市場環境とリスク・機会
当社は、今後のマクロ環境を、欧米は安定成長するものの、新興国は資源国を中心に成長が鈍化し、日本は低成長が継続するものと予想しています。一方、ICT市場では、人工知能(AI)やIoT(Internet of Things)に対する一般的な認知度も向上し、これからは「ヒト」「モノ」「コト」を安全につなぐ世界が、さまざまなところで実現されると考えています。つまり、社会ソリューション事業の重要性がますます高まるということです。当社が提供する「安全」「安心」「効率」「公平」といった価値が一層役立つ世の中になると考えており、当社の事業戦略にとって追い風になると認識しています。
2018中期経営計画の骨子
新しい中期経営計画では、さまざまな課題をふまえて私たち自身の変革を実行し、社会ソリューション事業への注力をより強固に継続していきます。経営方針としては、大きくは内なる努力と外への努力の2つを掲げています。
内なる努力としては、収益構造の立て直しに取り組みます。最低でも5%の営業利益率を実現する収益構造を確立していきます。そのため、①課題事業・不採算案件への対応、②業務改革推進プロジェクト、③開発・生産機能の最適化を実行していきます。
外への努力としては、成長軌道への回帰に取り組みます。これまで技術アセットの強化に取り組んできた注力4領域を事業の観点で再整理し、①セーフティ事業、②グローバルキャリア向けネットワーク事業、③リテール向けITサービス事業の3つに経営資源を集中し、社会ソリューション事業のグローバル化を推進していきます。
2019年3月期の中期経営目標(国際財務報告基準:IFRS)は、売上高3兆円、営業利益1,500億円(営業利益率5%)、親会社の所有者に帰属する当期利益850億円、フリー・キャッシュ・フロー1,000億円、ROE10%、とそれぞれ設定しています。これらを最低限の目標として、確実な達成に向けて邁進していきます。
収益構造の立て直し
収益構造の立て直しを進めるうえでのポイントは、3つあります。1つめは課題事業・不採算案件への対応です。まず、当年度に非常に大きな損失を計上したスマートエネルギー事業の改善に取り組みます。2019年3月期には240億円の損益改善(当年度比)を目指しますが、当年度に約100億円の資産減損を行ったため、実質的には約140億円の改善となります。2016年4月には、スマートエネルギービジネスユニットをコーポレート直轄の事業部として再編し、マネジメント体制の変更を行いました。事業規模に合わせたミニマムオペレーションの徹底で効果を得るとともにポートフォリオ改革を推進し、エネルギーSI・サービス事業へのシフトを進めていきます。次に、不採算案件の抑制に取り組み、2019年3月期に130億円の損益改善(当年度比)を目指します。当年度は、パブリック事業と海外事業で不採算案件が増加した一方、エンタープライズ事業では、契約前からのリスクアセスメントやプロジェクト節目でのきめ細かな管理の徹底により、不採算案件の解消に成功しました。このような防止・抑制策ノウハウをグループ全体に徹底し、不採算案件の減少をはかるとともに、プロジェクトマネジメント力とPMO*機能の強化に取り組んでいきます。また、海外案件については、早急に現地法人の管理体制を整備し、管理を徹底していきます。
2つめは、業務改革推進プロジェクトです。当社は2014年に、300億円の効果を目指してNECマネジメントパートナー(株)を設立し、見える化・標準化とプロセス改革によるスタフ業務の約30%の効率化を全社的に推進してきました。当年度は既に約50億円の成果が出ており、残り250億円を、これからの3年間で実現していきます。具体的には、NEC単体で進めていたスタフ業務の集約を主要なグループ16社まで拡大し、見える化・標準化とプロセス改革を加速させていきます。さらに、スタフ要員の補充抑制やスタフ以外へのリソースシフトにより、要員数の3割削減に取り組みます。また、経費の発注業務や基幹システムなどのIT運用管理を一元化し、徹底的な費用効率化をはかることで、2019年3月期に100億円の効果(当年度比)を見込んでいます。
3つめは、開発・生産機能の最適化です。グループ内での機能統合をさらに加速し、2019年3月期は100億円の効果(当年度比)を目指します。これまでも、ネットワーク系ハードウェア子会社3社を統合したNECネットワークプロダクツ(株)、ソフトウェア子会社7社を統合したNECソリューションイノベータ(株)、そして、IT系ハードウェア子会社4社を統合したNECプラットフォームズ(株)などを設立し、非常に大きな費用削減効果を得てきましたが、今後も継続的に取り組み、さらなる効果を生み出していきます。ハードウェアの開発・生産では、開発プロセスや開発環境の統一による効率化を、ソフトウェアではIT系、ネットワーク系を問わず、リソースの柔軟な最適配置を行っていきます。
*PMO:Project Management Office
成長軌道への回帰
2015中期経営計画では、ビッグデータ、クラウド、サイバーセキュリティ、SDNを中心として、全社戦略投資も含めて強力に推進してきました。この4領域の2014年3月期の売上高は合計で約1,200億円でしたが、当年度はほぼ倍増となる約2,300億円まで伸ばすことができました。この伸びは、市場の成長率をはるかに上回るものと認識しています。さらにこの3年間は、売上貢献だけではなく、それぞれの領域で技術アセットを強化できたことを評価しています。
これからはIoTの時代であり、今後、IoTのプラットフォーム上で、さまざまなビジネスが形作られていきます。実世界の多種多様なデータをサイバーの世界で“見える化”し、それらを分析して少し先の未来を予測することで、必要となる制御・誘導を行い、実世界に価値を提供する、こうした一連の流れが、今後はあらゆる場面で出てきます。その流れの中で、さまざまな価値を生み出すことが重要であり、これまで強化してきた4領域は、当社にとって非常に重要なアセットとなっています。
2018中期経営計画では、IoTのプラットフォームと7つの価値創造テーマを意識しながら、セーフティ事業、グローバルキャリア向けネットワーク事業、リテール向けITサービス事業の3つを注力事業とし、経営資源を投下していきます。3つの注力事業それぞれの2019年3月期の売上高目標は、セーフティ事業(海外)が1,420億円(当年度比3.4倍)、グローバルキャリア向けネットワーク事業が2,100億円(当年度比1.8倍)、リテール向けITサービス事業が1,600億円(当年度比1.2倍)です。
地球の人口は2050年までに現在の1.3倍、90億人を超えるといわれています。そして、都市に住む人口は現在の1.8倍となり、通勤ラッシュ、交通渋滞、治安の悪化、汚染などの都市問題が深刻化していきます。そのため、今後は人々が安全・安心に暮らせる社会を支えるセーフティ事業への要求が高まると考えています。
当社は世界トップレベルの顔認証・指紋認証技術を保有し、さらに、セキュリティ・オペレーション・センターの運用でも非常に高いレベルを誇り、政府などへの納入実績を数多く有しています。今後もこれらの強みを活かし、リアルタイムの事象把握による、さらなる安全・安心の確保に貢献していきます。対象は、APAC、中東・アフリカ、中南米の主要都市、あるいは政府や空港などの重要施設であるため、パートナリングなどによるグローバルデリバリー体制の強化が必要です。2015中期経営計画では、シンガポールにグローバルセーフティ事業部(GSD:Global Safety Division)を新設しました。2018中期経営計画では、GSDの体制強化を進め、グローバル事業をさらに強化していきます。
2020年にはデジタル化された情報量が現在の約10倍(44兆ギガバイト)になるといわれています。スマートファクトリーやコネクティッド・カー、コネクティッド・ホーム、スマート物流といった、IoTを活用した新しいビジネスは、すべて情報通信サービスの上に成り立つものであり、当社にとって大きな事業機会となります。
当社にはTOMS(Telecom Operations and Management Solutions:通信運用管理ソリューション)の提供力と顧客基盤、SDN/NFV(Network Functions Virtualization)での多くの実証実験や商用化の実績があります。これらを活かしながら、社会の新しいニーズに対応した通信事業者の新サービスをタイムリーに実現することが、お客さまにとっての価値となります。具体的には、TOMSとSDN/NFVを連携させたIT・ネットワーク融合ソリューションの強化や、オープン化・パートナー協業の推進によって、事業拡大を加速していきます。
今後、都市化が進展すると、都市部における食糧、水、エネルギーなどの需要も拡大します。安全・安心な食をはじめとして、都市に暮らす人々が利便性を損なわずに消費活動を行うためには、リテール向けプラットフォームの整備が必須となります。
当社は、これまでに国内の大手コンビニエンスストアにさまざまなサービスを納入しており、過去数十年にわたって実績を積み上げてきました。安全・安心・効率的な店舗運営を24時間365日止めないといったビジネスモデルは、世界的に最も要求水準の高いものであり、当社はそこで得た経験をもとに、グローバル展開に向けた実践的な検討を進めています。加えて、オムニチャネル、認証・決済、オペレーション効率化、施設・設備管理といった提供価値の拡大にも取り組んでいきます。特にAPAC、中華圏、北米といった地域向けには専門の導入支援組織(リージョナル・ビジネス・サポート・センター:RBSC)を強化して、ソリューションの迅速な展開をはかります。
企業文化の進化
当社が創業時から培ってきた企業文化として「技術に対する取り組みを重視する」「社員が非常にまじめで、最後までやりきる」といったものがあります。こうしたDNAは大切にすべきものですが、グローバル社会の環境変化に対応し、価値を生み出していくためには、私たち自身の変革が必要です。そのため、2015中期経営計画では、社会ソリューション事業への注力を大方針として掲げ、企業ブランドメッセージ「Orchestrating a brighter world」や、当社が目指していく方向を説明する冊子「NEC Vision」を作り、社内外への浸透をはかりました。次に、NECグループ全体として、点や線ではなく、各組織が共通の目標感・方向感を持って価値提供を進めていく「面の経営」の実行に向けて、トップマネジメント間のコミュニケーションを徹底し、NECのあるべき姿に対する共通理解を築いていく活動を始めました。当社は、その対象を役員層や事業部長層など、徐々に拡大し、この文化の浸透をはかっています。さらに、ビジネスモデルの考え方の定着や、お客さまとの価値共創のための活動も始めました。これらの取り組みは当社の変革の第一期における、成長に向けた礎を作っていくという狙いのもとで行ったものです。
これに対し、新しい中期経営計画は、当社がこれまでに築いた成長の礎の上に、成長の柱を作っていく段階、つまり、変革の第二期にあたります。次年度からの3ヵ年では、NECならではの良い面を活かしながら価値創造をリードできる強い人財づくりに取り組み、変革を加速することで企業文化を進化させ、一つひとつステップを重ねるごとに強くなる会社にしていきます。