Japan
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行政DXの社会実装に向けて
NECデジタル・ガバメントDay開催日:2022年2月9日(水)
主催:NEC
日本の行政DXはこれまでにも増してさらに早いスピードで進んでいく大きな変化の時を迎えています。NECでは、「より早く、より柔軟な」システムの社会実装に向けて、新たなソリューション開発を行ってきました。
本セミナーでは、ガバメントクラウドを含む行政プラットフォームの実装に向けての提言や、行政DXの先進的な取り組み紹介、クラウド提供事業者の戦略紹介、職員の働き方改革パネルディスカッションなど、これまでのノウハウを基に行政DXの実現に向けてさまざまな切り口から議論が実施されました。
【基調講演】
『電子政府先進国デンマークに見る、誰も取り残さないデジタル社会の実現について』
デンマークは「幸せの国、デジタル社会」
ロスキレ大学・サステナブル・デジタリゼーション准教授の安岡美佳です。デンマーク在住16年になります。本日は「電子政府先進国デンマークに見る、誰も取り残さないデジタル社会の実現」についてお話しさせていただきます。
デンマークという国が注目されていることの一つに「幸せの国」という視点があります。また、2021年の「World Happiness Report」でデンマークは第3位、早稲田大学電子政府自治体研究所が発表した世界デジタル政府ランキングも第1位です。つまりデンマークは世界でも有数の「幸せな国、デジタル社会」と見られていることが分かります。
デジタル化の現状ですが、個人番号により個人が特定され、全ての電子政府手続きのベースになっています。国民と政府間のコミュニケーションはセキュアなコミュニケーション・チャネルを通じて授受できます。実際に新型コロナウイルス発生時には全国民への一斉連絡が行われ、政府との連絡銀行口座を通じて、コロナ支援金が即日受領できるような状態にありました。これが今のデンマークの姿です。
デンマークは、どちらかと言えば見た目は牧歌的な国ですが、時間をかけて適切なデジタルの仕組みを導入、管理することで電子政府先進国になりました。例えば、03年、05年、10年、14年に行われたデジタル化を公共機関から民間企業、そして市民へと広めるための「eDay」という施策によってデジタル化が進展しました。現在、日本が進めている「ワンスオンリー化」は、ある意味デンマークが長期間かけて行ってきたことです。
では、なぜ上手く行っているのか。5点ほど挙げてみます。まずはデータが適切に収集され、管理、更新、活用されていること。これはデジタル化において最重要なトピックです。2点目は、政府が管理する個人情報を確認できること。3点目は、女性をはじめ外国人、障がい者、子どもなど、あらゆる弱者、小集者の視点を組み込む多様性への配慮です。4点目は、公式手段だけでなくインフォーマルサポーターの助けを借りるということ。そして5点目は、透明性の確保と信頼性の向上で、デンマークでは国民が納得するだけの透明性の確保が徹底されています。
デジタル社会の実現の鍵は人間
あわせて私の見解をお話ししたいと思います。やはり鍵は人間です。テクノロジー導入の際、人や組織、社会の理解が不可欠というのがデンマークでは常識になっています。そして伝達の努力を怠らないというコミュニケーションも重要です。正直、人は間違いを起こします。こうしたことを前提に多様性の中で模索することが最終的にレジリエンスを高めることにつながると思います。
最後に、教育すること、また学術の知見を活用することが重要です。私がデンマークの大学で働き始めたのは16年ほど前ですが、今、私が所属するロスキレ大学の当時の研究者たちが「参加型デザイン」というメソッドを立ち上げて模索してきた成果が、今のコンピューターサイエンスの教科書の一つになっています。学生たちは、それがITのフィージビリティ・スタディー(実現可能性調査)で不可欠なプロセスということを学びます。これが北欧全域で行われている教育です。
現在、私は日本の企業や大学研究者と一緒に「誰一人取り残さないための人・組織・社会を中心に据えたシステム開発議論」、つまり「参加型デザイン」や「MUSTメソッド」のプログラムを提供し始めています。個人的にも「参加型デザイン」を深く理解してもらうためにより良い機会をさらに模索していきたいと感じています。
最後に個人向け医療ポータルサイト(sundhed.dk)を立ち上げ運営を主導してきたPetersen氏の言葉を紹介します。
“システムの構築は1年間で終わった
その後、導入し浸透するのに20年かかった”
ご清聴ありがとうございました。
『NECが見据えるデジタル・ガバメントと官民連携モデル』
誰一人取り残されない人にやさしいデジタル化の実現へ
デンマーク在住の安岡先生のお話を受けて「NECが見据えるデジタル・ガバメントと官民連携モデル」についてお話しいたします。
まずは、デンマークのデジタル・ガバメントについてです。デンマークは、国連経済社会局(UNDESA)電子政府ランキング(2020年)1位の国。このデンマークの行政デジタル化を支えるのは、NECのグループ会社であるデンマーク最大のIT企業「KMD」です。
デンマークの成功要因の1つはデジタルの義務化です。法案提出時にデジタル対応を義務づける「デジタル対応の法律(Digital-ready legislation)」が制定されており、書面や対面を前提とした法律は国会に提出することができません。また、行政機関から国民宛の通知は、デジタルポストを使うこと、国民から行政機関に対して申請を行う際は、デジタルサービスを使うことが義務化されています。このため、国民と行政機関とのやり取りの約90%以上がデジタル化されています。
デジタルの義務化を行うに当たっては、様々なデジタルデバイド(格差)対策が行われています。例えば、親族や士業等による代理手続きが可能な「デジタル委任状」や高齢者向けのよろず相談所である「ITカフェ」の設置等、すべての国民がデジタルサービスを利用できる環境を整備しているのです。
さらに、国民目線でのデジタルサービスの使いやすさも追及もしています。例えば、国民のライフサイクルに寄り添った形でUI/UXを整備し、国民は官公庁の所管を意識して手続きを行うことはありません。これは、官民の様々な機関が共通的に利用する基礎データの仕様を統一し最新かつ正確な情報がデータ連携できる仕組みがあるからこそ実現できるといえます。
KMDは、これらのデンマークの行政デジタル化を支えるデジタルポスト「e-Boks.dk」、公金口座「NemCONTO」、データ連携基盤「Data Distributor」等様々なシステムを担っています。
日本ならではの取り組みを
次に、日本とデンマークの比較から得られる示唆をお話しします。両国とも、ほぼ同様のシステムが整備されているものの、大きな違いは、デジタルサービスにおける本人確認手段の普及率といえます。日本のマイナンバーカードの普及率は約43%(2022年1月末申請数)に対し、デンマークのNemIDは普及率100%。マイナンバーカードが普及しない限り、どんなに素晴らしいデジタルサービスを構築してもデンマークのような利用率は実現できません。例えば、マイナンバーカードが高機能ICカードであることを活用し、スマートフォンや生体認証との連携を行う等日本ならではの取り組みで、国民目線での使いやすいデジタルサービスの整備が必要だと考えます。
また、国民意識も異なります。デンマークでは、政府が透明性を持って国民の所得や資産を把握することが公平・公正な社会の実現につながるという意識の方が多いです。しかしながら、日本では、マイナンバー制度への根強い反対がある反面、公平公正に給付を行ってほしいという要望が国民からあがります。マイナンバー制度を活用せずに公平公正に給付を行うことは難しく、日本の場合には、プライバシー保護と社会的利益のバランスを丁寧に国民に説明していくことが重要だと考えます。デジタルを利用して国民を監視するのではなく、デジタルを利用して国民に透明性を説明するという考え方は今後のデジタル社会の在り方の中心となってくるのではないでしょうか。
このように、NECはデンマークの先進事例を参考に、誰一人取り残されない、人にやさしいデジタル化を目指していきます。
2022年3月 iJAMP企画特集より転載