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「未来の共感」を創る
──「NEC Visionary Week 2021」オープニングセッションより

テクノロジーを社会に実装して確かな価値に変えていくためには、人々と「未来の共感」を創ることが必要になる。では、そのためにはどうすればいいのだろうか──。この9月にオンラインで開催された「NEC Visionary Week 2021」のオープニングを飾ったのが、「未来の共感」をめぐるトークセッションだった。はじめに、NEC代表取締役 執行役員社長 兼 CEOの森田 隆之と、『未来を実装する』の著者であり東京大学FoundXでディレクターを務める馬田 隆明氏のそれぞれに話をしてもらい、後半は、シンクタンク・ソフィアバンク代表・藤沢 久美氏の進行のもと、トークセッションを行った。その模様をお届けする。

「未来の共感」を創るための3つのテーマ

NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 森田 隆之

NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO
森田 隆之

「NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します」──。それがNECのPurposeです。それを具現化するために、私たちは「NEC 2030VISION」をつくりました。Purposeとビジョンを実現し、社会実装していくためには、3つのテーマに取り組む必要があると私たちは考えています。すなわち、「コラボレーション」「オープン」、そして「ベクトル」です。

NECは現在、グローバルな「コラボレーション」に取り組んでいます。例えば、航空会社のスターアライアンス様や、世界460を超える空港にシステムを提供した実績を持つSITA様とともに、NECのバイオメトリクス(生体認証技術)を使った新しい空港体験を創出しています。AWS様やマイクロソフト様とは、クラウドを活用したデジタルインフラを構築するためのコラボレーションを行ってきました。さらに、M&Aによって、デンマーク最大手IT企業・KMDや、スイスの大手金融ソフトウェア企業・AvaloqをNECグループに迎え、デジタルガバメント、デジタルファイナンスの取り組みを進めています。

社会の利便性を高めるには、「オープン」な通信が必要です。私たちは、英国の通信企業・テレフォニカUK様とオープンRANの実証実験を進め、同じく英国のボーダフォン様には商用オープンRANのための5G基地局装置を提供することが決まっています。また、ドイツテレコム様にも5G基地局を提供しています。国内においても、楽天モバイル様の完全仮想化クラウドネイティブな5Gネットワーク構築支援、NTT様との次世代通信技術の共同開発などを進めています。

「オープン」なデータ活用によるスーパーシティ、スマートシティづくりにも私たちは取り組んでいます。例えば、豪州ニューサウスウェールズにおけるデジタル技術を活用した都市構築、北海道更別村におけるスマートシティ向けプラットフォーム「FIWARE」を活用した街づくりなどがそれです。また、「ヒルズ」を展開する森ビル様とともに、データを活用したパーソナライズドサービスを実現する「ヒルズネットワーク」を構築し、都市の新しい価値創出にチャレンジしています。

3つ目のキーワードは「ベクトル」です。よりよい未来を実現するためには、経済成長とサステナビリティを両軸としたベクトルを社会全体で共有していく必要があります。そのためには、テクノロジーの活用の仕方やルールに関する合意形成が不可欠です。私たちは、Thought Leadership活動を通じて学術団体やシンクタンクと連携し、社会への働きかけを進めています。例えば、米バージニア工科大学との連携で進めているスマートシティとロード(道路)DXの技術実装活動、NEC未来創造会議において各界有識者とともに取り組んでいる未来社会像のデザインなどがそれに当たります。今後もNECはカーボンニュートラルやデジタルツインなどに取り組み、環境・社会・暮らしがよりよい未来に向かっていくベクトルづくりに注力していきます。

「コラボレーション」「オープン」「ベクトル」の取り組みの先にあるのは、「未来の共感」です。幅広い共創を通じて、さまざまなステークホルダーと「未来の共感」を創っていきたい。それがNECの願いです。

「共感」と「理性」によって未来を描く

東京大学 FoundX ディレクター 馬田 隆明氏

東京大学 FoundX ディレクター
馬田 隆明氏

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、「テクノロジーの社会実装」であると言っていいと思います。今後、DXはどのように進んでいくのでしょうか。参考になるのは、およそ100年前に起こった「EX(エレクトリックトランスフォーメーション)」、すなわち「電気の社会実装」です。

動力が蒸気から電気に変わり始めたのは1900年前後です。移行にはおよそ50年かかったという見方もあります。EXは技術の進化によってのみ実現したものではありません。電気を社会実装するには、工場や社会を変えなければなりませんでした。工場の生産工程や機械の配置を変え、電気を扱える人材育成の仕組みをつくる。そのような取り組みが必要だったのです。

トランスフォーメーションを実現するには、「テクノロジーで社会を変える」だけではなく、「社会を変えてテクノロジーを活かす」という視点を持たなければなりません。では、テクノロジーを活かすことができる社会をつくるにはどうすればいいのか。必要なのは5つの要素、すなわち「デマンド」「インパクト」「リスクと倫理」「ガバナンス」「センスメイキング」です。このうち、変化の基盤となるのが「デマンド」と「インパクト」です。

「デマンド」を生み出すのは「課題」です。課題とは「理想と現状とのギャップ」と言われています。つまり、理想がなければ課題は生まれないということです。理想を描くことは、未来を描くことにほかなりません。そして、未来を描くために必要なのは、「共感」と「理性」です。共感を軸に多くの人を結びつけながら、理性によって公正さや合理性を実現していく。そのような取り組みが必要なのです。

共感と理性を上手に使って未来を描き、その実現に必要な課題を提起し、それを解決したいというデマンドを生み出していくこと。それがこれからのビジネスには求められると私は考えています。

技術が未来を創る道筋を示していきたい

森田 隆之×馬田 隆明氏 トークセッション
(モデレーター/シンクタンク・ソフィアバンク代表・藤沢 久美氏)

藤沢:現在、DXはどのくらいの段階まで進んでいると思われますか。

馬田:ちょうど真ん中あたりではないでしょうか。おそらく、完全な社会実装まではあと20年くらいかかると思います。

森田:NECが「C&C」、つまり「コンピューターとコミュニケーションの融合」を提唱したのは1977年でした。あれが広い意味でのDXのスタートだと考えれば、そこからすでに40年以上経っています。馬田さんがおっしゃるように今がDXの真ん中だとすると、トランスフォーメーションが完結するまで、あと40年かかることになります。おそらくそのくらいかかるだろうという覚悟が私にはあります。もちろん、大きな変革が進む間に小さな変革がどんどん起こって、新しいビジネスが生まれていくはずです。

藤沢:先ほど、「社会を変えてテクノロジーを活かす」という視点が必要であるという話がありました。日本のような成熟社会で、ルールや人々の意識を変えていくにはどうすればいいのでしょうか。

シンクタンク・ソフィアバンク代表・藤沢 久美氏

馬田:以前の日本では、経済成長を前提とし、社会変革によって生まれるメリットをみんなで共有していこうという意識が社会全体にあったと思います。しかし、人口が減り、以前のような成長が難しくなっている中で、どうやってルールや意識を変えていくか。それに関する明確な解はまだないと思います。チャレンジしながら解を見つけていくしかないというのが私の意見です。

森田:確かに難しいと思いますが、3つの視点があれば変革は可能だと私は考えています。すなわち、技術の社会実装によって生まれる未来像を提示していくこと、技術を開発する私たちがよりよい未来を目指しているという信頼を得ること、そして、小さくてもいいから技術が実現する未来像の実例を示していくことです。

藤沢:お二人とも「共感」が非常に大事であると話されました。共感、あるいはその基盤となる信頼はどうやったら得られるのでしょうか。

馬田:ある学術モデルでは、「能力」「善良な意図」「高潔さ」の3つを感じてもらうことによって信頼が生まれるとされています。また、信頼には、「認知的信頼」と「感情的信頼」の2種類があると言われています。「認知的信頼」を高めていくには、ビジョンを掲げるトランスフォーメーショナル・リーダーシップが必要です。一方、「感情的信頼」を得るためには、相手の意見に耳を傾けるサーバント・リーダーシップが有効です。2種類のリーダーシップを発揮することができれば、認知・感情の両方の信頼を獲得していくことが可能だと思います。

馬田 隆明氏

森田:私は、共感と信頼を得るためには、自分たちが何者であるのか、何を目的に事業をしているのかをきちんと定義すること、そして、それをさまざまなステークホルダーにしっかり伝えていくことが大切であると考えています。技術は元来、ニュートラルで透明性の高いものです。技術によって、今まで解決できなかった課題が解決できる。その道筋を誠実に示していくことができれば、必ず共感していただける。そう信じています。

藤沢:社会からの信頼を得て共感を醸成していく活動にはコストがかかります。一方で営利企業は足元の収益を上げていかなければなりません。その両立をどうやっていくのか。お考えをお聞かせください。

馬田:社会に貢献している企業が高い評価を得られるようになってきていますよね。ESG投資などはその一例です。社会からの信頼を得られる活動をしている企業にお金が集まり、それがビジネスの原資となる。そんな仕組みができつつあるということです。企業の取り組みとして必要なのは、自らのビジネスに社会的価値があることをしっかり示していくことだと思います。それによって、共感と収益の両立は可能になるのではないでしょうか。

森田:何よりも、「Purpose」とそれに基づいた「事業戦略」があり、それが長期的視点での「財務戦略」とリンクしていること。これら3つを一体化して取り組むことが必要だと思います。Purposeは企業だけのものではなく、そこで働いている一人ひとりが実践するものです。従業員一人ひとりがPurposeを文化として身につけて、それに基づいた行動をすることによって、社会の皆さまからの共感を獲得していく。そんな視点も大切です。

信頼や共感を得るには時間がかかります。最低でも5年ぐらいのスパンで物事を考えていかなければなりません。しかし、それにしっかり取り組むことによって、長期的には必ず利益が生まれると私は思っています。長期利益は「最大化」を目指し、短期利益は「最適化」を目指す。そう私は社員に繰り返し伝えています。

森田 隆之

藤沢:このセッションのテーマは“「未来の共感」を創る”でした。最後にあらためて、未来の共感を創ることにかける思いをお聞かせください。

馬田:ある経営者の言葉で印象的だったのは、「ステークホルダーには、未来に生きる子どもたちも含まれる」という言葉でした。20年後、30年後にこの社会で生きていく子どもたちに対してきちんと説明できるような行動をし、彼・彼女からの信頼と共感を得られるかどうかを常に自問自答していく。そんな視点を大切にしたいと私は考えています。

森田:社会や人々の生活に対するテクノロジーの影響は年々大きくなっています。技術のことを考えなければ、未来を構想することはできません。技術を生み出す立場である私たちに求められるのは、技術の価値、技術の可能性、そして技術がもつリスクを広く伝えていくことです。さまざまな人たちとコラボレーションし、技術のオープンな活用を進めながら、未来に向けたベクトルを共有していく──。そんな活動を、さまざまなビジネスパートナー、技術パートナー、そしてお客さまとともにこれからも進めていきたいと思っています。

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