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社長メッセージ

Purposeの実現に向け、戦略と文化を一体として取り組むことで、言ったことを確実に実行するNECを必ずお見せします。 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 森田 隆之

長年抱えてきた課題の解決に向けて

NECグループは2021年5月、NEC 2030VISIONと2025中期経営計画(2021年度~2025年度)を公表しました。私はこの1年、それらに基づく施策に取り組む中で、私たちが長期的に目指すものと、中期的な時間軸で取り組む方向性にあらためて確信を抱いています。

私がCFOを務めていた2018年、ある投資家に前中期経営計画の2020中期経営計画をご説明した際に、それまでの中期経営計画の結果を示しながら、「これまでどの計画も達成していないのに、信用できるわけがない」と厳しいご指摘を受けたことを鮮明に記憶しています。このとき、市場へ発信する言葉の重みを痛感すると同時に、信用していただくためには、具体的で納得感のある将来に向けたストーリーが必要であるということを実感しました。結果として、2020中期経営計画は過去最高の最終黒字を計上して超過達成しましたが、それまでの中期経営計画が未達に終わっていた背景には、NECが長年抱えてきた課題がありました。

NECは、2000年頃を境に売上高と営業利益がともに減少をたどっていき、その過程で半導体やパソコン・携帯電話端末、大型蓄電池などそれまで広げてきた全ての領域で勝とうとしていました。結局、成功が見込めない領域からは撤退していくことになりましたが、競争環境や自社の強みを見極め、ビジネスのライフサイクルをもとに、どの程度の投資が必要で、いつ頃、どの程度のリターンが見込めるのかといった成功シナリオを精査し、優先すべき領域を絞り込めていなかった、つまり「財務戦略と事業戦略の一体化」が徹底されていなかったことが、撤退の要因であり、重要な課題の1つでした。

優れた技術を持ちながらもそれを価値に転換できていなかったこともNECの根本的な課題でした。NECは、数多くの日本のミッションクリティカルな基幹システムを構築・運用する過程で極めてユニークな技術を蓄積してきました。足元ではセキュリティや生体認証、AIなども世界で十分に戦える技術です。こうした120年の歴史の中で磨き上げてきた技術は、紛れもなくNECのかけがえのないアセットです。しかし、それらの技術を事業化し、社会的な価値を創出して利益を生まなければ、技術開発そのものも続けられませんし、価値への転換を顧客に依存していたのでは、NECの存在意義がありません。

加えて、それぞれの事業部門が、長期の利益を損なってでも短期の利益を追い求めたり、企業全体の価値よりも部門利益を尊重したりする期間損益主義と部門損益主義の蔓延、そして実行力不足も課題でした。

私のこうした課題認識を落とし込み、論理的かつ具体的で投資家の皆様にご納得いただける成長ストーリーとしてまとめ上げたのが、NEC 2030VISIONと2025中期経営計画です。

「未来への共感」を得る

2025中期経営計画は、経営を負託されている身として、制約がある時間軸の中でも当然に果たすべき、株主の皆様に対するコミットメントと位置づけています。言うまでもなく、きちんとした成算がなければなりません。先行きが不透明な時代に有言実行を全うするには、長期的な視点に立って方向性を捉え、それに向けて手を打っていくことが必要という考えから、計画期間をそれまでの3年ではなく5年に設定しました。投資から回収までの時間軸を考慮すれば、少なくとも5年という時間軸で現場が事業を運営していくことが必要という、期間損益主義を根絶する考えも、この期間設定の背景にあります。

一方、NEC 2030VISIONの真意は、「時間の制約を外して」取り組んでいくということです。「2030年」としていますが、これは厳密な時間軸の目標ではありません。技術進化の方向性を捉え、潜在的な力を発揮し社会価値につなげていく際に、時間・リソースという制約があると、スケールや発想が小粒になるためです。

2010年代に入り、存続の危機に直面していたNECでは、私を含むマネジメントチームが、NECの存在意義について議論を重ね、「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。」という存在意義を定義し、2013年に社会価値創造型企業への変革を宣言しました。2020年4月には、NECグループが共通で持つ価値観や行動の原点をNEC Wayとして再定義し、この存在意義をブランドステートメント「Orchestrating a brighter world」とともに、NECのPurposeとしました。新型コロナウイルス感染症の拡大や環境問題、地政学リスクの顕在化など社会が大きく変化する中、NECがPurposeで示す方向性の正しさを再認識しています。しかし、その実現のためには、社員はもとよりパートナーやお客様、そして社会全体から、NECが描く「未来への共感」を得る必要があります。NEC 2030VISIONは、NECが論理的に実現可能な未来の社会像を具体的に提示したものです。このNEC 2030VISIONを進むべき方向性を規定する羅針盤として「環境」「社会」「暮らし」を定め、世界中の社会インフラを支えてきた強みを活かしながら実現を目指していくという考えです。また、「国連グローバル・コンパクト」の署名企業として、こうした社会像を実現することで国連が掲げるSDGs達成にも貢献できると考えています。

「戦略」と「文化」を一体として

私は、若手時代から率直かつ誠実に自分の意見を伝えることを心がけてきました。もちろん率直さが高じて失敗することもありますが、伝えないことで残る曖昧さが不信感を生むケースの方がはるかに多いと考えていました。のちに、トータルで50件以上のM&Aや事業譲渡、合弁会社の設立や解消などに携わる中で、国籍を問わず、まずは相手の立場や考えを素直な心で受け止め、そのうえで自らが「正しい」と信じることを率直に伝えることが、相互信頼の醸成につながるという信念が強くなっていきました。そして経営トップとなった現在、社員とも率直な意見を交換するよう努めています。

企業経営において、事業戦略や財務戦略が重要であることは言うまでもありませんが、高いモチベーションでそれを遂行する人材を生み出し、支え、定着させる企業文化も等しく重要です。とりわけ優れた技術を活かして社会価値を創造していく企業へと変革するためには、成長力の源泉である社員一人ひとりと経営陣が会社の目指す方向性に共感してベクトルを合わせていく必要があります。これが、2025中期経営計画でNEC Wayという共通の価値観に命を吹き込み、「文化」と「戦略」を一体的に取り組む理由です。

人材とエンゲージメント

「文化」については、KPIとして2025年度エンゲージメントスコア50%を目標に定め、社員とのコミュニケーションに力を注いでいます。社員であれば誰でも参加できる双方向型のオンラインタウンホールミーティングを開催し、私がどのような人間で、NECをどのような企業にしていきたいのかなど都度のトピックを交えて、自分の言葉で率直な考えを伝えています。また、私のスピーチはできるだけ短くして、ほとんどの時間を質疑応答に充てるようにしています。中には答えにくい質問もありますが、どのような質問にも正直に、思うところを話すように心がけています。すべての社員を同じ方向に向かせることは困難ですが、少しずつ、真剣に耳を傾け、NECの方向性に対して理解しようと努めてくれている社員が増えているのを実感しています。2021年度は、国内10回、海外で26回開催し、国内では毎回1万人を超える社員が参加しています。エンゲージメントスコアは2020年度から10ポイント向上し35%となり、2025年度の目標に向けて良いスタートが切れました。

こうした対話に加え、イノベーションの源泉であるダイバーシティの加速や、多様なタレントのワークスタイルを支える働き方改革、リーダー育成やDX人材育成によるタレントマネジメントの強化など、文化を変えるための仕組みづくりも並行して進めています。

以前のNECには「言ったもの負け」という言葉があると耳にしたことがあります。率直に意見を示し、自らそれを実行し評価される「言ったもの勝ち」の文化を根づかせ、NECの実行力を高めていきたいと考えています。

財務戦略と事業戦略の一体化

2025中期経営計画では、私が重要性を認識してきた「財務戦略と事業戦略の一体化」を明確に方針として打ち出しています。数多くのM&Aに携わる過程で、企業価値を事業のライフタイム・キャッシュ・フローで捉えてきた経験から、私は「長期利益の最大化と短期利益の最適化」を財務方針として掲げています。

これからの国際競争を勝ち抜き、長期的に事業価値を高めていくうえで、NECはアセットや顧客基盤、ノウハウなどを補完するためのM&Aを重要な選択肢の1つと位置づけています。前中期経営計画では、デンマークのIT最大手であるKMD社をはじめ欧州3社で投資総額4,500億円超のM&Aを実施しました。M&A自体を目的化するものではありませんので、具体的な投資枠は設定しませんが、フリー・キャッシュ・フローを継続的に創出することで同規模の投資を実行できる投資余力を保持していく方針です。また、M&Aの実行にあたっては事業戦略と整合し、キャッシュを創出する能力のある投資対象を厳選していく考えです。したがって、全社ではEBITDA成長を特に重視するKPIに定め、デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス、グローバル5G、コアDX、そして次の柱となる成長事業としてフォーカスし、優先的な経営資源の配分を通じて日本を含むグローバルで売上、利益成長を目指しています。次の柱となる成長事業は先行投資が必要であり、事業によって投資回収期間も異なるため、ライフタイムの観点で最大の利益を生み出すために最適な投資を行い、IRRなど事業特性に応じたKPIによってモニタリングしていく方針です。

一方、成長事業以外の事業はベース事業と位置づけ、自らの収益で自身が必要とする投資を賄え余剰資金を成長事業に振り向けることができる高・中収益事業と、収益構造の変革が必要な低収益事業に分けています。これらベース事業は、ROICを重要指標に定めて資本効率を追求し、営業利益率では業界トップクラスの企業と並ぶ7%以上を目指しています。そのために、7%をハードルレートとして16事業を低収益事業とし、CFO主導で収益改善を進めています。改善計画の達成が困難と判断した場合には、より一層の構造改革の推進やExit、提携、統合も視野に入れた経営判断を行っていく考えです。こうした厳しい決断をするのも、事業を俯瞰的に見る立場にある私の責務だと考えています。

技術を価値に転換していくために

NECは、技術を価値に転換できていなかった課題に対して、前中期経営計画期間中から手を打ってきました。米シリコンバレーでデータ分析プロセスをAIによって自動化するソフトウェア事業を展開するdotData社や、同じくシリコンバレーでNECの技術を軸にアクセラレータ等と協力しながら新規事業の立ち上げに取り組むNEC X社、共創型R&Dから新事業を創出するBIRD INITIATIVE(株)の設立がそれにあたります。2025中期経営計画では、強みを持つ技術を共通基盤として整備し、R&Dとクオリティの高い実装力というNECの強みを顧客価値へと転換することで、グローバルと日本で高い収益とキャッシュを創出していくことを成長モデルと定義しています。そして、研究開発から事業創出の間にある隙間を埋めるため、研究・開発ユニットとビジネスイノベーションユニットを統合し「グローバルイノベーションユニット」を新設し、研究開発部門と新規事業部門の連携を一層強化して「次の柱となる事業」の創出を加速しています。特にAIを活用した創薬や農業、ヘルスケアといった社会的インパクトもある領域での事業化を目指します。

強みとする技術をより大きな社会的な価値に転換していくためには、これまでのような単なるイネーブラーではなく、例えば、農業であれば実際に農作物を作るところまで、創薬であれば薬を量産する体制整備など、事業へ参画することも検討していきます。もちろん全てのアセットをNECで保有するのではなくパートナーとの協業を前提としており、これにより収益源の多様化にもつなげていくことができると考えているためです。

成長事業の事業戦略

成長事業の1つ、デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンスは、高い信頼性と法規制への対応が求められます。グローバルメガプラットフォーマーにとってはそのスケールが活かしにくい一方、NECは各国でミッションクリティカルな社会インフラを担ってきた強みを活かすことができる領域です。

2021年9月のデジタル庁創設によって、マイナンバーの普及と利活用をはじめ、社会課題の解決に向けて官民を挙げた動きが加速しています。NECは、これまでの経験とリソースを駆使し、行政のデジタル化に貢献していきます。デジタル・ガバメントで先行する欧州のNEC Software Solutions UK社(旧Northgate Public Services社、以下SWS社)、KMD社の経営資源の融合とNECグループとの様々なシナジーの創出にも取り組んでいきます。例えば、2019年に買収したKMD社は電子政府先進国であるデンマークで、行政デジタル化の中心を担ってきました。その経験やノウハウをNECの生体認証やセキュリティと組み合わせていけば、日本をはじめ各国のデジタル化に大いに貢献していくことができます。2021年度は、国内ではデジタル庁関連の先行プロジェクトを獲得し、海外ではAvaloq社のPMIを完遂するとともに、SWS社のボルトオンM&Aを実行するなど、戦略を着実に前進させています。

グローバル5Gに関しては、これまで移動通信規格が2G、3G、4Gと世代が進化していく過程で、ネットワーク事業の競争環境は常に大きく変化してきました。現在、世界中で導入が進む第5世代移動通信規格(5G)では、共通規格で相互接続が可能な機器を異なるベンダで接続して迅速かつ低コストでネットワークを構築できる「Open RAN」が主流になっていくことが予想されています。
Open RAN対応基地局をいち早く製品化し、国内で商用展開している当社にとってこの環境変化はグローバルで事業を拡大する絶好の機会となります。グローバル5Gでは、日本電信電話(株)(NTT)や楽天モバイル(株)との協業による商用実績をベースに海外市場でのOpen RANのリーディングベンダポジションの獲得を狙っていきます。2021年度には、欧州で商用案件を複数獲得しており、これを足がかりにグローバルで事業を拡大していきます。

コアDXでは、上流のコンサルティングから下流のデリバリまでビジネスパートナーとして併走するニーズが拡大する中、様々な企業がコンサルティングを切り口として参入しています。NECもアビームコンサルティング(株)の人員に加え、社内の配置転換等によって国内IT企業では最大規模となる5,000人以上のDX人材を擁しており、2025年度までに10,000人規模に拡大していく計画です。全社横断組織のもと、そうしたコンサルティング機能とエンジニアリング機能の連携を強め、End to Endでお客様のニーズに高品質でお応えしていきます。セキュリティ、生体認証をはじめとするDigital ID、AIなどの技術や、クラウドからオンプレミスまでをシームレスに提供するケイパビリティなどのリソースを駆使し、差異化を図りながら、コアDX事業の売上高を2020年度の4倍となる5,700億円へと拡大させる計画です。2021年度は、アビーム連携によるコンサルティング起点のビジネスパートナー案件の獲得が進展しました。また、AWS社やマイクロソフト社、SAP社等、グローバルな戦略パートナーとの提携も進展し、それを活かしてお客様との協業関係の枠組みづくりも順調に進みました。

疑念を払拭するために

2021年度は、NECの中長期的な方向性を明確な形でお示し、それらに基づく具体的な施策も着実に実行することで、「ホップ・ステップ・ジャンプ」でいうところの、「ホップ」を力強く踏むことができました。二年目となる2022年度は、「ステップ」の年と位置づけています。

定性的には確かな前進を果たしているものの、資本市場の評価はまだ総合電機メーカーのマルチプルにとどまっています。技術という独自の無形資産を保有していますが、専業ITベンダよりもディスカウントされている状況です。2025年度に向けては、株主・投資家の皆様に成長ストーリーの納得性に加え、成長と収益性の質的転換を具体的な成果として提示することで、マルチプルの向上などの企業価値向上につなげていきます。そのために目に見える成長加速のカタリストの創出に取り組んでいく考えです。

カタリストで成長の根拠をお示しすると同時に、信用していただくための取り組みも進め、投資家の皆様の中に残る疑念を払拭していきたいと考えており、全社数値目標のロジックツリーの構築とグループ内への展開を進め、マネジメント手法とマインドセットの変革にも取り組んでいきます。複雑さを増すリスクに対応し、従来リスクに加え地政学リスク、サプライチェーンリスク、人権リスクなどへの耐性も強化していきます。

確かな戦略遂行に向けて、2025中期経営計画の戦略単位を基軸とした事業体制を構築すべく、2022年4月1日付で実施した事業体制の改革では、細分化していた組織を大括り化し、階層を削減しました。これによりリーダー層の権限と責任を強化しコミットメント経営を推進するとともに、若手の積極的な抜擢も促進します。2022年度は、こうした組織変革の効果を生み出すとともに、2023年度のさらなる改革に向けた準備も進めていきます。

財務基盤と並び企業価値を形成する非財務基盤に関する取り組みの強化を通じて、サステナビリティを高め、総合的な企業価値の向上にもつなげていきたいと考えています。2025中期経営計画を通じてサステナビリティ経営をさらに推進するため、ESGそれぞれの観点でKPIを設定し、マテリアリティを中心とした非財務面での取り組み強化と透明性の高い情報開示によって、継続的にESGインデックスへの組み入れを目指します。

変わり続けるNEC

新型コロナウイルス感染症との闘いに加え、地政学リスクの顕在化などによって、グローバリゼーションが世の中の必然という、これまでの前提が崩れかけています。そうした中、NECはサプライチェーン問題の影響を最小限にとどめるなど、グループ社員が一丸となることで危機への対応力を証明しました。

幾度も危機に直面しながらもNECが120年を超える歴史をこれまで刻み、これからの100年を生き抜く原動力は、優れた技術力と、「変わり続ける力」です。その力を引き出し、2025中期経営計画を確実に達成し、株主・投資家の皆様をはじめとするステークホルダーの皆様の信頼を勝ち得ていきます。

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