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「null²」の続き、NECが落合陽一氏と見据えるものは 本人証明「もっと使える」段階に

2900万人を超す来場者を記録し、大盛況となった2025年の大阪・関西万博。入場管理や決済にNECの顔認証技術も活用されるなど、まさに「未来社会の実験場」となった万博において、パビリオンの中でひときわ注目を集めたのが、落合陽一氏プロデュースの「null²(ヌルヌル)」です。哲学的な問いに満ちつつ最先端のデジタル技術を体感できるnull²が紡いだ物語は、2025年の万博で終わりではありません。このnull²の世界観を技術面から支えたNECの取り組みも、万博後がむしろ始まりです。万博で得たものと、万博後に見据えるものを、null²を支えたNECのメンバーとともにひも解きます。

「陰の立役者」

「大阪・関西万博 シグネチャーパビリオン落合陽一館null²横浜園芸博にも転生します」

null²について落合氏は、2026年の横浜ランドマークタワーと、2027年の国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)への二つの「転生」を公表しています。「転生」のためにクラウドファンディングで募集した資金の一部は「null²」の取り組みを記録するドキュメンタリー映像作品の制作費にもあてられました。2025年末、作品の試写会が行われたのが東京・港区にあるNECの本社です。このとき、上映に先立ち、司会者は「(null²を)184日間運営できた陰の立役者がNECさん」と紹介しました。

「陰の立役者」──NECがこう呼ばれているのは、null²の世界観の核に「デジタル上の分身の体験」があるからです。「Mirrored Body®」と名づけられたデジタル上の分身が、「確実に”この人自身”の分身である」と感じられること、つまり「本人の真正性」の確認は不可欠です。このための仕組みをNECは顔認証技術をベースに構築してnull²の世界観に貢献した、というわけです。それがNECのDID/VCソリューション「NEC Digital Identity VCs Connect」。null²では利用者の顔画像を使ったデジタル証明書FaceVC(Verifiable Credentials)を発行しました。

NECがFaceVCで描く未来図と、null²の世界観は、実はおどろくほど重なっています。それこそが、今回のnull²プロジェクトにNECが参画したきっかけでもあります。出会いは2024年1月にさかのぼります。

「同じことを考えている人がいた」

「落合さんが描いた1枚の絵を見せてもらったんです」。2024年1月の初対面を振り返るのは、NECでweb3の市場づくりや新規事業開発をリードする樋口雄哉です。null²への協力依頼のなかで示されたその絵は「真ん中に落合さんがいて、自分自身のデータをお店、ホテル、病院…だったかな、いろんなところに提示していたんです」。

NECのFaceVCも、個人のデータを企業やサービス提供者が持っている従来の仕組みとは異なり、「自分のデータなんだから自分が好きなように扱って、自分の好きなところに提示して恩恵を受けられるような世界にしたい、というモデルをずっと示していたんですね」と樋口は説明します。だからこそ、落合氏の絵を見た時に衝撃を受けたといいます。「まさか同じことを考えている人がいるなんて」。

「万博という舞台を使わせてもらって、落合さんと一緒に私たちがやりたいことが実現できるんだったら、願ったりかなったりですよね」。この日を境に、樋口はnull²の世界観を実現するためのNECのサポート体制づくりに奔走することになります。

ビジョンを共有して全体をリードしたのが樋口なら、2024年秋、実装のための実働部隊として加わったのがバイオメトリクス・ビジョンAI統括部の前田浩志です。

世界No.1の認証精度を誇るNECの顔認証技術をベースにしたFaceVCには、高い期待が寄せられつつも「これだけの規模のVCを発行する、こんな壮大な社会実験の機会はなかなかなかった」と前田は言います。これまでVCの発行は数万レベルでしたが、万博では対象者数だけでも桁が跳ね上がります。前田自身が携わり始めた時期から万博開幕まで半年。「間に合うのか。不安は正直ありました」と振り返ります。

「でも間に合っちゃうんですよね。やりたくて集まったメンバーだから」。null²の協賛企業は30社以上。その中でNECは技術を提供するだけでなく、クオリティマネジメントやセキュリティチェックの面でも頼りにされていたことを実感したといいます。「NECさんが大丈夫なら大丈夫だろう、みたいな(笑)。『安全・安心』のイメージが強かったみたいです」

「認知」から「使いたくなる」へ

万博会期中にもnull²は進化し続け、熱狂のうちに幕を閉じました。NECの樋口と前田の手ごたえは、どうだったのでしょうか。

「今だから言えるけど、開幕前は全然注目されてなかった」と苦笑しつつ、樋口はこう続けます。「お客さまや一般の方に体感してもらえたのは大きかった」。樋口自身は、万博以前から社外イベントでNECが目指す社会価値創造を語る機会は多く持っていました。それでも「万博という『場』を共有しながら体感してもらうのは、説得力が全然ちがいましたね」といいます。これをきっかけに「社内の認知度も向上したんです」と打ち明けます。

「手ごたえ以上に、やり切れていないことがハッキリした」と振り返るのは前田。「まず体験してもらえたのが2025年。これからはもっと能動的にFaceVCを使っていきたくなるようにしないと」。

「使う人にとって『簡単、便利、お得』な世界を実現して、新しい体験や行動変容につながればいいと思うんです」と、樋口は前田の意見に共鳴します。

自分のデータを「自己主権的」に使うことで、食事するとき、旅行に行くとき、医療サービスを受けるとき、例えば雨が降って傘がないときなど、もっとささやかな場面で、便利な体験ができる世界。それは2024年1月、落合氏が樋口に見せてきた絵のような世界。

2025年末に開かれたnull²ドキュメンタリー試写会 で、落合氏はNECへの感謝を語った後、こう付け加えました。「今後、(園芸博でも)また一緒にプロジェクトできることを楽しみにしております」

万博のあった2025年がNECのFaceVCの「認知元年」だとしたら、次は「広めていく」「当たり前にする」「使う人にとって役に立てる」──FaceVCの社会価値創造の物語は、まだ始まったばかりです。

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