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3. カルテ情報から診療報酬の算定を可能とするためのAI活用

医療現場を支援するAI

本コラムでは、医療現場の課題に対し、AI活用によってどのような改善や効率化が期待できるのかについて、事例を交えながらご紹介いたします。

診療報酬改定DXの推進

第2章でご紹介した事例に加えて、NECとして注目しているのが診療報酬改定DXです。

2023年6月2日に内閣府 医療DX推進本部において示された医療DXの推進に関する工程表に基づき、2024年度にマスタ及び電子点数表改善版の提供が実施されました。併せて、診療報酬の算定と患者の窓口負担金計算を行うための全国統一の共通的なオンライン計算プログラムである共通算定モジュールの開発が進められ、2025年度にモデル事業を実施した上で、2026年度に本格的に提供されることが予定されています。

<令和5年6月2日 医療DX推進本部決定>医療DXの達成に関する工程表[全体像]
PDFhttps://www.cas.go.jp/jp/seisaku/iryou_dx_suishin/pdf/suisin_zentaizo.pdf

AI 活用の調査研究について

診療報酬改定DXにおけるAI活用の調査研究の一環として、厚生労働省 保険局保険課 診療報酬改定DX推進室にて「カルテ情報から診療報酬の算定を可能とするためのAI 活用に関する調査研究(*1)」が2024年度下期に実施されました。カルテ情報から診療報酬の算出を自動化できるAIモデルの構築により、医療現場の課題を解決することを目指しました。

診療報酬請求の業務は、医療事務経験が豊富な職員による高度な知識と判断力が求められてきたため、従来のRPA(*2)や既存プログラムだけでは、完全に業務を置き換えることは難しく、医療機関のデジタル化が進んでも、医師や職員の負担は依然として大きなままでした。そこで、長年現場を支えてきた職員の知見や判断プロセスをAIに取りこむことで、これらの課題を解決しようとしています。

  • (*2)
    RPA(Robotic Process Automation、ロボットによる業務自動化)。これまで人間が行ってきた定型的なパソコン操作をソフトウエアのロボットにより自動化します。

本調査研究では、カルテ情報から診療報酬を算定できるよう、会計データやレセプト請求データの算出を支援します。現場の声や作業実態を丹念にヒアリングし、「どのような点で迷うのか」、「どのような判断材料をどのタイミングで参照しているのか」といった経験知をきめ細かくフレームワークに落とし込みます。さらに、適切なプロンプト設計などを活用し、既存技術とAIとの最適な役割分担を図ります。また、AIモデルの選定にあたっては、扱うデータの種類や精度要件、算定ルールの更新頻度などを踏まえて、最適なアルゴリズムとインフラを具体的に策定します(GPU(*3)やTPU(*4)の利用、クラウドサービスの選定など)。

  • (*3)
    GPU(Graphics Processing Unit):画像処理に特化した半導体チップ。
  • (*4)
    TPU(Tensor Processing Unit): Googleが開発した集積回路で、AIモデルのトレーニングと推論向けに最適化されています。

入力情報についても綿密に設計を行います。入力情報として利用するカルテ情報のデータ項目、形式、データ量、入力元などを具体的に定義します。カルテ情報以外にも必要な情報が想定される場合には、情報入手元を明確にした上で、活用を検討します。また、医療分野における診療報酬改定は2年に1度行われており、これによるルール変更にも柔軟に対応する仕組みを設計します。

さらに、ハルシネーション(*5)対策も行います。生成AIの活用ではハルシネーションのリスクが常につきまといます。このため、AI モデルの学習プロセスの監視やプロンプトの調整などによるリスク管理対策を調査研究計画に組み入れていきます。

  • (*5)
    ハルシネーションとは、生成AIが事実に基づかない情報を生成してしまう現象をさします。

こうした運用面からの取り組みと技術面からの取り組みの相乗効果によって、AI技術による診療報酬請求事務の効率化は、単なる自動化・省力化にとどまらず、医療現場の業務の持続性や職員負担の軽減にも大きく寄与するものと考えられています。このような取り組みの社会的意義は、持続可能な医療体制を支えるための基盤として、ますます高まっていくと考えられます。

AI技術を活用したレセプトコンピュータの将来イメージ

この調査研究の調達仕様書に記載されている、AI技術を活用したレセプトコンピュータの将来イメージでは、電子カルテ、レセプトコンピュータ、診療報酬事務能力を有するAIが一体化している前提です。診療報酬事務能力を有するAIが電子カルテ情報を読み取り、診療報酬算定ルールに基づき算定条件を整理しつつ、共通算定モジュールを活用して計算結果などを提示します。その後、医療事務員がAIから提示された結果を確認し、内容を確定します。AI技術を活用したレセプトコンピュータが普及することで、作業負荷軽減や作業効率向上、正確な診療報酬請求への貢献が期待されています。

AI技術を活用したレセプトコンピュータの将来イメージ
(カルテ情報から診療報酬の算定を可能とするためのAI 活用に関する調査研究一式調達仕様書の内容をもとにNECにて作成)

まとめ

今回のコラムでは、第1章で医療機関の厳しい経営状況と医師の働き方の現状を踏まえて、AI活用が求められる背景とその可能性について解説しました。その具体的な取り組みとして、第2章で医療機関における生成AI活用の事例、実際にお客様と進めている実証などについて取り上げました。そして、病院経営を支える正確な診療報酬請求への貢献が期待されている「診療報酬改定DXへのAI活用」に関して、厚生労働省の調査研究の内容を第3章でご紹介しました。

AI活用の取り組みがさらに拡大していくことで、医療機関において、より効率的で持続可能な経営基盤を構築することが可能となるのではないでしょうか。そして、このような取り組みが限られた医療機関だけではなく地域全体に広がっていくことで、持続可能な医療体制が実現され、個人や家族、そこで暮らす人々が安心できる豊かな社会生活が現実のものとなるのではないかと考えます。

NEC発行のホワイトペーパー「医療機関における生成AI活用に向けて ―コンセプトと想定事例―」(*6)では、「病院経営力向上」と「持続可能な地域医療体制」の2つの観点から、医療機関における生成AI活用の事例を紹介しています。
NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。

(NEC 官公ソリューション事業部門)

医療現場を支援するAI 目次

  1. カルテ情報から診療報酬の算定を可能とするためのAI活用

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