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Black Hat USA 2025・DEF CON 33 参加報告

NECセキュリティブログ

2025年9月26日

2025年8月に開催された世界最大級のサイバーセキュリティイベント「Black Hat USA 2025new windowI」と「DEF CON 33new windowII」に、海外出張として参加いたしました。
本報告では、イベントの概要や注目ポイントをまとめ、現地の雰囲気を少しでも感じていただけるようご紹介します。

図 1 Black Hat USA 2025
図 2 DEF CON 33

目次

Black Hat USA 2025

Black Hat USA 2025は米国ラスベガスで開催され、世界各国の専門家が集うサイバーセキュリティ分野の大規模なカンファレンスです。
後述のDEF CON 33と比較すると最新の研究やツール開発だけでなく、セキュリティに携わる幅広いユーザー向けのコンテンツやビジネス面での交流にも力を入れている印象を受けました。

図 3 Black Hat USA 2025会場入り口

イベント概要

Black Hat USA 2025の開催期間と会場は以下の通りです。

  • 開催期間:2025年8月2日~7日(全6日間)
  • 会場:Mandalay Bay Convention Center(米国ラスベガス)

日程ごとにコンテンツが用意されており、主な内容は以下の通りです。

表 1 Black Hat コンテンツ
日程 主なコンテンツ 内容
8月2日~5日 Trainings 2日間、または4日間コースでセキュリティ分野ごとに数多くのトレーニングが開催
(AI、クラウド、フォレンジック、ハードウェア、IoT、マルウェア、モバイル、ネットワーク、ペンテスト、など)
8月6日~7日 Briefings 世界中の専門家による、最新のサイバーセキュリティやトレンドに関する講演
Arsenal 開発者やリサーチャーによるオープンソースツールの発表が行われる場
ブリーフィングよりも小規模で発表者と近い距離で聴講やコミュニケーションが可能
Business Hall 全世界からソリューションプロバイダーやスタートアップ企業が出展
ビジネスを目的とした情報収集・商談を行うことが可能
その他 キーノート&メインステージ
ブックストア
ミートアップラウンジ
Merchandise Store(物販)
パーティ&ネットワーキング、
Network Operations Center (NOC)
スポンサーセッションとワークショップ、など

参加するにはパスの購入が必要となり現地参加の場合、以下の3種類のいずれかの購入が必要でした。今回、筆者はBriefings Passを購入しイベントに参加しました。

表 2 Black Hat USA 2025 パス比較
パス種別 主な内容・アクセス権 価格(USD)
Trainings Pass
  • Trainings
  • Keynotes & Main Stage
  • Business Hall
  • Arsenal
  • Breakfast, Lunch and Snacks(Training Days)
$5,700~$8,600(4日間コース)
$4,400~$4,600(2日間コース)
Briefings Pass
  • Trainings
  • Keynotes & Main Stage
  • Business Hall
  • Arsenal
  • Breakfast, Lunch and Snacks(Briefings Days)
$2,699(Early)
~ $3,399(On-Site Rate)
Business Pass
  • Keynotes & Main Stage
  • Business Hall
  • Arsenal
$799(Regular Rate)
~ $899(On-Site Rate)
  • 上記以外にもパスによるアクセス権の違いがあるため、詳細はBlack Hat USA 2025 | Pass Comparisonnew windowIIIをご確認ください。

注目した発表・展示

Black Hat USA 2025の発表や展示の中で特に注目したトピックを紹介します。

  • search_vulns: Simplifying the Surprising Complexity of Finding Known Vulnerabilitiesnew windowIV
    (筆者意訳)search_vulns:意外と厄介な“既知の脆弱性探し”をシンプルにする手法

ソフトウェア名やバージョン情報から脆弱性やエクスプロイトコードを検索できるツール「search_vulnsnew windowV」の発表がありました。
search_vulnsはNational Vulnerability Database (NVD)new windowVIやExploit-DBnew windowVII、PoC-in-GitHubnew windowVIIIなど複数のデータベースを情報源として脆弱性やエクスプロイトコードの検索・表示をしてくれる点が特徴です。

図 4 search_vulns検索結果(wordpressのバージョン5に関する検索)

このツールを使用することで脆弱性の危険度や、エクスプロイトコードを効率的に素早く調べることができるため、筆者の所属するチームでペネトレーションテストを実施する際に有効活用できるツールであると感じました。
また、パブリックインスタンスとしてWebサーバーが公開new windowIXされており、オンライン環境であれば環境構築不要ですぐに利用可能である点も便利だと感じました。

  • EntraGoat - A Deliberately Vulnerable Entra ID Environment
    (筆者意訳)EntraGoat - 意図的に脆弱に構成したEntra ID環境

Microsoft Entra ID(旧 Azure Active Directory)におけるセキュリティ上の構成ミスや攻撃シナリオをシミュレートするために意図的に脆弱な環境を構築できる、EntraGoatnew windowXというツールに関する発表がありました。
EntraGoat ではPowerShellのスクリプトが用意されており、いくつかの攻撃シナリオ(本記事の執筆時点では6つのシナリオ)のための環境を構築することができます。
また、単に脆弱な環境を構築するだけではなく、Webインターフェースのダッシュボードによって攻撃手順の解説がステップバイステップで表示されたり、シミュレーションの進捗でCTF(Capture the Flag)形式で管理することもできたりします。そのため本ツールをEntra ID環境における攻撃手法を楽しみながら学べるコンテンツとして活用できると感じました。

図 5 EntraGoatダッシュボードnew windowXI
表 3 実装されている攻撃シナリオ(本記事執筆時点)new windowXII
シナリオNo. シナリオ名
Scenario 1 Misowned and Dangerous - Owner's Manual to Global Admin
Scenario 2 Graph Me the Crown (and Roles)
Scenario 3 Group MemberShipwreck - Sailed into Admin Waters
Scenario 4 I (Eligibly) Own That
Scenario 5 Department of Escalations - AU Ready for This?
Scenario 6 CBA (Certificate Bypass Authority) - Root Access Granted

会場の様子

Black Hat USA 2025会場の様子をいくつか写真に収めたので掲載します。

図 6 Keynoteの会場の様子
図 7 Arsenalの様子
図 8 Business Hall入口
図 9 Briefingsの部屋の様子

DEF CON 33

DEF CONはBlack Hatと連続した日程で開催される、サイバーセキュリティの技術的な領域に特化した大規模なカンファレンスです。
ハードウェア等の低レイヤもカバーしていたり航空宇宙や船舶のセキュリティのような日本国内ではニッチと感じる領域にも触れることができたりと、Black Hatと比較するとテクニカルな要素が強い印象を受けました。

イベント概要

DEF CON 33の開催期間と会場、参加費用は以下の通りです。

  • 開催期間:2025年8月7日~10日(全4日間)
  • 会場:Las Vegas Convention Center(米国ラスベガス)
  • 参加費用:$540

DEF CONの中ではいくつかのコンテンツに分かれており、主な内容は以下の通りです。

表 4 DEF CON 33 コンテンツ
主なコンテンツ 内容
Speakers 世界中の専門家による、最新のサイバーセキュリティとトレンドに関する講演が5つのTrackに渡って開催
Villages 計34のVillagesによる展示、体験、講演、コンテストの実施
Red Team、Blue Team、AI、Cloud、Car Hackingなど様々なセキュリティ領域ごとにVillagesが分かれている
Contest 各Villagesの中で開催されるCTFなどのコンテスト
CTF 世界中の予選を勝ち抜いたチームが競い合うDEF CON CTF決勝戦
Workshops 事前登録が必要なワークショップ。非常に人気があり事前登録が開始するとすぐに埋まってしまう傾向がある。筆者も予約を試みたが一つも予約できなかった。
Vendors ツール、デバイス、書籍、Tシャツ、ステッカーなどの販売
  • 他にもコンテンツはあるため、詳細はDEF CON 33の公式サイトをご確認ください。

注目した発表・展示

DEF CON 33の発表や展示の中で特に注目したトピックを紹介します。

  • Turning Microsoft's Login Page into our Phishing InfrastructurePDFXIII,new windowXIV
    (筆者意訳)Microsoftログインページのフィッシングインフラ化
    この発表では、Microsoftのログインページ(特にAzure AD)を悪用して、フィッシングインフラを構築する方法について解説されていました。攻撃者がMicrosoftの正規のドメインやUIを利用することで、ユーザーの警戒心を下げ、認証情報を盗む手法が紹介されていました。
    多くの通常のユーザーは「login.microsoftonline.com」などのドメインを信頼しています。攻撃者はこのことを利用して、フィッシングページをMicrosoftのUIに似せて構築することで認証情報の不正な取得を試みるという手法です。
    この発表では8種類の方法でMicrosoftのUIに似せたフィッシングページを作成し、そのデモ動画も交えながらプレゼンテーションを行っていました。
  • Kill List: Hacking an Assassination Site on the Dark WebPDFXV,new windowXVI
    (筆者意訳)Kill List: ダークウェブ上の暗殺サイトへのハッキング
    この発表では、ダークウェブ上にある暗殺依頼用のサイトに存在した脆弱性から、そこでやりとりされる暗殺依頼の内容を傍受し、犯人を逮捕するまでの一連の捜査の過程についてプレゼンテーションを行っていました。
    暗殺を請負う際の場所・価格などに関する生々しい調査や、ダークウェブにおける暗殺依頼用サイトのアーキテクチャに関する分析を行うことで犯人の特定を試み、最終的には34人の犯人が逮捕され28人が有罪判決を言い渡される結果になったとのことでした。

会場の様子

DEF CON 33会場の様子をいくつか写真に収めたので掲載します。

図 10 会場(Las Vegas Convention Center)入口
図 11 会場通路の賑わっている様子
図 12 Red Team Village CTFの様子
図 13 Maritime Hacking Villageの様子
図 14 はんだ付けを伴うワークショップ
図 15 LANケーブルの作成時間を競うワークショップ

まとめ

Black Hat USA 2025とDEF CON 33という、サイバーセキュリティ分野における世界最大級の2つのイベントに参加することで、攻撃と防御、企業とコミュニティ、理論と実践といった多面的な視点から最新の潮流を体感することができました。
Black Hatでは、企業講演を含む高度な技術や製品の展示を通じて、実務に直結する知見を得ることができました。一方、DEF CONでは、ハッカーコミュニティに触れることで、セキュリティという分野の広さと深さを再認識する機会となりました。
両イベントを通じて得た知見は単なる情報収集にとどまらず、業務改善や社内教育、技術戦略の立案に活かすと共に、今後もこのような外部イベントへの積極的な参加を通じてグローバルな視点と実践的なスキルを磨き続けていきたいと考えています。

参考文献

執筆者プロフィール

鈴木 雅也(すずき まさや)
担当領域:リスクハンティング
専門分野:ペネトレーションテスト、脆弱性診断、人材育成

IT基盤の構築や運用、脆弱性診断などの経験を経てNECへ転職。
現在はペネトレーションテストや脆弱性診断、社内CTFの運営、セキュリティ検査の新規サービス・技術開発に従事。
SEC560、SEC565のSANS Challenge Coinsを保持。
CISSP/CCSP/CISA/CISM/情報処理安全確保支援士/OSCP/GIAC GPEN, GCFE, GRTP, Advisory Board/Red Team Operator の資格を保持。
CVE-2023-3440の報告実績を保持。
趣味はアルコールインジェクション。

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