行政DXの社会実装に向けて

NECデジタル・ガバメントDay 2022

【パネルディスカッション】
「徹底討論!霞が関とNECのリーダーでこれからの働き方を考える!」

【登壇者】

  • NECカルチャー変革エバンジェリスト 森田 健(モデレーター)
  • 内閣官房内閣人事局 参事官(厚生労働省・宮内庁担当) 辻 恭介 氏
  • 経済産業省 大臣官房 業務改革課 課長補佐 八木 春香 氏

働きやすさ?働きがい?

森田:ここからはお二人とテーマに沿ってディスカッションしていきたいと思います。今日のディスカッションの仕方は3つのテーマをあらかじめお伝えして事前にスケッチブックに描いてお持ちいただいていますので、それをベースに議論を深めていきたいと思います。最初のテーマは「働きやすさ?働きがい?」です。

 絵心がなくて申し訳ないのですけれども…働きやすさというものは、家でいうとそれがないと成り立たない土台のようなもので、働き甲斐というものはその上に建てる建物、作品みたいなそういった位置づけかと思っています。働きやすさがないところで働きがいを追求するというのはほぼ不可能。昔の日本企業は、先ほども八木さんからありましたように「やりがい詐欺」のような、働きやすさがないところで働きがいを求めさせているからうまくいかないのではないかと、そんな風に考えています。

森田 もう一つ教えていただきたいのですけども、今辻さんの職場は議論としてどの辺までいっているでしょうか?NECの働き方改革の流れとしては、働きやすさから働きがいへ移行しているタイミングなのですが。

 急に変わってきているなという感覚はあるのですが、大きな変化は2019年ぐらいですね。大体リモートアクセスの環境は整備されていたはずなのですが、使っている人はほとんどいなかった。ところが3年たって帰ってきたら私の職場だけではないと思うのですが、使っている人が非常に増えていた。コロナの影響もすごく大きかったのかなというところはあります。とはいえ霞が関の現状としては働きやすさをなんとかしないと働きがいなどと言っている場合ではないというフェーズかもしれません。ただインフラは既にあると思います。

森田 なるほど。ありがとうございます。八木さんは…「働きやすさは必要条件」。

八木 「働きやすさは必要条件。これからは働きがい?」と書かせていただいたんですけど、意見としては辻さんと似ていると思います。働きやすさがないとその上に働きがいって乗せるには結構厳しいものがあって。これまでの働き方改革というのは働きやすさを追求してきたと思うんですね。例えばオフィスのきれいさだとか、インフラの早さとかだったりするのですけれども、確かにそこがないと何も作れないというところは正直あると思っています。そこは結構大事なことだと、まだ軽んじられない話ですし、これからも引き続き追及すればするほど良いと思っています。けれども働きやすさだけがあってもなかなか人って働く気にならない部分が正直あると思っていて。そういう意味では楽しく働けるように働きがいみたいなところも整備していく必要があるかなと考えています。

森田 ありがとうございます。あの…「働きがい」ってなんですかね?例えば八木さんがメルカリに行ったときにみんな働きがいをもっているように見えたような気がするんですけど、その辺はどうですか?

八木 はい、それは本当に働きがいをもって皆さん働かれていたと思っています。先ほどもご紹介しましたが、ミッションの存在が大きいのかなと。「世界一のマーケットプレイスを作る」、そのミッションに心から共感をしていて社員たちの間でそれが浸透している。そのカルチャーという意味でのバリューという点にも、皆さん分かっていて入社されているのでそういう意味では非常に納得感があって疑義を持たない状態になっている、そういう意味でとても働きがいがあるように見えました。

森田 働きやすさ、働きがいというのはある意味、まさに辻さんのスケッチブックに描かれたように、土台と家ということで、こういう関係性にあると私も思います。NECも土台作りをずっとやってきていて、土台作りって大事なんですよね。土台作らないで上の話をしたってそれは全く響かないので。働きやすさの整備は企業としての責任という面もあると考えています。これからもしっかりと取り組んでいきたいと思っているのですが、いつまでも整備だけではいけないなと。この上の矢印の議論をする時にこれはNECだけではなくて、世の中的にも自律、そういう議論がよくでてくるかなと。やっぱりその働きがいと自律の話は切っても切れない関係性にあるので、2つ目はそれについて議論したいなと思います。

社員の自律を阻むものは?

森田:ということで2テーマ目は「社員・職員の自律を阻むものは?」ということで、お二人みたいな自律された方は良いのかもしれませんけれども、NECでもやっぱりなかなかそういう人ばかりではないということがあります。議論する前にインプットしたいチャートがありますので映していただけますか?

これは日本の伝統企業が何をどうなっているのか構造的に説明したチャートです。戦後焼け野原になって一から会社創るぞ、ということでほぼほぼ全員がイノベーターという状態。そこからものすごい努力をしてジャパン・アズ・ナンバーワンという時代がありましたよね。そしてそのイノベーターが経営者になり、そのイノベーターの指示を受けて忠実に実行する人たち、このペアで勝っていったというわけですよね。時が経ってバブル崩壊、低迷のはじまりと言われた時にはそのイノベーターの数がかなり減ってしまった。一番右は2010年と少し古いデータですが、真っ白になっています。これは一億総サラリーマンと言っても過言ではないかもしれませんが、言われたことをしっかりやる人たちが増える構造になってしまっている。こうした構造の中で自律というものをどのように考え作り出していくのか、そこに非常に難しい課題があるのではないかと考えています。というところでお二人との議論に入っていきたいと思います。

八木 「ミッションの不在」と書かせていただいたのですが、まずこの瞬間に考えが変わったところもありますので両方説明しても良いですか?

森田 どうぞ!

八木 こちらの方向に向かっていけば日本という国は幸せになるんだという方向性が比較的定まっていたのがこの図だと70年代、80年代ぐらいだと思っていて。今はどちらに行ったらいいのかが分からない、こう頑張れば皆救われる、といった分かりやすいミッションみたいなものが国にもない、それは企業にも同じことが言えるのではないかなと。そこで企業、組織としての与えられたミッションがあると分かりやすくそちらに向かって頑張ることができるという意味で、自律心が大きくなるのかなと思いました。考えが変わった部分は、そのミッションをください、ということそのものがまず自律していないのかなと思うようになりました。そういう意味ではこの図の総サラリーマン化した中で1950年代に戻っていかないといけないという際には、また組織の中でその新しいミッションをすり合わせていくことが大事なのかなと思います。

森田 ありがとうございます。たぶん青の人たちは働きがいマックスですよね。

八木 マックスですよね。一人ひとりが自律して、ということなんだと思います。

森田 ありがとうございます。それでは次に辻さん、お願いします。…「ひとごと感」。またキャッチーな…。

 先ほど申し上げた話ともつながるのですが、いろいろなインフラ整備をしていく時に感じたのが、自分の大事なことを誰か他の人が決めてくれると思っている人がなんて多いんだろうということなんです。結局そんな状況では、先ほどの八木さんの話に出てきたミッションを自分で考えることができずそれも誰かからもらえるものだと思ってしまっている。おそらく今までこの国はそれで上手くいっていたので、だから考えなくていいんだという思考になってしまっている。でもそれは今までの話で、これからは考えていかなくては自分が楽しく生きていくこともできなくなってきている。そこの意識をどうやって変えていくか、そこが重要かなと思います。

森田 私たちもずっとカルチャー変革をやってきて、何に取り組んでいるのかと考えたらやっぱりここにたどり着いたんですよね。Changeのフェーズは社員が社員一人ひとり自らが考え、自らが変わる・動くということを目指しているのですが、それはまさに「自律」のことを言っていて。どうしてもそれが実現しないと中々働きがいという議論までたどり着かないという実感があります。

 でも昔の人たちの場合は真の意味での自律ではなかったかもしれませんけどね。世の中の方向性として大きなレールが走っていて、そこに乗っかっていれば自然とやりたいことが生まれてきたという状態からすると、それは真の意味の自律とは異なるかもしれません。

森田 難しいですよね。さっき八木さんがおっしゃっていたように時代ごとの分かりやすい目標みたいなものも世の中的にもないですし、その中で一人ひとりがしっかり目標をもってやっていくというのは確かに昔に比べると青に戻るという話とも全然また違うかもしれない。では3つ目に行きたいと思います。

「それに対する打ち手は何か?」

森田 この問いに対する答えはないので議論をして様々な視点を出していければと思います。これも私から議論のたたきになるお話をさせていただきたいと思います。

これから私たちが今トライしていること、考えていることを整理したチャートです。上のチャートは要するにパラダイムシフトと言っても過言ではないかと思います。今まではオフラインが基本でそれを補完するオンラインという存在があったと思うのですが、これからは基本対等というかオンラインでもオフラインでもどちらでもいいんだという時代になると。NECはむしろオンラインの方が少し大きくて、保管する方がオフラインという考え方になってきているなと思います。要するに以前とは全く考え方が変わってきている。この中でどのように働いていくかを考えると、自律していないと図の右側の状態というのは相当置いていかれてしまう、差が出てしまうわけです。左側は皆会社にいて助け合う状態、助け合うこと自体は非常によいことですが、何となく人依存というかもたれあいの構造ができやすい感じだったものが、今はそんなことでは仕事にならないわけですよね。本当に自分で情報を取りにいかないといけない、会いたい人がいたら会いたいと言わなければならない。そういう感じなので、まさにその自律が本来自動的に促されるのではないかと思います。それをサポートする手段としてNECは2つのことに取り組んでいます。一つは世の中的には週に2日出社しなさいと決めている会社もありますが、私たちは一切そういうことは言わないと決めました。出社頻度はチームによって違って当たり前だからそれはチームで決めていこうと、そして最終的には個人でしっかり決めていこうということです。こうしたことをしっかり議論していくのが一つです。もう一つはデジタルツールに関しての部分で、今後フル活用は欠かせない世界観になってきた時に、デジタルツールで暗黙知を形式知にしていかないとそもそも仕事にならないと。この二つを推進していくと社員の自律につながるのではないかと、おこがましいですがそうした仮説の下で様々なトライをしています。それではお二人のご意見もお聞かせいただきたいと思います。辻さんお願いします。「責任ある自由」。

 今までNECさんも含めて様々企業がやってきたような環境の整備は、与えてもらってはいるけれどそのために血を流しているかというと誰も血を流していない。私も昔人事を担当していることに思ったのですが、まず会社や組織が何でもやってくれる皆思っている。そして足りない部分だけ文句を言っている。例えばキャリアパスについても、自分の会社は人材育成を考えていないと文句を言っている、それは自分で考えなさいという話なんですよね。だから結局その責任がない自由をおう歌しているような状態というのを何とかしなくてはならない。やはり自分のキャリアは自分でデザインするのが当たり前です。人材流動化だけが答えではないと思いますが、自分が得意なものは何なのか、やりたいことは何なのかという点からちゃんと仕事を紐解いてそれを活かせる場所はどこなのかという感覚を持った個人を育てるために会社や組織はどんなサポートができるんですか?というように発想を転換していくことが一番大事だと思います。

森田 本当に本質はそうですよね。ありがとうございます。それでは八木さんお願いします。

八木 「ミッションの腹落ち感+KPI等への落とし込み」と書かせていただきました。ある企業の方からお話を伺ったのですが、自分は何で生きているのか、何が楽しいのかという部分は個人それぞれで持っていると思います。そこと組織のミッションをどうすり合わせていくのか、しっかり腹落ちさせていくことが個人の自律を促すのかなと思っています。あとは、これは組織運営としての一つのツールという話になりますが、その評価の部分、達成目標にどう落とし込んでいくかで日々の業務に自律が生まれてくるかなと思いました。

森田 いかがですか?辻さん。

 確かによって立つ所というか、そういう点を言語化することは非常に重要だなと自分も最近思っていて。今まで何となく「背中で見て学べ」とか、目標を立てるとしても形式化していてぼやっとしている部分が多かった。「何のための目標なのか?」「なぜそれをやる必要があるのか」といた精神論ではなくてちゃんと言葉で出していくことが難しいけれども求められているということを八木さんのお話を聞いていて思いました。


森田 確か八木さんから以前見せていただいたメルカリの体験記を見てみると、「ちゃんとした目標設定」と書いてあって。そういう課題意識っておありなんですよね?

八木 そうですね、そこは結構あると思います。皆自律している前提でフルマックスで頑張るだろうという評価設定になっていると思うのですが、そうではなくて、ここまで達成する必要があるというものがあってそこにコミットしていくという新しいやり方、新しいというよりも当たり前のやり方を実践していかなくてはならないと思います。

森田 第三者的にみると霞が関の方々というのは基本皆さん志が高くて。ただ、それだけだと昔みたいにじゃあ全員が本当にドライブするのか?とそれは中々難しい、そういった感じですかね。

八木 そうですね。

森田 そこにはやっぱり分かりやすいミッションというのができるかわからないけれど必要だよね、という。

 なぜこれをやっているのか、という問いに対して、昔だと「そんなこと言わずにやれ!」みたいな話だったところを、しっかり向き合って議論する、そういうことが大事なのかなと思います。

八木 そういう意味ではどこまでが企業・組織の責任になるのかという点は議論の余地があるなと思っています。今辻さんがお話されていた一人ひとりの人間が会社というプラットフォームを使って自分が何を実現していきたいのかを考えて入るという話の方が本質で。そうやって入社した人をよりエンカレッジするためにミッションというものを組織として、経営活動として作る必要があるというようにディスカッションを経て思い当たりました。

森田 先ほどからの議論の中に「オフィスがどうの…」という話はほとんどなくて。最初は働きやすさの整備って必要なのでしょうが、単なる一パーツでしかないんだろうなという気づきは議論していて思いましたね。

 それこそ10年前は「働き方改革?なにそれ?」という所から始まったわけですが、今働き方改革だけをやっていますと言うと「え?」という話になってくる。それはもう土台の話であって、後はその個人がどういう風に楽しく生きるかということだと思います。

森田 先ほど控室で事前に議論をしている際に働き方改革基本法の話が出ましたが、それこそ年次休暇を5日間は取ってくださいというようなことをわざわざ言わないとダメだった世界もありました。コロナを経験して全くそんな議論は聞かれなくなりましたよね。そういう意味では世の中も大きく変わってきているのかなと思います。先ほど八木さんのお話を伺っていて、実はNECも2、3年前にいわゆるPurposeというものをしっかり掲げなおしました。その際に実施したのが社内では連鎖ミーティングと呼んでいる会議です。Purposeって壮大じゃないですか?皆それぞれそのPurposeには共感するのですが、じゃあ明日からの自分の仕事に何か関係するのかといったら実は余り関係なかったりするので縁遠くなってしまいがちです。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)もそういうところが多分にあって。ただ、誰しもやり方や考えていることはありますよね。皆が腹落ちするためにNEC Wayと自分のWayを照らし合わせてみようという活動を全社員で行ったんです。

 それはすごいですね。

八木 素晴らしいですね。

森田 社長からワーッとやっていって。それがすごく良かった。実は自分はこういうことをやりたかったとか、こんな志を持っているんだということに改めて気づき、そしてそれはNECのPurposeと全く無関係ではないということを発見するんです。会社に対するエンゲージメントも上がるし、じゃあ自分でもっとこれもやりたいあれもやりたいという気持ちになるので自律にも確かにつながっていく。そうした実感を持ちました。

 そういう活動を青臭いとか恥ずかしいとか思ってうやむやにするのではなくて、大事な話として共有することはとても大切なことですよね。

八木 自分が何のために生きているのかなんて、多くの人は最初就活の時に声に出して言語化しますが、それも十年ぐらい経つと…。

 出さないよね。

森田 言われてみれば確かに。

八木 何だっけ?となってくる。なぜ自分が社会活動をしているのかという点を忘れがちになってくるので、そこを言語化して、かつその会社のPurposeと合致しているかということをしっかりと見つめることによって自律が生まれるのかなと今お話しを聞いていて思いました。

 あとは自分の居場所を一つにしないということが非常に大事なことかなと。

八木 大事ですよね。

森田 サードプレイスとかね、よく言われますけどね。

 地元でもよいし、市民活動でもよいですが。様々な居場所で自分を客観視できる感覚を常に持ち続けられるようにすることで初めて、「なぜ仕事をしているんだろう」ということをちゃんと考えられるような気がします。

森田 本当にありがとうございました。働き方改革というテーマですけれども、本質的な議論をしていくとやっぱり今みたいな議論、こういうのをやっていかないとインフラの整備ばかりしていても次のステップには行けないということがよくわかりましたし、非常に有意義な時間でした。ぜひ今後ともディスカッションを続けながら、官民協力してよい方向に進んでいければと思っています。改めまして辻さん、八木さん、本日は本当にありがとうございました。

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