNECからカーブアウトするかたちでシリコンバレーに創業。2019年5月に発表された米フォレスター・リサーチの「Forrester New Wave Report」(The Forrester New Wave™: Automation-Focused Machine Learning (AutoML) Solutions, Q2 2019)ではdotData, Inc.が最高ランクの「リーダー」として認定されている。本インタビューでは、世界のトップを走り続ける彼が影響を受けた言葉について話を聞いた。
論文は良い仕事についてくるオマケみたいなもの
― 藤巻さんがこれまでに影響を受けた言葉は何でしょうか?
まず一つは、NEC入社直後に所属したチームで共有されていた言葉ですね。「テクノロジーグループ」のモットーということで、「TG訓」と呼ばれていました。どんな内容かというと、私たち研究者は、研究職として採用されたからといって論文やアルゴリズムを書いているだけではダメだというものです。企画も、予算獲得も、社会実装も、すべてが研究者としての仕事の業務範囲なのであって、自分の技術を実用化するためには、それらすべてに取り組むことが必要だというものでした。じつは、当時はそれほどピンときてはいなかったのですが、自分がチームのリーダーという立場になってからは言葉の意味が非常によくわかるようになりました。今となってみると、私の仕事のスタイルに大きな影響を与えてくれた言葉だと思っています。
もう一つ、心に深く残っているのは、NECの北米研究所へ異動した際に上司だったKai Yuの言葉です。現在、彼はHorizon Robotics™ というスタートアップのCEOですが、NECに在籍していたころはトップレベルの学会へ次々に論文を発表する著名な研究者でした。だから彼に一度「どうしたら、あなたみたいに論文を書き続けられるようになれるのか」と聞いてみたことがあったんです。すると彼は「私はどうしたら論文を通せるかなどとは考えない」と言ったんですね。論文というのはあくまで、良い仕事をしたときの結果として生まれるものだと。さらに「論文を出したいから良い仕事をするわけではないし、研究者として社会に認められるには、良い仕事をすることだ。良い仕事をすれば、アカデミックコミュニティも認めてくれる」ということを話してくれました。世界の第一線で論文を次々に書き続けている人が、このようなモチベーションで研究を続けているのだと知って、大きな衝撃を受けました。
後に私が研究チームを率いるようになってから、部下には「論文は大事だけれどプラスアルファ」と同じことをよく話しました。企業の研究者にとっては、社会の問題解決こそが本質・本懐です。その結果として論文が学会に通れば嬉しいですが、それは本質ではないという言葉は、いまも強く心に残っています。

CEO 藤巻 遼平
できないことも「できる」と言って取り組む
こうした言葉からも影響を受けましたが、やはり人をいちばん成長させるのはプロジェクトを通じた経験だと思っています。成長の速い人や優秀な人は、自分が現在できることや、場合によっては責任範囲よりも広い範囲にコミットしていることが多いように思います。いま確実にできることだけをやるのではなく、できるかわからないチャレンジングなことでも「できる」と言って実際にやり遂げてしまう。それが成長を加速していくのではないでしょうか。
私自身も、dotDataのバージョン0とでもいうべき、いちばん最初のプロトタイプで行ったトライアルは非常に大きな経験となりました。一緒に取り組んだ4人のメンバーとも、これから5~10年、技術者としてあれを超える経験はないだろうと話しているほどです。実はトライアルを提案した際には、実環境では動かしたことがない研究段階のコアアルゴリズムがあるだけでした。にも関わらず、トライアルではお客様の環境に我々のソフトウェアをインストールし、お客様の複雑かつ大規模なデータから自動的に予測モデルを生成しなくてはなりません。しかも、これを一発勝負でやらなければならないという非常にシビアなものでした。それでもお客様に対して「できる」とコミットし、非常に限られたタイムラインの中でバージョン0のプロトタイプを仕上げ、お客様が納得する予測モデルを自動的に生成していきました。当時のプレッシャーはとてつもないものでしたが、やり遂げたときの達成感もまた凄まじいものでした。
このほかにも、上手くいかなかったものや失敗したプロジェクトも含めて、NECではさまざまなプロジェクトを経験させてもらいました。最終的な成否にかかわらず、難しかったプロジェクトや苦しい経験をしたプロジェクトであるほど、今の自分の大きな糧となっています。

社会課題を解決することに喜びを感じられるかが重要
― これからNECで研究に取り組もうとする学生に向けてメッセージはありますか?
アカデミック研究では、深みを突き詰めて新しいアルゴリズムをつくり、理論も先端を極めていくことが重要ですよね。多くの応用研究は、こういった基礎研究の上に成り立っているものです。基礎研究の重要性については疑う余地はありません。そこに研究者としての喜びもあります。また、世界トップレベルの学会に継続的に論文を通すことは若手研究者にとっての登竜門となりますし、自分と世界との距離を測り、トップ研究者として認められるプロセスとしても重要だと思います。NECに身を置いても、学会に継続して参加することには大きな意味があるでしょう。
一方で、実際に「動く」ものをつくって、社会に実装して課題を解決することにはまた違ったやりがいがあるものです。先進技術を実際に世の中で動かし、継続的に進化させるためには、コアのアルゴリズムやアイデアを研究しているだけでは足りません。たとえば研究者自身が、市場開拓、製品開発、セールスなどの活動に踏み込む必要がありますし、場合によってはリードしてく必要もあるでしょう。最初に述べた「TG訓」もそうですが、このような活動をするモチベーションの源泉こそが、現実の課題を解決することに喜びを感じられるマインドなのではないかと思います。
ちなみに、部下が新しい研究を始めるときに私はよく2つの質問をしてきました。1つは「それは誰が欲しいのか」というものです。誰というのは、曖昧ではいけません。たとえば業界やよくあるマーケットセグメントを答えるだけでは不十分で、どの企業のどの部門のどんな人が嬉しいのか、できることならばバイネームで言えるまで明確にすることが重要だと思っています。もう1つの質問は「その人はなぜ、どのくらいほしいのか?」というものです。つまり、「誰のどんな課題を解決しているのか」を問うわけですね。ここが明確になると、必然的に研究の経済的な価値も見えてきます。この2つは、いわばカスタマーセグメントやバリュープロポジションと言われるものですが、単なる社内説明のためのパワーポイントや机上のお絵かきではなく、自分が本当に腹落ちしてその課題に取り組めるくらい具体化・明確化しなければならない重要なポイントです。NECで研究するにあたっては、ぜひ参考にしていただきたいと思っています。
NECの研究所は、お客様と実際のデータと対話しながら課題に触れる機会がたくさんあり、企業研究者にとってはとてもよい環境だと思います。また、信念を持って「できる」といえばトライさせてくれる組織ですから、私のように「最後まで自分でやり遂げたい」というキャリアも開けると思います。ぜひいっしょに、世界の課題解決に取り組んでいきましょう。

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