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NTTとNECが見据える将来のICT 共創を進め社会課題の解決に挑む

社会が大きく変化する今、ICTの力でどう課題を解決し、どう新しい価値を創り出すのか。2022年6月にNTTのトップに就任した島田明社長をNEC Visionary Week 2022に迎え、NECの森田隆之社長が対談しました。社長就任前からタッグを組み、協業を深めてきたこの2人が今、トップとなって見据える将来のICTとは。進行役はマッキンゼー・アンド・カンパニーのシニアパートナー野中賢治氏が務め、対談を盛り上げました。

カーボンニュートラルの実現へ 自ら率先しお客様を支援

野中賢治氏(以下、──):2021年から2022年にかけての変化について、通信業界をリードする企業のトップとして、どう見ていますか。

NEC 森田隆之:最も大きいのはジオポリティカル(地政学的)な変化ですね。米中の緊張が高まり、ロシアによるウクライナ侵攻も起こりました。コロナ禍の変容に加え、こうした地政学的変化がサプライチェーンに混乱を起こした1年だったと思います。

NTT 島田明社長:大きな要素としては気候変動です。パキスタンの国土の3分の1が浸水し、一方で欧州は水不足に悩まされている。世界一丸となって脱炭素化に取り組まなければならないのにウクライナ問題なども発生。道のりが険しくなってしまいました。


── 脱炭素化は難易度の高い目標です。その中で、エネルギー・トランジション(移行)が大きなテーマとなっています。

NTT 島田社長:NTTグループは2013年から今年までの間にCO2排出を約34%削減しました。その一方で2040年に向けての消費電力量は倍増すると考えています。従来型の省エネだけで対応するのは難しい。そこで私たちはIOWN(アイオン)という新しい技術の構想を提唱しています。半導体の電子回路を光の回路に置き換えることで、電力消費を大幅に削減する。できるところから積み上げ、2040年度までのカーボンニュートラルの実現をめざしています。また、メタバースの広がりで、仮想空間が三次元になると圧倒的に情報量が増え、データセンターやネットワークの消費電力量も増えます。次世代のネットワークやサービスの最大の問題は消費電力ではないかと考えています。

NEC 森田:NECも企業の責任として自らカーボンニュートラルを実現することを目指しています。お客様に対しては、CO2排出量など環境データを「見える化」するソリューションGreenGlobeXを提供して効果的な環境活動を支援しており、将来的には、CO2を排出して作った電力なのか、再生可能エネルギーで作った電力なのか、といった電力のトレーサビリティも視野に入れたサービスに進化させていきます。また、個々の最適化だけではなくシステム全体の最適化も必要です。私たちはリソースアグリゲーション事業に取り組んでおり、我孫子の事業場でも検証しています。再生可能エネルギーで発電し、余剰電力を新しい需要家に提供する。そういった仕掛けをクラウドベースで進めているところです。

オープンな環境で実証実験を重ね 社会実装に向け協業を着々と進める

── 地政学的変化によって、よりオープンな仕組みを担保していく必要性が高まりました。海外も含めた通信事業者の反応に変化はありましたか。

NEC 森田: ICT業界の人は、コンピュータで起こったオープン化と仮想化、技術革新、信頼性の拡大をまざまざとみています。通信も5Gの Open RANを始め、オープン化によってダイバーシティを広げ、技術革新を呼び込み、セキュアなネットワークを実現しなければなりません。パートナーやお客様とも商用を前提とした議論になってきています。

NTT 島田社長:5GのOpen RANで構成した商用ネットワークを2020年にNTTドコモが開始し、2021年には、様々なベンダーが参加する「Open RANエコシステム(OREC)」というコンソーシアムを立ち上げました。その一環で今年2月、オープンな場で接続してパフォーマンスを発揮できるか実験する「シェアドオープンラボ」の提供を始めました。

NEC 森田:ORECにはNECも参加しています。Open RANでオペレーターが気になるのは三つ。一つはインターオペラビリティ。つながるのかつながらないのか。二つ目は実際運用したときのTCO(トータル・コスト・オブ・オーナーシップ)。三つめは既存のシステムとの接続も含めたシステムインテグレーション。この三つをORECでは検証するので、オペレーターが導入するハードルが下がるのではないかと期待しています。

NTT 島田社長:ローカル5Gでも、ミュンヘンのデータセンターのラボで一緒に実験して、現地のメーカーを相手に営業活動をしています。スタンドアローン方式もこれから始まり、ネットワークスライシングのような新しい技術もあります。産業界の新しいDXに貢献できる仕組みも提供できると思います。


── ICTが果たす役割が広がるとともに、リモートワークの拡大など働き方は変容し、デジタル人材の不足も深刻となっています。これらの課題にどう取り組みますか。

NTT 島田社長:デジタル人材の育成には積極的に取り組んでいます。昨年3月、KDDIさんと一緒に、就職氷河期世代の方々を対象にICTスキルの研修をしました。8300人の応募者から500人を選抜し、2か月間かなり専門的な研修とキャリアアドバイスを行ったんです。そのうち約320人がICTの資格を取得し、250人の就職に結びつき、想像以上の成果となりました。こうした取り組みが広がると嬉しいですね。

NEC 森田:NECもDX教育に力を入れています。デジタル人材を2倍3倍にしようと、NECアカデミー for DXという育成プログラムをもっていますが、お客様やパートナーからの関心も高く、お客様向けにも開放しています。サイバーセキュリティ領域については大学や高等専門学校にも教育素材を提供しています。デジタル人材を社会全体として手厚くすることは、私たちのビジネスにもプラスとなって還流すると思います。

Trustedな通信インフラをともに創っていく

── この1年の2社の協業の進展と今後の展望をきかせてください。

NEC 森田:私の方からはOpen RANとセキュリティ、海底ケーブルの領域についてお話します。Open RANではラボやOREC以外でも、RICRANインテリジェントコントローラー)という制御するソフトウェアをNTTドコモさんと共同開発をしています。このソフトウェアでOpen RANのリソースの有効活用を進めていきます。セキュリティでは、通信機器がセキュアであること証明する技術の共同開発に成功し、昨年10月に発表しました。これは皆様に使っていただかなくては意味がない。近々に国際的な取り組みとしてローンチできるんじゃないかと期待しています。海底ケーブルにおける技術革新についても、NTTさんと共同開発研究を進めています。

NTT 島田社長:IOWNでは、オールフォトニクスネットワークによって大容量、高速化、安定化をはかれることになり、今まさに大阪万博をめざして商用化を計画しています。NECさんには、その中で、光伝送装置のオープン仕様に準拠した製品をリリースして頂きました。また、宇宙においても、衛星と衛星を高速大容量で光と同じ技術でどうつなぐかは、大きなブレイクスルーをつくらないといけない分野です。ここでも、NECさんと新しいプロダクトサービスを展開したいな、と思っています。

── 社会の構造の変化の先回りをしていろんな仕掛けをしているんですね。

NEC 森田:今年のNEC Visionary Week 2022のテーマにも掲げたTruly OpenでTruly Trustedなインフラを、日本のためだけでなく、世界のために作り、発信していく。単独ではなく、オープンに、エコシステムとして賛同者を募って、大きなイノベーションのうねりにする。それを島田さんと一緒にやっていきたい。今現在、様々な話が建設的な形で進んでいることについて力強く思っていますし、これを加速させていきたいですね。

NTT 島田社長:まさにTrustedなネットワークが課題となっている今、壊れても、レジリエンスの高いネットワークでうまくカバーしてお客様に迷惑をかけない仕組みを作り上げていくことが、通信事業者に問われています。従来のレジリエンス的発想では対応できない時代を迎えつつあります。自動運転なども展望しながら、森田さんと一緒にレジリエンスでTrustedなインフラ、ネットワークを作りこんでいきたいと思っています。