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1. 医療機関を取り巻く現状

医療現場を支援するAI

本コラムでは、医療現場の課題に対し、AI活用によってどのような改善や効率化が期待できるのかについて、事例を交えながらご紹介いたします。

医療機関の経営状況

厚生労働省は、2025年1月22日に「病院の情報システムの刷新に係る方向性について」(*1)を発表しました。この中で、医療機関は、より質が高く、効率的な医療提供体制を構築していく必要がある一方、厳しい病院経営が課題の一つであるとしています。

新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類感染症に移行し、社会や経済活動は徐々に通常の姿を取り戻しつつありますが、医療業界に目を向けると、医療従事者の不足、医師の働き方改革など、様々な課題や環境の変化の影響を受けて、厳しい経営状況に直面しています。

医療業界の抱える課題(NECにて作成)

NEC発行のホワイトペーパー「医療機関における生成AI活用に向けて ―コンセプトと想定事例―(*2)」では、「2024年度病院経営定期調査 (*3)」の内容を踏まえながら、経営を中心とした医療機関の課題をご紹介しました。本コラムでは、経営環境をめぐる課題を他のデータからも紐解いていきます。

2025年4月23日に開催された「中央社会保険医療協議会 総会(第607回)(*4)」にて共有された「医療機関を取り巻く状況について」によると、事業利益率は低下傾向にあり、2023年度では療養型病院以外は全てマイナスとなっています。

事業利益率の推移
(医療機関を取り巻く状況について|厚生労働省 PDFhttps://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001479599.pdf

利益率の低下に伴い、倒産や休廃業・解散に追い込まれる医療機関も増加しており、2025年1月22日に発表された帝国データバンクの「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)(*5)」によると、2024 年の医療機関の倒産は64件となり、倒産件数が過去最大だった2009年(52件)を大きく上回って過去最多を更新した、とあります。救急告示病院の指定を受けていた医療法人篤信会(杏林病院・長崎県佐世保市)、地域で唯一、救急医療を担う拠点病院だった石州会(六日市病院・島根県吉賀町)が倒産しており、近隣の住民や他の医療機関に影響が広がっています。

(*5)医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)|株式会社 帝国データバンク[TDB]
new windowhttps://www.tdb.co.jp/report/industry/20250122-iryoukikan/

医療機関の働き方改革

経営の厳しさが増す中で、優秀な人材の確保やコストの削減などの効果を期待できる働き方改革への対応も、医療機関にとっての重要なテーマの1つとなっています。

我が国の働き方改革は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や働く人のニーズの多様化などに直面している状況の中で、一億総活躍社会を実現するための最大のチャレンジとして、取り組みが始まりました。2016年9月26日に内閣総理大臣決裁により設置された「働き方改革実現会議(*6)」の中で、 「働き方改革実行計画」が策定され、これに基づいて関連する法律が制定・改正されていきました。

そのような状況の中、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)(*7)」が2018年7月6日に公布され、2019年4月1日から順次施行されました。この法律は、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するために、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずることを目指しています。

「労働時間に関する制度の見直し(労働基準法、労働安全衛生法)」についても言及されており、時間外労働の上限は、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定することが義務付けられました。

ただし、自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用するなどの例外が認められおり、医師に関しては、「改正法施行5年後に、時間外労働の上限規制を適用する」とされました。具体的な上限時間等は省令で定めることとされ、医療界の参加による検討の場において、規制の具体的あり方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得ることとなりました。これらの経緯を踏まえて、医師の長時間労働の改善と健康の確保を目的とした法改正が2024年4月に行われ、勤務医の時間外・休日労働時間は、原則として年960時間が上限となりました。地域医療の確保などの必要からやむを得ずこれを上回る時間外・休日労働を行う必要がある場合は、都道府県知事から指定を受けることになり、指定を受けることができれば年1,860時間が上限となります。

時間外労働の上限規制と健康確保措置の適用
(医師の働き方改革概要 |厚生労働省 PDFhttps://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001129457.pdf より一部抜粋)

医師の時間外労働の上限規制適用(2024年)を目前に控えた2023年に医師の勤務実態についての調査結果が報告されました。この報告によると、一定程度、医師の働き方改革は進んでいることが示されています。しかし、時間外・休日労働時間が年1,920時間換算を超える医師の割合はR4調査で3.6%となり、「医師の働き方は改善傾向にはあるものの、今後も引き続き医師の働き方改革の推進に努めてゆく必要が示唆される結果が得られた」と結論づけられています。

週労働時間区分と割合<病院・常勤勤務医>
(第18回医師の原崎方改革の推進に関する検討会(令和5年10月12日開催) 資料2_医師の勤務実態について |厚生労働省 PDFhttps://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001232021.pdf )

医師の働き方改革は、医療の質・安全の確保と、持続可能な医療提供体制を維持していく上で重要です。医師の長時間労働の改善と健康の確保を目的とした法改正を契機として、「時間外労働の上限規制」や「医師の健康確保措置の義務化」などの施策が実行されており、医師の負担軽減や長時間労働の削減に向けたタスクシフト(業務移管)やタスクシェア(業務の共同化)が推進されています(*8)

AI活用の可能性

医師のタスクシフト(業務移管)やタスクシェア(業務の共同化)を推進し、業務のさらなる効率化を図る手段として、近年注目されているのがAIの活用です。

2025年1月22日に厚生労働省が発表した「病院の情報システムの刷新に係る方向性について」の中でも、将来的に各病院等が生成AI等のサービスを活用しやすくすることで医療従事者の負担軽減とより安全で質の高い医療が実現されることを目指しています。例えば、AIが電子カルテの入力補助を行うことで、医師や看護師の業務負担を軽減し、各職種の専門性を活かす業務に集中することができるなど、医療現場の効率化だけでなく、医療従事者のパフォーマンスのさらなる向上への貢献も期待されています。

NEC発行のホワイトペーパー「医療機関における生成AI活用に向けて」の中でも、医療機関における生成AI活用のコンセプトと想定事例を紹介しています。第2章では、ホワイトペーパーでご紹介したいくつかの事例や、お客様と進めている実証などについてご紹介していきます。

(NEC 官公ソリューション事業部門)

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