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サイバー攻撃のリスクから事業継続を考える

NECセキュリティブログ

2026年9月28日

有事の際に企業・組織の事業や業務を止めずに継続するための計画として、広く普及しているBCP(Business Continuity Plan)ですが、頻発する異常災害に対してだけでなく、増え続けているサイバー攻撃発生に対しても考えられているでしょうか?
サイバー攻撃に対する事業継続活動は情報システム部門だけが考えるのではなく、企業・組織全体で取り組むべきものです。
今回のブログでは、サイバー攻撃に対する事業継続活動について、その必要性や取り組み事項を整理します。これからの検討や見直しの一助となれば幸いです。

目次

増加しているサイバー攻撃と被害の事例

近年、情報セキュリティを取り巻く環境は大きく変わってきています。クラウドサービスの利用、リモートワークの活用、ゼロトラストの考慮等、新しい技術や考え方が生まれると同時に、サイバー攻撃の脅威といったセキュリティリスクも増加しています。そして、サイバー攻撃によって組織内のシステムが停止してしまうと、業務そのものの停止に繋がり、復旧するために多くの労力や費用がかかってしまうだけでなく、組織の信用も失ってしまうことになります。

図1:国内でのサイバー攻撃による情報セキュリティインシデントの件数の推移 [(出典:「JPCERT/CC インシデント報告対応レポート」より弊社で作成)

実際に、サイバー攻撃による被害が業務停止に繋がってしまったという事例も、最近耳にすることが増えています。
事例1 :自動車メーカ
部品を供給するサプライチェーンの1社において、脆弱な機器に対する不正アクセスをきっかけにサーバやパソコン端末がマルウェア被害を受け、その結果自動車メーカの国内全工場の停止に至った。
事例2 :食品製造メーカ
ネットワーク機器の脆弱性を突かれてランサムウェア感染に感染。サーバやPC端末のデータ暗号化・基幹システムの停止が発生。さらに個人情報漏えいの可能性も公表された。全商品の出荷再開までに約半年間かかった。
事例3 :ECサービス
業務委託先の管理者アカウント情報が漏えいし、不正アクセスによりランサムウェアに感染。ECサービスの受注が停止し、全面復旧に至るまで約3ヶ月かかった。

その他にも同様の事例は増えており、組織として「いかに防ぐか」「いかに早く気づくか」「いかに早く復旧するか」を真剣に考えないといけない状況が迫っています。サイバー攻撃による影響は業務停止だけではありません。攻撃により個人情報や機密情報が盗まれてしまった場合は賠償金の支払いや法令違反に問われることがありますし、システムを復旧するための費用等もかかります。そして何より組織としての信用を失うという大きな影響に繋がってしまうのです。

BCPの考え方

次にBCPについて考えてみます。BCP(Business Continuity Plan)はその名の通り事業を継続するための計画です。BCPでは、脅威に対して以下の2面から対策や行動を考え、計画しておくことになります。
①いかにして被害を小さくするか(被害を発生させないか/被害を拡大させないか)
②被害が発生してしまったとしてもいかにして早く復旧するか

サイバー攻撃の脅威をイメージしてみると、まずやるべきことは攻撃による被害を予防/防止することです。しかし巧妙化するサイバー攻撃を完全に防ぐことは簡単ではありませんので、防げなかった場合 被害が発生した場合の対応も合わせて考えておく必要があります。
図2のグラフで示す通り、この2面の検討を行うのと行わないのとでは、最終的な復旧の早さが大きく異なってきます。

図2:BCP適用時の復旧曲線

また、図3は脅威と被害の影響範囲について整理したものです。サイバー攻撃による被害の場合、地震等の災害と異なり、場所によらず被害を受けます。災害に強い堅牢なデータセンターにシステムを設置していても、サイバー攻撃やランサムウェアに侵入されれば瞬く間に大きな被害が発生します。さらに他の組織が同じ様に被害を受けているわけではなく、被害の対象は自組織や自組織に関係するサプライチェーン等に限定されることが多いため、できるだけ早く復旧することが求められます。つまり、経営の面からもサイバー攻撃に対するBCPを策定しておくことは非常に重要です。

図3:事業上の脅威と被害の影響範囲

サイバー攻撃BCPで検討すべきポイント

①被害を最小限に抑える対策

サイバー攻撃による被害をできる限り少なくするため、以下の3つの視点で対策を行うことをお勧めします。

  • Ⅰ)
    予防:被害を予防すること
  • Ⅱ)
    検知:インシデント発生をすぐに検知して被害の拡大を防ぐこと
  • Ⅲ)
    対応:被害の影響範囲を特定して速やかに必要な対応を取ること
  • Ⅰ)
    予防
    システムに対するセキュリティ対策が考えられます。普段からサイバー攻撃に対するセキュリティ対策を実施しているのであれば、その活動を継続することがサイバーBCPにおける「予防」に繋がります。サイバー攻撃はセキュリティ対策の弱いところから侵入し、広がっていきます。つまり自組織に関係するサプライチェーン全体で「予防」を考えていくことが大切です。
  • Ⅱ)
    検知
    インシデント発生を速やかに気づけることが重要です。例えばウイルス対策ソフトによる検知やログ監視ツールによるチェック、SOC(Security Operation Center)といった組織や機能を持つことで、検知のスピードも上がり、見落としも防ぐことができるでしょう。
  • Ⅲ)
    対応
    インシデント発生時における被害規模の把握や分析、対応の検討といったインシデントハンドリングを行えるようにしておくことが求められます。インシデントハンドリングについては、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)と呼ばれる組織を構築しておくことが理想ですが、自前で構築できない場合は、外部事業者から有事の際のインシデント対応についてアドバイスをもらえるようなサービスを契約しておくことも考慮しておくとよいでしょう。前述の「検知」や「対応」を行う機能を何らかの形で保持しておくことがポイントです。

サイバー攻撃に対するBCP対策(CSIRT、SOCとは)
◆SOCとは
24時間365日体制でネットワーク機器やサーバ等のシステム・デバイスを監視し、サイバー攻撃の検知やログの分析、対応策のアドバイス等を行う組織。
◆CSIRTとは
緊急対応(インシデントハンドリング)の実務を行う組織。

  • モニタリング(事象の検知、報告受付)
  • トリアージ(事実確認、対応の判断)
  • インシデントレスポンス(分析、対処、エスカレーション、連携)
  • リスクコミュニケーション(報告、情報公開)

SOCはインシデントの検知(被害拡大防止)に重きが置かれており、CSIRTはインシデント発生時の対応(速やかな復旧)に重きが置かれている点が異なる。

ここまで、サイバー攻撃等に対する被害を最小化するための対策を説明しました。予め準備しておき、被害を抑えることが最初のステップとして重要です。

②被害からの迅速な復旧のための活動

次に、サイバー攻撃による被害が発生した場合の対応について説明します。サイバー攻撃への対応は、ただ被害を受けたシステムを復旧すればよいわけではありません。被害範囲の調査や攻撃を受けた原因(脆弱性)の分析と対処等も合わせて行う必要があります。特に原因の分析と対処をしなかった場合、再び同じ攻撃を受けてしまうことも考えられるため、実施すべきことと考えます。この点は、災害等によって壊れたシステムを復旧するのとは少し対応が異なります。
システムが被害を受け、格納されているデータが利用できなくなった場合は、システムの復旧のために、バックアップデータからのリストアを行うことになりますが、バックアップデータの保管場所も注意しておく必要があります。ランサムウェア等によりバックアップデータも同時に被害を受けないよう、物理的/論理的に切り離された場所に保管しておかなければなりません。バックアップについては「3-2-1ルール(3つのコピー、2つのメディア、1つのオフサイト保管)」が提唱されており、最近ではさらに「1つの書き換えできない(イミュータブルな)データ」や「復旧エラーがゼロであることの検証」が求められています。
また、システム被害はシステムだけの話ではありません。システム停止によりそのシステムを利用している事業も一緒に停止している可能性があるのです。システムの被害が事業停止に及んでいることを判断した上で、サイバーBCPとして活動するための「体制構築」「BCPの発動判断」「組織外への発信」「システム停止時の事業継続方針」等の活動がしっかりと行えることが迅速な復旧に繋がります。これらの活動を行うためのルールを平時から決めておく必要があります。
被害発生時に求められる対応を行うために、以下の4つの事項を平時から検討しておくことを推奨します。

  • Ⅰ)
    被害発生時の指揮命令・原因分析・復旧体制の構築
  • Ⅱ)
    サイバーBCP発動判断基準の定義
  • Ⅲ)
    組織外への発信対応基準の定義
  • Ⅳ)
    システム停止時の事業継続の検討
  • Ⅰ)
    被害発生時の指揮命令・原因分析・復旧体制の構築
    「被害を検知すること」「被害の原因分析を行うこと」「それらと連携しシステムを復旧すること」を行う組織として情報システム部門の他にSOCやCSIRTといった組織が体制に含まれることが考えられます。被害が大きい場合は事業継続という目線で組織内全体への周知や指揮命令を行う対策本部等の機能が必要です(図4)。
    例えば、ある情報システムの障害が発生した場合、まずは情報システム部門と連携したSOC/CSIRTの中で対処を進めていきますが、組織内の実業務に影響が出ていると判断された場合には、組織全体で事業継続に取り組む必要が出てきます。その場合、組織の対策本部が登場し、指示を出していかなければなりません。
    ここでも、自組織だけでなく、関係するサプライチェーンも含めた全体で対処を進めていく必要がありますので、あらかじめサプライチェーンとの間で有事の際の体制について話し合っておくとよいでしょう。
図4:サイバー攻撃に対する事業継続体制図(イメージ)
  • ※
    サイバーBCPでは「事業継続対策本部」と「情報セキュリティ委員会/情報システム部門」を合わせて事業継続体制と呼ぶことが多い
  • Ⅱ)
    サイバーBCP発動判断基準の定義
    次に、情報システムの障害が、組織内の実業務に影響を及ぼしているかどうか(=対策本部が登場しサイバーBCPとして対応を行うのかどうか)を判断する基準を用意しておく必要があります。
    流れとしては、情報システム部門がインシデントの発生状況や被害の影響を収集・整理した上で、経営層に「必要な情報」をエスカレーションします。ここでは全ての情報を報告するのではなく、「サイバーBCP発動の判断を行うために必要な情報」を選別した上で報告することになります。つまり「何をもってサイバーBCP発動を判断するのか」の判断基準をしっかりと定義しておくことが大切です。
    例えば「組織内の全部門に関係する基幹システムの復旧に半日以上かかると見込まれた場合」や「製品を生産する工場のうち、複数の工場が生産停止になった場合」等、組織によって基準は異なります。自組織にとっての判断基準を検討しておいてください。また、図5のように、サイバーBCP発動判断は、被害の全貌がおおよそ見えた段階で行うという流れを意識しておくことも重要です。
図5:情報セキュリティインシデント発生時の対応(初動)とサイバーBCP発動判断の関係性
  • Ⅲ)
    組織外への発信対応基準の定義
    このような有事の際は、組織外に対して被害状況や復旧見込みを発信する必要がある場合もあります。ただし、発信の仕方は様々であり、顧客への個別通知やホームページへの掲載、プレスリリースの発信や記者会見等、その被害の大きさによって、しかるべき対応を行う必要があります。
    この対外発信の対応基準もあらかじめ決めておき、有事に困らないようにしておくことが望まれます。
    図6に対外発信基準の一例を載せています。先ほどのサイバーBCP発動基準と同様、各組織によりこの基準も変わります。どのような場合にプレスリリースを出すのか、記者会見を行うのか等を考えておくとよいでしょう。
図6:対外発信基準(例)
  • Ⅳ)
    システム停止時の事業継続の検討
    システム停止に伴い、システムを利用している事業や業務も一時的に停止してしまいます。サイバーBCPの目的はシステムを復旧することだけでなく、事業の継続にありますので、システム停止期間中に「どの事業を」「どのように継続するのか」を予め整理しておくことが望まれます。
    継続の仕方は事業により異なりますが、手作業で代替できるものや稼働中の他システムに切り替えられるもの、社外に切り出して対応できるもの等、できることとできないことを切り分けて暫定的な対応方針を定めておくとよいでしょう。

ここまで、サイバー攻撃に対するBCPで検討すべきポイントについて、2つの視点から説明を行いました。
「①被害を最小限に抑える対策」と「②被害からの迅速な復旧のための活動」のどちらか片方だけでは事業継続は不十分です。両輪を回すことでサイバーBCPが活きてきます。

BCPの運用

前述のサイバーBCPで検討すべきポイントは、有事の際を想定した事前準備と発生時の対応について述べたものであり、サイバーBCPを策定する上では重要なポイントです。
一方で、BCPは策定しただけでは効果を発揮しません。そのBCPを組織内に定着化させ、従業員が使えるようになっておかなければ意味がないのです。
定着化のための活動としては、「教育」「訓練」等があります。「教育」によりBCPを理解させ「訓練」により実際に行動できるかを確認する。この定着化活動がないとBCPは絵に描いた餅になるため、しっかりと行う必要があります。
また、教育や訓練を行うと、策定したBCPの内容に関して違和感や改善点が見つかると思います。教育や訓練の後にBCPの見直しを行い、BCPのPDCAサイクルが1サイクル回ったと言えます。(図7参照)
また、BCPの見直しのきっかけは「教育」や「訓練」以外にもあります。業務内容の変化、システムの変化、新たなセキュリティ対策の導入、組織外からの要請等、組織や事業を取り巻く環境は日々変化しています。このような変化もBCPに反映していく必要があります。
こう考えると、BCPは策定したところが終わりではなくスタートであり、組織の事業が続く限り、継続的に改善を図っていく必要があるものなのです。サイバー攻撃に対するBCPは情報システム部門だけが考えればよい、と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはなく、経営層を含め組織全体で検討していかなければならない、重要なものなのです。

図7:事業継続のPDCAサイクル

まとめ

今回、サイバー攻撃に対するBCPを考える上での考え方のポイントやその後のBCP運用に関する取り組みについて説明してきました。
情報システム無くして組織の事業は成り立たず、その情報システムにとって大きな脅威となるサイバー攻撃への対応は、今すぐにでも取り組まなければなりません。
本ブログでは「①被害を最小限に抑える対策」と「②被害からの迅速な復旧のための活動」の2つの面をBCPに盛り込むことや、サイバー攻撃に対するBCPで重要な「被害発生時の体制」「発動判断基準」「組織外への発信」等について説明しました。さらに、教育・訓練・見直しといった運用の必要性についても述べてきました。組織全体でこのような運用活動に取り組まなければなりません。
既に自然災害等のBCPを策定されている組織では、既存のBCPを流用しながらサイバー攻撃への対応も検討することができるでしょう。
独立したBCPをいくつも作るのは非効率です。BCPを策定することが目的ではなく、事業を続けることが目的です。目的を取り違えないように意識しながらBCP活動に取り組んでください。

本ブログの内容を、BCPの策定や運用の検討に役立てていただければ幸いです。

参考文献

執筆者プロフィール

角道 淳平(かくどう じゅんぺい)
担当領域:セキュリティコンサルティング
専門分野:事業継続、セキュリティポリシー、セキュリティ監査

金融機関、官公庁、行政機関、製造業、流通業等における事業継続マネジメント支援、情報セキュリティポリシー策定支援、ISMS認証取得支援、セキュリティリスク監査等のコンサルティングに従事。CISSP、情報処理安全確保支援士(RISS)、システム監査技術者、ISMS審査員補を保持。

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